年が明けても、オンボロアパートは
変わりなく薄汚く


太陽の白い光が入り込んでも

どことなく灰色がかったように見えた




「…はぁ」




くしゃりと頭をかいて起き上がり
ため息をひとつ




今回見た夢は…


最悪でもあり、懐かしくもあった







忘れたくてコーヒーを入れ、顔を洗って
軽い朝食もついでに用意する




「今日は休みで助かった」


こんな情けない顔、知り合いには見られたくない




…そう思っていたのに




外が急に暗くなって、窓になにかが
叩きつけられる音がして つい目を向けたら




よぉ!新年の挨拶 来てやったぜ!
さっさと中に入れやがれぇ〜」


逆さに張りつくブラック☆スターと目が合った







〜Linea di confine monocroma
"置き去りにされた本音"〜








おい、何ボーとしてんだ!ははぁ〜オレ様の
初姿を拝んだもんであまりのBIGさに
放心してやがんな?しょうがねぇ信者だぜ」


「驚いてるのよブラック☆スター…
ほら、玄関から入り直しましょ?」




椿さんにうながされ、窓から
とんがった青い髪が消えて


間を置かずに 壊れるんじゃないかってくらい

ドアがやかましく叩かれる




やり直してやったぞ!
開けやがれ!」



「分かった今行くから!」




年始めにいきなりお隣さんに
怒られるのはゴメンだ







二人を迎え入れると、少しだけ部屋の灰色が
薄らいだような気がした




「明けましておめでとうございます
今年もよろしくね?」


「よ…よろしく」


「ひっでぇツラしてんな オレのハツラツさを
見習ってデカくなれ!」




カフェオレを跳ね散らせてしゃべる彼に
どうにか笑いかけて、コーヒーを一口


…少し濃く出しすぎたみたい、苦い


でも 気付けにはなる




「もしかして、お邪魔だったかしら…?」


「そ、そんなコトないよ」


「まっ当然だな!キッドと違って
お前はやっぱり分かってるぜ!!」



へ!?どゆコト?」




聞けば、椿さんはちょっぴり気まずげな顔して




「私達 実はここに来る前…
死刑台邸へ忍び込んでるの」


「死神の旦那に顔見せがてら
挨拶してやろうとしたら、あのヤロ
"非常識だ"とか言ってキレやがって」


「ゴメンそれキッド君の方が正しい」




ブラック☆スターのコトだから、絶対
普通の侵入なんてしないし出来ない


むしろ被害はあっちのが大きいんだろうなぁ
…多分




「小せぇな信者よ、オレこそが
この世の常識だろ!」



「気持ちはわかるけど限度があるからね!?」




自信満々な彼へ一応言うけど、きっと
僕の言葉なんて届きはしないだろう




「で、マカやソウル あと適当にその他の
小物どもへ挨拶してやって
このボロアパートに来たわけだ!」


ブラック☆スター、失礼でしょ!
ゴメンね君」


「いいよ間違ってないし」




いつものやり取りで、少しずつだけど
色づき始めてた味気ない空気が







「で、次はスプラッターバカんトコ行くから
お前もついでに付き合えよ」




その一言で 一気に白と黒と灰色に引き戻される




「わ、悪いけど僕はエンリョしておくよ…」


あんだと?オレ様の誘いを断ろうってのか」


睨まれて、必死に首を降る


別に、シュタイン博士がキライなワケでも

アイサツが面倒なワケでもない




ただ…今だけは


マリー先生に会いたくないんだ




夢の断片が 苦しげな泣き顔がどうしても

あの人と重なって…耐えられなくなりそうで




「…君?」




悟られたくないけど、相手を安心もさせたくて




「本当にゴメン、僕ちょっと体調悪くて…」


笑顔を作って それっぽい言いワケを口に―







一瞬だけ いきなり視界がクリアになって


おデコに鋭い痛みが走った




「でっ!?」


思わず涙目でおデコを抑えた僕へ

叩いたブラック☆スターは、腕組みしながら言う




「何小っせぇコト ウジウジ考えてんのか知らねぇが
オレの前で下らねー言い逃れすんじゃねぇっ!」




その通りすぎて何も言えなくて


でも、夢の光景は未だにまとわりついていて




黙って下を向いてたら、腕を無理やり引かれ


勢いで外へと連れ出された




「ちょっ…ブラック☆スター!
どこ連れてくの!?


「うるせぇよ、大人しくついてきやがれ!」




口調は乱暴で、行動は強引で




でも…顔は怒ってると言うより
呆れてる風に見えた







やがてついたのは…予想通り ツギハギ研究所




「っし、どっから忍び込んで
目立つように名乗りをあげるか」


「普通に入り口から入りましょうよ、ねっ?」




着いてきてた椿さんに説得され、僕らは
玄関から呼び鈴を鳴らした




はいはーい!
…あら、みんなどうしたの?新年に」


「今年こそは神を超越する志を
実現してやろうと思って、挨拶しに来たぜ!」



「今年もよろしくお願いします、マリー先生」




二人のアイサツに、マリー先生は
うれしそうな笑みで返す


…やっぱり どことなくマンマに似て見えた




わざわざありがとう!先生カンゲキ!
…アレレ?どうかしたの?」




心配して 近づいた顔が優しくて…


にじみそうになる目を必死で引き締める




「平気、です…
マリー先生 今年も…よろしく」


「ありがとう、こちらこそよろしくっ!」




先生と、二人の笑顔が




世界の色を取り戻してくれるような心地がした




「ったく世話の焼ける信者だな…
マリー姉ちゃん、あのスプラッターバカは?」


「あーゴメン、シュタイン まだ寝てるのよ…」




目当ての相手と会えずにむくれる彼を
椿さんと一緒になだめ




「連れ出してくれて ありがと


カンシャの気持ちを、そのまま伝えた







デスシティーに来れて 死武専に入れて…

みんなと仲良くなれて本当によかった


日に日に、そう強く信じている




けれど…帰れないって知っていても




ふとした瞬間、白と黒と灰色の"あの頃"
帰りたがる僕がいる







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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:ホームシック的なメランコリーに
陥った感じになりました…暗くてスマソ


ブラック:クロナと大して変わんねーな
まっ、信者の方がそこそこ根性あるけどよ


狐狗狸:そりゃ君に毎度振り回されりゃね


椿:新年からみんなに迷惑かけて
ブラック☆スターのバカ…くすん


マリー:アハハ、大変ね〜椿も


狐狗狸:もって 博士も何かやってたんで
…あ、やっぱ聞かない事にします怖いし




読んでいただいて ありがとうございます
2012年もよろしくお願いします!