「正義」の罪を背負ってたって
案外 情には弱いのよ?









〜succumbing sweet〜








ガチャリと勢いよく窓が開き





!大丈夫っ…
ぎゃあああああぁぁぁ!!





こっちを見たエドの頭上に、狙い通り
クモやイモリがボトボト落下し


薄暗い辺りに面白い大絶叫が響いた







「ニャハハ〜ひっかかったね?」





反動でちょっと上下に揺らされつつ


逆さまの状態で私は 慌てふためく
エドを見て大笑い







「っテメェェェェ!ワザワザ手の込んだ
イタズラしやがって!!」






ウジャウジャとまとわりつくナマモノを
無造作に捨てながらエドは


錬金術で右手の機械鎧をブレードに変え


すかさず私の身体を支える 長めの
ゴムチューブを掴んでぶっち切る





「ウニャ〜!?」





ちょ、ためらいなく女の子を落とすって
それでも人の子!?



とか自分を棚上げしまくった発言を
する間もなく自由落下





…と思いきや 何かに受け止められた感触







「外にいるかもと思ったけど…まさか
宿の屋上から飛び降りるなんてね」





視線を上げれば、そこには見慣れた
鎧のメットがありました





お〜アル!ひょっとして下で待機してた?」


「たまたま間に合っただけだよ、てゆうか
兄さん いきなりチューブ切っちゃダメだよ」


「お前が下にいたのが見えてたから
切ったんだっつの」





いまだまといつくクモを払って


アルから私へ視線を戻してエドは続ける





「にしても散々心配かけさせたと思えば
ロクでもねぇコトしやがって!」


「なにさー、元はといえばエドが
私の発明品壊したのがいけないんでしょ?」


だからそれはあん時謝っただろ!
そもそもアレもイタズラ用のとんでもねぇ
仕掛けだったじゃねーか!!」


「当然!イタズラは私の存在意義なんだし」









ちまちま作ってて、この頃では
改心の出来!って喜んで





ちょっとトイレタイム〜って


あと一息の辺りで床に放置してたのが
自分としてもウカツ過ぎたとはいえ







トイレから戻れば、その発明品は


少し前に戻ったエドの足元で
無残にも不燃ゴミ化してた







…ので、ふて腐れて部屋に閉じこもり





二人が買出しと情報収集に
出かけたのを見て仕返し作戦を決行!







ナマモノトラップ用の素材を集め
窓の上の仕掛けをこっそり作り


囮のため、宿の屋上と自らの足に
ゴムチューブをしっかり括りつけ





耳でタイミングを測ってダイブすれば





大急ぎでエドが窓に走りよって
冒頭の陳述と相成ったというワケ♪









「けど、今回のイタズラはやり過ぎ
ケガしたらどうするのさ?」


「大丈夫〜このゴムチューブでの
ダイブは何回か実証済みだから♪」







まー最初は長さ失敗して地面激突とか
結びが緩くて飛び降りにもなったけど





それでも復活するデタラメな身体と


懲りずにチャレンジしてる根性は
我ながらたいしたもんだと褒めたい







「ったく、お陰で無駄に疲れたぜ…
とりあえず二人とも上がって来いよ」







言葉が終わるか終わらないかで
窓が閉められ アルが私をそっと下ろす





「キャッチありがとね にしても
今日って案外寒かったんだね」


「どれだけいたのか知らないけど
そんな薄着で外にいたら風邪引くよ?」







確かに今の格好は普段着から
コートとナップザックを外した姿





暑い時期なら違和感がないんだけど


そろそろ冬へ向かうこの時期には
普通ならキビしいかも?…でも





ニャハハ〜ご心配なく!
私これまでで一度も病気したことないの!」


「そう?でもあんまりムリせずに
今日は早めに眠りなよ?」







ため息交じりのアルと共に部屋へ戻れば





ゲンコの一発とお説教が待っていました













「「ふあぁぁ…」」





翌朝 宿の一室で私とエドのあくびがハモる





「兄さんはともかく、どうして
まで眠そうなの?」


「んーちょっとね〜」


「どーせ遅くまで発明でもしてたんだろ?
ったく部屋分けたらすぐこれだ」





一緒の部屋でも夜更かしするエド
言っていい台詞じゃないと思うんだけど


昨日こってり油をしぼられたから
口出すとまた面倒になるし黙っておく







「これから二人はまた情報収集?」


「うん、昨日はあんまり
行動できなかったからね」


「誰かさんはどーせやる事ねぇんだし
自分の部屋で大人しく留守番してろよ」


「ハイハイ そーしますよ〜」





いつもならもう少し軽口を叩くけれど
どーもそんな気になれなかった







忠告通り部屋にこもって、新しい
仕掛け作りでもしようかな









…って考えてたのに







「なんか…頭がぼーっとする…」





テーブルに材料を広げた所で


頭が重くなって その場に突っ伏し
そこから動く気がしなくなる







「おっかしーなー、ジョーカーは
身体から放してるのに…」







やや離れた場所に置いたナップザックへ
目をやりつつ呟いていると





トントン、とドアのノック音が





 いる?」


「あーアル、カギなら開いてるから
入っていいよー」







間を置いて遠慮がちにドアが開いて
アルが部屋に入ってくる







「お昼まだでしょ…って大丈夫?」


「んーちょっと頭が重くてね
こうしてると気持ちがいーの〜」


「何だか顔が赤いよ?
寝た方がいいんじゃない?」


「平気〜私これでも体力には自信
あるんだから、ニャハ…っくしゃん!





唐突に出てきたクシャミが連続し







ため息混じりにアルが、顔を抑えた





「それ カンペキに風邪だよ」


「…いやいやいや、これは単に部屋が
ホコリっぽいからクシャミしただけ」





言いつつ身体を起こした途端、くらっと
勝手にバランスを崩して倒れかけ





あーもうほらムリしちゃダメ!
風邪は引き始めが辛いんだから!!」





支えながらアルがベッドまで運んで
半ば無理やり私を寝かせる





横になって、よーやく風邪を自覚した







うーん、宿にいると思わせる
偽装工作として 荷物と一緒に
コートも置いてきたのがまずかったかな?







「全く だから言ったでしょ?
ムリせず早く寝なよって」


「くしゃん!…はーいゴメンなさーい」


「…兄さんには後で伝えとくよ
今はとにかく、休んでて」







優しげな声音で言うと アルは
テーブルの上に散らばる素材を指差した





「これはそのまましまっていいかな?」


「いいけど…あ、自分で片付けるから」





起き上がりかけるけれど 手で
やんわりと戻される





ダメ 病人は寝てて」


「分かったよ…けどナップザックの中身は
触らないようにしてね?」







事前に伝えたのもあってか、それとも
元々の性格があってか





適当に置いていた素材は丁寧に集められ
そっとナップザックへ戻された







「何か食べたいもの、ある?」


「…リンゴがいいな 二個くらい」





分かった、と頷いてアルは部屋のドアを
静かに閉めて出て行った









「…それにしても、まさか私が
風邪を引くなんてね」







病気で苦しんだ覚えなんてなかったから
考えたこともなかったけれど







こうして寝込んでると





人造人間もただの人間とさほど
変わらないのかも、
と錯覚してしまう









「買ってきたよー」





程なく紙袋を抱えたアルが戻ってくる





「あれ?リンゴだけにしては
荷物が少し多くない?」


「兄さんがね、栄養付けさせろって
簡単なスープのレシピをくれたから」





言って 紙袋から一枚のメモを取り出した







手際がいいなぁ…ひょっとしたら
朝の時点で気づいてたのかも?





「ありがと、置いといてくれれば
勝手に作って食べとくから」







笑ってベッドから這い出…す直前で
再び押しとどめられる







「僕が作るからムリせず寝てて!」


「いいよ、食べるものを買ってきて
くれただけでも十分なんだし」





つとめて柔らかく説得するけれども
アルは首を縦には振らなかった





「いいから 僕に任せてよ


「…そんな親切にされたら、私
誤解しちゃうよ?」


「何言ってるの、弱ってる相手に
親切にするのは当たり前でしょ?」







弱ってる相手 か…







「それってさー…"仲間"だから?
それとも、"私"だから?







訪ねると アルは少し戸惑って





ちょっと恥ずかしそうに、こう言った







「強いて言うなら…両方、かな?」









優しくされるのは慣れてないんだけど





たまには 流されるのも悪くないかも





「…それじゃ、今日は思い切り
甘えさせてもらおうかな?」








――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:テーマはズバリ"人造人間は風邪を
引くのか否か?"です!


エド:たったそれだけのために、オレは
ナマモノまみれにされたんかぁ!!(殴)


アル:暴力はダメだって兄さん…
てゆうかコレ、他の人に提供したネタじゃ?


狐狗狸:そーです…スイマセン!だって
どーしても気になっちゃって書きたくて!!


エド:にしてもの奴、どんだけ
外で粘ってたんだっつーの…


狐狗狸:目的の為なら二時間は軽くその場で
待機できるタイプだから あの子


アル:…本当、無茶しすぎ




本当はアルが思い切り看病させられる
ラストでしたが、ここまでにしときます


様 読んでいただいて
ありがとうございました!