期待に胸を膨らませた生徒が、通りがかった
彼女を後ろから呼び止める





「あのっ…こ、これを!





真っ赤になった彼が差し出すのは白い封筒


受け取り その宛名を確認して

くりくりとした茶色の瞳が
諦めたように、さっと光を失う





渡した男は高鳴る己の心に一杯一杯で


とてもではないが相手のその様子に
気付く余裕もないまま 真っ赤になって続ける





「その手紙…ぜひとも太刀花さんに
渡してください!お願いします!!」






ついに彼女―の口から溜息が漏れた







校内で語り継がれる"ある事件"が起こる以前


彼女が天流クラスの順当な学年に
在籍していた頃の、一つの日常―











〜ラブレター?〜











教室へ着けば 見知った友が


いつも通りのひどく物憂げな表情をして
頬杖を着いて座っている





自分の席から椅子を引き寄せて

友の側へと腰かけて笑う





「まーた浮かない顔してるね、


「あぁ…例によって例の如くだ」







深く沈んだ言葉を搾り出し


数拍おいて机に置かれたのは





「何コレ…のフィギュア?


手作りで一週間かけて作った最高傑作だと
こんなもんどーしろってんだよ…!」


「とりあえずは不燃粗大ゴミじゃない?」





プロと言うほどでもないが
それなりに出来のいい一抱え大の人形に対し


さらりとヒドイ一言を浴びせつつ
次の言葉が放たれる





「それ、送り主はどんな人?」


「…わかっていればとっくに送り返す」





どうやらカードか何かを添えて送られた
差出人不明のブツらしい


ある種 犯罪臭すら漂う不気味さに対し

特に何も思わず彼女は口を開く





「地流に調べ物の得意な子を知ってるから
頼んでこよっかー?」


「別にいい、そこまでして相手を
突き止めたいわけじゃないし
多分相手も望んでいないと思うから」


「そっか まーその方があたしとしても
あっちに頼む面倒が無くていいけどね」





あっけらかんに笑うその言葉を

もしも引き合いに出された当人が聞けば
"むしろ逆だろう"と文句を言うに違いない







程なくフィギュアが引っ込められれば


あ、と思い出したように
先程の白い封筒をぴらぴらと振ってみせる





「そういえば、また当てのラブレター
もらっちゃったんだけど〜」


瞬間 困った顔では即答する


「いや間に合ってるから」


「だよねぇ…どうする?」


「悪いけど丁重にお返ししといて
後で何かおごるから」





了解〜と軽く答えた直後





殊更深めの溜息が 形のいい唇から漏れる





「始めは嬉しかったんだけどさ…ここまで
度を越すと 今では辛いよ」


「諦めたら?高嶺の花の宿命って奴だよ」





笑うように軽い呟きに 冗談じゃないと
ウンザリしたように吐き捨てる







容姿端麗・運動神経と学力ともに申し分なく

高い霊力を要する式神を操るに足る実力


そして何より明るく前向きな性格が


彼女自身の魅力として好感的に映り
周囲を惹きつけずにはいられないようで





ファンクラブこそは発足されてはいないものの


下駄箱に似たような内容の手紙が
何通も入っていたり

実際に告白されたりした事が少なくなく


今回のように贈り物の類も頂戴することが
日常になりつつある





無論、比較的真面目に勉学に励む
恋愛ごとへ身を投じるつもりはまだ特に無いので


それらの代物を丁重に返したり断ったりして


毎度毎度、体力と気力を疲弊させていたりする







…そのとばっちりとも言うべきなのか


彼女の友人であるは、よく
告白の仲人や手紙や贈り物の配達人を頼まれる





快くはないものの当人はそれを引き受け

一応の勤めを果してから


配達物に頭を抱える友へ嫌味なく笑いかけ
話へと打ち興じてみせている







「これじゃ勉強に身が入らない
テストも近いのに、勘弁して欲しいな」


は相変わらず真面目だね〜」


「あんたが不真面目すぎんのよ」





割り込むように口を挟んだのは


毛先がピンクから白のグラデーションに
彩られている 光明族の式神


途端に彼女はむぅっと頬を膨らませる





「あんなすっごいスパルタコース
真面目にやってたら 身が持たないもん」


「あのねぇ…それぐらいしなきゃ
一気に飛び級なんて出来ないでしょーが」


『ああ、って飛び級するつもりだっけ』





答えたのは の背後から現れた白龍族





「そう 憧れのヤクモ先輩と同じクラスで
授業を受けたいからって熱意だけは人一倍」


「言わないでよっっ!!」





真っ赤になりながら叫べば、両式神は
やれやれと肩を竦めて口をつぐむ







ようやく楽しそうな微笑みを浮かべると


軽く相手を覗き込むようにしては言う





「何ならお礼代わりに勉強付き合おうか?」


「いい、って勉強してる時 超怖いもん
モテる秘訣とかなら教えて欲しいけど」


「そんなもの知らないから…てゆーか
教わってどうするつもりだ?そんなの」





ぽ、と音が聞こえてきそうな感じで
可愛らしく頬を染めてもじもじする様は


正しく"恋する乙女"





「決まってるけど…教えなーい」


「何ソレ」





言いつつも、お互いをある程度は
理解していた仲だったので追求は無い







…が しかし





「オレは教えて欲しいけどなぁ」





敢えて踏み込んできた男が、一人いた





「うっげ…マサオミ」


「どこから現れたんですか?」





いつの間にか側に佇んでいた クラスも
学年も違うはずの彼に


さして驚きもせず二人は口々に感想を述べる

というか片方は明らかに嫌煙しているが





反応へ、意にも介さず不敵な笑みを浮かべ
格好をつけて答えるマサオミ





「オレはいつでも神出鬼没なのさ!」


「ポーズつけんなキモイから」


「いくらなんでもそれは可哀想だよ」





冷たくあしらわれても めげずに彼は
"頼れるお兄さんスタイル"で話しかける





「何だ、また恋のお悩みで困ってんの?」


「うるさい黙れ何もするな関わるな」


『そーだそーだ、失せろ部外者』





両サイドから力一杯の拒否集中砲火がかかる





良くも悪くも知名度の高いこの男が絡むと


事態がろくな方へと進展しない予感しかない
…と承知しているからだろう





最も式神の方は 個人的にマサオミを
好かないという"私情"も多分に混じってだが







「ひっどいなぁ〜オレは純粋にカワイイ子の
相談に乗りたいだけなのに」


「だったらあたしにモテる秘訣でも
教えてくださいよ〜この際ついでに」


「モテなくたって君は十分魅力的だって」


「今のままじゃ満足できないんですよぅ〜」


「それよりもあんたは勉学に励みなさいな」





式神の最もな発言に、しかし相方は
まったくもって耳を貸さない





「なぁ、私はそろそろ勉強をしたいんだ
頼むから帰ってくれむしろ帰れ


「そう邪険にするなよ…二人の恋のお悩みも
お兄さんが解決しようと思ったのに」


「そうなんですか〜」


「頼んでないし つか何しに来たんだ」


「決まってるだろ?」





ニコリと笑ったかと思うと


マサオミは両腕でそれぞれの肩を抱いて
高らかに宣言する





「恋に悩む君ら二人を まとめて
面倒見てあげようと思ってね!」








空気が密度を持って固まった







ある意味 男気の溢れるその発言に対し


彼女は爽やかな笑顔を浮かべて一言





「あの世に帰れ、それとも地獄か?」


「ハハハ ジョークが上手いなは」





そこそこ発音のよさを発揮しつつ
陽気に笑うマサオミではあるが


くっついているハズの相手との温度差は


赤道直下とツンドラほどの開きがあった





「マサオミさーん、多分それ本気だから
から離れた方がいいですよ〜」


あれ!?ちゃんいつの間に!?」


気付けば片方の腕から抜け出していた彼女が
教室の隅の方で声をかけている





そして、見事なアッパーカット
マサオミを床へと這いつくばらせた





これが後々の"事件"の確執のひとつになった…か
どうかまでは定かではない








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:月星昴様のお宅のさんと共演を
果させていただきつつ 久々の学パラ更新でっす


マサオミ:ってオレ後半出じゃん…しかも
サイト屈指のヒドイ扱い受けてるし…


狐狗狸:ゴメン オミさんのキャラがどーしても
その位置に来ちゃうんだ


マサオミ:ていうかちゃん飛び級前設定って…
こんなの書いちゃっていいの?勝手に


狐狗狸:その辺の捏造もアリが学パラです(キパ)


マサオミ:…図太さだけは成長したね


狐狗狸:そいつはどうもー




久々ながら、オリキャラ比率が高い罠(苦笑)




ここまで読んでいただいてありがとうございました!