「正義」は 過ぎれば罪になるけれど
程ほどなら、誰かを救うことも出来る









〜第五話 小悪党をとっちめろ〜








正直驚いた まさかアルフォンスの鎧の首が
こうもあっさり取れるなんて―って あれ?







「アル…首がないよ?落とした?









そうなのだ、アルフォンスは何と 首がない状態にも
関わらず ガチャガチャと動いている





ちなみにエドワードは呆然と立ち尽くしてる









……驚かないの!?」


「別に驚くほどのものでもないじゃん むしろ
ちょっぴりガッカリしてるよ」


「お前絶対変だろーーー!!?」


「変って言われてもなー」










…正直、爪が伸びる女とか 人間食う大男とか
デタラメな奴なら見慣れてる







ってか 私もそのデタラメ人間の一員だし





ついでに言えば、似たようなやつ知ってるし











「何かリアクションが欲しかった訳?
そんな身体になっちゃってるって事に」


「…そういう訳じゃないけど 僕のこの状態を
初めて見て、驚かなかった人いなかったから…」







何だ そんなこと気にしてたんだ


やっぱり人柱って言っても、普通の人間なんだなぁ







「首が無くても アルはアルだよ…でしょ、エド?」









そう聞き返すと、エドワードは自慢げな笑顔で







「当たり前だろ、オレの弟だからな!





私はすかさずアルフォンスの方を向き直る







「ほら 全然似てないお兄さんもああ言ってるんだし
自信持ちなよ





「…ありがとう 







鎧頭をつけたアルフォンスが、少し嬉しそうに
微笑んだように見えた





「全然似てないは余計だっ!」





その後すぐにエドワードの鉄拳(しかも右手!)が
私の頭に炸裂したけど







ギニャ〜痛いっっっ!折角アルの中身も見れたし
約束守ろうかと思ってる乙女に何するのさ〜」


うるせぇどこが乙女だ!人の弱み握っといて!!」







頭を抑えながら涙目で訴えると、当たり前のように
反論されて ちょっぴり悔しくなったり





うう…いつかアンテナちょん切ってやる









「兄さん 女の子に手を出すのはよくないよ
所で背中の火傷、平気?







アルフォンスが心配そうに私に視線を送ると





エドワードも思い出したように叫ぶ







そーだ!お前カヤルかばって火傷したんだって!?
手当てとかしなくて大丈夫なのかよ!!」









…人柱にお礼言われるのといい、心配といい
初めてづくしだなぁ







「ああ 気にしないで、もうすぐ治るし」


「火傷がそんなすぐ治るわけねぇだろ!」


「治るんだってそれが〜ほら」









私は羽織っていたコートを 左肩に寄せて背中を見せた







途端に、エドワードとアルフォンスが青ざめる









「う…嘘だろ……?」


「火傷の跡一つないよ…どうなってるの?」









丸く焼け焦げたシャツとタンクトップの下の肌は


さっきまでのやり取り中に すっかり再生していた







「なぁんか生まれつきなんだよね〜怪我しても
治りが異常に早いんだ 便利でしょ♪」







言いながら私はコートを羽織りなおす











「でっでも、おかしいよこれ!」


「異常にも程があるだろ!お前
本当に人間かー!?



「兄さんそこまで言っちゃだめ!!」


「ニャハハ、ひっどいなぁ〜人間だよ」





頭に"人造"ってつくけど☆


という言葉を心の中で
付け足してから 私は近くの丸太に腰掛けて、







「でも治りが早い分、疲れも溜まり易いんだよね〜
誰かさん達とケンカとかしたから余計に」









何かモノを言いたそうなエドワードが口を開く前に









「だからあの軍人達に痛い目を見せる役、譲ったげる♪」







私はそう言って 微笑んでみせた













「…言われなくてもそうするつもりだ
お前は街に戻って大人しく待ってろ







そう言うとエドワード…エドは私の頭をポン、と叩いた







「了ー解、楽しみにしてるよ二人とも」





 火傷直ったからって無理しちゃだめだよ?







いまだに心配そうに言うアルフォンス…アル


"大丈夫だよ"とだけ伝えて 私は宿に戻った















街の空気は 正に一瞬触発って感じだった





炭鉱のおっさん達が集まって、殴りこみ
行く相談をしている







皆、話し合いに夢中なせいか
私が入ってきたことに気づかない









「何でだよ親父!!何で止める!?


「何でもだ 殴りこみなぞ許さん」









おっさん達の群れは カヤルの親父さんを中心に


奴を殴るだの刺し違えるだの言っているけれど





親父さんは首を縦に振らない









「だめだ 皆を犯罪者にするわけには…」


「だけど…」





「はーい 皆さんシケた顔並べてごきげんうるわしゅうv」







重い雰囲気が立ち込める中、やたら軽い声でエドがアルと
一緒に 何か箱を抱えてやって来た





うわーみんなシケた顔ー(笑)









「…何しに来たんだよ」


「あらら ここの経営者に向かって
その言い草はないんじゃないの?」







その台詞にキレかけたおっさんの前に エドが
抱えてた箱から何かの用紙を取り出すと





「ここの運営・採掘・販売…全商用ルートの権利書」





「あ――!!
名義がエドワード・エルリックって!?



『なにぃ!!?』







目玉が飛び出んばかりに驚くカヤル親子 面白っ







「そう!すなわち今現在!
この炭鉱はオレの物って事だ!!










エドの堂々とした宣言に、皆は信じられないって顔をした







「へー、やるじゃんエド あの軍人から
権利書手に入れるなんて」





思わず私がそう言うと エドが誇らしげに胸を張ってから







まーな、とは言ったものの
オレ達は旅から旅への根無し草」


「こんな権利書、邪魔になるだけで…」





「…オレ達に売りつけようってのか?いくらで?







神妙な顔をしたカヤルの親父さんに、不敵な顔で







高いよ?何かを得ようとするならそれなりの対価を
払ってもらわないとね」





と、付け加えてから エドがべらべらとしゃべり始める





「何たって高級羊皮紙―
保管箱には翡翠を細かく砕いた―


ま、素人目の見積もりだけどこれ全部ひっくるめて――」







そこで言葉を切って、にこりとエドが微笑んだ







「親方んトコで一泊二食三人分の代金―――
てのが妥当かな?」










あたりの空気が一瞬沈黙し その沈黙を破るように







「はは…はははは確かに高ぇな!!」





カヤルの親父さんが豪快に笑って、





「よっしゃ勝った!!」


「売った!!」










その瞬間 ドタドタとあわただしい音が響いて







「錬金術師殿 これはいったいどういう事か!!」







やたらでかい音を立てて、ヘタレ軍人のヨキが
取り巻きたちをつれてやって来た


…あの右手に持ってる石は何だろ?







「これはこれは中尉殿 ちょうど今権利書を
ここの親方に売ったところで」


何ですとー!!?いや、それよりも!
あなたに頂いた金塊が全部石くれになっておりましたぞ!」









アルがこっそりエドに呟く







「…いつ元に戻したの?」


「さっき出がけにちょろっと」


「うわぁ〜わっるい奴♪」


「うるせーよ







小声で少し会話を交わし エドが打って変わって明るく









「金塊なんて知りませーん」


「とぼけないでいただきたい!
金の山と権利書を引き換えたでは―」


「あれ?権利書は無償で譲り受けたんですけどね?」







エドはニコニコと 念書を見せつつ言うと、ヨキが
ぐうの音も出なくなる





おお、抜け目ないな〜エド お主も悪よのぅ♪







すると ヨキが何やら憤慨して





お前達!権利書を取り返…せ!?」






取り巻きたちに指図するヨキの眼前に


炭鉱のおっさん達が立ち塞がる







「力ずくで個人の資産を
取り上げようなんていかんですなぁ」


「う うるさい どけ貴様ら!
ケガしたくなかったらさっさと…」









その言葉に おっさんの一人が指をべきごき鳴らしつつ





「炭鉱マンの体力 なめてもらっちゃ
困るよ中尉殿」






と、皆で殺気立って戦闘体勢


おおー大迫力!すごいぞおっさん達!!







けれどヨキ達は怯みつつも 後ろに一歩下がって、
懐から笛を出して――吹いた







入り口から 銃を持った軍人が15人ほどで
おっさん達を銃口を突きつけつつ取り囲み、


皆の動きが 止まる









「こんな事もあろうかと、暴徒を鎮めるために増援を
呼んでいたのだ!撃たれたくなくば大人しく」


「他人任せで職権乱用しまくり、いやースゴいね
本当最低軍人の鑑だわ〜アンタ







勝ち誇ったようなヨキの台詞に被せる様に言って





私はナイフを抜きつつ、床をけった









!!』







エドとアルが 何やら練成を中断して私の方を見る





―大丈夫だって、こんなのじゃ死にもしないし
かすりもしないよ







急激に距離を詰め 軍人達を細かい動きで惑わせて、


こちらを狙って放たれる弾丸を、向けられる銃口を、
構えている銃のすべてを





ナイフで粉みじんになる位切り裂いた







真っ青になったヨキ&軍人達に おっさん軍団が
即座に向かい、完膚なきまでにボッコボコ









「あ そうだ中尉」





ヨキ一人になった所で エドが笑顔で止めを刺した





中尉の無能っぷりは上の方にきちんと
話を通しときますんで そこんとこよろしくv」









「よっしゃー!酒持って来い酒――っ!!」







打ちひしがれるヨキを尻目に 皆は勝利に酔いしれた















「しっかし アンタ、すげぇな!
ナイフで銃を切るなんて!」


「ニャハハ〜それほどでも☆アダッ







いきなりの衝撃が頭にヒットしたので 振り向くとエドが







てめぇ何また無茶してんだよ!


「いやーだって私も活躍したかったもん♪」


「もん じゃねぇよ!下手すると弾が当たって
死ぬかもしれねぇんだぞ!!大体 お前の身体―」


「やだなぁあんなんじゃ死なないよ〜あ、私
あっちでアルと話してくるよ♪」







お説教から尋問になる前に、エドから離れると
エドはたちまちおっさん等にお酒を勧められていた












姉ちゃん」









アルの方へ行く途中 カヤルがそばで声をかけてきた







「ん?あーカヤル 楽しんでる?」





問いかけると カヤルが少しうつむいて







「うん…あのさ、オレ達 エドやアルや
姉ちゃんに本当に世話になったからさ


ちゃんとお礼言いたかったんだ」





「だぁからお礼なんていいってば〜」







私が手をパタパタして言うのに カヤルはかぶりを振って









そんな事ない!三人がいたからオレ達は
笑ってられるんだ!だから…ありがとうな」











心から感謝されたのなんて 実は何気に初めてで







どうすればいいのか、ちょっと戸惑った











――でも、こういう気持ちも 悪くないなぁ








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:はい ようやっと炭鉱話終わりました〜
やたら引っ張りすぎてスイマセンでした


エド:…それより あんまりに無茶させんなよ


狐狗狸:何 ひょっとしての事気になってるとか?


エド:違ぇ!の無茶がオレ達にも振りかかる
だろうし だって身体壊すと思ってだなっ(慌)


アル:うーん 青春だね(笑)でもの身体も
ナイフと同じくらい謎だよね


狐狗狸:まぁね〜(君達にとって今はまだ


エド:オイ 今何かワケ知ってる顔してたろ?


狐狗狸:き、気のせいですよ(苦笑)




ようやく炭鉱話終了!引っ張りすぎスイマセン…
次は改装終了後 列車話を書きます


様 読んでいただきありがとうございました!