ちょっとちょっと!アンタのせいで
描きかけの絵がキャンバスごと台無しになったじゃない!!」


「仕方ないだろう これは純然たる事故だ!」


「事故で済まされると思ってんの!?
こっちにはアンタがやった証拠があるんだから!!」








学園のグラウンドで、一人の少年一匹の式神
言い争い火花を散らす中





野球部のユニホームを着た赤髪少年―飛鳥 ユーマへ


ピンクから白のグラデーションの毛色をした
式神―光明の


ど真ん中に見事なまでの穴が開いたキャンバス

原因らしき野球ボールとをかざしてみせた





他の野球部員達は そんな両者の様子を遠巻きに見ている












〜「俺の芸術作品」〜













「どんなボールでもオレのパゥワーで打ち返す!」







…事が起こったのは ノックの練習をしていた時





部活動熱心なユーマは宣言通り

投げられたボールを見事にバットの中心
ミートさせて、高々と打ち上げたのだが





打ち上げた方角が悪かったのか

野球のボールが校内の窓に勢い良く吸い込まれ―


お約束通り次の瞬間には派手な破壊音と
叫び声が聞こえた






そして成り行きを見送り彼らが行動を起こすよりも早く


彼女が何かを脇に挟んで窓から飛び出してきたのだった


まさに文字通り、いや 見た通り

窓から『飛び出』し自分の武器である
陰陽筆と体捌きで見事な着地をして





これは式神生徒であっても、余り出来るものも
行うものもいない芸当だと断っておく









そんなこんなで、現在にいたり


かざした二つの品がユーマの顔色を
あからさまに曇らせた





「コンクールに間に合わなくなったら
どうしてくれるわけ!?」



ソレを見て取り尚も厳しい口調で責め立てる





「だから…それに関しては悪いと思っている
が、さっきも言った通り事故であって」





賢明に言い返すが、段々ユーマの旗色が
悪くなっているのは誰が見ても明白だった







やがて…ユーマがとうとう折れた





「…スマン オレが悪かった」


「最初からそう言えばいいのよ」





ため息をつき満足げに言った彼女の一言で


様子を見守っていた周囲の面々は、一件が
決着したと見て各々の作業へと戻る







「それにしても…学年の違う、闘神士のいない
アンタが何故降神状態でここに?」





問いかけに、やや憮然として答える





「何よ、美術部の副部長が部室にいて
文句があるわけ?」


「…いや そういうつもりでは」


「それに少しの間なら 闘神符
実体化するだけの気力を保ってられるの」


なるほど、それでか」





納得したようにユーマは呟いた







…ちなみに口論していた当人同士は
もっぱら上下関係等の礼節に厳しい方であり


は彼よりも四学年上の
第七学年に在籍しているのだが





本人は飛び級した生徒の上

前の契約者のという生徒が元々
年も近く同じ学年だった名残があるからか


彼女への口調が自然 何処かぞんざいになる





もそれには気付いているらしく

故に、言葉遣いについては言及しないようだ







一旦は理解したものの、再び不思議そうに
ユーマが首を傾げる





「しかしそれなら誰かと契約する方が
面倒も少なくてすむんじゃないか?」







けれど彼女は首を横に振り





「あたしと契約できるほどの気力を持つ闘神士は
多いわけじゃないし…

契約したら、と会うかもしれないから」


苦々しく続けて うなだれる







「そう言えば、途中で契約を破棄した
から聞いているが…何かあったのか?」





は…悲しげな顔をした





「…なるべく、もう とは
顔を合わせたくないのよ」


「やはり……あの時の事が原因なのか」







ユーマが差すのは、この学園に以前起こった
あまりにも大きな一つの事件







二つのクラスによる確執が争いを生み


それにが二度巻き込まれ…そして
は闘神士と別れる事となった





直接の関係は無いにしろ、当時彼女らと
近しい位置にいた為か


ユーマは自らの推察にある程度の確信があった







裏付けるかのように複雑な面持ちで頷き

は声のトーンを落とす





「それもあるけれど、あたしが破棄したのは
その事だけが原因じゃないわ…」


「…どういう意味だ?」


『おそらく、"光明族の掟"絡みではないのか』





その言葉に返事を返したのは、彼の後ろから
現れた半透明のランゲツ





「…アンタ よく知ってるわね」


『年月を重ねているからな』


「光明族の掟…?何のことだ ランゲツ





問いに、ランゲツは淡々と答える





『光明族は陰陽筆で描いたものを具現化できる
…式神の中でも、稀な力を持つ一族だ


しかしその力ゆえか多大な気力を降神に要し
更には闘神士と一年しか契約できぬ


「それが光明族の掟…一年契約よ」


言葉を引き継ぎながら、は続ける





「符術や教師達の力で期間を誤魔化せたとしても
直ぐに別れはやってくるの 必ずね







事実を聞き、ユーマは驚きを隠せぬまま言う





には…それを伝えず別れたのか?」


伝えれると思うの?別れがもう直ぐだなんて
…あの子、ああ見えて寂しがりやなのよ」





吐き出された言葉はどこか悲痛さを含んでおり


彼もまた、付き合いがあったからか

何となく相手の性格を察し口を閉ざす





「あんな別れ方するのは辛かったけど…
別れなきゃ、あたしはを苦しめるから







そうしなければ…契約と力を維持する為
闘神士の生命力を削り取るから


知っているからこその苦渋の決断は





いまだにの心にかすかな傷を残している







「……すまない、辛い事を口にさせたようだな」





申し訳無さそうに謝るユーマを励ますように







「…いいわ、もう過ぎた事だから」


彼女は優しげな声で笑みを浮かべて





それから普段の調子を取り戻したように
毅然とした態度を取り戻す





それより、あたしの芸術作品を壊した
アンタにはキチンと償いをしてもらうわよ」





その発言に 目を丸くしてユーマが叫ぶ


「お、オレに何をしろと!?


「当然 絵のモデルに決まってるでしょ
さー美術室まで来てもらうわよ?」





言いながらはすたすたと歩き始めるが

当人は戸惑いを浮かべたまま動こうとしない





「しかし、オレも野球の練習が…」


「元はといえばアンタのせいでしょ?」


睨むように見つめ原因二つをかざした彼女へ


うっ、と呻いてたじろぐユーマ





『ユーマ…諦めろ、今回はあっちが正論だ』





駄目押しの如く呟いたランゲツを
少しばかり恨めしく見やってから


「…仕方がないか」







ため息を一つ落した彼は事情を部員に説明し

大人しくの後へとついていった









…それからかれこれ一時間以上経過し







「……一体 どの位このポーズを続ければいいのだ!」


「まだもう少しよ!コラ 動かない!!





指示されたポーズのまま硬直するユーマと

そのユーマとキャンバスを交互に睨む


二人の合間で再び口論が交わされていた





先に述べた通り、彼は既に一時間以上
同じポーズで止まっているため

少しずつ、腕とかが震え始めている


しかも 震えてずれたりとか事あるごとに
の叱咤が飛ぶ





「ちょっと!モデルなんだから動かない!!」


万事 こんな具合に





その為ついつい返す言葉が荒くなるのだ







事故とはいえ原因を生み出し、結果として
償いを決めて取り組んだとはいえ





「…モデルが こんなに辛いとは


と、ユーマは苦しげに呟かずにいられなかった








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:一度も話に出てきてないの話を出すのに
ちょっと苦労しました


ユーマ:だからってあの出会いとオチはナシだろ


ランゲツ:殆どタイトルは辻褄合わせくさいな


狐狗狸:そー言うこと言わないでよー
ちょっとそうかもって自覚してんだから(泣)


ユーマ:しかし…闘神符で実体化するのはいいが
契約者もいない今、誰がどうやってそれを?


狐狗狸:まー教師とか、あと同学年の
式神いない生徒が組んだ時とかにでない?


ランゲツ:あの時の事件の事は…何かネタを考えてはあるのか?


狐狗狸:特には何も


ユーマ:オイ!!




あの時の事件については…現在はご想像に
お任せします(丸投げかよ謝)




さん そして読者様、ここまで読んでいただいて
ありがとうございました!