歪んだ「正義」は更なる悲劇を生みだす
その傷跡が癒えることは、ない









〜三白眼は宵目に笑う〜








旅の午後辺りに私達がたどり着いたのは
線路からは外れた、そこそこの規模の町







「うっわー何か、スゴイとこだねぇ…
こんな所に 賢者の石の情報があるの?」


「さぁな とにかく情報収集あるのみだ」


「とりあえず、人が多そうな所を探してみようか」





言いながら、私達は町へと入った









外にいる人間がこっちに視線を向けた時
始めは余所者の私達が珍しいのかと思ったけれど





刺さるような視線が、それを否定する







「なんか…僕ら、スゴい見られてない?


「町に余所者が来たからじゃねぇのかな」







居心地の悪さを声に滲ませる二人







だけど町人の視線が誰に向いているのか
気付いているのは 私だけ…今は、まだ





「とりあえず買い物しよーよ、私の手持ちの
食料がもう少なくってさ〜」





わざと明るい声を出して 近くにあった
適当なお店に入る









「いらっしゃ…」





さほど広くない店内のカウンターで


紅茶をすすっていたオバちゃんが愛想良く
笑いながら声をかけるけれど





私を見た瞬間に、表情を強張らせる







「あのっ僕ら怪しいものじゃないんです」





慌てて弁解をするアルを尻目に、私は
買うものを素早く選んでカウンターへ





「すいませーん、これ下さい♪」


「っ、お前行動早っ


「そーいうエドはツッコミが早いよね〜」







私たちのこんな軽いノリを目の当たりにしても





オバちゃんの表情は、いまだに険しいままだった







「お嬢さん、赤い目をしているね
…もしかして、生まれはイシュヴァールかぃ?」


「いや 実はよく言われるんですけど
自分でも分からないんですよ」







笑いながら冗談めかして言った瞬間


買おうとしてた商品を奥にしまわれ





側に置かれていた紅茶を引っ掛けられた







「あつっ」





咄嗟に距離を取るけど ちょっとだけ
胸の方にかかって熱かった





、大丈夫!?」


「なっ…何するんだよオバちゃん!


「うるさいよこのガキどもが」







オバちゃんの視線は、まるで親の仇でも
見るかのように険悪で







「アンタらに売るモンなんて無いね 帰んな!」





言いながらカウンターの奥からホウキを出して
私達に向かって振り回すから





みんなで急いで店から飛び出す









「何だよあのオバちゃんは!」





店の方を振り返り、エドが悪態をつく





「なにもあそこまでしなくても…
火傷しなかった?」


「あー大したことないよ、ありがとアル」







私は笑ってそう返す







きっと二人がいなかったら、その場で
オバちゃんを細切れにしてたかも





うーん ちょっと寛大になったな私







でも…この町の様子から考えると
一緒に行動するのは 面倒かもしれない









「私ここで待ってるから、二人で
情報集めに行ってきなよ〜」







微笑みながら、二人に水を向けてみる







けれど 二人は唸り声を上げはしても
首を縦に振ろうとはしなかった







「ねぇ兄さん、宿を先にとって
そこでに待っててもらおうよ」


「…そうだな、行くぞ」









意気込んで町の宿を片っ端から当たる
エドとアルだったけれども







私の顔を見た途端





どの主人も先程のオバちゃん同様の
対応に変わっていく







「アンタ等を泊めるトコなんて
一つもありゃしないよ」






冷たく言い放たれたその言葉通り
町の宿屋は、どこも全滅だった











「…何だよこの町の連中は!」


「一体 僕らが何をしたって言うんだろう」







町の人達が私に対して反応していることに
気が付いているにも関わらず


気をつかってか、二人は口にしようとしない





だから敢えて 私は言った







「イシュヴァールの人間に、何か
恨みでもあるんじゃない?町ぐるみで」



「「…」」


「だって 明らかに私の赤い目で反応してたし」


「その通りじゃよ、お嬢さん」







返事を返したのは 道を歩いていた一人のご老人







「この町になぁ、殲滅戦のあった直後
逃げ出してきたイシュヴァール人を
匿ったヤツがいたんだよ」





ふぅ、とため息をついて遠い目をして
もったいぶった様に間を取ると







「そいつのせいでヒドイ目にあって、以来
町の連中はみなイシュヴァール人を忌み嫌っとる」





言葉を一端途切り、私の顔を覗き込み





「お嬢さん、アンタは特に気をつけなされ
肌の色が褐色ってだけで襲われたモンもいる」







それだけ告げて彼は去り 入れ替わりに、





「イシュヴァールの混ざりもんらしきヤツと
つるんでるガキってのはお前らだな?」



町のモンみぃんな迷惑してんだコラァ」





絵に描いたようなゴロツキ達が、私達に
クッサイ息吐きながら文句をつけてきた













ゴロツキ達を3分くらいで片付けて


町で片方が私の側にいて、もう片方が
聞き込む方法で情報を探すことにしたけれど





大した情報も無い上に


周囲から冷ややかな視線を絶えず浴び


ゴミを投げられたり、騒音を出されたり
ナイフで刺されそうになったり
結構シャレにならない妨害を受けたため





エドもアルも見切りをつけて早々に町を出、


今夜の宿を、私達は見つけた廃墟で
過ごす事になった











「別に私だけ野宿して、二人は私と
無関係装って町に泊まってもいいのに」


「あんな町に泊まる気はない」


そうだよは僕らの仲間だもん」





アルの言葉にはいつも優しさに満ちていて


自然と、微笑みで返すことも出来た







そこそこ建物としての体裁は残していたけど
隙間から入る風が寒い







「僕、寒さをしのげるモノを探してくるよ」





ガシャガシャと鎧を鳴らして、アルが外へと出る







残されたエドは機械鎧の整備に、私はジョーカーや
イタズラグッズの点検をして過ごしていた









けれど 沈黙に耐えられなくなったのか





「なぁ 


「何?」







エドは じっと私の目を見てたずねる







「お前、オレ達に会う前まで
よくああいう目に合ってたのか?」


「…あそこまでロコツなのは少なかったけどね」







冗談を言わず答える気になったのは





視線が、あくまでも真っ直ぐだったから











半分のイシュヴァールの血は、赤い目
いう形で私に現れた







こんな色の目はイシュヴァール人か
それに類する者


あとは、ヒトで無いものくらいだろう







それ故に 生きていた時も死んでからも





同情・憐憫・畏怖・憎悪





あらゆる視線と、それに相対する
様々な仕打ちを受けてきた







正直 ほとんどはマイナス方面ばかり





生きていた時はただただ耐えていた


耐え切れずに死んで、それからは
仕打ちに対してやり返した





けれど それで何かが変わるわけでもなく







空しさだけが、増していくばかり









人は死ねば同じなのに どうして
優劣や差別をするのだろう







目が赤いだけで、何もしていない者も
同じように怒りに巻き込むのは異常だ







それが分からないのなら こんな場所

















かけられた言葉に 我に帰ると
私は笑顔を取り繕った





「なぁに?」


「例えお前が何者であっても、オレ達は
オレは お前を仲間だと思ってるから







不器用だけど、エドらしい言葉







ニッコリと笑うその姿は
この宵目に煌々と輝く月のようで





私には 眩しくてキレイ過ぎる









本当は私、こうして慰めてもらう
資格なんてないんだよね







君達を騙して旅をしてる化け物


優しい言葉も笑顔ですらも
かけてもらえない筈なのに





受け入れてもらえないのも、
いずれ別れが来るのも分かってるのに







思わず 泣いてしまいそうになる







何もかも話してしまいそうになる









けれど、情にほだされるワケには行かない





だから







「ありがとね、エド」





ささやいて 私はエドの頬に
小さな音を立ててキスを落とした







「な…なななな、なーーー!!?





瞬間に顔を赤くして頬を抑えながら
エドはパニクったようにこっちを見る


その姿が余りにもおかしくて





「ニャハハ〜エドったらゆでダコみたい」





指を差して笑って見せた







「おっお前がいきなりキスなんかするからっ!」


「あ、アルが戻ってきたよ」







戻ってきた鎧姿を見るなり、悔しげに
エドが口をつぐむ







「…あれ?兄さんどうしたの?」


「知らん!オレは知らん!!」





プイとそっぽを向いたままのエドに
首を傾げ、アルが私にたずねる





「ねぇ、兄さんに何かあったの?」


「ああ実はエドにね」


「しゃべんなてめぇ!!」


「ニャハハ 捕まえてごらんなさ〜い!







慌てて口を塞ごうとするのを避けて
そのままケンカへともつれ込み





「ああもう二人ともケンカしないで!」





アルが私達を止めにかかるのを楽しんでいた













せめて、今だけはこうして笑っていたい





内に眠るウソもキモチも 隠したままで








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:短編での兄弟の絡みが少ないな〜と
思ったので、兄さんとの恋愛(?)模様をばと


エド:ってどっちにしろが攻めかよ


狐狗狸:だって攻め夢主だし、女子唯一の


アル:このサイトは何を目指してるのか
時々、僕は気になるよ


狐狗狸:…私も常々気にしてたりします


エド:これ、そもそも恋愛なのか?
どっちかっつーとの過去ネタに近


狐狗狸:(遮り)イメージはポ/ルグ/ラの
「サウタージ」から持ってきてます!


アル:いいのかなぁ著作名出しちゃって…


エド:人のセリフ遮んなっ!
てゆうかこの題名、オレへの当てつけか?




ふと思いついたフレーズで妙に気に入って
題名からこの話を書き始めました


いつもより展開飛び激しくてスイマセン


様 読んでいただいて
ありがとうございました!