人の行き来は激しくも 店は軒並み
休みになるのは江戸も吉原も同じらしい


客商売の者が得意先への挨拶を
欠かさぬ所も同じで




「明けましておめでとう姉!」


「明けましておめでとう晴太、今年もよろしくな」




兄の供回りをしていた

一人店にいた晴太を訪ねたも
自然の成り行きである




「日輪殿と月詠殿も挨拶回りか?」


「まーね、戻るまでちょっと留守番任されてんだ」


「そうか…偉いな」


「でしょ?
それよりお正月だしお年玉ちょーだい?」


可愛らしさを盾に
ちゃっかり小遣いをせびる晴太だが




「玉など何に使うのだ?」


「え゛え゛え゛え゛え゛」




無表情で返され

可愛らしく見上げた顔が引きつった







〜吹っ飛ばした煩悩は
大抵元旦にリターンしてる〜








「…まさかその年で年玉を知らぬとはな」




その時の少年の心境を、桂は
沈痛な面持ちで代弁した




「こちらもよもや正月に金銭を渡す
習慣があるとは、夢にも思わなんだ」


"お年玉もらったことなかったの?今まで"




看板を差し出すエリザベスへ
頷きながら、彼女は返す




「父上が健在の頃も家はわびしかった故」


「そうか…せめて懐が暖かければ
お主に年玉くらい渡してやれるのだがな」


「心遣いだけで十分だ桂殿、それに
今初詣に付き合ってもらっているしな」


「あ、ああ…」




微妙な顔つきになった桂へ


エリザベスがこっそり看板を掲げて見せる




"本当に大丈夫?桂さん"




それに対して当人は、無論だと言いたげに
平静を装って首を縦に振った




…原因は、試みを胸に訪ねた時からあった







今年こそは攘夷志士として
国のために尽くそうではないか」


「私は志士ではないが」


「まぁそう言うな、所で神社にはもう参ったか?」


「…生憎兄上の供回りや挨拶回りに忙しくてな」




淡々とした答えに、彼は
我が意を得たりとほくそ笑む




「なら元を担ぐべく、共に初詣へ行かぬか?」


「好意は嬉しいが兄上を差し置いて行くのは…」


「何なら兄も同伴で構わん、こちらも
エリザベスを連れるつもりだしな」


それなら、と了承を得られたまでは良かったが




「では僕の挨拶回りが終わったら
落ち合いましょう」


「了解した、で場所は?」


「あなたもご存じの所です…当日は
相応の姿ならなお都合がよろしいかと」




艶然と笑った兄の告げた"待ち合わせ場所"は







「あらぁ〜ちゃんにヅラ子じゃない!


「西郷殿に皆々様
新年明けましておめでとうございます


「そんな堅苦しくなくていいわよぉ〜あけおめV




かまっ娘倶楽部の店の前




そう…現在桂は女装姿だ







一通りの挨拶を終え、神社へと四人が歩き出し


彼は振り袖の兄へささやく




「…同伴は認めたが、なにもこの姿でなくとも」


「新年早々警察沙汰はごめんですからね」


「言ってもらえれば不本意ながら変装くらいは…」


「大方勧誘も目論んでのつもりでしょうが
その装いでは、説得力も半減でしょ」




ぴしゃりと言い切られ、桂は目を見開いた




「み、見抜いた上で罠にハメたと言うのか…!」


"恐るべき眼力!"


「む?どうかしたのだろうか三人とも?」




歩みが遅くなったのを怪訝に思い
振り返った彼女へ




「「"何でもない(よ)"」」


彼らは口を揃えて答えた




「予想はしたけど…参拝客でごった返してますね」




参道から社までの石畳と石段を
埋め尽くすように人波が溢れている




「流れが激しいのでご注意下され兄う」


台詞の途中で後ろの流れに当人が押し出され


伸ばした手が、咄嗟に彼女を引き留めて

離れるのを防いだ




「全く、気を付けろ


「おぉ…すまぬな桂殿」




それからしばらく彼女は


女顔負けの二人に挟まれての
移動を余儀なくされた







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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:晴太とのやり取りと女装二人に
挟まれる下りが書きたかったんです


桂:思い切り煩悩丸出しの動機だな


晴太:まあ、あの後お年玉もらえたけど
姉ホントにモノ知らなさすぎだね


狐狗狸:不可抗力だって てーか
正月からちゃっかりしてるね君も


エリザベス:にしてもどうせ初詣なら
彼女の振袖姿とか見たかったなぁ〜


狐狗狸:あの…スイマセンけど
普通にしゃべんないで下さい




読んでいただいて ありがとうございます
2011年もよろしくお願いします!