私の「正義」がささやいている
この場所…何かがおかしいって









〜第五十一話 不穏の一夜〜








オジサンはこの上なく無愛想で
お世辞にも素敵な顔面ではなかったけど


案外、人は悪くなかったようだ





…ついでに出してくれたご飯の味も







「いやーごちそうになっちゃって悪いねぇ」


「あっこらその肉オレの!!


「ニャハ〜早いモン勝ちだもんね〜」







テーブルを挟んでやり取りする私達を
オジサンは白い目で見ております







「色々とご迷惑おかけしてすみません」





謝るアルに、静かなため息が返る







「…この暗さでは仕方ない 一晩だけだ」


「ありがとうございま」


「ただし三つだけ…いいか、三つだけだ」





念を押すように指を立て


オジサンは静かに言い放った





「一晩経ったら必ず出て行け、オレ以外の
誰にも会おうとするな そして絶対に
村を探ったり奥まで入るんじゃない」








そこまで頑なに言い含めるのは


逆に"何かありますよ!"って全力で
叫んでるようにしか思えないんだけれど





真正面から聞いても何も出なさそうなのは


先程までのやり取りと今なお漂う
拒絶的な態度が 物語ってる







「分かった…アンタのことは
何て呼べばいい?」


「村の連中には スミスで通っている」


「ふーん…で、スミスさんは
村にはいつから?」


「覚えとらん オレが来た頃には既に
この村はあったようだがな」





エドと視線を交わしあい 問いかける





「この村、名前ないの?」


「…地図には無いからな 山奥だから
訪れる人間も少ないし」





まさに"名無しの村"って所だね





「スミスさんは、お一人でここに?」


「…何か悪いか?」


「あ、スミマセン
そんなつもりで聞いたんじゃ」







オジサンは小さくため息をつくと





「食い終わったら食器片付けて
さっさと寝ろ、で早く起きて出て行け」







こう言ったきり しばらく口を閉ざした









小さい村の、更にささやかな家屋の
薄暗い倉庫とあてがわれた三枚の毛布


それが今夜のベッド代わり





けど旅慣れてる私達にはさしたる問題でない







「…どう思う?あのオジサンの話」





声を潜め、チラリと扉へ目を向ける







短い段差がついたそれを隔てて


客間でオジサンがお酒を片手に
夜のひと時を堪能中のようだ







「少なくとも村の建造物は、出来てから
あまり年月は経ってないみたいだぜ」


「うん…それに、壁に錬成痕が
残ってる家が幾つかあった」


「ってことは村人の中に
錬金術師がいるってこと?」


「「間違いない(な・ね)」」





断言するとは、流石腕の立つ錬金術師







「そういえば…例の目撃情報って
確かこの辺だったよね」


「ああ、そういやこの山の近辺…」





口ずさんだその言葉が不意に止まり


示し合わせたように視線が集まる





「どーして そんな疑わしい顔で
私を見るのデスカ?」


「一応聞くけど、この村には本当
心当たりはないんだね?


ヒドッ疑われてんの〜?
こんな村知らないってば」


「本当にかぁ?」


「失礼だね それに前来た時には
村なんか無かったってば」







お〜兄弟だけあって驚愕の顔が
シンクロしました♪ニャハハ







「村じゃなくて山には来た事あるの!?」


「あるよ、別ルートで」


言えよそれを先に!したらお前
こっから出る道知ってんのか!?」





今度は私とアルが指に手を当てて
"しー"のジェスチャーをシンクロ


慌てて口をつぐんだエドへ、すかさず答える





「一回だけだったし大昔のコトだから
覚えてない…大体使った道が違うから」


「その言葉、信じていいんだな?


デッカイ嘘がバレてるってのに
今更見苦しく嘘つくつもりはありませーん」







言った事は全て真実と本音百パー構成







…ただし





ナイフをもらった事までは伝えない


伝える義理は、無い






いずれバレるかも知れないけれど







「とにかくこの村について、情報がいるな」


「それは同感…でも村の人達は
こっちと話す気なさそうみたいだよね」





引きこもってる相手がよそ者にホイホイ
口を割るって事は無いだろうし


あのオジサンは貝の化身だし…







「…なあアル、この倉庫って大体
村の外の茂みに面してたよな?」


「うん」





たった数時間の滞在で細かいトコまで
見てるねぇ〜ちょっとビックリ





「二人ともちょっと耳を貸せ」







ニヤリと不敵な笑みを浮かべるエドに
面白展開の予感がビンビンした











月の無い星明りだけの夜空の下


茂みの合間から村に沿って
足音を殺しながら進む人影二つ







「まだ気付かれてないみたいだな」


「てゆうかあの壁どうするのさ
錬金術じゃ直んないじゃーん」


「後で破片を接着剤でくっつけりゃ
大体元通りになんだろ?」





まあそうだけど根本的になんか違う…









朝になったら村を調べるチャンスがない


けど唯一の入り口はオジサンが
邪魔で使えない





で、"出口が無ければ作ればいい"


というエドのコンセプトで私が
真四角の穴を壁に開けました(静かに)





膨らませた毛布二つとお留守番兼
フタ代わりのアルを囮に


私達は村の奥へとまっしぐら!





ごめんねぇ〜アル 何か分かったら
すぐに帰ってくるからね〜!







家々が木陰に隠れていく中、だんだん
道らしきものが出来始め―







「って、なんだこのデカイ溝!?」





裂け目のような深い溝に足を止める





「飛び越す…にはちょっとキツそう」


「ちっ、面倒くせぇな!」





パン!と合わされた両手が地面に触れ


土を素材にした橋が溝へと架けられた





「機械鎧そんなでも錬成出来るんだ〜」


「乱発は出来そうにねぇけどな、行くぞ」





しっかりとした橋を渡って 先へ進めば
人の声がだんだんと強く…







「エド、隠れて!」





声をかけ反射的に私達は側の茂みに







そこから様子を伺えば、ランプを片手に
歩く人影を先頭に数人ほど







「先程の光はなんだったんだ?
確かこの辺りから…おお!


「何故こんな所に橋が!?」







あれ…あの顔、どこかで…





って、あ!あの渋面は!!







「どうやらよそ者の中に錬金術師が
いるらしいな…スミスよ」


「すみません、油断していました」


「あの儀式を口外されては困る
すぐに見つけ出して―


「見つけ出してどうするって?」





彼らが振り仰いだのと
こちらが立ち上がるのは同時だった





「スミスのおっさん、その人達だーれ?
こっちにも紹介して欲しいな〜」


「っお前達…どうやって抜け出した!?」







目つきを鋭くして睨むけれども





「それはこっちの台詞でしょ?
オジサンこそどうやって先回りしたの?」


「この奥でアンタら、どんな
怪しい儀式をやってるのかなぁ〜」





私達はニヤニヤ笑いながら交わしてのける







微妙に険悪な雰囲気が流れてるけれど


相手は高々五〜六人、錬金術師が
いたとしても こちらの敵ではない


知った顔が向こうにいるこの状況に
怪しげな会話…これはもう
なんか企んでるパターンに決まりだね☆









「…どうやら誤解させてしまったようで
申し訳ない、旅のお方」





やがて観念したのかランプを持った男が
柔和な笑みを浮かべ こちらに話しかけた





「私どもはこの先にある祭壇にて
村に伝わる、甦りの儀という
特殊な儀式を行っております」







元来た暗闇へ目をやり、男は続ける





「祭壇への道は村の者しか
知らないことになっておりましてね」


「知ってたオレはお前達より到着が
少し早かっただけの話だ」





オジサンは、淡々とそう答える







「へ〜、で甦りの儀ってのは
どんな儀式なんですかねぇ?」


「…儀式は開拓者が伝えたモノで
村で死した者達が 再びこの世に甦るよう
神に供物を捧げて祈るのです」


「神に供物ぅ?」





片眉を上げたエドにオジサンが返す





「勘違いするなよ、供物といっても
鳥や獣の肉や野菜など有り触れたモノだ」


「それに本当に甦るワケではなく
新たに生まれ変わる為の鎮魂祭的な形で
執り行われているだけでして…」


「ただ儀式の間、よその人間を近づけては
いけない取り決めになっているのですよ」


「元々訪れる者も少ない村ですので村人達も
皆、警戒していたのです…申し訳ない」





順々に言い合い、丁寧に頭を下げる
彼らの話は 筋道が通っているが


…いかんせん都合がよすぎる







更に問おうとしたエドの言葉より先に
ランプの男が、問いを放つ





「所でこの橋を作ったのはどちらかな?」


「え…ああ、オレだけど」


ほう、その年で素晴らしい腕前ですなぁ
どうです?お困りならもう少しこの村に」


「待ってください!」







柔和だった男の顔が、ここで始めて鋭くなった








――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:年初めの鋼長編が五時前ギリギリすぎ…
不吉じゃあぁぁぁぁ職場の祟りじゃ


エド:自業自得だっつの!(飛び蹴り)


狐狗狸:おっふ!よりによって左足…(吐血)


アル:てゆうか兄さんももひどいよ
二人だけで出てって僕だけ置き去り


エド:しょうがねぇだろ?お前目立つし


狐狗狸:にしても飯と一緒に泊まる約束まで
取り付ける君らってホントちゃっかりしてるね


アル:そーだねー…


エド:どうして、そんな呆れた顔
オレだけ見るんデスカ?(引きつり)




村に潜む謎と、彼の不可解な言動の真意は…?


様 読んでいただきありがとうございました!