毎年 この学園では、木枯らし吹き荒ぶ季節になると
必ず行われる恒例行事がある











「あーあ とうとうやって来ちゃったなぁ…
マラソン大会の季節が」







スタート地点の校庭で 体操着姿の全校生徒が
わらわらと集まっている中





体操服姿のが、腕を擦りながら呟いた









そう、マラソン大会











通常の学校でさえ嫌煙される行事だが、
この学園ではことさら嫌われている







理由その一:卒業間近の第七学年まで参加する事


理由その二:生徒と式神の協力行動を促す為の
教師による規定ルート上の妨害


理由その三:マラソンを抜け出そうとする者やサボり
基準に達しない者や見学者には死の補習





以上の事から マラソン大会は
通称"地獄の障害物レース"と呼ばれている











さん マラソン一緒に走ってもらえます?
私一人だと不安で…」


「うん分かったよ、一緒に頑張ろうね〜♪」







皆が一斉に整列する中 神流クラスの
が、小さな声で会話を交わす









『位置について…よーい スタート!』







スターターの教師が、片耳を抑えながら
競技用ピストルを寒空高く打ち鳴らし





それと同時に





生徒全員が堰を切ったように勢いよく走り出した











走り出してまだ間もないと言うのに、
が急激にペースを上げた







「えっ…さん、ちょっと 早い…!」







驚きの声を上げるを無視し、





疾走するの前方に映る光景―









「お、リク 意外と早いんだな」


「あっマサオミさん そういうマサオミさんこそ
早いじゃないですか」







共にこの学園の名物生徒 大神マサオミ
太刀花リクが、並んで走っていた







「マサオミちゃんとリクちゃんのツーショット
見られるなんて幸せっ…て、二人とも結構早い〜
待って待ってぇ〜!!





BLファンクラブ会長一押しのカップルな二人
(共に本人には未承諾)が並んで走る姿に興奮し





は自分の闘神士をほったらかして
全速力でマサオミとリクの後ろについていく









さん…ま…待って…一緒に走ろうって…」







何とかのペースについて行こうとした
だったが





元々の運動神経と体力のなさが災いしてか





あっという間にと距離が離され、
後ろから来る生徒達にも次々と追い抜かれていった












〜マラソン大会滅亡希望〜













一方 は順調にコースを進んでいたが







そろそろ中間地点にさしかかった所、





分岐点の一つで壁が行く手を塞ぎ、
それを見たが嫌そうな顔で足を止めた









「あ〜んもう この壁とか邪魔〜!
もう疲れたー!!


「こら止まるな!ある程度まで走んねーと
あの地獄が待ってるんだぞっっ!!」







どうやら前に死の補習を受けた事があるらしく


が真っ青になりながらを諌める







するとが 壁を越えていく生徒達から
離れ、隅のほうに移動して 符を取り出した









「んみゅ〜 こうなったら符でチカミチっ


「Σそれやったらマラソンの意味ねぇよ!
つーかバレたら補習決定だぞ!!」


「あら ちゃんに
まだこんな所にいるの?」







その声に二人が振り向くと がニッコリ
微笑みながら二人の側へとやって来た







「Σさん…お願い 見逃してっ!







咄嗟には両手を合わせ 頼み込む









足を止めたは 苦笑混じりに呟く







「うーん…この事は誰にも言わないけど
符を使ってマラソンの距離を短くするのは
ちょっと良くないと思うわ」


「ほら見ろ、やっぱり
ズルは駄目だっていってんだろ?」


「ううう でも〜…」


「マラソンの途中で油を売っておしゃべりか…
いい度胸だな 貴様等







いつの間にか三人の背後に 符を持って佇むタイザンが…







振り返った三人は刹那硬直し





真っ先に立ち直ったが、二人と
タイザンの間に割って入った







 !ここは俺に任せて先に行けっ!!」


「でも 私達何もしてないから
話せばきっと分かってくれ…」







の言葉を遮って、が二人を庇う







いいから行けっ!俺もすぐに後を追う!!」


わかった!行きましょうさん!!」









符と狐火飛び交う緊迫した攻防戦を繰り広げる
二人を残し と共に先を急いだ













「…向こうで何か叫び声がしたような
なんなのかしら 一体」





別のコースから中間地点へ進んでいた
何気なく後ろを振り返った





彼女の後ろから ケンカしながらやってくる
六花族と春灯族のコンビがいた







ちょっと!にぶつかったんだから
謝ってよね六花族!!」


だから謝ったろ!俺は急いでんだ
邪魔すんな春灯族!!」







どうやら、が後ろから来た
ぶつかり ケンカしながらここまで来たらしい









少し目頭を押さえ、深いため息をついてから―







は二人に向き直る









「あんた達ケンカしない!何やってんの!!」







の一括で二人はケンカをぴたりと止める







「っ、さん…!?」


「何よあんた 偉そうに」





少し態度が改まったとは逆に
は猛然とに噛み付いた


直後、の拳骨の頭に落ちる







「〜〜っ痛い〜 何なのよ〜!


「あんた礼儀がなってないわね…先輩には敬語を使う!」


「老けてるだけのオバンのくせして先輩面しないでよね!」


「なんですってこの生意気女!





今度はのケンカが始まりかける





は、ハッと我に返って







「言い争いしてる場合じゃない!
じっ…実は、教師どもが追ってきてるんだ!!


「「はい!?」」







驚く二人に、は現状を説明した











「…って事で、マラソンの途中サボってた
見なされてて 俺も追われてるんだ」







が信じられない、という顔をする







何それ最悪まで巻き添え食らのヤだから
先に進ませてもらうわ!!」


「…もう 遅いみたいよ」









の視線の先には、二人がやってきた方から
追いかけてくる教師たちがいた







「ねぇ聞いてよみんな〜悪いのはこの狐
は何もしてないのよぅ〜」


喧しい!さっきまで一緒に喋っていたろ!!」


「あなた達も連帯責任よ?」







が必死で弁解するも、教師たちは聞く耳を持たない









「とにかく、急いでマラソンから抜け出した方がいいみたいね」


「ですね」





すぐさま走り出す





「あっ待ちなさいよちょっと!!







置いてかれまいと、も走り出した













教師たちの追撃の手を必死で逃れ 中間地点に入った所で


式神三人が先に行った闘神士二人と合流した











、無事だったのね!よかった!!」


「いや 無事じゃないんだけど、てゆうか
なんで二人ともまだこんなとこにいるんだよ?」









ややペースを落としてたずねる
が困った顔をして









ちゃんが幻を見せるトラップ
ひっかかっちゃって…やっとここに来たの」


「ああなるほど」







何を見たのか理解し、はため息混じりに納得した







「だあぁってヤクモ様がカッコいいのが
悪いんだもん!



「相変わらず成長しないわね、あんたは」


「え…その声は、!どうして!?」







別れたはずの式神との対面に面食らう







「そんなことより、後ろ 気をつけなさい!」





だがのセリフと追ってくる教師たちの存在で
再会のショックが丸ごと吹き飛んだ





「ちょっ…先生増えてるうぅ!
のバカ なんで連れてくるのよー!!」


「そうよそうよ!
あんただけ犠牲になりゃよかったのよ!!







にダブルで責められる







うるせぇ!条件反射で逃げちまったんだよ!!」







彼女が後ろからやってくる教師たちを指差す





「待たんかーーーー!!」


「待ちなせェ、さん!!」





…たしかにクレヤマを筆頭とする教師たちの中に
式神も交じり、オニシバがいる







「あの男 また性懲りもなく…!」







オニシバの姿を認めると、器用にも
足を止めぬままが符を取り出した…しかし





「言い争いも符の攻撃も後にしなさい!
ここから先は罠だらけなんだから!!」







の厳しい一言で、四人が沈黙する





それと同時に 前あるいは周囲から
罠にかかる生徒達の声が聞こえる







「そうだった、言い争ってる場合じゃない」


「悔しいけど ここを抜けるのが先ねっ」


「ああ…でも 闇雲に進むのは危険だぞ?」


「みんな 今から私が言う順に並んで
お互いをサポートしながらここを抜けましょ」











の提案により、五人は陣形を組んで
中間地点のトラップエリア突破を目指した







陣の内訳は、が先頭を行き その後ろを
と続き、どんじりがである









式神三人と闘神士二人組が技や闘神符等を駆使して
トラップを避けて進むが





教師たちもどんどん距離を縮めてくる







っきゃー!みんなが後ろから近づいてくるぅ!」


「んなこた分かってる 一々うるせェ!」







後ろをちらちら見ながら叫ぶ
振り返らずに怒鳴る









「…こうなったら光明族と六花族の
二人を犠牲にしましょ!それしかないわ〜!」





言いながら陰陽リボンを取り出し、二人に
巻きつけようとしたより早く





「「(テメェ・あんた)が犠牲になり(やがれ・なさい)!!」」


「きゃああ〜!!」









ダブルキックをぶっ飛ばす







吹っ飛んだが教師二人を巻き込んで倒れ
それを取り囲むように教師たちが群がる











「ありゃりゃ〜いいの?あんなことして」


「いいのよ、あの子に教師達が気を取られてる
間に さっさとこのエリアを抜けましょ」





軽い口調でたずねるに、しれっと答える







「でもいいのかしら…」


「あいつなら大丈夫だろ、なんたって
丈夫なだけが取り得な奴だし」





申し訳なさそうに思うを が励ます









「覚えてなさいあんた達ぃ〜!!」







恨めしげなの叫びを後ろに聞きながら





四人はひたすらコース内を走り続ける











「ここを抜ければ、後は戻るだけよ!」







しんがりを勤めていたを、横手から
飛来した投網が襲った









「きゃっ!!」


(さん)!?』


「…先に行きなさい三人とも!」







同時に足を止めた三人に が檄を飛ばす







「でっ でもは!?」


「あたしは…もう ダメそうよ





なおも心配そうなに は苦笑交じりで





「心配しないの、別に捕まっても死にはしないわ
 二人の事、頼んだわよ


「わかりました…行こう 







意を汲み取り 促すに、二人は頷いて前へと進んだ













程なく時間も経過し







折り返し地点からスタートへ戻る
生徒達も刻一刻と増えてきた







その中で、教師数名に追われる三人はひたすら目に付く









「うにゅう〜先生達しつこすぎるよぅ
あたし、もう疲れた〜マラソン嫌い〜





半泣きののペースが徐々に落ちていく





がんばってちゃん、後もう少しだから」





励ますも 疲れの色が見え始める









「…一つだけ 言わせてくれ」


「「何、?」」







まるで 戦場に赴く兵士のような
決意めいた表情で、は言った







「二人とも…俺の分までいいタイムをだして走れ
そしたら教師どもも見逃してくれるはず…」


「え、どういうこと…?」


 縁起でもないこと言っちゃ」







訳がわからず問い返すと、の言葉を遮り


が二人を突き飛ばし 引き返すように
反対方向へと進んでいった







「「!?」」





二人が振り返ると、教師たちに取り囲まれ
それでも振り払おうとするが叫ぶ





「俺のことはいい!早く行け!!」









は目に涙を浮かべて叫ぶ







…ごめんね、私に力があれば
こんな結末には…ごめんねっ!!


さんそんなことやってないで早く!
先生が追っかけてくるかもしれません」









二人はそれきりもう振り返らず







ただひたすら、ゴールまで走りつづけた…















こうして、地獄の障害物レースは終わった











の二人は、三人の式神の尊い犠牲
乗り越え いいタイムを残した







そのお陰か、両者はお咎めなしであった









なお、はなんとかギリギリで合格し











犠牲となった式神三人は







「「「マラソン大会なんて
滅亡(しろ・しちゃえ・すればいい)」」」








恐怖の補習を受けながら、そう言ったという








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:マラソン大会ネタなんで夢主を全員出したら、
夢主達の掛け合いで終わってしまいました…


タイザン:まともに会話したのは私だけではないか
それで夢小説とはよく言ったものだ


マサオミ:そーそ、オレだってちゃんやちゃんと
話とかしたかったなぁ


リク:僕らだけで会話してましたよね


オニシバ:あっしなんか一言だけですぜ?
しかも嬢に狙われかけやしたし


クレヤマ:はっきり一言と分かるだけいいだろ!
オレなんてその他大勢扱いだぞ 初めて名前出たのに!!


ヤクモ:甘いな、オレは名前だけだぞ?
しかもちゃんの見た幻で本物じゃない


全員:この落とし前 どうつけてくれるんだ?


狐狗狸:…すいませんでしたぁぁ!!(土下座)




ずっと夢主のターン死亡フラグチックなセリフが
垣間見える 夢要素少ない話でお送りしました(謝)


ここまで読んでいただいて ありがとうございました