選んできた道が「正義」に基づくなら
ここらで、全ての答えが出る









〜第五十六話 笑みの報い〜








どうにか実験室へと降り立って





ケースやチューブの合間を縫って
辺りを散策して回るけれど





細かい資料や出来かけのナイフらしき
物体がそこかしこに転がる中


肝心のジョーカーだけが見当たらない





「…まぁでもとりあえず、この辺の施設は
出来る限りぶっ壊しとくとしますか〜」





言いつつナップザックをごそごそと
掻き回して取り出だしましたるは


村の窓を割る用(だった)仕掛け一式〜





火力を最強になるよう設定しなおして
主要っぽい機械に、手当たり次第設置







「あと どこにどれだけの資料が
あるか分かんないけど…とりあえず
この辺の奴はガッサリ持って行きますか」





言いながら散らばってる幾つかの資料を
集めつつ ナップザックに収納…







ガツン、と硬い音が耳についた





強烈な気配が背中越しに突き刺さって


反射的に飛びのいた床に巨大な影が割り込んで


さっきまで私が立っていた場所に
三日月状の 深々と抉れた跡を残した





「ニャハハ〜 タイミング最悪…っ!」





頼りない灯りに照らされて、影が
明確な"化け物"としての輪郭を浮き立たせる





荒く獰猛な息遣いで逞しい蹄を鳴らして


牡鹿と牛を禍々しく掛け合わせた角を
一本頭に携えた生々しい獣





「私を取って喰いでもしようっての…?
そんなの、十年早いよ?





合成獣は構わず 再びこちらに突進


またまた避ければ 今度は遥か後ろの
壁面が床と同じ抉れを残す





「なるほど…列車のレールをぶっ壊したの
君だったんだね、一角獣クン?」







よくよく思い返してみれば あの傷跡


爪で抉った割には深すぎるし…等間隔が
少しバラバラだった気がした







雄たけびを上げる合成獣が動き出すより早く





「ゴメンね〜君を相手してるヒマはないのっ!


特殊閃光弾を顔面目がけて叩き込み
両目を閉じて来た道へとリターンダッシュ!







音は消えても光までは通路に届かず


やや大きめの地下道は闇に包まれたまま…





「っニャア!





殺気に屈めば、頭上スレスレで何かが横切る


そのまま距離を取ると…うげ!
別の合成獣がもう一体…!?





マズイ…ここの構造を把握し切れてない状態で
下手に逃げたら 挟み撃ちされてジリ貧


かといって脱出したら目的が果たせないし





ウニャアァァァ〜!何だって私ったら
面倒なこと言っちゃったんだろ!!」





頭を抱えて叫ぶけれど、もう後戻りはきかない







迫り来る猛獣の唸りに わざと後ろへと
下がりながら相手を誘い込む





「…そう、こっち…そこだ!





先程出てきた実験室の辺りで仕掛けを発動し


吹き飛んだ隠し扉の直撃で怯んだ獣の
身体をすり抜けて駆けていく


勿論 爆風が半端なく熱いけど
ゼータクは言っていらんない!!







「とりあえず主要っぽい施設は潰せたかな…
でも、肝心のジョーカーが見当たんないし
他の資料とかありそうだなぁ」





こんな時だけ他の人造人間達の能力
ひどくうらやましかった


いや、エドやアルみたいな錬金術でもいい


大佐達みたいに銃火器の扱いが出来るのでも
結構アリだと思う





そうすれば適当に捕虜を捕まえて
重要な研究やらなんやら案内してもらえた





「今の私じゃイタズラ使っても成功率低いもんね…」







ため息混じりに別の通路へと移動を繰り返すが


獲物を追い詰めるように雄叫びや息遣いが
闇の奥から空気を震わせ、耳へと届く





「どんだけ化け物作ったのさ…あのニセ村長!」





苛立ち紛れに ご対面した一角獣クンへと
一撃必殺火薬トラップをお見舞いし


僅かな隙を縫って後ろを通り抜け―





「ぐうっ!?」


右肩に激しい灼熱感が突き抜けた





倒れこむのを防ぎながら振り返る私を
容赦なく頑強な蹄が踏みつけ


角に血を滴らせた合成獣がこちらを見下ろす





いくら合成獣だからって、あのトラップを
まともに喰らいざま反撃するなんて…!?





痛みよりも疑問が渦巻く私を喰らうべく


獣が大きな顎を開いて







「その娘はまだ喰らうな」





場に不釣合いな 冷めた一声が合成獣を制した







「ニャハハ、合成獣を操る力があるなんて
私よりもデタラメ人間の素質あるんじゃない?」





出来過ぎなぐらいの登場と再会に
とりあえず皮肉を一発かます





来い…貴様に相応しい死に場所へ案内してやる」





銃口を向けたビガットが、口元を歪めて笑う









移動中に傷はとっくに治っていたものの





銃を持った男と角を持った合成獣に挟まれて
連行され 強制的にある部屋に押し込まれる







先程の実験室の規模を若干広げたような部屋に


けれど所狭しと並んだ機材はなく





殺風景な大部分のちょっと高い位置の壁に
ガラスで仕切られた一部と機材らしきものが見えた







辺りに散る血痕と、生臭い獣と血のニオイ





「趣味の悪い部屋だね…こんな所に
か弱い乙女を閉じ込めて何しようっての?」





ガラスに向かって話しかければ


伝声管でも通した奴の声が聞こえてきた





『何、貴様の持っていたナイフをこの世に
"甦らせ"ているまでだ』


「無理だと思うけどなぁ〜さっき実験室を
思いっきりぶっ壊しちゃったし?」





笑顔で言ってやるけれども、相手は
まるで意に介していない





『確かに効率は下がるが…元々の機材は
こちらがメインだ それに一本でも成功例が
出来上がればそんなモノは問題ではなくなる』


「仮にナイフを生成出来たとしても
使いこなせる人間なんていないよ?」


『挑発するつもりだろうが無駄じゃぞ化け物
…ワシが目指すのは、新たな"甦り"





何を偉そうに、このクソジジイが





「勝手な「正義」の為に自分以外の者を
犠牲にする辺り…どっちもどっちじゃない」


『黙れ化け物が 生意気な口もそれまでだ』





呼応するように、鎖を巻く派手な音が響く







その室内の壁の一部分だけ暗い闇を遮るように
はめ込まれた鉄格子から





今まで出会った合成獣達が雁首揃えてご登場






貴様らご自慢の再生力を "甦り"に
存分に利用させてもらうとしようか』


「ニャハハ〜冗談は脳味噌だけに
しといてよ、オッサン!





低く喉を鳴らして襲いかかる獣達から
逃げながら、トラップを喰らわせるけれど


逃げ場のないこの空間じゃ焼け石に水





手持ちも尽きて 徐々に深く
ダメージをもらって壁に追い詰められる







「っ…動くな!





叫んで睨みつけるも ほんの少し
迫るスピードが遅くなる程度


くそう…やっぱり効かないか


"純粋な"動物ならば操ることが出来るのに





「だから合成獣って嫌いなんだよねぇ…!」





流れ出た血が 足元を僅かに赤く染める







『精々望むデータを取り終えるまで
貢献して死ね、化け物め!』






蔑むように笑うあの男の首を刈り取れたら
どれだけ胸が空くだろう





けれど…どれほど憎しみをぶつけようと


合成獣どもに追い詰められた状況は変わらない





「ニャハハ…私の運もここで尽きたかな」





武器を剥ぎ取ってみれば、所詮私は
ただの死ににくい"化け物"





イカれた男のイカれた怪物どもに


なぶり殺しにされるだけの生き物





浮かべた笑みは 鏡を見なくても
乾ききっているのが分かった







鈍く光を跳ね返した牙が、爪が
目の前の新鮮な肉を引き裂くべく振るわれる





これまで見た何よりも荒唐無稽で





何よりも、生々しい死の光景―










次の瞬間 目にしたのは


自分の血飛沫でも獣の爪でも
転がった身体の一部でも、闇でもなかった





一体の合成獣が横殴りに吹き飛んだ


…何処からともなく飛んできた石柱に
どてっ腹を思い切りぶっ叩かれて







ガラガラと盛大に壁を崩しながら





合成獣のたむろする室内へ乱入してきたのは







「やっと見つけたぞ…!!」





―エドと、アル







…あと後ろの方でスミスのオジサンが
巻き上がる土煙にむせてるけどソレは無視







勢いよく叩いた手でエドが大きな壁を作り出し


合成獣達を足止めしながらこっちに寄って来る





何で…なんで、助けたの?」





てゆうかどうして二人がここにいるのさ


私、手紙で"逃げろ"って書いたよね?





流石に唐突過ぎる展開で追いつかず
グルグルと巡る思考の中





一番単純な原因が頭に閃いた





「…分かった、ナイフや人造人間の情報を
聞き出してなかったから未練が―痛い!


殴られた…左で思いっきり殴られた!


「ソレより先に言う事はねぇのか!
人がせっかく助けにきてやったってのに!」






まなじり吊り上げ怒鳴るエドを宥めながら
アルがすっと手を差し伸べる





大丈夫?ケガとかなかった?」


「…その問いかけ、人造人間の私には
あんまり意味ないんだけど」





呟いて 無言でエドを見つめれば





「聞きてぇ事は色々あるけど…とにかく
そのままお前を放ってなんて行けるか」





やや照れたような言葉が返された







ガラス越しにビガットがオジサンを睥睨する





『裏切ったかスミス…』


「悪いがアンタのイカれた研究に付き合って
心中するのは、真っ平なんだ」





鼻で笑い、今度は兄弟へ冷たい視線が移る





『貴様ら…何故この娘を助けた
この娘は人ではない、化け物ぞ







二人は真っ向から奴と対峙し、言った





「…人でない?そんなこと知るか!


は、僕らの仲間です!!」








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:ついに地上組と地下組が合流!こっから
いよいよラストへと向かいますよ〜


エド:騙されんなー、こいつお得意は大口


アル:兄さん…それ今に始まった事じゃ


狐狗狸:フォローしてくれよアルはせめて!
管理人とってもマジベコミするぞ!!(涙)


アル:ハイハイ、それにしてもナイフの件や
あの合成獣の部分はどうなってくんだろ


エド:まぁ一応考えてあるんじゃねぇの?
コイツなりの浅知恵だろうけど


狐狗狸:HAHAHAHAHA(渇き笑い)




ついに役者が揃い、物語は終幕へ…


様 読んでいただきありがとうございました!