「正義」も"アイツ"の存在も
いなくなってようやく、重みに気付く









〜phantom libm pain〜








ラッシュバレーに無事着いて、いきなり
スパナの洗礼で死にかけたけど





「それで?次はどこに行って
機械鎧を壊す気?」


「壊すの前提かよ!!」





どうにかボロボロだった機械鎧の修理に
取り掛かってもらえて一安心だ





パニーニャの奴もスリやめて真面目に
仕事し始めてるみたいだし


ウィンリィの方も…まー方向性はアレとして

真面目に修行に取り組んでるみたいで何よりだ







そこで、ふとウィンリィが不思議そうに訊ねる





「所でちゃんは?一緒じゃないの?」


「まーたどっかでイタズラしかけてるとか?」





オレとアルは顔を見合わせて


一瞬、ためらってから…口を開く





「アイツは…慰謝料払ったからって
途中で別れたよ」


「ふーん、本当に?」


「うん 笑いながら…じゃあね、って」







少しだけ疑わしげにしていたけれども





「…そっか」


小さく呟き、二人はニコリと笑い





オレ達も…釣られるように笑みを浮かべた





「今頃どの辺旅してんだろーねー」


「またどこかで会えたら、私の機械鎧理論を
じっくり聞かせてあげたいなぁ〜」


「ハイハイ…で エドの次の行く当ては?」


話題を変えようと話を振ったパニーニャに
内心感謝しつつ、次の目的を口にする





「中央軍部で調べ物しようかなと思ってんだ」







……これでいいんだ


とは笑顔で"別れた"けれども

今はまだ、ウィンリィに伝えなくてもいい







―――――――――――――――――――――







やたらと生臭いニオイは、足元に溜まる
血の海から漂っていた





一点の光も存在しない闇の中


転がっているのは グラトニーが
無差別に飲み込みまくった残骸ばかり





「まっさか僕までこんな所に飲まれるなんて
思わなかったなぁ…おチビさんめ」


愚痴を吐き捨てながら歩くけれども…


出口なんか存在しない"この場所"では
どれも等しく無駄な行為だ





だけど、足を止めることも

言葉を止めることも出来ない





「…も、あの時こんな風に
当ても無く一人で動いてたのかな」





柄にもなく"切ない"だなんて思いながら


鮮やかな赤い眼や、楽しそうだった
笑顔を思い出して 自嘲する







…今更考えたって仕方が無い


あの時、あの子を同胞と共に
冷たく突き落としたのは自分なんだ





「正義」を背負ったあの子は死んだ


あくまでも自分の中に打ち立てていた
「正義」に忠実に従って





「人造人間でも…死ぬことがあるんだなぁ」





どこか他人事のように呟いてみせる







同胞が死んだと聞かされれば、それなりに
驚きはするけれども





胸を満たすのは"仕事が増えた面倒さ"だとか

"潰された面子"への怒り程度


同じ化け物同士でも、所詮僕らは"他人"だから





…それでも と一緒に他愛も無い話を
過ごしてた時は文句なく楽しかったし


あの笑い声が無いのを 惜しく思う時がある





「……バカバカしい」


まるで人間みたいじゃないかともう一度嘲笑い


遥か遠くに見えた灯りへ、足を向ける







―――――――――――――――――――――







「ヒューズを殺したのは貴方ですか?」


「いや 私ではない」





…今更この期に及び、閣下が嘘をつく
理由など無い





「では誰が」


ひとつ、という約束だ」


「……失礼します」





弟君が少々閣下に呼び止められたものの


何かを確認し、気が済んだらしく

それ以上の追求も無く解放されていた







中尉の無事を確かめ、偶然にも
立ち会っていた少佐と共に事の次第を話し





色々と仕事を済ませて…横になりながら
今後のことを考えるけれども


昼間発したあの問いが 思考の隅を支配する





「アイツを殺したのは…人造人間の誰か


それは最早、動かしようの無い事実だろう





けれども…兄弟の話を聞いてからずっと

一抹の不安が 黒く根付いて頭をもたげる





「もしも…ちゃんだったとしたら?」





ありえない、と心は今でも否定を続ける





彼女がデタラメ人間であるとしても


兄弟と行動をほぼ共にしていたなら
自由になる機会はほとんど無い





仮に実行犯だったとしても、凶器に

使い慣れていたであろうナイフではなく

銃を選ぶ部分は 腑に落ちない





…だが、或いはそう思わせるのが狙い


もしくは実行はせずとも ある程度は加担か
関与をしていた可能性は無いだろうか







「今となっては、確かめる術がないな…」





ちゃんの楽しそうなあの笑みが


全て偽りでは無いと信じる"答え"すら







――――――――――――――――――――







風の唸り声と舞い上がる雪の白さだけが

存在する全てみたいな天候の中





「しっかりしろ…しっかりするんだ…!
急がなきゃ…」



不意に起こった拒絶反応に、危うく
持っていかれそうだった自分を叱咤して


一歩ずつ…目印に向かい進んでいく





3メートル先もロクに見えない吹雪が
容赦なくこの身体に叩きつけられ


外側や鎧の隙間から入り込み

積み重なっていく雪は少し厄介だったけど





一刻も早くウィンリィ達に連絡を取る為


この身体も足も、止まるワケにはいかない







「疲れを知らない身体を持ってて
凍え死にもしない人間がひとり…か」





砦でも言った その台詞を呟けば





『ここに何でも切れるナイフと適当な木
そして大荷物を運べる少年がいます、OK?


僕の脳裏に、あの時のとのやり取りが

再び浮かんで消えてった





「こんな身体でも…出来ることがあるって
あの子も教えてくれたんだ」






肉体が、僕の魂を求めていたとしても


今はまだ…持って行かれるワケにはいかない





僕はまだ自分の役目を果してもいないんだから







地図とコンパスへ眼を落とし、次の目印を
進行方向と照らし合わせて確認しながら





「次の風が止んだら…進もう」





ごうごうと鳴り響く風を踏ん張って堪える







――――――――――――――――――――







おまえに隠居は似合わねえ、とダチは言い


とっとと登って来い、と上司は言って





…柄じゃねーが待っててくれる皆の為にも


軍役の身を離れても アイツらを影から
支えられるようにとリハビリを始めたが





中々前に進まないもどかしさに

気ばかりが急いちまう時が、どうしてもある







ちゃんなら…こういう時
何つってオレに笑いかけたろうな」





シャレになんないイタズラばっかりしてて


オレもよくその被害を被って、色々と
迷惑かけられまくったし


可愛い顔してやたらとキツい言葉を
笑顔で投げかけられたりもした





でも…弾けるような元気な笑い声は
どーしてだか耳に心地よくて





落ち込んだ時なんかに気まぐれに
かけてくれた言葉は、わりかし優しかった







『なんなら私とお付き合いする〜?』


『じゃ、残りは身体で払ってね』


『…これ タオルと匿ったお礼』


それとマセた発言とセットで繰り出す
あの不敵な笑みが妙に色っぽくて


不覚にも、ドキッとさせられたもんだ







「……どうしてくれんだよホント」


小さくため息をついて 宙を仰ぐ





「あの笑い声が、また聞きてぇなぁ」





無理だと分かっちゃいながらも


気が沈むと、そう思わずにいられない







――――――――――――――――――







"ブラッドレイ襲撃"以来、大分納まったが


不意に"前のグリード"の記憶が
頭の中でチラつく時がある





オレが手にかけた"ビトー"ってのとか

角が生えたゴツいオッサンに眉毛がねぇ
変なカッコの男に蛇みてぇな刺青の女


口が耳まで裂けた男にミイラみたいなのに


…と妙ちきりんな連中の笑顔に混じって





栗色のセミロングで赤い眼をした女

それこそほんの一瞬、姿を見せる





どうしてか…知っている気がしたのは

左肩に見えた同士の"刺青"のせいか


『気になるなラ、エドに聞けばいいだろウ』


うるっせーよ勝手に語りかけてくんな」





リンの奴に文句を言いながらも


結局の所、どうしても気になったから
仕方なく訊ねてやった







「…ああ、そりゃの事だろ」


って誰だよ?」


「オレらと前、一緒に旅してた人造人間」


「…お前 オレらの他にも得体の知れない
人間ツレにしてたのかよ」





呆れるハインケルを尻目に、オレは
部下が語る言葉に耳を傾ける





…そうそう、やたらイタズラが
好きで気が強い女だったなアイツ


頷くと記憶の中の姿が 少しだけ増えた





『顔を見るのは初めてだけド、ちゃんて
結構カワイイ子じゃないカ』


同感だ、それに縁を切ったとはいえ

コイツの仲間だってんなら人造人間側
だとしても 引き込むことは十分可能だ


…それに "強欲"のオレがこんな女を
放っておけるかってんだ





「で、そのって奴はどこにいる?」


期待に自然と笑みを浮かべて問えば





しかし、帰ってきたのはしけた面と





「…あいつは、死んだよ」







"ありえない、なんてことはありえない"


以前の姿だった時の口癖だったにも拘らず


何故かオレはその言葉をどこかへ強く
かなぐり捨ててやりたくなった





「そうか…残念だ」





軽口交じりで言ったつもりだった一言は


じわじわと染み込んで…徐々に重さを増す







『案外寂しがりやだナ、グリード』


「…黙れよ そんなワケねーだろ」


『仕方ないだろウ、イヤでもお前の思考が
伝わってくるんだかラ』


ったく つくづく厄介な同居人だ





『もしかして、惚れてたんじゃないのカ?』


「…そう、かもな」





姿以外 もう殆ど何一つ思い出せねぇのに


どうしてだかその答えはオレの中で
ドッシリと腰を落ち着けていた








――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:最後の短編として複数の視点から
長編終了後の展開を書いてみました


アル:女子って最初の二人しか出てないね…


狐狗狸:それだけがすごく遺憾


エド:てゆーかキャラクターの順番とかシーン
みんなバラバラなんだけど


狐狗狸:原作の時系列順で考慮した結果です


ハボック:つーかまたオレ病院時代?
何気に多いような気がすんだけど


大佐:諦めろ、しばらく入院していたのは
変えようが無い事実だ


エンヴィー:話の最後がグリードってのは
納得いかないんだけど、しかも若干語り長いし


グリード:ガッハッハ!それだけ作者に
好かれてんだよオレは!!


狐狗狸:いや、リンとの掛け合い入ったから
余分にページ取られただけ「オイ!」


リン:役得とはいえ、一度は本編で
会ってみたかったナ


狐狗狸:んーでも気配で即効人外とバレて
原作展開ぶっ壊す危険性あったしな(苦笑)




短編も終了し、これで本当の終わりとなります


作品は残しておきますがジャンルの掲載は
ここで終了させていただきます


様 読んでいただいて
ありがとうございました!