まずはじめに見えたのは


白い雲のような大地と どこまでも広がる青い空




…のような海だった




へ?きょこどこだ?」




少女はキョトンとした面持ちで辺りを見回す







頭上にあるのは美しくきらめく海に間違いなく


足元の大地はもこもこと絶えずうごめいて




「やぁ神様」




なんとも軽やかな声で、グラウンディを呼んだ




「神ってオリェの事か?」


「君以外に誰がいるのさ」




足元へ目を凝らせば、動く白い大地から

一匹の羊がちょこんと顔を出していた







〜無意識ノ底〜







「忘れたの?」


「忘れてなんかいぎねーよ、だってオレは」


「じゃあ、どうして君は神様なのかな?」




顔だけだった羊が 半分ほどもこりと競り上がる




「そ、そぎそりゃ神の力が使えりからだろ」


「式刻法術かい?」


そー!
あれろまさに神だならこそ使える力だろ」


「確かにお前の式刻法術は
通常と著しく違うようだ」




いつの間にか隣にいたカフィルが

いつかのように彼女へ告げる




「だが、それが神である根拠にはならん」


「ふぉいカヒ、カフィルどこ行くんだよ?」


「探し物だ、面倒だからついてくるな」


なんらと!待てこら」




去って行く道化の後ろ姿を追う少女だが




歩くうちに、気づけば
羊の群れかう牧場に佇んでいた




「あれ?カフィルや?」


「助けてー!」




飛び込んできた一匹の羊を


グラウンディはとっさに抱き止めて訪ねる




「なーお前、あのいきゅすかねー
道化師がどこいっだか知らないか?」




しかし羊は、首をふってこう言うばかり




助けて神様
悪い狼にいやらしいことされるよぅ」


「悪いやつてダレあんだ」




と、群れていた羊がどこかへと逃げ出して


次の瞬間にグラウンディが見たのは
山をひとまたぎできそうなほど大きい狼


…いや、狼人間化したルナルーだった




「貴様バカリ羊ヲフワフワモコモコシテイテ
ズルイゾ、私ニモヨコセ!




ギョロりとした金色の瞳ににらまれ
彼女の腕の中でバタバタと羊が暴れだす




何故だか渡してはいけない気がして


彼女はしっかりと羊を抱き締めた




「やなけった!」


「ムガー!!」


どしんどしん、と怒った狼が足踏みをする


その振動で地面にぽっかり穴が開いてしまい




「はがつもみぎぇれひぇんだぁぁぁ〜!!」




少女と羊は穴へと飲み込まれていった







…次に気がつくと




暗い空間に大きな古い扉


扉の前でたむろする、薄汚い男達の姿があった




「お頭…本当にやるのか」


「なんだテメェびびってんのか?
あんなおとぎ話信じてんのかよ?




血にまみれたナイフを振りかざす男に


グラウンディが眉をしかめる




唐突に 羊が血相を変えて叫ぶ


「開けちゃダメだ!
神様、あの人たちを止めて!」





構わず男達が扉の封印を壊そうとしていて




とてつもない嫌な予感にかられて
少女は止めさせようと駆け寄っていく




「おい!
何やがってんだ止めろ!やでろよ!!





しかし男達には少女が見えておらず
封印は ナイフで力任せに壊される


やがて扉は開き…




彼らの半数は頭が吹き飛ばされた




「ひっ、ひいぃ!?」


騒ぐんじゃねぇ! て、てめえら
それでもこのエーブラ=イズマルドの」


戸惑う彼らと、ナイフをかかげる
頭領らしき男へ




「お前らはだぁれぇ?」


扉の中から何者かが訪ねる




軽薄で、悪意に満ちたソレは


少女にとって聞き覚えのある声だった




「ダメだ答えちゅんじゃ」




やはり声は届かず、答えた彼は




自らの配下共々…扉の前で消し炭となった




「いい名前だねぇ〜
気に入ったぁ、気に入ったよぉ




閉まる扉の向こうで


楽しげに笑う、邪神の顔が見えた気がした







…扉の音が響いた直後




再び白い大地に戻っていたので


ふわふわな羊の体毛に顔を埋め
グラウンディは問う




「オレは、どーして神様にゃのかな?」


「それをこれから見つけに行くのさ!」


どういうことだ、と口にしようとして少女は


抱き締めていた羊が消えていた事に気がついた




探さなきゃ!目覚めはまだまだ遠いよ!!」




どこかから羊の声が響き渡って

戸惑うヒマもなく、大地が揺れて


少女を宙へとはね飛ばした




「神様の旅に祝福あれ!」




大地だと思っていたのは、大きな羊の背で


それを目にしたグラウンディは上にあった海へ




まっ逆さまに、落ちて行く




「神様はあなた方を見守ってくださいます」


「幼女は神です!」


「そんな小さな"最後の神(アンディエ)"なんて
聞いた事ないジャリ」


アンタが神ねぇ?
だったらアタシを罰してみなよ」


「神は世界の礎〜♪」




落ちていく視界の端で


見知った相手が、宙に浮かんだ状態で
次々と少女へ声をかけてくる


その間も海は間近に迫り…




鏡にも似た青い水面に映る自分の姿が




見たことのない少年へと変わるのを見た




「あれは」


同じ髪と瞳の色、尖っていない耳
幼いはずなのにどこか老木を思わせる雰囲気


身にまとう白い衣装と相まって…まるで




「アイツは、あれは…!




彼女は必死で水面へ


そこに映る虚像の少年へ手を伸ばし




その手が 水でも人でもない
固いものへと当たった







―目を開けたグラウンディが


伸ばした手の先の物体を確認すると




「起きたか」




そこには顔面をペタペタと触られている
カフィルのしかめ面があった




「はふぇ、羊は?」


「…昨日の仕事がまだ尾を引いているのか」




ベッドから身を起こし


まばたきをして、少女は自分達が
村の宿に泊まっている事を思い出した




「なんぢゃだ、夢か」


「面倒な夢でも見たか?」




幾分か柔らかい道化の問いかけへ


夢での事を思い出そうとして


諦めた彼女は、笑顔で返した




「別に…そるより腹へった!メシだメシ!







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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:羊→夢オチ、という感じで書きました
フラグは立てたけど新年ほぼ関係ないなー


少女:もとどとじゃねーか つか何でやたらと
羊ぎゃ出てきたんだよ?


道化:昨日、牧羊を集める手伝いをしただろう


スタンリー:お子ちゃまって単純よねぇ〜
てかアタシの出番セリフだけじゃない


エブ:せっかく寝てたんならグラウンディの
夢に干渉したかったなぁ〜悪夢的な意味でぇ


狐狗狸:十分だから帰れ悪意満天コンビ




読んでいただいて ありがとうございます
2015年もよろしくお願いします!