廊下の先で、彼女は不思議な光景を目撃した





「あら君じゃない
どうしてアナタが第五学年の天流クラスから?」


…どうもミヅキ先輩」


やや虚ろな目で出てきた彼は、ミヅキの姿を
認めると頭を軽く下げる





「なんだかヒドく疲れてるみたいだけど
何かあったの?」


「あー…ありました、あり過ぎるほど





溜息さえつきかねない台詞の直後

教室から能天気極まりない女の子の声が響く


「手伝ってくれてありがとね〜君」


「うっさいバカ女!」





そちらへ短く怒鳴りつけてから、彼は教室から
(正確には"彼女"の視界)から離れる


ちらりとミヅキが教室の中を覗けば…







そこには ある程度修復された痛ましい壁や天井


対比して美しく見える床と、並んだ机に椅子


崩れ去ったゴミ箱の破片をも押し込んだ
山盛りのゴミ入り半透明袋が二つばかり





そしていまだざわつく数人のクラスメイト











〜掃除当番が教室を汚すな〜











「…予想以上にすごい惨状が起きたみたいね」


「いや、オレは特に係わり合いもねーから
帰ろうとしたんですけどね」


『ここに来たのは半分自分の意志じゃん』


「余計な口叩くと封印すんぞテメェ」


背からはみ出たフード姿の式神を軽く脅して

引っ込んだのを見計らい、彼は言う





「…元はの伝言だけするつもりだったんですよ」









ルービックキューブを弄りつつ昇降口へ向かう途中


姉が部員の元式神を探している現場に鉢合わせ


気が向いたので、まだ教室にいるだろう
現闘神士に一言伝えてから廊下や階段辺りに
適当な罠を張っておこうと出向けば





妖怪&何故か他クラスの式神とホウキで戦い

教室を荒らしている見知った相手の姿があり


主に二人のせいで室内は阿鼻叫喚の有様だった





(あ、面倒クセェことになりそう)





瞬時にそう考え踵を返すも、


きゃーんvVカッコイイ子はっけーん!!」





他クラスの式神生徒(恐らくは春灯族)に
とっ捕まって争いに巻き込まれ





「っだぁぁ!何勝手に巻き込んでやがる!!」





苛立ったは手際よく符で式神生徒の
動きを封じて追い出すと


掃除当番が教室汚してんじゃねー!
テメェはとっとと掃除終わらせやがれ!!」






飛んできていた妖怪を片付けながら
相手に本来の仕事を強制させたのだとか







「それは大変だったでしょうね…お疲れ様」


「あ、どーも…ついでにあの狐女見かけたら
が探してたって伝えといてください じゃ」





やる気なく呟き、軽く会釈をして横を通り抜ける彼を





「ねぇ君…この後ちょっと時間ある?


ミヅキは意を決して呼び止める









比較的人通りの少ない階段踊り場に場を移し


やや上目遣いになりながら 頬を染めて
彼女は言葉を切り出した





「その…ユーマ君って、何か好きなものとか
最近凝ってる事とか無いかしら?」





瞬間、の脳内データベースが起動し

さほど時をかけず ユーマの誕生日
近い事を弾き出して質問の意図を理解するが





同時に仄か抱いた淡い期待を打ち砕かれ





(いや…そりゃこの人が姉貴と同じで
ユーマさん好きだって、知ってるけどよ…!


心内で無念さにのたうち回っていた







…が表情はあくまで普段通り冷め気味であり


思考も感情とは別に 現状の不自然さを
感じているから彼も結構な演技派である





「あの…なんでオレに聞くんすか?
ソノ手の相談って普通女子にするもんじゃ」


「身近な男の子の視点からも聞いてみたいと思って」


「にしてもオレ以外に適任くらい、先輩なら
いくらでもいそうだと思うんですが」







ユーマは猪突猛進な部分も多々あるものの
何事にも熱血かつ真面目に取り組む為人望は厚く


兄弟同然の付き合いをする相手や異性も多く
差し当たって人脈は広い


人脈に関しては人当たりもよく、前年度の
生徒会長だったミヅキにも同様のことが言える





…が逆に単独行動を好む
自他共に認めるほど人付き合いは狭い





ユーマとの関係をとっても

"クラスメイトであり、有名な知り合いの弟"程度


席も年も近しいから割と話はする方だが


揉め事に首を突っ込むユーマの性質が原因なのか

大抵は 胡散臭い自分の行動への追求及び叱責





プラスになりそうな要素が少ないと自覚する彼が


その手の相談役へ選ばれた事を疑問に思っても
無理からぬ事である







が、ミズキは努めて冷静にこう返した





君がピッタリかなって思ったから…

情報に詳しくてお互いにに接点があるし
マトモに話が通じて、口も堅いから」


「…なるほど、そりゃ光栄ですね」





彼とて学園の内情に精通する一人なので


自分のクラス…ついでユーマに近しい男子生徒の
顔触れと性格ぐらいは承知している為

ミヅキの判断が正しい事もすぐに理解した





「ユーマさんなら今、見た通り野球に命かけてるし
グローブとかスポーツ用品辺りを選べば
喜ばれるんじゃないすか?」


「そんな在り来りなモノじゃなくて、もう少し…
そう、彼にとって特別な物を贈りたいんだけど」


特別ねぇ…とは言ってもそーいうシロモンは
値段で決まるモンでもないと思うんですがね」


「それは、分かってるの…でも…」





言葉を濁し、俯いて目線を泳がせるその姿は
誰が見ても"恋する乙女"そのもの


そんな相手に二人ほど心当たりのある





(本当…女も面倒くせぇな)





呆れと落胆 ついでに軽い妬みを込めた言葉を
胸の裡で呟いていたけれど


目の前の彼女が思い悩む姿を見かねて





ミヅキさんからの贈りものなら、なんでも
特別になりそうな気がするんすけどね」


さらりと、笑顔を浮かべてそう答えた





次の瞬間 上げられたミヅキの顔が朱に染まる


「…え!?





遅れて、普段の自分のキャラらしからぬ
キザな言動だったと気がついて





「あ…いやっその、今のは忘れてください
特に深い意味はねぇっすから」


慌てて言葉を紡ぐだが もはや
それは出来ない訂正であった





『…思い切った爆弾発言だね』


ボソリと呟く式神を無言で睨みつける


より気まずい沈黙が生まれたのは事実





っくそ!オレとした事が…)







某第五学年のナンパ師な立ち位置に嫌悪しつつ
彼は仕方なく開き直って 言葉を足す





「まあ…男にとっちゃ誰だって女の人からの
贈りモンは特別ですよ 先輩くらい美人なら特に」


「そ、そうかしら…」


その辺はユーマさんだって同じですよきっと

…まあ態度に出るかまでは保障しませんけど
贈り物を無碍に断る人じゃないっすから」





耳まで赤くなりながらも、徐々に気持ちが
上向いていくミヅキの様子を

半分安堵しながら…は小さく付け加える





のよしみって事で ロハで
ユーマさんの一番欲しいもの調べときますよ」


うぇっ!?あああっあ、ありがとう…」





落ち着いた物腰の多い彼女が取り乱すという
レアな光景を楽しげに見やって


「じゃーオレはこれで」





片手を上げて 彼は階下へと進んで







……そのまま帰れれば格好がついたのだが







あれ、何やってるのミヅキ?」





降ってきた声に階上を仰ぎ見た二人は

そこで困ったようにこちらを見下ろしている
活発そうなショートの女生徒を認めた


途端 一気に両者の間で動揺が膨れ上がる





「えっ!かかっカンナ!?」


「おっと…アタシはお邪魔だったかしら?
通りがかりにゴメンね」


違います オレは単に相談を受けてただけです
誤解したまま去るの止めてくださいカンナ先輩」


ん〜?何でアタシの事知ってんのアンタ」


「かっ、彼は君って言って…」


必死で説明する彼女の口から飛び出た名前に
聞き覚えがあったらしく


カンナは納得したように手を叩く





ああ!それがの弟かぁ〜
なんか陰気そうな感じがモズみたいだな!!」


「初対面だっつーのに失礼ぶっこきますね」


お?生意気だねー でもモズみたく
取り乱さずハッキリした態度は気に入ったよ」


「そいつはどーも…で、アンタは何でまた
こんなトコにいるんすか?」


「だから言ったろ?通りがかったって」





が、ジト目を止めず問いを重ねる


「この時間にアンタの科や学年、ついでに
行動範囲でここを通るヤツは稀だぞ?」



「…言われてみればそうね」





若干問題はあれど説得力も備わった一言により


ミヅキからも疑惑の眼差しを向けられたので
気まずげにカンナは後ろ手で頭を掻きつつ白状





「いやーハハハ…実はさ、掃除中にうっかり
チョーククリーナーぶっ壊しちゃってさ


教室粉塗れにしちゃったもんだから居残り掃除と
反省文書かされてやっと解放されたトコ」


「アンタもかよ!」





思わずと言ったツッコミが彼の口から飛び出る





「え?どゆことミヅキ?」


「…彼、の伝言を第五学年の知り合いへ
伝えに行ったら後片付けに巻き込まれたらしくて」


「へーそうなんだぁ」


端的な説明を聞き流しつつ、彼女は
微妙な笑みを浮かべ踵を返す





「まー何はともあれ、二人がここで
ナイショ話してたってのは黙っとくから!」



「「だから待ってカンナ(先輩)!!」」







―必死の努力が実り、どうにか誤解は解けたものの





(妙な気まぐれなんか起こさなきゃよかった)


はこの日の事を長く後悔していた








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:ユマ←ミヅ前提での仄かな片思い風ですが
君らしいかもしれませんね、青春してて


ミヅキ:何だかんだ言いつつも式神を符で封じて
追い出すなんて 並みの腕じゃないわね


狐狗狸:その辺の強さは譲りってことで
(面倒な知り合いとの関わりも深いしね)


カンナ:アタシまでちゃっかり出してもらえて
何か得しちゃったわ〜、けど階段踊り場で恋愛話なんて
二人とも中々甘酸っぱいじゃん


ミヅキ:だ、だからアレは単に私的な相談で…!


カンナ:あはっ照れない照れない!アイツの弟だって
アンタに頼られて嬉しかったと思ってるよきっと


狐狗狸:うーん 青春してるねぇお姉さん方




こういう感じの男夢主もいーな、なんて今更ながら
思ったり思わなかったりしています




さん そして読者様、ここまで読んでいただいて
ありがとうございました!