昨日、家に電話があり




お前明日ヒマか?』


「兄上と父上とで
正月を堪能するつもりですが」


要するにヒマなんだな、よーし明日
何か一つ食いモン持ってオレん家集合な?』


有無を言わさず呼び出され


直後に 妙殿や神楽達から
同様の連絡があったと聞き




ますます謎が深まった




「先生たら
一体何をするつもりなのかしら」


「皆目わかりませぬ」




冷たい風が吹く当日、兄上と各々食材を持ち


先生のご自宅へと赴けば







さん、さん!
新年明けましておめでとうございます!」



「うぬ、明けましておめでとうございます」


「今年もよろしくお願いします
…皆さん集まってらっしゃいますねぇ」




すでに級友達が 数人ほど集まって屯していた







〜現地の羊肉自給率は意外に低い〜







「にしても先生、一体
何するつもりなんだろう?」


「こんだけ人数いるなら
きっと鍋パーチーアル!」


「ええ〜正月ならモチつきだろ?
ねっお妙さん!


「九ちゃん今年はこっちにいるのね〜」


「うん、後で一緒に
すごろくでもしないか?」




それにしても勲殿、何ゆえ褌なのだろう




「寒くはないのだろうか」


「人のこと言えた立場かぃ
今年もダッセェ作務衣で代わり映えのねぇ」


「今年のは羊毛で出来ているので
温かいのだが」


「論点そこじゃねぇ」




総悟殿に頭をつつかれた所で、先生が現れた




「おー来たか…って多いなお前ら!
ヒマ人か!



「来いって電話したの先生じゃないっすか」


「それで僕らに食べ物を
持ってこさせたのはどうしてなんですか?」


「鍋デスヨネ、高イ肉キタイシテマス」




期待に満ちた皆の言葉に







「は?」


先生は、なんとも奇っ怪な面持ちでそう返す




「あれ、鍋じゃないんですか?」


「餅つきだろ」


「いや正月一人では寂しいから
誰かを呼んだのでは」


「頭も寂しいヤツに言われたかねぇよヅラ」


「訴えますよ先生」




いつも通りの掛け合いから一転




「いや〜年明けてこんだけ思いやりのある
生徒が集まってくれて先生は嬉しいぞ!」


「集めたのアンタだろ」


「実は年末バタバタしてたから懐…げふん
一人で過ごす正月が寂しくてな」


「え、今って言った?
金欠状態なの暴露した?」


「こんだけ集まってくれてオレぁ幸せだわ
何だかんだ言って人望ある?みたいな」


「何かちょいちょいイラっとくるんだけど
てか露骨に目線が荷物に向いてまs」


「そんじゃ一人づつ持ってきたものを
受け取るぞ!はーい並んで並んで





胡散臭い笑顔で両腕広げて


食べるモノを待ち構え出した先生は




呼び出された過半数の級友による
集中攻撃を受け その場に倒れ伏す





「正月早々僕らから食料せびるとか
どんだけダメな大人なんですか!」


「鍋かと思って
参加したのにガッカリだよ!」


「ホントだよ!タダ飯にありつけるだろうと
バイト休んだのに「お前もかぁぁ!」




マダオ殿も毎度世知辛いな







「とにかく、大した用事でも
無かったみたいだね」


「よし皆帰るぞー撤収ー


「いや待て帰んなって、せっかく
来たんだし茶でも飲んでけ!なっ?」





帰ろうとする私達を

先生が困り顔で引き留め出す




「まー確かにわざわざ来たのに
帰るのはなぁ…」


「悪いけど先生オレら祭りへの参加と
餅つきの予定が、なぁお妙さ
「してませんそんなお約束」


薄情な連中はさっさと帰ればいいわ!
私だけ残って先生のお世話を」


「呼んでないお前が何でいるの?猿飛」


「あやめ殿は先生に
挨拶回りに訪れたのでは?」


その通り!はよくわかってるわね」




何故だろう


嬉しそうなあやめ殿の隣で
先生が私を睨んでいる







…それからやたらと飢餓感と悲壮感を
かもし出しながら


路上で土下座する先生の説得に負け




「出汁こんなモンですか」


「おお、流石は兄上!」


ちゃん
それちょっと流行遅れじゃない?」


「意味が分からぬが八つ裂き殿
「山崎です!てかオレ裂かれるの!?」




集った私達は、持ちよった食材で
鍋を作る運びとなった




「鍋には食えるもんだけ入れろー
志村姉は鍋に近寄るな決して近寄るな


「大丈夫ですよ
ちゃんと火が通ってますから」


「そうだね黒光りしてるね、入れた瞬間
鍋が食われるから単体でお願いします」




野菜や豆腐などが煮え立つ汁へと浮かぶ中




「おい、肉があるのはいいが何で羊?」




不思議そうに先生に問われ、私は答えた




「父上のご友人から
ジンギスカン用にと頂いた」


「奇遇だなさん、僕も
羊肉を持ってきたんだ」


「まさかのダブリ?」


「いえいえ若のは最高級の国内産羊肉です」


「どっちにしろ羊じゃん、何これステマ?
それとも空知へのゴマ擦り?」




ゴマは無いのにおかしな話だ




あれ?ジンギスカンて
鉄板みたいので焼くんじゃ」


「面倒くせぇから このままどーん


「迷わず投入したぁぁ!」




新八のツッコミが響き渡る




いや焼くモンでしょそれ!
煮ちゃって大丈夫なんですか!?」


「いいんだよ新八、火が通りゃー
肉なんだから何とか食えるだろ」


「そーよ火が通れば大抵のモノは
平気アル、細かい事気にしすぎネ」


肉が煮えるのに合わせて
パラパラと黒いモノが放りこまれる




ちょい待て神楽!何で今酢昆布入れた!」


「出汁と酸味を追加することで
旨味が増すアル」


「テメーは脳ミソを追加しろぃ
食いモンにゃ相性ってもんがあらぁ」


「おいぃ!何でそこ
キャラメル入れてんのおぉ!」



「同じジンギスカンだから
相性はバッチリでさぁ」


噛み合わねえよ!単体でも破壊力抜群な
味なのに噛み合わねえよぉぉ!!」



「うわ鍋がスゴいことに」


「コレ絶対ゲロノ味ガシソウデース」


「下がってろてめぇら、ここは
万能調味料の出番だ」




言いつつ十四郎殿が鍋に


マヨネーズ一本を絞りきって投下した




「余計な成分増やすなよおおぉぉ!!」


余計じゃありません!マヨネーズは
味の救世主なんですぅぅ!!」







…この後、ミカンや納豆などの
奇妙な具材が入り


形容しがたい色の鍋が完成




「ニオイはいいけど…」


「これ、誰が食うの?」


「ここは学級委員の桂君
先陣を切るのはどうだろうか?」


「いやいや、風紀委員長の近藤君
皆の手本になってはどうか」




多少の悶着を経て


自然と皆の視線は、引きつった顔で
固まる部屋の主へと集まってゆく


心苦しいが 安全が確認されるまで
兄上には口にさせられぬ




「せ、先生はホラ
鍋の具をよそってやるから…な?」


「お腹空いてらしたんですよね」


『先生どーぞ召し上がれ』




観念した先生はその時


死地へ向かう侍のようだった




…後にこの鍋は、私達の間で




"奇跡の鍋"として語られる事となる







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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:作務衣だけでなく中に着ている
長袖シャツもウール100%です


土方:雑な羊押しだな、こういう話は普通に
ジンギスカン食わせろよ


銀八:前半にムダ多すぎて尻切れてるしな
つかダメ元で声かけたのに集まりすぎだろ


新八:電話で呼んだ人のセリフじゃねぇぇ!


神楽:アレだけヒドい材料使ってて
マジ美味かたネ、ホント奇跡ヨ


桂:そうだな リーダー率先して鍋に
食らいついていたからな




読んでいただいて ありがとうございます
2015年もよろしくお願いします!