オンボロアパートの小汚ぇドアをノックすると


さほど待たずに開いて、見慣れた面が顔出した




あれ?スピリット先生」


「よぉ、悪いが少しの間かくまってくれ」


言いながら、返事も待たずアパートに上がり込む




ちょっとちょっと!
今度は何やらかしたんです?」


「オレが原因の前提かよ」


「だって、先生が逃げてくるのって
大抵 女性関係かマカに怒られるか
博士がらみかじゃないですか」




ため息混じりのの台詞は
中々にイタいトコをつく




「ま、まぁいいじゃねーか どうせ休みで
ヒマなんだろ?久々に話に付き合え」




ホントはチュバキャブラスに行きたいトコだが


店が休みだから、仕方なくここで妥協する







「…ブラック入れますね」


「おー」




食器を用意する後ろ姿を横目に

近くの椅子へ腰を落ち着けた







〜sudare sette camicie
"少年は休みを穏やかに過ごしたい"〜








相変わらず薄汚れててしみったれた上に
女っ気とモノが少ねぇトコだな




とはいえ台所まわりは一応不足はないみたいだし


掃除もそこそこ行き届いてて


安っぽそうな中古のコーヒーメーカーと
蓄音機にも、ホコリは積もってねぇようだ




「それで、今回は何やったんですか?」




向かいに座った


湯気のたつコーヒーすすりながらオレは答える




「年が明けたんで久々に
嫁さんに会いにいったら門前払いくらってさ」


「はぁ」


「悲しみこらえてマカんトコ行ったら留守で」


「ああ、今年は日本で椿たちと"神社"
行くんだってこないだ言ってましたよ」


何それ!?初詣なんて聞いてないよ!!」


「僕らには普通に教えてくれましたけど…」


何でパパも声かけてくんないワケ!?


てゆうか一緒に行ってマカの着物姿とか
見てみたかったよ!!




チクショー!

ソウルとブラック☆スターの野郎!
マカに手ぇ出したら」



「悔しいのはわかりましたから
落ち着いてくださ」
「あん?これが落ち着いてられるかぁ!!」




ちびちびコーヒーすする地味生徒に


いかにマカがかわいくて天使か

改めてとくとくと語ってやる




「つーワケでオレは心配なんだよ!
わかるか



「よーくわかってます…あの、それで
どうしてウチでかくまう話に?」


「よくぞ聞いてくれた!」




あまりにも悲しいんで


予定の空いてるコの家目指してたら
バッタリとヤツに出くわし




『おや先輩ちょうどいいトコに♪
ヒマなら実験につ


皆まで言わせず逃げ出した




「だがアイツは油断なんないしな
…まだこの辺りにいるかもしれんから」


「僕も外に出れないじゃないですかそれ!?」


「しょーがねぇだろシュタインのヤツ
他に獲物がいねぇのか追っかけてきたし」


「じゃ隠れててもムダじゃないですか!」


逆だ、長居してりゃ
あきらめて帰る…それまでの根比べだな」


「よそでやってください」


「いいじゃねぇかバイトだってねぇんだし
オレとお前のナカだろ?」


「気軽に言われても
ウチは避難所じゃありません!」





前にバイト先でもカウンターに
隠れさせてくれたんだし、固いコト言うんじゃ


呼び鈴と ノックが響く




やべっ!シュタインが来たのかも…」


「と、とにかく隠れててください!

今出まーす!




とっさに寝室へ飛び込み、ツナギの割合が
多いクローゼットへ身を潜めた







「ってアレ?リズとつぐみちゃん?」


「よ、ホントにボロだなこのアパート」


「あ、明けまして
おめでとうございます先輩」


なぁんだシュタインじゃなかったのか…




って、女の子が
このオンボロアパートに二人も!?





「あ、え、おめでとう
…ええと僕に何か用かな?」


「日本じゃ新年にお世話になった人へ
アイサツしにいく習慣があるんです」


「でんトコの住所知らない
っつーから顔見に行くついでに案内したの」


そっか、わざわざありがと二人とも」




ちょっとした立ち話して


女の子たちは帰ったようだ




「もう大丈夫ですよ」


「おう…
てかヤケに親しそうだったじゃねぇか」


「友達とバイト先の後輩ですよ
聞いてたんですか」


「聞こえたんだよ」


照れたツラへ笑みを返し




再び来客を告げられ、急いで
クローゼットへ引き返す







ども!先輩」


「珍しいね、クレイ君もアイサツに来たの?」


「まー去年色々お世話になったし
茜も行けって進めてきたもんで…

あ、これどーぞ差し入れっす」


ありがと、なんかもらってばっかだと悪いな」


「いーっす気にしないでください
オレすぐ帰りますし」




それでも根が真面目な

簡単なパスタのレシピを教えて帰してった




「何もらったんだ?」


「えーと…魚の干物、ですかねコレ?」




サーモンだな、にしては形が
売り物と違うような…まさか手作りか?




息つく間もない三度目のノックに


眉しかめつつも寝室にリターン







「あ、君は確か
エターナルフェ「かくまってください!」




どーいうこっちゃと耳をすますと


町を歩いてたらキムが近づいてきて


あの手この手で金をせびられるのが恐くて
あわてて逃げてきたとか




「そこまで怯えなくていいって
キムだって最近は丸くなったんだから」


「ででで、でもっ


「…もし何か請求されたら僕の名前
言ってごらん?多分あきらめてくれるから」




コーヒーを一杯もらって


落ち着いたらしい彼女は




「あの…
色々ありがとうございました先輩


礼儀正しくそう言って、帰っていったようだ




「ずいぶんとまぁ〜
頼れるコト言ってくれちゃって」


「長居されても困りますし…先生も
早めに帰ってくれるとありがたいんですが」




じろりと鳶色の瞳に睨まれ、軽く肩を竦める




「もう少し居させろよ」


「…も少しだけですよ?」







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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:"馬が合う人を匿う"ハメになり
せっかくの休みを潰される少年でありました


スピリット:何だかんだで女の子が訪ねて
きてくれるとか、うらやまけしからんな


リズ:アンタそれ言える立場かよ


エターナル:あの魔女を丸くなったって
言えるなんて…やっぱりスゴイわあの人


つぐみ:確かに…所であの鮭の干物って
やっぱり手作りなの?


クレイ:まーな、オレも手伝わされて大変だった




読んでいただいて ありがとうございます
2014年もよろしくお願いします!