「正義」の名と罪を負ってはいるけれど
結局 私は誰でもないんだ









〜第四十八話 皮肉な暴露〜








合成獣は切られた腕を拾うと


羽音をさせずに背中の羽を動かし
どこかへと飛び去っていった







「な…何だったんだろアレ」


「そんな事より腕が…!





アルの指摘に目をやると、ちょっと先には
左腕の肘から先が転がっていた





刺された傷口からは血が零れて


遅れてやってきた痛みに 思わず
ナイフを落として倒れこむ







「っオイ!大丈夫か!!


「しっかりして、今すぐに病院に…!」







朦朧とする意識の中 エドとアルが
私を支えながら必死に呼びかける





ああ 最悪…


まさかこんな所でヘマやらかすなんて







「に 兄さん…の腕が!?





路上に転がった私の腕が
灰の様に崩れ掻き消え


変わりに身体の断面から組織が
筋肉がどんどん再生して


腕を形成していくのがうっすら見える





身体の傷も有り得ない速さで治るのが
感覚だけで分かる






「… お前、まさか!」







もう、これじゃ言い逃れなんて出来ない







「……あーあ バレちゃった」


「そんな、君も人造人間だったなんて…!」







固まったままの兄弟を見つめながら





私は立ち上がり、ジョーカーを拾って
その場からちょっと飛びのくと


口元の血を無造作に拭う







自分で言うのもなんだけど 本当に間抜けな話


ワザワザ間に入らなくても他に方法なんて
いくらだってあったのに





気付いたら、合成獣に立ち向かってた







そう 私もグリードと同じ人造人間
これでも君らよりは年上だよ」


「…ずっと オレ達を騙してたのか」





エドのその言葉は、どこか悲しげに聞こえた







「まぁね…でも、あの時話した
過去の話は嘘じゃない」





場の空気に似合わない微笑みを浮かべながら





「私は軍人のせいで死にかけて
そして化け物になる道を選んだの


だから軍人を恨み…人を殺すのに抵抗を感じない
既に何人も手にかけたからね」





ナイフを突きつけて淡々と
物騒な事実を口にしてみれば


エドとアルはこれ以上ない位 険しい顔をした





…アルは鎧だから表情ないはずなのに、
私にはエドと同じぐらい険しく見えたんだよね







こんな目を向けられても仕方ない


だって、私は二人をずっと騙してたし







騙されて悔しい?それとも人殺しは許せない?
なら 気が済むまで殺せばいいよ」





だからわざとバカにするように笑いながら


ナイフを鞘に収めて、こう言った





「どうせ化け物だからすぐ再生するし
長い付き合いだし 人柱でもあるから
二人には手を出さないでおいてあげる」







そう 誰だって結局は
今までの奴らとさして変わりない





仲間だなんだとキレイ事を言ってても


私が化け物だって分かったら
みんな、途端に態度を変えたもん







…それでも前は、人柱候補の奴を
平気で殺してたけど





今はそんな気になれない







むしろ二人になら、殺されたっていいかな





不思議とそう思ってしまった











痛い沈黙を破ったのは…エド





「勘違いすんな」







一歩、また一歩と確かな足取りで近づき





「オレ達は神様でも何でもない、だから
お前を捌く権利も義務も持ってない」





手を伸ばせば首を刎ねられる程
距離まで 自ら詰め寄って


鋭い金色の目が真っ直ぐに私へと注がれた





「旅に同行して吐いてもらうぞ
お前の知ってることを 洗いざらい」








アルもまた、兄の隣まで歩み寄り
静かにこう呟いた





「悪いけど僕らも手段を選んでられないんだ
…それだけは分かってほしい」







言葉には強い意志が含まれていたけれど





いくら待っても、私に危害を加える素振りは
どちらも 毛ほども見せはしなかった









本当…どこまで甘いんだろう





ここにいるのがエンヴィー辺りだったら
間違いなく刺されるよ







それでなくてもバレた以上


二人に付き合う理由なんてもうない





所かこの場から逃げ出さなきゃ
いけないくらいだって言うのに





何故だか、足は動かなかった







…ま 今から逃げ出そうとしても


戦い慣れた錬金術師二人から
逃げおおせる自信なんて無いんだけど







「あーあ ラストに殺されるだろうな〜
またバレちゃっただなんて」





ガッカリしたように大げさにため息ついて





「ついていきますよ どこへでも」





ナップザックにナイフをしまい
軽く両手を挙げて降参してみせれば







気のせいか、ちょっとだけ


エドとアルの警戒心が取れたように見えた







「…兄さん、とりあえずここの血痕は
消しておいた方がいいよ」


「そうだな ちょっとどいてろ」







手を合わせてエドが道路に触れると





軽いへこみと私の血が、キレイに消えていく





「へ〜錬金術ってそんな風にも使えるんだ」


「まーな…次はお前の格好をどうするかだ」





あー確かに あの合成獣のせいで
ボロボロの血だらけで普通じゃないや


このまま歩くのは流石にマズイね





「平気平気〜代えの服くらい持ってるよ」







荷物を漁って着替えを取り出すと





「アル、悪いけどこれ持ってて」





口を閉じたナップザックを放り投げる





キャッチしたアルは、ちょっとバランスを
崩してはいたけれども


あまり重そうにはしてないみたい





、どこいくの?」


「そこの物陰で着替え 覗いちゃダメだよ?」


「…逃げたりしねぇだろうな」


「だからモノ質としてジョーカーを残したの
ソレがある限り、必ず戻ってくるから」









着替えを手早く済ませて戻り





私達はラッシュバレーに行く列車に乗った







そんなには乗客のいない車内の隅で







「…で、お前もウロボロスの刺青があんのか?」





さっそくエドの質問が始まった







「あるよ 左肩の辺りにーホラ」





コートの左側とインナーのシャツをずらし
二人へ刺青をお披露目する





「ちょっ…、他の人がいるから
早く肩しまって…」


「ニャハハ これくらいサービスサービス♪」


「そんなサービスいらねぇっての」





普段と変わらないような和やかな会話


こうしてると さっきまでの
険を含んでた空気がウソみたいだ





「次に何を聞くつもりなの?
人柱の事?私達の目的?それとも」


「それはオレが決めるから黙ってろよ」


「へ〜…あ、そーだ ナップザック
預かってくれててありがとうねアル」


「え、うん…はい」





そっと手渡されたナップザックを受け取れば


ズシリ、と身体に馴染んだ重みがかかる





「重くなかった?」


「んー…言われてみれば、ちょっとだけ
でもそんなに辛くはなかったよ」


「そう、よかった」


「…そういや お前のナイフって
どーいう仕掛けになってんだよ?」





聞かれて、少しだけどう答えるか悩んだ





「んー作り方は知らないし錬金術には
造形深くないんであんまり専門的なコトは…」


「とりあえず分かる範囲で教えてよ」


「了解〜」





今まで分かっている事実に、私は
少しずつ説明を付け加えた







本格的にナイフが生み出されたのは戦乱の最中で


イシュヴァールで造られた物を最後に
殆どが失われてしまい


残ったオリジナルは、ジョーカーのみという事





組み込まれている賢者の石と錬成陣の効能で


使用者の望む万物を、切り裂ける力を持ち





代償として恒久的に
使用者の体力を容赦なく削る事







「…後はこれで切ったモノの切り口って
普通じゃ絶対に塞がらないんだよね」


「塞がらないの?」


「そうみたい…ちょっと見せてみようか」





言って 荷物から取り出した空き瓶を切り





「エド、これ元通り直してみて?」


あ?んなもんオレにかかりゃ簡単に…」





差し出した瓶を床に置き、両手を
合わせたエドがそれに手を触れる







…けれど光が瞬いた後


そこには切れた瓶がただあるだけ





あれ!?何で…」







驚く顔を眺めつつ、瓶を拾い上げて
ナップザックにしまいこむ





「元々のモノが結合しようとするのを
阻害する力があるんだって…


ただ、その力を上回る力で再生させれば
切り口はちゃんとくっつくみたい」


「そうなんだ、どうして?」


「…ゴメンね 原理までは分かんない」





これも本当、分かってたら私だって
錬金術が使えると思うし





でもコイツの錬成陣についちゃ
何も知らずに使ってたって事か…」





ジョーカーを指差しながら、右腕を
見つめてエドはため息をつく







「とにかく腕を直さねぇ事にはどうにも」





唐突に耳障りな騒音ひどい揺れ
列車を揺るがした








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:正体露見と本格的にオリジ展開のターン


エド:つか、ずーっと捏造展開でごり押し
していくの間違いだろが


アル:ナイフの情報もデタラメだけど
本当にこんな調子でつくの?収拾


狐狗狸:はい つかなきゃ終われませんから


エド:あと、なんでアルに重さがかかるんだよ?


狐狗狸:ジョーカーは体力ってーか生命力を
削るから その辺の錬成陣が干渉したんです多分


アル:多分って…




次回 列車でのアクシデントで辿り着いたのは…


様 読んでいただきありがとうございました!