ドアを開ければ、子羊を抱いたオックスがいた




「羊のエサとか、何がいいか分かります?」


へ?く、草じゃないの?」




一体何故ここにいるのか


そして腕の羊はなんなのか
問おうとした




「とりあえず寒ぃーから部屋入れてくれよ!」


彼の後ろにいたキリクと、白い息を吐く
ポット二人組に気がついたため


一旦問いかけを中断する







取り急ぎ羊に何か食べるものを、と要求され




「コレくらいしかないけど、食べるかな?」


「…あ、食べてますね」




買い置きしていたキャベツを与えることで
一応問題は解決したようなので


部屋に通した四人へ

それぞれコーヒーとミルクを
ホットで振る舞ってから




「…それで、新年早々二人して何しに来たの?
あの羊は一体どうしたのさ」


彼は改めて委細を訪ねる




「拾ったんだよ」


「拾った?」


「ええつい先程、ちょうど散歩の帰りでした」







〜Pecora bianca,molle e lanuginosa
"心をわしづかむ小動物"〜








普段はあまり通らない道を選んで
ゆっくりと帰路を歩いていたオックスは




こらサンダー!ファイヤー!
かわいそうだから追っかけ回すんじゃない!」




子羊を追いかけ、ぐるぐるとその場を回る
魔武器二人に戸惑うキリクと出会った




「何やってるんだい?」


「よーオックス、悪ぃけどちょっと
こいつら止めるの手伝ってくれ」




はしゃぐサンダーとファイアーをどうにか止めて


二人は、プルプルと震えている子羊を見下ろす




「どこから来たんだろうね?この羊は」


「さぁな、迷い羊とか?」


「こう言う場合は、警察に任せるべきかな」




と、相談していたキリクの足元へ羊が擦りより




「やけに人懐こいなー
おぉ?こらズボンかじるな!


「ぐ、ぐったりしてきましたよ?
もしかしてお腹がすいているんじゃ…」


「ええっ!?」




急な展開に戸惑った二人は


バイト三昧な友人のアパート
すぐ近くにある事を思い出したため


状況の改善を求め、羊を抱えて駆け込んだとか







ならバイトで羊の世話ぐらい
しててもおかしくねーかなーって」


「いや普通は羊の世話なんて早々しないから」


「確かに…でも動物の扱いに
慣れてるイメージがあったので、つい」


「そりゃペットショップでの仕事くらいなら
あるけどさ、羊はいないでしょ?」


「「働いた事あるのか」」


僕のコトはともかく、あの羊はどうする気?」




やや強引に話題を戻されながらも

オックスは努めて冷静に答えた




「やはり警察に保護してもらうのが
一番でしょう」


「だな、猫とか犬なら
飼うって選択もアリだけどな」




もぐもぐとキャベツを頬張る子羊は可愛らしいが


飼うとなると個人では色々と難しいだろう事は
も理解している




「じゃ羊くんが落ち着くまで
ゆっくりしていきなよ、何にもないトコだけど」


「サンキュー しっかしマジでボロいなここ」


「まぁね…って二人は何で鼻つまんでるの?」


「どうしたお前ら…え?クサい?


「言われてみれば何かニオうような…
あ!羊がフンしてます!!


「うわホントだ!
て、そのまま歩かないで羊くん!




やや慌ただしいやり取りはあったものの


その後、彼らは少年に見送られ
無事に警察へ羊を届けたのだった







…それから少し日は経ち




「あの羊はどうなった?」




死武専にて、訪ねた

オックスとキリクは顔を見合わせる




「元気そうではありましたよ、ただ…」


「飼い主つか引き取り手が
まだ見つかんねぇんだと」




拾った縁からか時々様子を見に行く二人もまた


子羊の今後は、気にかかっているようだ




「そっか…」


成り行きとはいえ関わった
同様に浮かない表情を浮かべる




「行く当てが見つからないなんて
カワイソウね…」


「オレたちが、何か力になれないだろうか?」




彼らと話していたハーバーやキム、マカもまた


羊の話は聞いているため 真剣に考えている




「いっそ死武専で飼えればいいのにね」


「後は先生に協力してもらって
飼い主を探すとか?」


「それはやめといた方が」


「どうして?」


「考えても見てください、もしも博士
羊の件を知られてしまったら」




その先は、明白だった




「…解体コース一直線だ」


「博士なら 興味本位で
解剖用に引き取っちゃうかも」


「だな、羊のコトは博士にゃ
秘密にしとかねーとな」




少年少女は 皆一様に頷いた







…しかし更に数日後


廊下で合ったパティの問いが
を凍りつかせる




「ねぇ羊見なかった?」


「ひ、羊!?何でまた」


「廊下で歩いてんの見かけたから
捕まえろって博士が」


言いかけた彼女の視線が下の方へと向けられ


恐る恐る少年も足元を見れば




そこにあの子羊がいた




あり?なんかになついてるねー
もう手なずけたの?」


「違うって!」


「羊はいたかい?」




廊下の向こうから聞こえたシュタインの声に


青ざめた彼は、とっさに子羊を抱えて
逃げようとして




「うちの羊を保護してくれましたか!
ありがとうございます!



シュタインと共に駆けてきた見知らぬ中年
感謝の言葉をかけられ

その状態で硬直し、つぶらな瞳をしばたたかせた







羊の飼い主である中年は牧場を経営しており


所用によりデスベガスへ立ち寄った際


荷台にこっそり乗っていた子羊
街へと逃げ出したのだと話した




「スイマセンね〜こいつ
スグ脱走するクセあるから」




登録タグも取れていたせいで
所有者の特定に時間がかかったものの


先日警察から連絡がつき、無事引き取った




…矢先でまたも逃亡




「それで死武専に入ったのを見た人がいたので」


保護しろって〜」


「そうなんですか…
全く 人騒がせだな、お前




呼びかけられた当の本羊は


すりすりとの胸へ鼻面を擦り付けていた




「お騒がせしました」




羊を連れて飼い主が去り




「迷惑な羊でしたね」


「けど死武専まで来るとは
羊の行動力も侮れないな




不穏なメガネの光に引きつつも

少年は清々した顔をする




「にしし、もしかして
に会いに来たのかもね」




だが開けっ広げな微笑みと




「偶然じゃない?第一拾ったのは僕じゃないし」


「でも、オレから庇おうとするくらいには
好きになってたんだろう?」





どこか優しい一声で指摘されては


顔を少し朱に染めて、それを
認めざるを得ないのだった







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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:元ネタは"メリーさんの羊"だけど
若干イラストの状況に偏ってるかも


キリク:しかしアイツがいて助かったぜ


オックス:フンの始末もやたらと
手馴れてましたしね、涙目でしたけど


パティ:動物園でも働けそう〜キリンに
会えるなんてうらやましいぞこのヤロー!


ハーバー:論点がズレてないかい?


シュタイン:それにしても昔ほど無差別に
解体してないのにヒドイ言われようだ




読んでいただいて ありがとうございます
2015年もよろしくお願いします!