学生が本業から解放される放課後こそ
事件が起きやすいといっても過言ではない







特に、特定の思惑があれば尚のこと











 !」


「はい…あの 何でしょうか?」







廊下で険しい顔をした女の子の群れに囲まれ





はメガネの奥の黒い目を不安に曇らせた







「アンタとは話し合いをつけなきゃいけないと
思ってたのよ…」


「マサオミ様と同じクラスだからって 私達を
差し置いて、図々しいのよ」







そーよそーよ!と沸き起こる女子達の大合唱





それに怯えるを満足げに見下ろすと、
リーダー格らしき女子が騒ぎを抑える







「出来ればマサオミ様の前に二度と現れて欲しくない所
だけど、それがすぐ出来ないのは知ってる」









彼女の言葉は一理ある







特別教科を変えるにしても、クラスと学年が一緒ならば







が留年するなり転校するなりにしても
時間がかかるのは事実だ









「なら、アンタがマサオミ様にちょっかい出さないよう
"説得"をする必要があるわけなんだけど…」







女の子の目が スゥ…と細くなり、





ある意味 荒事を連想させる響きに
の体がビクリと強張るが







「前にヤクモ派の奴らとでトラブって以来
うかつに問題は起こせないのよね」







ため息をついてでるその言葉に


は少しだけ緊張を解いた









以前、マサオミと軽々しく会話していた
ヤクモファンクラブの人間に強めの"説得"を行い





へらへらした彼女の口車に挑発され





会員と彼女の式神と符を使った戦いに発展し


両クラブが教師に厳しく注意されたのは
人々の記憶に新しい







幾ら彼女達でも そんな状態で問題を起こすとは考えにくい









「たしかアンタ、甘いものが好きなのよね?」


「え、ええ…ちょうど今日は食堂がスイーツ
バイキング・フェアなのでこれから参加しようかと」







大人しいの 唯一の楽しみはスイーツ店巡りで





食堂に限らず外の色々な店のバイキングや
ケーキ店を定期的に食べ歩く為


早く帰宅することもあるくらいだ







リーダーの女の子は、ビシっと指をに突きつけ







「だから、スイーツの大食い対決で決着を付けましょ?
私達と勝負して、万が一勝てたならマサオミ様との交際
認めてあげるわ!」


「そそっそんな、私はマサオミさんとは
そのような仲では…!!」







慌てふためくに全く構わず、彼女は堂々と宣言する







「その代わり、負けたら二度と!
マサオミ様にちょっかいかけないでちょうだい!」












〜おもしろくね?〜













二人の女の子と目の前に盛られたスイーツ





更にはそれを取り巻く女の子達の群れ、という
人々の興味を煽るような光景





程なく野次馬が食堂へと集まり始める









「あの…やめた方がいいと思うんですけど…」


「あら?今更泣き言?言っておくけど私、
甘味女王って呼ばれてんだからね!」







今 とファンクラブの会員による
スイーツ大食い大会の幕が切って落とされた













「ちょっ…何なのあの子!」


「も、もう食べられな…げぷ」







一人、また一人と挑戦者が口を押さえ





或いは腹を支えながら苦しげに呻き 敗れていく









「すみません、旬のクレーム・ブリュレを
あと二皿ほど取ってきます」







席を立ち、スイーツを持ってきてまた座り
それらを空にしてまた移動をする





のその仕草は流れるように優雅なのだが





消化した量と速さがただごとではない







某世界の名探偵とタメ張れるほどの食べっぷりに





周囲の会員たちと野次馬の視線が、半ば
化け物でも見るかのようなそれになっている











「あの…もう、おやめになった方がいいですよ?
苦しそうじゃないですか」


うるさい!アンタなんかにマサオミ様を
渡してなるものですか!!」





半ば半狂乱になりながら 口をクリームまみれにして
ケーキを押し込み、叫ぶ女の子





「だから私は、そういう関係では…」







心の焦りをごまかすかのように 
ブリュレをあっという間に平らげていく









対戦していた女の子は、ほどなく





机に突っ伏して動かなくなる…正に直前







「うっわースゴイねちゃん」


「ま、ままままマサオミさん!?







ひょっこりと食堂に現れたマサオミの姿を認めた瞬間





はトマトのように赤くなりながら
思い切り声を裏返らせ





ファンクラブの女子達は狂喜の雄叫びをあげた









「どどど、どうして ここに…?」


「それはもちろん ちゃんを探しにさ」







問いかけに、マサオミがウィンクをしながら
ニッコリと言い放った





その行動にが卒倒しそうになり





ファンクラブの面々が半分は歓喜の、
もう半分は悔しげな叫び声をあげる











どうやらその叫び声が、おかしな具合に
勘違いされてしまったらしく





「食堂で何が起こっているんだ!?」





通りがかったヤクモ達 生徒会委員が食堂へと入ってくる


そして、彼を追って駆け込んだ
ヤクモファンクラブ会員達もまたしかり











「マサオミ、またお前が何かしたのか?」


「おや ここに来るとは生徒会長もよっぽど
事件が無くてヒマなんだなぁ」







事情をたずねるヤクモに


茶化すように答えるマサオミ





この二人の内心はどうあれ、ファンクラブの
人々には犬猿の仲のように見えたらしい









何よー!生徒会長は忙しいのよっ
アンタみたいな不良と一緒にしないでよ!!」


「ちょっと、そっちの取り巻きは礼儀
空気も読めない女ばっかなわけ!?」







火の手が広がるように両ファンクラブ間で
険悪な空気が広がり、





はやす野次馬と相成って





食堂は蜂の巣をつついたような騒ぎになった







「みんな!落ち着いてくれ、静かに!







さすがにマズイと思ったのか





ヤクモが周囲の騒ぎを収めようと勤め、
他の者も 彼に順ずる


しかし 恋する乙女達のケンカは中々収まらない









「ありゃりゃー…ちょっとからかってみた
だけだったんだけどなぁ オレって罪な男だよね」





アハハ、とひとしきり笑うと





「さ、逃げよっかちゃん」


「えっえっ、あの マサオミさん!?」







人がごった返す混乱に乗じて、マサオミは
の手を引いて 食堂から抜け出した















ってスゴイよね あれだけのスイーツ
全部食べちゃうなんて…アンビリーバブル!





廊下を歩きながら、霊体のキバチヨが
先程のの食べっぷりを褒め称え(?)る





「その…好きですから」


『オゥ たしかに女の子はスイーツは別腹って言うけどさぁ〜』







二人の会話に割り込むようにして、
マサオミがに語りかける





「それより、オレはちゃんがそういう対決を
する気になったのが気になるなぁ」


『それもそうだね ねぇ、なん…』





たずねようとするキバチヨを、マサオミは目だけで語った







オレ達の会話を邪魔するな







肩をすくめて神操機へと戻るキバチヨ


(この間 約2秒)


きょとんとするに向き直り、マサオミが
彼女をじっと見つめて 続ける





「だって ちゃんが誰かと戦ったり
争ったりってほとんど見かけないし」


「そ…それは その…」







は困ったようにうつむいてしまう








"マサオミが好きだから"という理由で


対決を断りきれなかったとは、本人の前では
口が裂けても言えないのだ









「あの それよりマサオミさんは
どうして私を探していたんですか?」







何とかごまかそうとして別の話題を振ると





今度はマサオミの方がばつの悪い顔をする







「いやー実は現国の授業 全然聞いてなくてさ
ちゃんにノート写さしてもらおっかなって」


「それで 私を探してたんですか…嬉しいのですけど
それなら他の方でも良かったのでは?」







手を横に振りながら 彼は真面目な顔をして言う






「だってちゃん同じクラスだし、要点が
分かり易く書いてあるし それに」


「そ、それに…?」









聞き返すに マサオミは少し顔を近づけて
さりげなく彼女の肩を抱き







最上級の笑みを浮かべながら









「好きだから」







間近で言われたその一言に、の思考回路は
音を立てて停止した









彼女のそんな様子にニヤッと笑い





マサオミは顔をゆっくりと近づけた―













「あぁ〜ん 放してよぅクレヤマちゃーん!」


全く毎度毎度問題ばかり起こしおって!
今日こそはこってりとお灸を据えてやる!!」







またもや生徒を拉致しようとしていた
襟首を捕まえたクレヤマが廊下を曲がる









その先の廊下の通りで 正に、今





一人の男子生徒が女生徒にキスを交わそうという
異性不純交遊の現場が行われていた









「なっ…何をやってるんだお前達ーーー!!







あがった怒鳴り声に マサオミと
同時に教師の存在に気づく







「く、クレヤマ先生!わわわ私達そのっ…!」


「わっやばい 逃げようちゃん!!」





あたふたするを連れて その場から
逃げようと走りだすマサオミだが





「そうはいかないわよマサオミちゃん!」







のリボンが胴に巻きつき、引っ張られた反動で
マサオミは床に叩きつけられた









「… 大神、お前達も職員室に来い」





こめかみをヒクつかせ、クレヤマが低く言う







「……はい」







観念したように は呟いた











その後、三人は職員室でクレヤマの説教を
正座で一時間ほどされ







とマサオミはしばらく





足の痺れが抜けなかったとか








――――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:久々に学パラ書いたのですが、ぶっちゃけ
甘党甘い展開をひっかけたかっただけです


マサオミ:さらっと言い切っちゃうとは


狐狗狸:だって事実だし、は甘味に対しては
ギャ○曽根某探偵並に消化するよ?


マサオミ:探偵って…女子高生の方?それとも
体育座りする目の下クマ男の方?


狐狗狸:どっちかっつーと後者だけど 両方でも可


キバチヨ:前者にしてあげようよ、あっちだと
ビジュアルがアレだから可哀相だよ


狐狗狸:いや…でも私は両方とも可愛くて好きですが


二人:目の下クマのあれが…可愛い?


狐狗狸:下手すると いや確実に某天才よりも
可愛い時あるからねホント


マサオミ:まぁ 管理人の好みはこの話に
関係ないからいいとして


キバチヨ:てゆうかさ、マサオミ君って案外
ジェラシー起こしやすかったんだねぇ


狐狗狸:しかも周りの状況を把握して事を運ぶ
計算高さはある意味天才だよね 詰めが甘いけど


マサオミ:アレは ちゃんさえ邪魔しなきゃ
アイツから逃げれてたんだよなぁー




クレヤマの熱血(?)教師っぷりはさておき
ファンクラブ間の事件の発端は多分ウチの子です




ここまで読んでいただいてありがとうございました!