事件は、昼休みに起きた





きっかけは同時刻に流れた放送である







『ただいまから呼び出す生徒は、至急保健室まで
くるように 繰り返します…』







声の主は 先生





呼び出している保健室の主だ







能力が高く、物腰が柔らかで一見すると
とても信頼の置ける人のようだけれども


その実 笑顔の裏は腹黒い





学園内で一、二を争うと言われるくらい
どす黒い思念を持っている







そもそも曲者ツワモノの多い教師陣からの呼び出しで


タイザン、オオスミらと並んで
恐れられている名前が









故に、この呼び出しで構内中の生徒はざわつき始め


名前を呼び出され始めた生徒から
順に奇声を上げだし





多くの者は 当然の如くその場から逃げ出し始めた







…が、呼び出した当人は既にそれすらも
想定していたようで





「逃がしませんよ?」





本人 或いは彼が声をかけた教師や式神などが
逃げ出した者達を待ち構えており





初めに逃げ出した者達が捕まっていく様子を見て


多くの者は諦め、大人しく保健室へと直行した







…けれど いまだに逃げる者や
逃げ続けるものも後を絶たない





それは、彼女等も例外ではなかった











〜保健室直行〜











さん…』







自分の名前が流れた途端、は顔をしかめる





彼女は構内ではなく 外のご神木の枝に腰かけ
近くから流れる放送を聞いていたのだが







『ヤベェよな どーする?』





神操機の中から出てきた式神が訪ねる





「どうするもこうするも…俺が大人しく
の呼び出しを受けるとでも?」


『まあ それはねぇけどな…』







二人は声の主の事をよく知っていたので
眉間にしわを寄せ、互いにため息をついた









入学してから はずっと第一学年のまま過ごし


教師や生徒会の人間の呼び出し等を
一切無視して来ている







別に理解力が足りないわけではないし
ありきたりな反抗心の表れでもない







机上で受ける知識は、どれもこれも
既に聞いたことのあるものばかり





そこには不測の事態も面白みも何も無い







実戦等と違い 自らの身にならず興味も
沸かぬそれを受けるのは


彼女にとって余りに退屈に過ぎた







だから授業を自主的にサボり始め







―気が付けば、三年という月日を留年していた









その年月の間 学園の事をあらかた
理解していたには


構内で何が起きているのかも直ぐに思い至る





「…けっこうハデに動いてるようだな
ここにずっといるのも、ヤバイな」


『だな とにかくどっか移動しとくか』





呟くと、はご神木から降りて駆け出す







そう遠くないうちに自分の居場所を突き止め
保健室へと連れに来る者の存在を予感して









――――――――――――――――







同じ頃 六花のは構内の廊下で
一人の式神と対峙していた







「何度言われようが、俺はあんな腹黒保険医のいる
魔窟に行くのはごめんこうむる」





どうにか隙を見つけて駆け出そうとするも


目の前にいる相手―霜花のオニシバ
僅かな隙すら相手に許さない





「所がそうも行かないんでさ、ここは
大人しく着いてきちゃくれやせんかぃ?」


「逆の立場だったら テメェは
ハイそうですかって従えんのかよ」


「…それもそうだねぃ」





納得したように呟く相手に、油断を誘うべく
は問いを重ねる





「大体、何でお前らがに呼び出し喰らった
生徒集めてんだよ 筋合い違ぇだろ!?」







二人のこうしたやり取りは、普段は
タイザンの補習呼び出しで起こるのだ





けれど今回は それとは全然関連の無い所で
起こっているように彼女には思えた







オニシバは、ややバツが悪そうに頭を掻く





「仕方ねぇでしょう、何でも旦那がの旦那に
借りがあるらしくてねぇ」





マジでか!?と一際大きな声で叫んでから





「…同情できなくもないが、俺だって
あいつの呼び出しに参加したかねぇっ!」







気を取り直してが一歩下がる







それに気付いた相手が気迫を込めつつ
間合いを一歩詰める





「いつもながらのセリフですが…ここは一つ
諦めちゃくれやせんかね さん?」



お断りだ!狐火っ!!」





最後の言葉と共に指先から生み出した
一塊の炎をオニシバの顔面へと投げつけ


それを目暗ましに、彼女は一気に後方へ駆けた









―――――――――――――――――――







「意外としつこいな…」





屋上の階段の上、あの出っ張りの部分から
周囲をぐるりと見回し はぼやいた







隠れる場所も無く目立つように見えるが





屋上自体に来る者が滅多に無い為


平素から案外気付かれない
絶好の隠れサボりスポットだったりする







おまけに大半の者は構内や校庭などへ逃げ回る
生徒を追われてるため 注意は薄い







『けっこう逃げ回ってる奴等も減ってきてるぜ
ここもそろそろやばくねーか?』


「いや まだ近くに気配はないし大丈夫だ…」





不意に、彼女の背後に気配が出現した







その場を移動しようと振り向いたが見たのは





よじ登ってきただった







の方もまた、目の前にいた
驚いて大きく目を見開く







「っお前は…たしか三年サボりの」


「それはお互い様だろ 六花の
アンタの事は学年問わず有名だぞ?」





彼女の言葉には何かを言い返そうとしたが、止める





「そんな事はいい、どうせお前も俺と
似たような理由でここに来たんだろ?」


「そうだ」







特に偽る理由も無かったので、
素直に首を振るを見て





金色の目を輝かせ が口を開いた







「…どうだ ここは一つ手を組まないか?


『はぁ?いきなり何だよ六花の?』


「少し黙ってて…具体案はあるのか?」





コクリ、と首を縦に振り 人差し指を相手と自分に差し





「そっちは符術と長年のサボりのノウハウが
俺には狐火と予測の力がある…ここまではいいか?


「ああ」


「つまりだ お互いの長所を上手く使えば
ほとぼりが冷めるまでは雲隠れ出来るだろ」


「なるほどな…けど、俺にそこまでして
そっちに協力するメリットはないが?」


「……いや あるぜ」







意味ありげに彼女が片目を瞑ったその途端







「見つけたぞ、に六花の!」





下の方からタイザンとオニシバが
二人に向かって声をかけてきていた









「この場所でこいつらの包囲網を突破すんのは
不可能だからな 一人じゃな


「…協力せざるを得ない、か どうせなら奴の出現を
もっと早く予測して欲しかったよ」





呟き、殺意すらこもった眼差しをタイザンに向ける









――――――――――――――――――







それから二人はどうにかタイザンとオニシバの
コンビを切り抜けて、構内に長く潜伏し続けた







の予測により 状況を先読みし





の案内で時間差で追ってくる教師を
撒いてやり過ごし


時には挟まれたりすることもあったけれど


火術や符術でどうにか誤魔化して





うまくすり抜け続けて来たのだが…









「…げ、ヤバっ 行き止まり」


『お前が迷いすぎるせいだろ
どーすんだよ ピンチじゃねーか!!』







の式神にどやされるその言葉通り





能力と比例するの方向音痴さ
流石にどうにもならなかったようで







二人は袋小路に追い詰められていた







「なあさん、アンタ いっつも
こんなに迷ってばかりなのか?」


「…ああそーだよ ハッキリ言って
サボりの七割は方向音痴が原因だよ畜生」





本人も、かなり苦々しげに吐き捨てる







たしかにの予測の力は高いのだが





その強すぎる力のせいで、反比例して
ひどい方向音痴となってしまっている







それが彼女に 半ば望まぬサボり魔の称号を
受けさせた要因である









…とにかく、二人は突破口を探すために辺りを見回し





背後の壁の上に位置する窓に目を付けた







明り取りのためか 少し高い位置にあるそれは
肩車をすれば何とか届きそうだ







窓の発見と同時に 少し遠くから足音が近づいてくる







「二人とも ずいぶん手こずらせてくれましたね…
もう残ってるのは君達だけですよ?





最悪なことに、本人が接近してるらしい







何も言わずに顔を見合わせ





「四の五の言っているヒマは無いな、さん」


「わかっている 頼むぞ





言葉を交わすと、に肩車をされ
が 窓のカギを外す







足音が大きくなる中、どうにか窓の外の木に
移ったが手を伸ばす







さん 早く飛んで手に捕まれ」


「わかっ」





言いかけたその時、一瞬早くが姿を現した





「もう逃げられませんよ、二人とも
これ以上僕の機嫌を損ねない方が身の為でしょう」


ヤベェ! 今飛ぶから」





駆けてくる保険医にが慌てて窓を仰ぐと







それよりも早く、が窓を閉めて
符で施錠まで行っていた









事態を理解できず 目を大きく開く





「…すまん、そうなったらもう救出は無理だ
悪いが犠牲になってくれ」







手を顔の前に出して一言謝って、
その場からさっさと退散した







お前っ 裏切りものぉぉぉ〜!!」







叫ぶ彼女だが、時は既に遅し





あっけなくに捕まり 悪夢のような目
合わされまくったのだった…











『どうにか逃げ切れたなぁ、


「ああ…しかし 流石に悪いことをしたな
いくらあの場から逃げるためとはいえ」


「逃げ切れてないぞー





その声に、振り向いたが硬直する







彼女の前には 白い髪をなびかせて笑う
倣岸不遜なあの人が佇んでいた








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:松本つきや様のお宅の、ちゃんや
さん達と共演させていただきました〜


オニシバ:…夢主じゃねぇキャラは あっしと
旦那しかでてやせんよね?


狐狗狸:うん、書き上げて気付いたよ;


タイザン:といいといい、全く
ちょこまか逃げ回りおって…(どす黒オーラ)


狐狗狸:うっわ、瘴気にも似た殺気のオーラ放っとる


オニシバ:旦那 怒ると胃によくないですぜ


タイザン:やかましい!大体、
何の為にやたら生徒を呼び出して…いや、よそう


狐狗狸:…書いといて何ですけど 本当さん
何をしたんでしょうねー(汗)


オニシバ:深入りしねぇ方が身の為でしょうねぃ


狐狗狸:あー うん、そうかも




キャラ大量にお借りしてスイマセンでした
そして陰陽のキャラ絡みが少なくて本当スイマセン…




ここまで読んでいただいてありがとうございました!