サーカスのテントをぐるりと囲む森の入口で


毛皮の特製衣装をまとった中年二人が
樹上からオレ達を見下ろしている




「亡者ども、かように金が欲しいならば
日没までに我らを見事捉えてみせよ!」





人というより猿に似たそのドヤ顔を

殴りたいと思ったのは入団してから
一度や二度に限った事じゃあない


さらに言うならオレみたいな新入りがそう思うぐらいなのだから


古株の団員なんかは
余計握りこぶしに力が入りまくる事だろう




…まあ、団長の守銭奴っぷり及び
芝居掛かった態度はいつもの事なんだが




「ははははは!
オリらを見事捕まえて見せろジャリ!!」



隣で同じような毛皮の特製衣装まとって
笑ってるルオさんまでノリノリって


一体全体どーいう事なの!?







「著しく帰りたいんだが」


「ダメよ、アタシたちだけじゃ団長はともかく
ルオは捕まえらんないもん」


「それに捕まえたら金もらえんのに
帰るなんて神もってのホヤだぜ!」


"他"ならいくらでもいるだろう」


「だって近くにいたしルオがどーしてもって言うんだから
仕方ないじゃん」




ゼロティの言葉にため息を返す
何だかいけ好かない銀髪のこの男も


謎といえば謎な部分だ


カフィルとかいう、ルオさんが
やたらと気にしてる流しの道化師で


助手としてゼロティと同じくらいの子供連れて旅してるってのは
ルオさんづてでみんな何となく知ってる




…確かにツラは吟遊詩人の
あの兄ちゃん程じゃないにしても整っちゃいる


ただ肝心の芸はどうなのやら




「正直ルオさんに勝てる道化師なんて
いないと思いますけどね?」




などと口にした直後、ジャグリング用のボールが
顔面にぶち当たった




「でっ!」


ほれ油断するでない!
すでに狩りは始まりを告げておるのだ!」


「狩りって団長…これただの訓練」


「ただの訓練ではない!
貴様らの英知と力量が我が懐を漁るに相応しいかを図る催しよ!」




そう、これはただの訓練ではない


たった今 こちらに背を向け木から木へと飛び移って
逃げていく中年二人には


オレ達スバリャーラモテほぼ全員のボーナスがかかっているのだ!







〜狂言回ス道化達〜







ウチのサーカスを取り仕切る団長

ルタヒッコ=メズーノは主にプログラム進行と手品
司会を担当している


けれど根っからの芝居気質と長年の芸歴は伊達じゃなく


見ようによって愛嬌のある猿顔共々 人々に親しまれてきた




どんな低賃金でも求められれば芸を披露する一方で
芸に誇りを持っているため


自分やオレ達を安売りしない




態度はあんなだけど、いい団長なんだよ?
カン違いした貴族からアタシを守ってくれたし
ガー君達にもやさしいし」


「マジか、あんなんなろり?」




そう、それでいて金のない子供のために


一夜だけの限定サーカスを時折開くなんて
素敵な事だってしてくれる


そっちの公演は自由参加だけれど、不思議と
毎回まとまった人数が集まる




…かくゆうオレもその一夜サーカスを見て

このサーカスへの入団を決意した夢見がちなガキの一人だ




「ならば普通にボーナスを分配した方が
面倒もないと思うのですが」


「そうだねーでも団長面白い事大好きで
サーカスやってるトコあるから」


「いや、あの団長が好きなのは」


『人の驚く顔、慌てる仕草、戸惑う姿!
それらが見たくてたまらない!』



「人の笑顔てかじゃねーの!?」




オレとゼロティ含めた全団員の発言は
寸分の狂いもなく合わさった




サーカス団長としてはとても信頼できる人なんだが…


一個人としては割とアレで金に汚い猿顔でしかない




それ故に金勘定が異常に細かく


公演料の総決算から必要経費と全団員の給料
差っ引いた残り


つまりはボーナスで揉めるのも毎年恒例になっている




『そこまで金が欲しいならば、自らの手で
掴みとるがいいわ!』



と、難癖つけてボーナス争奪戦が始まるまでも
毎年のウチでのお約束になっちゃいたんだが


…誤算がひとつ







「まさか今年はルオが団長側になっちゃうなんてねー」




ため息混じりなゼロティへオレも頷く




「確か、逃げた動物の捕獲訓練という体で動物役の二人を
捕まえると言うお話とお伺いしましたが?」


「ええ…そうです」


改めて言葉にされると絶望感ぱねぇ




「ガー君とかシャー君はダメでもさ〜
せめてトリさんズが使えたらなー」


「いや動物が逃げた時の訓練で動物使っちゃダメだってば」


「そいやゼロティてドーズツ使いなんだって?
役に立つのか?」




訪ねる助手の子に、ゼロティは
自信に満ち溢れた笑顔で胸を張る




もちろん!
家族同然のガー君達が味方してくれるからね!」


「仮にもスバリャーラモテで何年も
猛獣使いやってますしコイツ」


「そうそう、去年なんか団長側についてたから
動物達の妨害とかスゴくてさ」




分かる、アレは思い出したくもない




「さて指導役のお二人さん
どんな感じであの二人を捕まえる?」





集まった全員の視線を


色違いの瞳で返して、道化師の兄ちゃんは宣言した




「基本は二人から四人一組で固まり
分散して森の中を行く形ですね」







妥当な判断に従って
オレ達は連携を取り合いながら森に進み


程なくルオさんの後ろ姿を見つける




「あっ!いた!


一人が捕獲のためにボールを投げるも




「ふっ、甘いジャリ!


かわしざまにキャッチされ、逆に投げ返されてしまった




そのまま木へと素早く移ったルオさんの前へ

先に別の木へ登って先回りしていたヤツが立ちはだかるが




「バランスならアンタにも負けないぜ?
さあ大人しく捕まっ、おわわ!


なっ!?更に上の枝に捕まりその反動を
利用して相手に蹴りをっ!!」





小男体型からは予想もつかない身体能力で
返り討ちを食らって枝から転落した




「てアブぬぁだろ神加減しろデブ!


動物ならこれぐらい想定の範囲内ジャリ!

それにスバリャーラモテの団員がこの程度で
へたばるワケないジャリよ」


「…大丈夫なのですか?」


「受け身も取りましたし何とか」







こんな調子で何度かルオさんに遭遇しては


指一本触れる事はおろか 捕獲用のアミや足止め代わりの
ボールさえ当てることができず逃げられてばかりいた




「くっ、やはりルオさん強敵すぎる…」


「団長もまだ見つかってないし
どうにか足止めしないと日が暮れちゃうわ」


「てっても神素早いしなあのデブ、確実に
足をポメれる方法さえありゃ」


「おい助手の、グラウンディだっけ?前から言おうと
思ってたがルオさんに向かってデブとか生意気な口…って」




前々からの不満をここぞとばかりに
ブチまけようとしたところで


助手の少女とゼロティが

じっと銀髪の道化師を見上げてるのに気づいた




「ルオの足止めさえ出来れば」


「オレ達にショーキかありるな」




そのセリフで、オレも二人が何を言いたいのかが分かった




当人は、さも面倒くさそうにため息なんかをついていたが
一応協力してくれるつもりはあるようで




…少しの間があって


首尾よく樹上待機していたルオさんを見つけた
オレ達は"作戦"を開始した




「待て」


「ふふん嫌々だったくせに乗り気ジャリかカフィル?
生憎ジャリが今はそんな言葉に従うほどオリはヒマじゃ」


「いい機会だルオ
どちらが真の道化師たりうるか決着をつけよう」




食い気味かつ若干棒読みだったが


道化師の兄ちゃんの発言に、ルオさんは予想通り
木から落ちそうになるぐらい食いついた




「や…やっっっとその気になったジャリか!

待ってるジャリ今すぐ降りて」


降りようと少し屈んだ姿勢になったが




騙されんジャリよ!
オリが対決してるスキをついて捕まえる作戦ジャリな!」



途中で我に返ったルオさんは再び立ち上がり

すぐさま辺りを見回して




「"すべての意思はここにあり(レェサニサ)!!"」




木の幹に触れていた助手の子に気づいて
隣の木へ飛び移ろうとするが時既に遅く


式刻法術で足元の枝を足枷に変えられて逃亡を封じられ


オマケに足場を材料にされたので




「し、しまったジャリぃぃぃ〜!




なす術なくオレ達の前に落下




動き出す前に駆け寄ったゼロティにタッチされて
ルオさんはとうとう観念した




捕まえた!でもあの状態で落ちて
受け身バッチリなんて流石ルオだね」


「当たり前ジャリ、しかしこのルオ様も
今回ばかりはしてやられたジャリ」


神が本気だしゃしゃこんなモンだぜ!
さー後はサルっぽいおっさんだけだな」


「否定しないがアレ団長だからな?」







だがこれだけ探しても
いまだに誰一人として団長と遭遇を果たしていない


ダメ元でルオさんに聞いてはみたが




「始まってすぐ別行動しだしたから
実はオリも分からんジャリ」


全くもってご存じない様子




「さて、どこにいるのでしょう?」


「団長だからねぇ…普通に探したんじゃ見つかんないかもね」




あるある、去年なんかも
まさか路上で流しの道化師のフリして芸を




「…あ」


「どうか(しました・したジャリ)か?」




迷ったが、頭に浮かぶ可能性を口にする




「マジでそこ探すのか?
間違てたから時間切れになるぜ?」


「けど、団長ならありそうかも」







…そしてオレ達は


サーカスのテント内部にある、動物達の檻を
一つずつ見て回り




「…いたぁぁあ!マジャで神いた!」


「ふはは!我が隠れ場を探り当てた事は
まず褒めてやろう、だが遅かったな!」


「いや反則でしょ!」


「てかオリの中にいんらら
捕まえるなんて簡単…いなぬぇっ?!


「いや、あそこだ!」




一瞬のウチに檻から脱出して後ろにっ!




「そんな無駄な演出かましてまで
ボーナス独り占めしたいんですかアンタは!」



「何とでも言え!では諸君ご機嫌「当て身」
げぼあっ!い、いつの間に背後に…」




高笑いの最中に道化師の兄ちゃんから
手刀をくらい団長は無事捕獲


釈然としないものを残しつつも


今年のボーナスはオレらの手に渡ったのだった







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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:企画ネタ及び拍手でレギュラー化するとは
スバリャーラモテの面々の汎用性が異常すぎる


カフィル:人はそれを使いまわしと言「やかまし」


ゼロティ:けどいつの間に団長の後ろに回ったの?


狐狗狸:実は三人が団長のいる檻に駆け寄った時点で
カフィルだけ距離取ってたんだよね


ルオ:団長の行動を先読みしてたジャリな!
それでこそオリのライバルジャリ!!


グラウ:いや、単にメンデョくさくなっただけじゃね?




読んでいただいて ありがとうございます
2016年もよろしくお願いします!