午後7時を過ぎれば、生徒達もそれぞれ
寮や自宅へ戻り 学園は静寂に包まれる







中にいる教師も仕事の残っている者や
宿直当番、そして警備兼任の用務員くらいだ









薄闇に沈んだ廊下に、コツコツと足音が響く







「夜の学校って けっこうアレね…」







懐中電灯で辺りを照らしながら、は呟いた





『怖いのか、?』





神操機から霊体のゲンタロウが抜け出してくる







「怖くはないわよ 曲がりなりにも教師だし
ゲンタロウもゲンパクもイザヨイも一緒だもの」


『うれしいのぅ』


『ま、当然じゃな』


「この時間帯にいるの初めてだから、ちょっと
新鮮なのよねー こういうの」







教師になって経験の浅いは滅多に
宿直を任せられることはなく、


この時間は大抵、寮の自室で趣味のナイターを
見ながらビールを飲んだりしていた





ゆえに こうして夜の学校特有の雰囲気
彼女にとって目新しく移った









…しかし、時間帯と人の有無しか違いは無く





特に何も無いと 流石にその雰囲気に飽きるようで







「あーでも流石に退屈ねぇ…妖怪か何か
出ないと腕がなまりそうだわ」


『いささか不謹慎じゃなぁ』


「だぁって特に異常ないみたいだから
早く交代するなり何なりして帰りたいもん」







適当に見回りを終わらせ、宿直室へ戻って
夜食でも取ろうとしていた時


窓から見える、すぐ側の向かいの教室から
人影が出てきたように見えた





反射的に駆けると 人影もに気付いたのか
急いで反対方向へと逃げてゆく







「待ちなさい!」











〜夜の学校って不気味だね〜











『今のは 一体何なのじゃ?』


「わからないけど…妖怪や変質者なら
問答無用でぶちのめすのみ!


『相手がどんなヤツかわからない以上
あまりなめてかかるのはよくないぞ』


「わーかってるって!」







短く返して角を曲がるも、相手との距離は一向に縮まらない







「ああもう逃げ足の速い…式神降神!





神操機から三体の式神を同時に降神し、





「ゲンタロウはそっちの階段から右へ、
ゲンパクは下、イザヨイは私と一緒に回り込んで!」


『わかった!』







命令を下すと それぞれに散って人影を追う









三体の式神とに挟み撃ちされ
逃げていた相手は程なくして観念した





「あっちゃー見つかっちゃったか」


「こんな時間に何をしているのかしらぁ?
神流クラス第五学年の大神マサオミ君?


「いや実は宿題をうっかり忘れちゃって
見つけたから帰ろうとしてたんですよ」







言いながら、右手に持ったカバンを掲げてみせる





それを認めて 彼女は式神二体を神操機に
戻し、問いを重ねる







「なら、どうして逃げたのかしら?」


「だって先生、スッゲェ顔
走って追いかけてきたから怖くてさ〜」


「失礼しちゃうわね
こんなに美人な先生に向かって」





言うだが、式神達は苦笑いをするばかり





「でも、マサオミくんって宿題をワザワザ
取りに来る子だったかしら?」


「オレだってたまには真面目になる時くらい
あるんですって」





ウインクをする彼の背後から


半透明のキバチヨが口を挟んだ





『マサオミくんたら、本当はオカルトグッズを』


「言うなよキバチヨそれは!!」







初めて見せた動揺の気配に、が目を細める







「ふぅん…どんなモノか見せてみなさい?」


「オレがそんなモノを持ってるように見えます?」







爽やかな笑顔でごまかそうとするマサオミだが





カバンを後ろへと隠そうとするのを彼女は見逃さなかった







ゲンタロウ、マサオミくんを取り押さえて」





首を縦に振り ゲンタロウは後ろから
マサオミを羽交い絞めにする





わっ!?ちょ これってプライバシーの侵害だろ!」


「危ないものじゃなきゃスグ返すわよ」







答えてカバンの中を探り、出てきたのは









怪しげな呪術の本ワラ人形らしき代物と小さな封筒





封筒の中を開くと 入っていたのは
うっすらと緑色をした髪の毛が数本ばかり









「…これ、どういうこと?」





詰問され マサオミは一瞬言葉を詰まらせる





「あー…これは、その ヤクモに頼まれて」


『チープなウソは逆効果だよ、マサオミくん』





キバチヨが、相手が信用していないことを指摘する







『誰かに呪詛をかける気だったのかのう?』





追い討ちのゲンパクの言葉が、図星を裏付けていた







「…まあいいわ、本は没収
残りのは処分するから いいわね?」


ええっ!?せめて封筒だけは返してくれよぉ〜」


「よからぬ事に使うだろうからダメ


「ぐ……!」







悔恨の眼差しで封筒を見つめるマサオミだが
もはやそれを取り戻せないことは明白だった







キバチヨが意地悪く笑いながら言う





『せっかく苦労してゲットしたヘアーなのに
またイチからやり直しだね〜』


うるさい!キバチヨが余計な事言うからだろ!」


僕のお菓子を全部食べたから、そのお返しだもん』





低レベルなケンカを繰り広げる二人を横目で見つめ


神操機にゲンタロウを戻し、は言う







「いーからさっさと帰りなさい、でないと
タイザン先生かウスベニ先生に全部報告するわよ」


「そ、それだけはカンベン!」


「なら早く帰って―」







別の場所から、小さく何かが倒れるような音がした







二人がそちらに顔を向ける





「…今 変な音がしましたね、先生」





彼女も首を縦に振り、そちらに懐中電灯のライトを向けるも
その先には 暗い廊下が広がるばかり







「仕方ないわね、ついでだから一緒に来なさい」











二人が廊下を進むうち、微かにタタタ…
機械的な音が聞こえてくる


それは先へと進むごとに強くなり





やがて、二人の足は自習室の前で止まる







音は 明らかにそこから鳴り響いていた





引き戸の窓を見れば 中にほのかな明かりが見える







互いに頷いて 引き戸をからりと開ける


同時に、響いていた音がピタリと止んだ







カーテンのかかった暗い室内の、長机の一つに
煌々と電気スタンドが輝く





それに照らされていたのは一台のミシンと
煌びやかな衣装や生地





そして、闇に生える金色がかった茶髪







「アナタは… ちゃん!


「へぇ〜驚いた、真面目なちゃんが
こんな時間までいるなんて」


先生にマサオミくん こんばんは」





は椅子から腰を上げ ペコリとおじぎをする









話を聞くと、は演劇部の公演に間に合わせるため
衣装製作に励んでいたそうだが





日夜にわたっての作業に根を詰めていたからか


放課後にうっかり居眠りをし、目を覚ますと
辺りはすっかり暗かったのだという









「だから、今やっているこの一着をキリがいい所まで
終わらせてから帰ろうと思いまして」





どうやらスタンドとミシン類は許可をもらって
家庭科室から借りたらしい







「ご迷惑おかけして 本当にすみません」







素直に謝るに対し は苦笑交じりのため息をつく





「まあ仕方ないわよ、ちゃんは部長なんだから
色々と忙しいでしょうし」


「すみません 今から片付けて寮の方に帰りますね」


いいのよ、もうちょっとだけなら見逃してあげるから」


「いいんですか!?ありがとうございます







自分との態度の違いに マサオミは納得いかないと
いったような表情をする







先生ぇ〜えこひいきは良くないっすよ」


「そう思うなら日頃からの態度を改めなさい?」





そっけない言い方をされ、





「つれないなぁ先生ってばさ
結構 オレの好みなのに







マサオミは距離を詰め、彼女の手をとってキスをする


は目を点にし は大胆ねぇ、と呟く





ゲンタロウが殺気を込めた視線を送るが
そんなものを一々気にするマサオミではない


そして、彼は空いた手でデコを叩かれた





「アンタはその気になれば範囲広いでしょーが
こんのマセガキ!」



『まぁ、プレイボーイだしね マサオミくん』





痛そうにデコをさするマサオミを横目で睨み
は机に置かれた衣装類に目を移す





「これ ちゃんが作ってる衣装?
なんだかスッゴイ凝ってるわね〜」


「私、ロココ調の刺繍とかするのが好きで
皆から派手すぎるって言われるんですけど…」


そんなこと無いわよ!私だったら こんな
キレイな衣装作ってもらえたらうれしいわよ!」







褒められ、は恥ずかしそうに顔を朱に染める







確かに上手いけど…これは派手すぎじゃないかなぁ
マサオミは心の中で呟く







「ねぇ、どうせだからちゃんが衣装
作り終えるまで一緒にいていーい?」


「先生 見回りはしなくていいの?」


「だまらっしゃい、このがしんたれが」





ポツリと言ったマサオミに、ドスをきかせた返答で返し





「夜勤や構内の見回りって意外と何も無くて退屈でさ〜
絶対ジャマしないから、お願い







両手を合わせて 頼み込む
はニッコリと微笑んで頷く







「構いませんよ、私も先生にお目こぼしして
いただいていることですし」


「ありがと〜!ちゃんって優しい!」







勢いでに抱きつかれる彼女を
半ばうらやましいと マサオミは思った







「ねぇちゃん ついでにオレもいていい?


「それは構わないけど…お家の人とか心配しない?」


「大丈夫、ちゃんと連絡入れてあるし」









とにかく なんやかんやで、二人は自習室で
の衣装が出来上がるのを見物することとなった









「別にアンタは帰ってもいいわよ」





うっとうしそうに手で追い払う仕草をされるも
マサオミはめげずにチチチ、と指を振って





二人の美女がいるなら話は別ですよ」


『現金だね〜マサオミ君は』





作業を休める事無く、が 現れたキバチヨに声をかける





「アナタのこと、あの子から聞いてるわ
仲良くしてくれてるそうね ありがとう」


『だって僕らフレンドだし、それに』


「でも、ヘンなちょっかいかけたら容赦しないから
その辺も考えて付き合うようにね?」





顔とは裏腹に目は笑っておらず、にじみ出る
オーラに 周囲の者達はちょっと引いた







「ウワサ通りの過保護っぷりっすね
どうせならその情熱、オレとの恋愛に向けません?」







気取ったポーズで勇敢にも口説きを始める
マサオミに、は首を振ってやんわり断る





「ごめんなさい、あの子の世話を焼くのが
私の生きがいだから…よし 終わったわ」





ミシンを止め、衣装を確認する


マサオミも側へと寄って 感嘆の声を上げる







「おお〜、ちゃんって本当に器用だなぁ
これならいいお嫁さんになれそうだね」


「へぇ どれどれ見せて」







言いながらも隣から覗き込み









廊下から響く足音に、三人が引き戸を見やる





「こんな時間に…誰かしら」


「オレみたいに忘れ物をした生徒とかかな?」


「こんな時間にアンタみたいなのは二人もいないでしょ
もしかしたら変質者かもしれないわ」







会話を交わす間に引き戸が ガラリと開いて







「何やって」





次の瞬間、一瞬で間合いを詰めた
ケリをモロにくらい 相手は撃沈した







…ゼンショウ先生だった」







目を回すゼンショウを見下ろし、バツが悪そうな
顔をする彼女に マサオミがささやく





「あーあ どうすんのさ」





頭を抱え、うーんと唸り


何かを思いついたらしく の方を向く







「…ちゃん、悪いんだけど今からやること
目をつぶっていてもらえるかしら?」


「え、ええ…」







了承を得ると 早速はゼンショウの
側にしゃがみ込んで闘神符を取り出す







「ねぇ 先生、何で闘神符出してるの?」


『しかもそれ"忘"って書かれてないか?』







マサオミとゲンタロウのツッコミに、教師として
いささかアレな答えが返ってきた







「記憶を忘れさせといて、気絶してる内に
帰っちゃえばバレないわよ」



『さすがにそれはマズくはないかぇ?』


『ワシもそう思うんじゃがのう』





二匹の式神の正論は に届かなかった









「…それじゃ、マサオミくん 今日のこの事は
秘密にしといてね」


「本当はいけないと思いますけど、私も
先生に居残りを見逃していただきましたから」


「さ〜どうしよっかなぁ〜オレは忘れ物
取りに来ただけだったしなぁ」





ニヤニヤと笑うマサオミにキレイな笑みを浮かべ





「バラすならこっちもある事ない事
タイザン先生とウスベニ先生にチクるわよ」


「職権乱用!?」







こうして 今日のこの出来事は三人の秘密となった









その後、目を覚ましたゼンショウの話が
回りまわって広まり







"自習室の怪人"として学園七不思議に追加されたとか








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:学パラで獣道かける様のさんと
共演夢として書いてみました、キャラ壊ししてたら
マジでスイマセン!


マサオミ:てゆうかこれ、ほとんど先生
よりの話だな はっきり言って


キバチヨ:獣道かける様に怒られるよ〜コレ


狐狗狸:…言われてみたらそうかも、この場を借りて
謝ります 本当にゴメンナサイ!!


マサオミ:まー、両手に花にはなってたけど
呪術道具を取り上げられたのは痛かったなぁ


狐狗狸:ねぇ…封筒の中の髪の毛、緑色って
まさかあの毛髪の持ち主ってさぁ


キバチヨ:おっと、その辺はシークレットね♪


狐狗狸:…バレバレだとは思うけどね つーか
の出番が後半なのがマズかったかな


マサオミ:そうだなぁ、せめてもう少し早ければ
もっと猛烈アタックできたんだけどな


狐狗狸:チャレンジャーだなオミ兄さん




もう少し甘い感じに掘り下げられればなーと
ちょっと反省したりしなかったり




ここまで読んでいただいてありがとうございました!