この地に眠っているのは「正義」
それとも、底知れぬ闇か









〜第五十二話 地に潜む闇〜








咎めたオジサンへ向けられる視線は
表情と同じぐらい鋭い





「何か問題か?スミス」


「ビガットさん、この者達は明日すぐここを
発つので引き止める必要はないかと…」


通常のよそ者ならば、の話であろう」





静かながらも強い言葉に オジサンは
たちまち口を閉ざす





どうやら村長(?)には逆らえないらしいね







「何か最初に訪れた時より寛容ですねぇ」





エドの軽口に、男は再び柔和に戻る





「ここは錬金術師によって開かれた村でして
錬金術に携わる方は歓迎しておるのですよ」


「そう言えばエド、建物を造ったの
錬金術師だって言ってたよね〜」


「ほほうそこまで看破されてましたか!
もしやさぞ名の知れたお方では…?」





水を向ける"村長"に、エドはあくまでも
余裕を崩さずに答える





「まあそこそこは…村長さん、この村には
今 錬金術師はいないんですか?」


「ええ…随分前に死んでしまいましたので」







気まずげに言葉を濁してから 男は
場を取り繕うように続ける





「まぁ何はともあれお急ぎでないのでしたら
もう一日滞在されてはいかがでしょう?」





他の村人達も、続いて口々に言った





「山奥だからかこの場所はコンパスも
利かずに迷われる方もおりますし」


「それに錬金術師ならば旅の話も色々と
お伺いしたいです、我々も」





が、オジサンだけは一人憮然と
口を閉ざしたまま睨んでいる


明らかに 私達を歓迎していない





…でも、こっちはそんなもの関係ナシ
むしろ申し出を断る理由は無い







「そういう事ならこちらも助かるし」


「お言葉に甘えて、もう一日ほど〜」





そのまま軽く冷やかそうと近づくと


黙ったままかと思っていたオジサンは
モゴモゴと、小さく口を動かしていた







「……に…と……るぞ」


え?それどういう意味―」





問いかけは無視され、声は私を
飛び越し村長さんへとかけられる





ビガットさん、自分はこの二人を
泊めているので連れて戻ります」


「そうか…分かった
今日はこれにて解散とする」







灯りと共に人影がぞろぞろと村へ戻ってゆくと







やや遅れて、オジサンがこちらを睨み
荒々しい足取りで進み始める





さあ来いクソガキども、後で
どう抜け出したか聞き出してやる」


「ニャハハ〜お手柔らかに…」







恐らく壁の件でこってり絞られるな、と
思いながら静かに歩いていると


小さく エドに肩を突かれた





「…おい、スミスのおっさんに
何聞いてたんだよ?」


「知りたいー?」


「何だよその気色悪い笑みは」





あらまぁ、正体バレてからどんどん
遠慮っつーものが無くなってない?


そんな応対ならこっちも応えようかな〜





べ・つ・にぃ〜 ただお子様には
聞かせられないお話をちょっとね〜」


「ガキ扱いすんな、このやり手ババ!


ひど!どこで覚えたのそんな汚い単語
女どころかキスの一つすら知らない
ケツの青いガキのくせに〜」


「テメェそっちが本性か!?」







目を剥いた金髪ドチビが掴みかかるより早く





「少しは静かにしやがれ!!」





野太い怒号と拳骨が、一発ずつ
互いの頭に降りた









戻った後にお説教と壁の修復 それから
再三に渡る"村出てけ"コールを聞かされ





ひとごこちが着いてから、留守番組だった
アルにここまでの経緯を説明した







「錬金術師の作った村に蘇りの儀、ねぇ…」


「どうも胡散臭いんだよな 村人も
あのビガットって奴もスミスのオッサンも」





呟きにうんうんと鎧の頭が頷き返す





「村の人達が手の平を返したのと
スミスさんとの態度の違いが気になるね」


「ああ…それに取ってつけたような
儀式の話がいかにも怪しすぎる」





確かに 絶対何かあるとしか言いようが
無い…そんな感じだった





「とにかく明日、詳しく村の連中から
話を聞いてみるとするか…」







兄に同意したアルの視線がややあって
不思議そうにこっちを見やった





「ねぇ、どうしたの
眉間にシワなんか寄せて」


「え?ううん何でもないよ〜おやすみっ」





笑い顔を作って毛布を被り、早々に
寝たふりをして見せるけれど


私の頭には あの時のオジサンの台詞が
今でも疑問の渦を巻いて居座ってる





…どういう意味なんだろう アレ







―意思アルウチニ逃ゲント後悔スルゾ―











朝 目を覚ますとオジサンの姿は無かった





「スミスさーん…どこ行ったんだろ」


「さぁな、でも逆にやりやすくて
助かるからいいんじゃねぇ?」


「言えてる いたら絶対また
"出てけ"の連発だったろうね〜」





そんな軽口を叩きながら家の外へ出て







適当な人を捕まえ、話を聞こうと
辺りを見回していた矢先







不意に目が合った村人が 走り寄ってきた





「おお!君がビガットさんの言ってた
旅の錬金術師か!!」






昨日の対応とは百八十度逆転した笑顔は


ここまで来るといっそ清々しいほど
村人達への不信感を高めていた





「ええ、あの僕ら幾つか聞きたいことが」







その問いかけが半分も終わらない内に





「君が錬金術師なのかい?」


「ぜひとも腕前を見せてもらえないかな?」


旅先の話を聞かせてくれないか?
鎧の子やお譲ちゃんは知り合いかい?」





どこからとも無く現れた村人達が
あっという間に一つの群れとなり


囲まれる形で私達は質問攻めになっていた





…とはいえ、大半はエドに集中している







どこへ来たのか?名前は?旅の目的は?


有り触れたモノから込み入った部分までの
あらゆる質問を当たり障り無くかわしつつ





「あのですね オレ達儀式について
聞いてみたいことがあるんですけどー」


村の成り立ちについて知りたいんですけど」


「スイマセーン、質問に答えれます〜?」





と、懸命に言葉を返すけれども


どれもまともに答えられた試しがなく


また答えても、昨日の話以上に収穫は無い







…あー面倒くさい、こうなれば
昨日の作戦の流用





チラリとアルに目配せすれば


重々しく、首が振られた







「スイマセン 僕ちょっとスミスさんに
用があるので探しに行きます」


「ちょっアル!?





手で詫びる仕草を見せ、アルがその場を
離れるのを見計らって







少し遅らせたタイミングで私も動く





「あれ?さんはどちらへ?」


「もぅ、野暮なこと聞かないで下さいよぅ
お花を積みに行くんです♪


「それはそれは…失礼しました」





微妙に表情を濁した村人は、矛先を
一斉に一人残った旅人へと向ける







いまや質問攻めの中心となった少年は


こちらの行動の真意に気付いて
遠ざかる背中に怨嗟の嘆きをぶつけた





裏切りものおおぉぉぉぉぉぉ…」





ゴメンねエド〜覚えてたら後で
助けたげるから多分!ニャハっ









村人の群れから抜け出し、人目を忍んで
再びアルとあの裂け目で合流する





昨夜造られていたハズ橋は 影も形も無い







「村の人に壊されたのかな…待ってて
今から橋を作り直すから」





地面に錬成陣が描かれていくのを見て
思わず首を傾げる





「アルだって真理だっけ?それ見たなら
陣ナシの錬成出来んじゃないの?」


「うん…でも本当に出来るかまだ不安で…
実を言うと術自体、ちょっと使うのが怖いかな」







ためらいを色濃く含んだ態度が


私に、次の言葉を口にさせた







「そう…なら無理に錬成しなくても
橋なら丸太ででも間に合うんじゃない?」


「え、でもそれこそどうやって」


「ここに何でも切れるナイフと適当な木
そして大荷物を運べる少年がいます、OK?





冗談めかしてポーズをとれば
クスリ、と狙った笑いがこぼれた







実際 木に縄をくくりつけたりして
大地に固定する必要とかはあったけど





飛び越すにはキツい程度の溝は


丸太橋レベルでもあっさりと突破できた







そのまま、少しずつ坂を下ってゆくと







急に視界が少し開け 朽ちかけた柵に
囲まれた石造りの小屋があった







中は薄暗く灯り用のランプの他には


簡単な仕掛けで開く、石のフタの
下から現れた地下へ伸びる階段





顔を見合わせ 灯りを手に進むに連れて







こもった廃墟独特のニオイと


階段から一段下のフロアに所々積もった
砂交じりのホコリのざらつきを感じ





やがて降り立ったフロアには





規則正しく並べられた石の列があった







「これって…地下墓地かな?」


「うん、おっかし〜な 村長さんは
祭壇があるとか言ってたのに」







村の規模を考えれば妥当な大きさの
墓地は 調べるのに十分もかからなかった







床や階段の主な通路には人の踏破した
形跡がそこかしこにある





けれど相反するように肝心の墓には
手入れもなく、表面は彫られた字も
読めないほどコケにまみれつくしている





「おかしい、このお墓も壁も…
なんだか随分古いモノみたいだ」


「そうだねー少なくとも村の人達が
使ってる線は無さそうかな」





頷いて、アルは屈めていた腰を上げる





「とにかく一旦兄さんの所へ戻ろう」


だね、今頃涙目で私達を恨んでるかもだし」





振り向いて同じように階段へ足を運びかけ







…ある墓の前で、足を止めた







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「…どうしたの?」


「ニャハハ 何でもないよ」





普段通りの笑い顔を見せた彼女は
その場でしばし立ち止まっていた





「ちょっと気になる場所だけ調べたら
スグ上がるから 先に出てて」


「うん、分ったよ」







階段を上がり、日の差す地上へ出て
僕は側の木へと寄りかかる







それから太陽が少し傾いたけれど





はいまだに外に出てこない







「ねぇ、まだ終わらないの?」





声をかけるけれど 返事が返らず


もう一度階段を下りてみれば





さして広くもない古い墓地から
彼女の姿が消え失せていた









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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:予告もたまには裏切るさ!て感じで
また波乱だらけの終わりで引きました〜


エド:何この怪しすぎ&急展開のオンパレード!?


狐狗狸:分かりやすくていいでしょ?


アル:いやいやいや、ついて来れなくなるから
主に閲覧者の皆さんが


狐狗狸:…まーちょっとあからさま過ぎますが
その辺は次回以降でネタ晴らししてきます


エド:どーだか お前結構嘘つきだしな


アル:兄さんがソレを言うのはどうかと…




消えた彼女、怪しき村人、そして…!


様 読んでいただきありがとうございました!