君達は「正義」の名前ではない
私自身を見ていてくれたから









〜第五十九話 こたえてみせる〜








…お前、本気で言ってんのか?


「少なくとも 今はマジだよ」





異形から目を逸らさぬまま


目に付いた実験室の"ある代物"
ナップザックの"材料"を組み合わせつつ


笑いながらエドへと答える







今更、考えるまでも無いじゃない


ここまで来たら今度は…私が力を貸す番





「再生力の高い化け物同士で戦り合えば
少なくとも時間は稼げるでしょ?

上手くすればアイツに勝てたりして〜」


「でもそんな危険な役割をさせるなんて」


エドは機械鎧半壊!アルは錬金術不調!
そんで死に掛けのオジサンが追加で一人」



大声でアルの台詞を遮りつつ現状を指摘し


完成した即席の"仕掛け"を片手に握ると
合成獣に注意を払いながら





すっと肩越しで笑みを見せた





「どう見たってビックリ人間の私しか
動けないでしょ?口出ししない」







ラスト達を裏切ることになるだろうけれど
そんなことは、どうでもよかった







私の背負う罪は「正義」





己が正しいと抱く信念が 強大になる事で
何らかの罪を生むのなら


"仲間"の為に全てを捨てることを選ぶ








どれだけ小さな音で動こうが
集中すれば、自慢の耳はそれを逃さない


気迫を込めて睨みつければ

止まりはしないまでも、動きくらいは
鈍らせる事が出来る





ナイフの効力顔負けの再生力や生命力も


無限じゃないのは―あっちも同じ







こっちの覚悟を感じ取ってか
彼らは何か言いたげな顔のまま沈黙する







「合図したら、目を閉じてこの部屋出て
即効で錬金術でガッチリ密閉してね」





マッチと一緒に"仕掛け"を見せると
三人はこくりと首を縦に振った







唸りを上げる異形へ顔を戻した直後


「…資料を見つけたら絶対ぇ戻ってくる


「それまで無茶しないでね、





二人の 真っ直ぐな言葉が耳に届く





「大丈夫だって〜 そっちこそ
しっかりガンバリなね?ニャハハ!


腹の底からの笑みを口に浮かべて

私は、奴へと駆け出した





蠢きながら伸びる手を切り払い


瓦礫や身体の部位を踏み台にして飛んで





振りかぶられた爪に横っ面掠められながら

一直線に目標へ到達した私は


「喰らえっ、即席目潰しトラーップ!


火をつけたマッチと一緒に"仕掛け"を


"沢山のコブの首飾り"みたいな襟巻きに
覆われた合成獣の顔面らしき部分に叩きつける






一拍置いて 灼けるような光と


人外の悲鳴が部屋を満たした







…閉じていても刺すような輝きを
両の目玉に感じるのだから


直撃してる異形の苦しみはどれほどか





大暴れする合成獣が無音で動かした羽に
跳ね飛ばされ、軽く壁に叩きつけられる





「げほっ!」







目を開ければ 大分もがき苦しみながらも
壁を這ってこちらへ進む異形が一匹





周囲の壁や壊れてたガラス窓の部分や


入り口があった辺りはすっかりと
頑丈そうな壁と化している





「エド、約束守ってくれたみたいね…」





想像を超える速さで寄ってきた合成獣の
圧し掛かりをモロに受けて肋骨を折られ


口から少し血を吐き出して





「それじゃあ私も守んなきゃ、ねぇ!





それでも言葉と動きを止めずに


下から鋭い爪の生えた"元"の前足部分を
根元から切り飛ばして重石から脱する





尾を引くのは濁った悲鳴か私への怒号か





完全にこちらへ殺意の照準を合わせ
すぐさま新しい"足"を生やす合成獣へ


不敵に笑って、叫んでみせた


「おー結構タフだね〜 もう少し
オネーさんの遊びに付き合ってよ!」







―――――――――――――――――――







時折床へ響く振動が、両者の戦いの
激しさを物語るようで





「本当に…ここで合ってんだろーな…!」


焦れた様子を隠せぬままエドが探るのは

壁をぶち破って侵入した部屋の奥


元々合成獣を詰め込んでいたであろう
あの鉄格子の、内部のスペース





「詳しい方法は分からんが…資料によれば
ここの何処かにあると書かれている」





壁に背を預け、告げるスミスだが
その言葉はどこか不安が滲んでいる





こうしてる間にも残した彼女が心残りで


苛立ちを募らせながらも二人は
必死で辺りへ目を配り―







「兄さん!この壁の中にレバーが!!」





アルが見つけた、隠された仕掛けを
躊躇無く作動させれば


ようやく求めていた"資料"が彼らの前へ現れた







―――――――――――――――――――







「う…ぐっ…がぁ…げほっ!





視界を取り戻して立ち上がれば、合成獣は
ぬらりとした細い瞳孔を未だに向けてる


これで…一体、何度死んだんだろ





ザラザラした鱗の付いた足でしこたま踏まれ

生えた手に絡め取られて締め上げられ


かと思えば、天井から音を殺して
落下してきた大口に頭を毟り取られ…





「本当 ガタイが大きいと再生時間に
気を取られなくっていーよね君はさぁ」





腕を切り取ろうが足を削ろうが目を抉ろうが

腹を裂こうが羽をもぎ取ろうが


構う事無く逃げ回り、ほぼこっちと
似たような速度で再生し何事も無く動き回る


本当…あのニセ村長も厄介な生物作ったね







と、案外近くから「見つけた…!」
聞きなれた声が微かに届いた





なぁんだ近いトコにあったのね資料…


と思った途端 奴がくるりと方向を変えて


ガラス窓のあったらしい部分に体当たりし始めた





「ちょっと待ちなよ…何処行くつもり?
まだ私は遊び足りないんだけど?」


殺気と共に言葉をぶつけても、一瞬動きを
鈍らせるのみで相手は行動をやめない





徐々にヒビが入る壁を見過ごせず


異形へ立ち向かうけれど、歯牙にも
掛けられず跳ね飛ばされて血だけが舞う





しぶといデタラメ人間だとしても
痛みだけは人並みにあるし


いつだって 辛いのはゴメンだ





…でもコイツは、この化け物だけは


先に進ませるわけにはいかない







「待てって…言ってんでしょうが

このクソ合成獣ァァァ!








千切れ飛ぶ左腕が再生されるのも無視して

足や腕をひたすらに切り飛ばし続ける





視界を染める赤は、自分の血なのか

奴の血なのかもう分からない





少しずつ動きが鈍ってきてはいたけれど


合成獣の体当たりは止められず

今にも壁は崩れ去りそうになっていて





私を蹴倒し、血塗れになった異形の腕が


その亀裂へと爪を突き立て…かけた刹那







壁の形がぐにゃりと歪んで見えた





次の瞬間、何本もの鋭いトゲとなって
合成獣の身体に突き刺さって動きを止める





「ニャハハ…ありがとうエドっ!


感謝を叫んで私は床を蹴り


 奴のどてっ腹に力を込めてジョーカーを
差し込み 真っ二つにちょん切った






勢いで吹っ飛ぶ上半身に巻き込まれて


壁の瓦礫と一緒くたになって下にある
殺風景なあの部屋へ落下した









床に叩きつけられると思ってたけれども


予想に反して、痛みはほとんどなかった





無意識につぶってた目を開いてみれば


「大丈夫?





アルのどアップとご対面





「うん…ひょっとして落ちた時に
キャッチしてくれたの?」


「壁に亀裂が入ったのが見えたから
二人で身構えてたのが、役に立ったみたい」


「なるほど…ありがとね、アル







抱えられた状態から降ろされて周囲を見れば


少し離れた場所に落ちた合成獣の上半身を
驚いたように見やるオジサンとエド





「まさかお嬢ちゃんがコイツを倒すとはな…
大したタマだな、アンタ」


「まーエドのアシストもあるけどね〜」


「にしてもあの合成獣を一刀両断って…
ナイフもお前もスゲェもんだな」


ニャハハっそれほどでも〜!
で、そっちは資料の方ゲット出来た?」





近寄って訊ねれば 嬉しげな笑みが返される





「お陰サマでこの通り、ほーれ!!


誇らしげに取り出されましたるは
何か難しい文字が色々書かれた紙の束〜♪





「って、案外普通っぽいね」


「まー見た目はな…でもコレも錬金術書の
一つだからまた暗号と睨めっこになるな」


「だろうな…とにかく地上に戻るぞ
希望があるなら近くの町まで案内してやる」


「ありがとうございます、スミスさん」









そんな和やかな会話の片隅で


似つかわしくない息遣いと這いずる音が
しっかりと耳に届いて


視界の端で、合成獣の腕が無音で迫る





まだ微かに息が残ってたのか





コンマ数秒でヤツの爪が 瞳に捉えた
エドを引き裂こうと振り上げられる


資料や会話に気をとられている三人は

背後のその動きに気が付かず―





「エドっ…危ない!







赤い赤い 血の色が舞った







「が…はっ……!」


「「!!」」





エドの間に遮るようにして入った
私の胸を、合成獣の爪が貫く





そして私はジョーカーを


合成獣の眉間に思い切りつき立てていた






「とっとと…くたばれぇぇぇ!!





注ぎ込んだありったけの力に呼応して


ナイフは奴の肉と脳と骨 そして核を


二度と繋がらないほどバックリ切り割る





巨大な肉塊は見合った量の血を撒き散らし

大きく痙攣して、やがて動かなくなった








無理やり爪を引っこ抜けば比喩じゃなく


胸にぽっかりと穴が開いている





襲う痛みと脱力感で膝を突いたら





「「っ!!」」





駆け寄ったアルとエドが、私の身体を
抱きしめるようにして支えてくれた





大丈夫!?しっかりして!!」


「いくらデタラメ人間だからって
なんつー無茶すんだお前は!!」



「ニャハハ、そんな怒んないでよ
とっさの弾みって奴でしょ?それに…」


ちょっと待てば再生されるから、


言いかけて…気付いてしまった





痛みが 消えていかない








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:合成獣をぶっ倒し、そしてついに
この話もあと少しの語りを残すのみとなりました


エド:結局、奴とバトるのはアイツだけかよ


狐狗狸:くどいようだけど そういう現状に
持ち込むようにしたかったんですよ


エド:まーオレやアルの調子が万全なら
あんな合成獣ひと捻りだったもんな!


アル:そうだね(苦笑)…にしても目潰しって
いつの間に材料見つけてたんだろ?


狐狗狸:薬品類に混じってたマグネシウムを
目敏く見つけてちゃっかり失敬したんでしょう


エド:手癖悪っ


アル:兄さん、人のこと言えないし…




次回 別れと共に踏み出す、新たな一歩


様 読んでいただきありがとうございました!