旅を続けて、見えなくなってきた
…私の「正義」は何なんだろう?









〜第五十四話 蛇の迷走〜








兄さん!無事だったんだね!!」


「お前…どうやって村人どもから」







質の違う驚き顔に迎えられながら





「悪いけど、潜った修羅場の数が違うんでね」





不敵にエドは笑い ここに来るまでの
事のあらましを語り始める









二人に見捨てられ、村人に集られながらも





しつこく儀式や祭壇についての質問返しを
重ね続けたエドに折れて


一人の村人が、彼を自宅へ招き





…そこから「他の者達には内緒ですよ」
念を押された後 床下に隠されていた階段から


長く伸びる地下道へ通された







「へぇ〜家にこんな地下道があるなんて
すごいですね、この村」





笑うエドへ返すように微笑み


ランプを片手に先を行く男が穏やかに言う





「神聖な儀式ですので、もっぱら私どもは
この道を使って祭壇へ参ります…
滑りますので足元にお気をつけて」







彼に従い 着いていくエドの背後







トンネル状の土壁の中ほどが
音を立てずに静かに開く





そこからするりと出てきた男が壁を閉じ





手にした角材を振り上げつつにじり寄り
金髪の頭目掛けて打ち下ろし―







「がっ!?」





脾腹に鋭い蹴りが刺さり、吹き飛ばされる





「どっから現れたか知らねぇが…気配で
大体バレバレなんだよ オッサンども!


「くそっ…かかれ!!





ランプの村人の叫びを合図に


地下道の前方と後方それぞれから
獲物を手にした数人の村人達が押し寄せる





彼らの表情は無機質で、先程までの
質問攻めの様子が嘘のような有様だ





「錬金術師といえど相手はガキ一人だ!
囲んで遠慮なく叩き潰せ!!」








続く一声に合わせ突っ込む村人達に構わず


エドは両手を合わせ、地面にそれを当て―





周囲の地面に無数の突起を生み出した





「なっ…何ぃぃぃ!?





驚きの声は一人分しか漏れなかったが





勢いづいていた村人達は見事に突起に
つまづき、足を取られて戸惑う







その間隙を縫って炸裂する蹴り
見る間に 襲い来る村人達を静めていき…







倒れた村人達の死屍累々を背に尻餅ついて
怯える男の襟首掴んで







「さーもう言い逃れはナシだ
襲ってくれた分も含めて白状しやがれ!」






国家最年少の錬金術師は


声に、思い切りドスを利かせた









「…で、そいつに洗いざらい吐いてもらって
ここまでやって来たってワケだ」


「兄さんソレほぼ恐喝…」


「あっちから先にやって来たんだから
正当防衛だっつーの」





むぅと頬を膨らませて不満げに返してから





「それに捕まってたら村人や行方不明の
錬金術師みたく洗脳されてたしな?」







視線を向けられ、スミスは小さく笑った





最年少の銘は伊達じゃないって事か
…奴らからどこまで聞けた?」


「村の経歴がでっち上げなのと洗脳のさわり
あと、この先の墓地から繋がる基地の話かな」


「あの墓地の地下に…基地が!?


「そう、この山には村なんて無かった
…だがあの地下墓地とそこから通じる
一つの基地への道はあった」







長い年月…隠されるようにしてひっそりと
存在した地下墓地からの通路は


奥に隠されたある"基地"に繋がっていた







一つだけしか出入り口が無かったのか


或いは幾つかの通路があったのかは
分からないらしいが





山の地下一帯へいくつもの地下道を
巡らせるよう画策したのはビガットで


村の家や地下墓地近辺


更には付近の町村や線路沿いに
出入りが出来るようにした、と語られた







「じゃあやっぱり…あの時に見たのは
この村の人達だったんだ…!」





納得するアルへ、エドはようやく訊ねる





「所で、何でスミスのオッサンがアルと
一緒にいるワケを聞いてなかったんだけど」


そうだ!兄さん、実はあの後…」







これまでの経緯が語られ、彼は眉間にシワ寄せ







「って事は、今までの情報から察するに
は村の奴らに捕まったか 或いはまだ
地下道を探索してるって事か…」


「だろうね、どうする兄さん?」


「とりあえずオレの通ってきた地下道は
お前も入れるから、そっから辿ろう」





こくりと頷いて立ち上がったアルを見て
彼は待てといわんばかりに声をかける





「お前達、嬢ちゃんを探しに行くのか?」


「まぁ洗脳云々はともかくとして…とりあえず
あいつにはまだ聞く事があるからな」


「それにも兄さんみたいで、一人で
放っておくと何かと心配ですし」


「お前、アイツと一緒にすんなっつの!!」


似たもの同士じゃないか 事態を
めちゃめちゃに引っ掻き回す所とか」







ぎゃあぎゃあと騒ぎ立てつつも、地下を進む
意志を曲げない二人の様子を見て





スミスは小さく息を吐いた





「…着いて来い、道を案内してやる







―――――――――――――――――――







足音を出来る限り忍ばせながら、薄暗い
地下道を進んでゆく





この手の道に慣れてる記憶と


自前のよく聞こえる耳が、やたらと
分岐と死角の多いこの場所で役に立つ







「それにしても…お前は優秀だね〜」





少し腹を膨らませながらも這う蛇へ
にこりと笑顔を見せつつ呟く







操っといて何だけど、この子は
思ったよりもいい働きをしてくれてる





牢屋の鍵を取ってきてくれたのは勿論


通路先の先触れなんかもこなしてくれて





妙な隠し通路とか隠し部屋があったけども


思ったよりもあっさりとコートと
ナップザックは取り返せた





「しかし…どうしたもんかなー」





戻ってきた荷物の中にジョーカーだけが
忽然と消えうせていた


奪ったのは、きっとあのニセ村長







……どーもよく分からないなぁ


他の場所ならいざ知らず ここは
あのナイフが出来た本拠地





なら創り出す大元の資料くらいある筈







「何にせよ、良からぬことにしか
使われないのは間違いないかな」





どっちみちアレは取り返すつもりだし
特に気にすることないか…っと





「そーだ、忘れてた」







私はその場でナップザックを漁り
出てきた羊皮紙にペンで走り書きをして





呼んだ蛇へとくくりつけつつ命じる





「巻きつけたモノを外さないようにして
ここから外を目指しなさい そして…」


少しだけ口にする言葉に迷い





「鎧か、赤い服のチビに巻きつきなさい
それが私の味方だから」








命令すると、頷くように蛇は頭を
縦に振って私の側をすり抜け暗闇に消える







「これぞ伝書鳩ならぬ伝書蛇、ニャハハ」





軽く言ってはみたものの やっぱり
少しは不安が残った


蛇がどこまで命令に添えるかもあるし


何より誰かに伝言を頼む事自体
ほとんどやった事のない行動だったから





けれどこの状況で贅沢は言ってられない





成功率は低いけれど、やらないよりはマシ…







「って本当 何やってんだろう私」







あんな胡散臭い村にいつまでも、二人が
いる可能性なんてそれこそ低いのに





どうして"両方無事""まだ村にいる"なんて
考えてしまうんだろうか…







人柱の監視が今の仕事のはずなのに





いつの間にか妙な信頼関係が出来ている







「そんなワケ…二人は私の持ってる
情報が必要なだけ、こっちは計画に人柱が
いる、それだけの…」







そう ソレだけのはずだったノニ







『おいコラ!』


『どうかしたの?







チラリチラリと頭に浮かんで消えていく





これまでの短い旅の間の、二人の顔と声が
頭に浮かんで消えていく








……絆されてはいけない 私は「正義」


永い時を生き、微小ながらも
計画の役へ立たなければならない





だからナイフを取り戻す為に
少しの心配事も取り除いている、それだけ









言い聞かせるように奥へと進むにつれ





物音に従い、一つの通路を曲がった先
道の途中がほのかに明るくて





誘われるように壁の隠し扉を開けば







「あ…あれは…!





目の前に ある光景が広がった…








――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:サクサク進めたいけど思うようにいかず
またこんな引き展開でスイマセン…


エド:てゆか最終章はほとんどオレらのターン?


狐狗狸:んー…個人的にはもう少し
キャラを出したいトコだけど、基本はほぼそう


アル:一応ラッシュバレーに行く前の話
…だもんね、これ


エド:つーかこの状況からリン達とのやり合いに
繋げるって果てしなく無謀じゃねーか?


狐狗狸:……後戻りは出来ないですから
まーどうにか辻褄は合わせるよう善処します




舞台は地下に…"蛇"の行方はいかに?


様 読んでいただきありがとうございました!