夕暮れ時に、どうにか町にたどり着いたので


俺とグラウンディは宿を取り 部屋にて一息つく







「まーた一人でメシかよ、たまにゃお前も
メシ屋につひて来いよなー」


「面倒だ」


口をひらばっ、開けばそればっかじゃねか!
明日はシネン祭あっから町中神にぎやかだぜ?」


"新年祭"
…何にせよ、俺には著しく関係ない」




言えば、たちまち相手のまなじりはつり上がり




「なんだよ!せっかくサミシいだろろと
声かけた神の気づかいムダにしゃやがって!
もういい!オレ一人でゼータクしてくりゅ!」





ほほを膨らませ 所々言葉を噛みながら


少女らしからぬ乱雑さでドアを開閉し
勢いよく外へ出ていく







〜追憶ト推測〜







『別に腹なくてもいっしょに女の子の
メシ付き合うぐらいしてあげりゃいーのにぃ』


「…面倒だ」


まわりに不審がられるからぁ?なら内側に
皮袋でも仕込むとか食うフリすればぁ?
食料とか増えて一石二鳥ってヤツじゃないぃ?』




沈黙を決め込めば、邪神は更に言葉を重ねる




『にしてもぉ、年なんて勝手に過ぎ行くのに
人間て飽きもせず毎年祭るよねぇ』


じわじわと、年期のいった室内に


半透明のエブライズの姿が浮かび上がる




『祝った次の瞬間 くたばるヤツも
いるのにねぇ?そこんトコどう思うぅ〜

永い時を生きてきてさぁ


生きさせた張本人が、よくもまぁ言ったものだ




答えず俺は 床にナイフを広げ、手入れを始めた







『…人殺しぃー!
ダレか来てぇ殺されちゃうよぉ!』






唐突に張り上げたエブライズの声に反応してか


ドアが慌ただしく開かれた


「どうかしましたか!」




振り返った先には、宿屋の主人らしき
初老の男がひきつった顔で佇んでいる




辺りを見回し、邪神がいないのを確認して


俺は 微笑みながら勤めて穏やかに告げる




驚かせてしまい申し訳ありません、この度の
新年祭にて公演する新芸の口上を練習して
おりまして、ついつい熱が入ってしまい…」


え、あぁ…そうですか?
しかしそのナイフは…」


「ああ失礼 私(わたくし)道化師ですので
道具の手入れは怠れないのですよ」




何かまだ用事でもあったか、とりあえず
納得した様子で主人は会釈し出ていった




間髪いれず入れ違いに黒衣の邪神が現れる




『ちぇー出来立てホヤホヤ死体でも
用意しておけばよかったかなぁ〜』


「思いつきにしては、著しく運が悪かったな」




苦言を呈してやるが 奴の赤い瞳は
楽しげな輝きを失ってはいない




『まぁいっかぁ、新年祭を台無しにするくらい
いつでも出来るもんねぇ

精々ガンバってね新芸披露ぅ♪


ゲテゲテ、と悪趣味な笑い声を残し
エブライズは消える




「…面倒を」




ついた言い訳のシナリオ作りに頭を働かせつつ


不意に重なった状況を、ぼんやりと思い起こす







まだ俺が、ヒトの体を失う前…


人として 全うに生きていた頃の記憶







必ず共に思い起こすのは、フィーミル焼きを
作る際のクセのある 香草のかおり




「母さん、なにしてるの」


「明日は新年祭でしょう?
取って置きのごちそう作ってあげるからね?」


「楽しみだな、母さんの料理はおいしいから」




見上げた母の微笑みは、優しくて

…どこか寂しげで




「母さんも、カフィルや村の子達の
明日の演劇 楽しみにしてるからね」


まっかせといてよ!みんなで
今日のために張り切ってるんだから!」




影のようにまとわりつく陰りを
取り払いたくて


面倒だった馴れ合いも我慢して

村にとけこむ努力もした




余所者と疎まれ、遠ざかられても


村人を介して交流を保ち
母の居場所を 守り続けた


守り続けようと、尽力した




…結局それは何一つ実らず


単なるガキの自己満足だったと
奴に気づかされてしまったけれども








と、けたたましい足音が鳴って




グラウンディが部屋へと飛び込んでくる




「っおい!
どこゆういコトか説明しろカフィル!」



「落ち着け、何をだ」


「メシ買ってたら知らねえ野郎が、お前と
オレとで新年祭の芸をヒロウすれとか
なんとか言い回っててて!


あわてて宿戻りゃ宿屋のおっちゃんも
お前が練習してかとか言うし!」




…予想はしてたが、無駄に手回しの早い


息をつき 両手に抱えた荷物を
上下させるグラウンディへ言う




「恨み言は邪神に言え」


「く…やっぱあにょ野郎の差し金か!
神ムカつく!



「面倒だが演目と口上を考えるぞ…でないと
明日の新年祭、奴が全て台無しにする


マディかよ!?うーあーせっかくの祭
楽しめねーじゃねねかチクチョー…」




草色の頭を掻き、うなりながらドカリと
側のベッドへ座り込むグラウンディ




「…メシを食わせそびれたな」


あ?あぁ…気にしゅんなよ、こっちで
食えるように買い込んだかなな」


手にした袋を漁り、出てきたパンを
口に運ぶ様子は 見た目相応に愛らしい


バターの焦げた甘い香りがこちらに濃く漂う




「一人で贅沢をするんじゃなかったのか?」


「…のつまりだたけど、一人じゃ
サミシいだろ?ロクに食えなくても」


どっちがだ、と言いかけて




「だーからオレがいてやんでっ…いてやるぜ」




自慢げな笑顔に 数瞬言葉が飲まれてしまった




「…手伝いもしろよ」


「わーってるて!」




並んで段取りを話し合い 夜通し頭を捻る中




久方ぶりに、二人で迎える新たなる年に


僅かながらの期待を馳せた







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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:少年時代のカフィルの回想を
挟み込んだ上でのサブタイです


カフィル:年明けに著しく不謹慎だな


グラウ:てか祭当日のようせっ…様子じゃなく
前日の話かよぉ!神不満だぜっ


狐狗狸:うん、新年早々これは無いと思ったわ
読んでくださった方本当ゴメンなさい…


エブ:やっぱ赤い血の色と悲鳴が足りないのが
アレだよねぇ?今からでも足してもっと面白く


狐狗狸:やらないで止めて本当!
色んな意味で全ての元凶だな君はもう!!




読んでいただいて ありがとうございます
2012年もよろしくお願いします!