「正義」と「悪」 どっちに傾くとしても
生まれ出たものには名前を付けるべきだと思う









〜名付け親の苦労〜








「う〜ん…」


お前が悩むなんて珍しいな 


「どうしたの 何か悩み事?







悩んでる私の横から エドとアルが顔を覗かせる







「いや、しばらくこいつとの付き合い長かったから
名前どうしようかな〜って考えてるんだ」





「名前…って何の?」


「まさか お前もアルみたく
猫とか拾ってねぇだろうな?」









不思議そうに首をかしげるアルに しかめっ面のエド







「ニャハハ そんな手間のかかる奴じゃないよ、
コレコレ」







そう言いつつ二人の目の前に見せたのは―
愛用のナイフ









「え これってがいつも使う
ナイフだよね…もしかしてコレ?


「ってこれ武器じゃねぇか!紛らわしい!!


「私は生き物といった覚えはないけど〜?」









ニャハハ、とひとしきり笑ってみせて
私はふと思いつく







「どうせエドの機械鎧が治るまで二人ともヒマでしょ?
退屈しのぎにつきあってよ〜」







言いながらアルに圧し掛かる





「わぁっ、ちょっと止めてよ


「あ アルフォンス君照れてますね〜
かーわいいなぁもう」


「オレの弟をあんまりいじめんなよ
…所でナイフの名前 いくつか候補ねぇのか?






エドの台詞に 私は首をかしげて腕を組む







「うーん…カウロイ湖!


「土産屋かよ!」


ドラゴンスレイヤー!


「どっかの奴がつけてそうだぞ!」


妖刀切裂丸!


「ナイフじゃねぇそれ!」





一々文句が多いな〜もう





「だったらエドはどんなのがいいっていうのさ?」


「う゛!」









エドはうーんと私以上に頭を働かせながら









「…ハイパーストロングクロムナイフ?」


「兄さんセンス無い


「何だよ ならどう言う名前がいいか
お前が付けてみろよ!







話題を振られて アルはしどろもどろに慌て







「え…えーと ナイフとか?」


「安直じゃねーか」


「何だよ 兄さんよりはマシでしょ!?」





そのまま割と低レベル目な口ゲンカが始まる







…私が言うのもなんだけど センスがないのは
お互い様だと思うなぁ









エドもアルも役に立たないなぁ…仕方ない
誰かに相談しよーっと」







他の人にも意見を聞いてみる為に





てゆうかぶっちゃけ二人のケンカ見てんのも
つまんないし







私はその場から移動した











「ね〜ウィンリィ 相談があるんだけど
聞いてくれる〜?」







丁度 機械鎧の作業休憩中っぽかったので
ウィンリィに声をかけてみた







「あら、相談ってどうかしたの?」


「うん 自分のナイフの事なんだけどね」











ひとしきり事情を説明すると





ウィンリィは乗り気で私に言った









武器に名前ね〜いいわねそういうの!
あたしも愛用の工具に名前とかつけようかしら」


「で、なんかいい案ありそう?」







機械とかに普段関わってる機械鎧オタク
ウィンリィなら、いい名前付けてくれるかも♪





そんな期待を込めて聞いてみた









使用目的とか性能にちなんだ名前なんか
どうかしら、たとえば…」





間を置かずにウィンリィが


キラキラした目で語りだす






          メソリドの5年もの機械鎧の一つに ラピッドって
        ついているけど、これは神経伝達の素早さから来てるの
         けどその機械鎧の凄さはそれだけじゃなくてね」






…こりゃダメだ


話が私のナイフから機械鎧談義になってる

内容が半分以上 呪文でチンプンカンプンわーい♪





てゆーか本当に筋金入りの機械鎧オタクなんだね☆









「んー 折角だけど他の人あたるねっ」


「あっ ちょっとまだ話終わって無いでしょ!







呼び止めるウィンリィに構わず 私は逃げ出した







だって名前を付けるだけで興味のない事を
延々と聞かされちゃ割に合わないし〜











「はーあ どうしようかなぁ」







外に出てとぼとぼと歩きながら、私は呟く





だって 他に相談できそうな人…あ!







「おーい マッチョさん!ナイスタイミン!


嬢 一体どうされましたかな?









手伝いを済ませてきたらしいマッチョさんを
呼び止めて、近くまで寄る









「私 自分のナイフに名前を付けようと
思って、色々な人の意見を聞いてるんですよ」







ほう、と感心したように呟くマッチョさん







「何かいい知恵 ありませんか〜」


「そういう事ならアームストロング家に代々伝わる
伝統的ネーミング術を披露いたそう!!」










何故か上半身裸になり、マッチョポーズをかまし





光り輝かんばかりのオーラ滲ませて
マッチョさんが言った









「…う〜ん 折角考えてくれるとこ悪いですけど
ちょっと名前がご大層になりそうだから、遠慮します


「遠慮せずともよいのですぞ嬢!」







なおも詰め寄るマッチョさんから
さくっと逃走した





本人に悪気は無くとも、存在感の暑苦しさ
結構怖いよね マッチョさんて











家に入った後も、テーブルの上に
ナイフを置いて 色々悩んだけれども







やっぱりどれもこれもしっくりとこない







、結局
ナイフの名前は決まったのかよ?」






さっきまで無言でこっちを見てたエドが、
ふいに私に聞いてきた


ちなみにアルは マッチョさんのお手伝いで
今、この場にはいない







「それが全然 面倒だから名無しでいっかなーって
今ちょっと思ってるの」


「面倒って…言い出したのお前だろ!


「だーって、思いつかないし 皆に聞いても
ろくなアイディアしかくれないからー」







ぷー、と頬を膨らませると エドが
少し言葉につまった…あ、視線逸らした







「いっそトランプの名前でもつけてみるか?
ジョーカーとかよ?





目線の先に偶々目に入ったからか、トランプの
カードを見つめて言うエド







ジョーカーねぇ…









「…じゃあ、それにしようかな?」





「え、マジで?







やっぱり冗談まじりだったらしく、エドが
驚いてこっちを見ている







「うん だって面倒くさいし、それに
良く聞いたら何か切り札みたいでカッコ良いし」









…それに、"ジョーカー"は少し皮肉めいてて
案外 私にお似合いの名前だ








「そんな訳で ナイフの名前、ジョーカーにするよ
発案 ありがとね〜エド」


「お、おう まー何にせよ良かったな」











やっぱり 名前がつくと


不思議と愛着が増した気がする









「…これからも よろしくね、"ジョーカー"











私は ナイフを見つめて呟いた








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:この短編は 本編九話目でエドの機械鎧が
まだ治ってない期間中って設定です


エド:オレ がイタズラ好きだから
何となくジョーカーっつっただけなんだけど


狐狗狸:まー本人が納得してくれてるならいいじゃん


アル:でも兄さんのセンスって作品だけじゃ
なかったんだね、悪いの


エド:何だよ、お前なんかナイフなんて
安直な名前付けてたじゃんか!


狐狗狸:はいはいケンカはなしよ


ウィンリィ:ラピッドっていうのは 英語で
素早いとかって言われるのよねー
それにしてももっとと語りたかったなぁ


狐狗狸:いや もう十分で御座います(汗)


少佐:折角 我がアームストロング家に代々伝わる
ネーミング術を披露しようと思ったのに…


狐狗狸:少佐 服着て服!




ほのぼのを一応目指して書いてみました
楽しんでいただければ 幸いです


様 読んでいただいて
ありがとうございました!