「これって横暴だと思わない?」





通りすがり様にイキナリこう言われ


僕は、はぁ…と曖昧な相槌を打つ





「あの…さんは一体何に対して
文句を言ってるんですか?」





戸惑いながらも訊ねた一言に答えたのは







彼女ではなく、後ろにいるコゲンタ





『どーせコイツのことだから教師辺りに
ロクでもねぇ文句ぶつけられたか何かだろ?』


失礼ね!あたしの怒りにはれっきとした
理由があるんだもん!!」



ぷぅっとホッペを膨らましてそう言ってから





とーにーかーくっ!通りがかった顔見知りで
ある以上はあたしの愚痴にお付き合いしてね?」





ニッコリと、僕へ笑いかけるさん





『そんなもん、お前の相棒の狐にすれば
いいじゃねーか!いくらでもよぉ』


「あの子ったらまたまた迷子になっちゃって
戻ってこないのよ そうじゃなかったら
リク君にこんな事お願いしたりしないもーん」


『自覚はあんのか!だったらアイツが戻るまで
大人しく待ってろっつーんだ!』



「そこはホラ"先輩命令"って事で、ね?
お願いお願いお願い〜!





手を組んだ上目遣いで必死に迫るこの人には
どうしても逆らいがたい"何か"があって





「あ、少しの間でしたら…大丈夫です」


ホント!?ありがとー!!
それじゃ中庭のベンチの辺りで話そっか?」





頷けば ぱぁっと輝くような笑みを浮かべて


急かす様にして僕を先導するさん











〜授業中の落書き〜











数歩遅れながらも、付いていく僕へ
ボソリと耳打ちするコゲンタ





『……だって相当横暴だよな?リク』


「アハハ…まぁ多少強引な所はあるかも」


多少ぅ?ほぼ九割だろ』


「何か言ったぁ?特にコゲンタ君





くるり、と振り返った顔は笑顔だけれど

向けられた言葉に何か怖いものが滲んでて





『な…何でもねぇ』





汗を垂らしつ答えたコゲンタに





「そ、ならいいけど〜」


満足そうに言って、さんは再び
先へと進み出す







「今の悪口…聞こえてたかもよ?」


『…そうかも』





半透明の姿なのに少し青ざめてるように
見えるのは、きっと気のせいじゃない









この学園に入学してからのドキドキ





変わらないまま毎日続いている





新しいクラス、授業、寮に先生に友達に…


正直 まだ校舎の構造とか慣れてない部分が
沢山あるけれども







「音楽室はそこの角を曲がった先にあるわよ?」


「あ、ありがとうございます先輩!」


「そんなに固くならなくてもいいわよ

まだ入ったばかりで戸惑うでしょうけど
じき、この学園にも慣れるわ」


「おーい、行こうぜミヅキ!」





周囲の人が親切に教えてくれるから

大体の部分は迷わずに回れるようになった







コゲンタの前の契約者だったヤクモさんは
この学校で生徒会長をしていて





「困った事があれば、いつでも言ってくれよ?」


何かと 不慣れな僕を気に掛けてくれている







ヤクモさんと同じ学年のマサオミさんとも
よく顔を合わせたりするけれど


コゲンタはあまり快く思ってないみたい





「君が入学する以前は流派間で色々と
揉めてたけど、今はその辺自由になってるよ」





そんなマサオミさんの言葉の通り


学園の人達は天・地・神の流派や学年などの
垣根なんか無く交流している





さんとも、そうして知り合い





「やっほーリク君 元気〜?」


たまに顔を合わせては少し話をする







ねぇねぇ!コゲンタ君ちょっと貸して?」


「え…どうするんですか?」


「前のヤクモ様の式神だったんなら、その時の
お話とか色々聞こうかと思ってv」


『リク!絶対ぇ断れ!!頼む!!


「いーじゃないほんの一泊程度〜ね
いいでしょ?お願いお願いお願い〜!


「いっ一泊なんて聞いてないんですけど!?」





時折、無茶を言われたりもするけれど







何すんのよぉ〜!あんたまで狐と同じように
人の恋路の邪魔してくれるわけぇ?」


「流石にやり過ぎかなーって思ったから
助けただけだもーん、あとアンタの恋路って
ほとんど他人に無理やり押し着せじゃない」


「うるさいぺチャパイ童顔女!何で
あんたら二人とも側にいるわけ!?」



「自分だって変わんないじゃない、アンタが
あたしの知り合いに関わってんだし諦めてよ」





気まぐれで助けてくれた事もあったりして







強引で苦手ではあるけれども
どこか憎めない人だなーと僕は思っている











少し間を空け、ベンチに腰かけた途端





さんが勢いよく顔をこちらに向け





「ワザワザありがとうねリク君、それで
あたしの話ってーか愚痴ってのは他でもないんだけど」


「え、あ…はい」


「授業がチンプンカンプン過ぎてついてけなくて
いつも通りヤクモ様の妄想をしてたの」





授業中にそれを考えていいものだろうか…とは
思うけれども、口には出さない


この人には当たり前の事だ、と

相方の式神が渋い顔で言っていたから





「そしたらいつの間にかノートにそれを
描いてたらしくて〜気付いてビックリしちゃった」


「描いたって…絵を、ですか?」


そう!これこれ結構力作なの〜」





言いつつ取り出されたノートの一ページには





丸みを帯びていながらもすっきりと読みやすい
文章の羅列が並ぶ空白を縫って


キラキラしたヤクモさんらしき人


ほっぺたを赤くしているさん当人だと
思える女の人が楽しげに花畑を歩いてたり


カッコよくポーズをとってるヤクモさん
チラホラと占拠していた





「あたしにしては上手く描けたから
すっごく嬉しくなっちゃって〜えへへ


『で、ニヤニヤしてたら教師にバレたと』


コゲンタの一言に水を差されたみたいで

照れていた彼女はすぐにふて腐れる





「…それだけで済めば、まだ良かったもん」


「何か…あったんですね?」


「散々怒られた後 罰として宿題を
あたしだけ倍以上に増やされたんだから!

ねっ!間違いなく先生達、横暴でしょ?


『一転の曇り無く自業自得じゃねぇか』





目にうっすら涙を溜めるこの人を見ていると
…とてもじゃないけれど年上に見えない





「落書きを消せていれば、少なくとも先生の
怒りは軽くなってたのではないですか?」


勿論消そうとしたの!でも、これ見てたら
なんだか勿体無くなっちゃって…」







…落書きについてはともかくとして


チンプンカンプンって言いながらも
こうしてちゃんとノートを取ってる辺り


この人は、キチンと授業を受けているのに





入学して間もない僕でさえ


真面目に授業を受けない先生達の罰則や
補習が怖いのは日々実感している






それを含めて尚、落書きが消せないなんて







「本当にさんって、ヤクモさんが
好きなんですね…」







言った言葉はほとんど無意識だったけど





見る見るうちに目の前の相手の顔が
トマトみたく真っ赤になった





「こっこここ、声が大きいよリク君!


『いや…お前のが声デケェって』


コゲンタ君は黙ってて!!もっ…もし
ファンクラブの子に聞かれたら…」





それまで全く気にしてなかったのに

急に辺りをキョロキョロと見回して





「…やっぱりここで愚痴るのは中止ね
あの子探すの手伝ってくれる?」


「あ…は、はい…!」





すっくと立ち上がる彼女に釣られて、僕も
校舎へと戻っていった








――――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:オチも身もフタも無く終わってスイマセン
ええと…説明してもよろしいですか?


コゲンタ:さり気にオリキャラのアイツ入れてるよな
…まぁ被害には遭うけど、性格被んねぇか?


狐狗狸:その辺りは気を使いました


リク:あの…どうしてさんは突然
お話を中断したのでしょうか?


コゲンタ:それにファンクラブの奴に聞かれても
アイツがヤクモ好きなのはバレバレだろーが


狐狗狸:ああ、あの子は掟の中で重罰を受ける
"抜け駆け"と思われるのを避けたんですよ


リク:そ、そうだったんですか!?


コゲンタ:って…あんだけ大っぴらに動いてて
よくもまぁバレねぇな


狐狗狸:大半はファンクラブ内での共同情報として
還元してるから黙認されてるのと、内輪で
ひっそり動いてる部分があるからです


リク:い、意外と強かだったんですね…




彼の無意識発言のお陰で愚痴が通常よりも
軽めで済んだ…とか書けばよかったですね(謝)




さん そして読者様、ここまで読んでいただいて
ありがとうございました!