起こった全てが「正義」の罪というなら
何て滑稽で残酷なんだろう









〜第四十七話 接がれた劇〜








降りてきた軍人さん達に連れられ


私は運ばれるアルと共に
上の階へと戻って行く







ボロボロのエドとマッチョさんが
心配そうに駆け寄ってきた





っ…アルは、アルは
どうしたんだよ!?」







言い出す言葉に困った





普段ならスラスラ口からいくらでも
デマカセやごまかしが飛び出すのに







「下水道についた途端に、セクハラオヤジに
捕まってアルと会ったんだけど…」





ややあって 歯切れの悪い口調で





「それから 眼帯さんとアイツの闘いが
始まって、後はあんまり覚えてない」





途中までの事実をどうにか語った







「おそらく…アルフォンスの中にいる賊は
閣下が手を下されたのだろう」





漂う血臭と付着した鎧の血とで察した
マッチョさんが呟く





「エドワード、嬢…下がっていてくれ」





私とエドは同時に頷き アルから少し離れた







マッチョさんは軍人さんを何人か呼び寄せると


こっちの視界を塞ぐように 壁にもたせた
アルの前へと立ち





……鎧の留め金が、外れた音がした







程なく中にいたマーテルの死体らしきものが
取り出され 離れた床に置かれた







すぐにシートをかぶせられたから
どんな状態だったかは分からないけど





床に零れた血の量が


死体の惨状を何よりも物語ってる







「っアル…アル!!





すかさずエドがアルへと駆け寄って
呼びかけながらアゴの辺りを左手で叩く





「兄…さん?」


「大丈夫か!?」







虚ろな返答をしていたアルは





やがて開けられた鎧の前部分と
目の前にある死体に気付いた







「勝手に開けて引っ張り出させてもらった」





淡々と告げるマッチョさんの言葉に


両手で覆われた表面から
泣き出しそうな声音が漏れた





「助け……られなかった…」


「ゴメンね、私がもう少し
役に立ってればよかったのに」







この時ばかりは本気でそう思った





死んだのが知ってた相手で


殺したのが、私の嫌いな軍人で





何よりアルの気持ちに 同調したから








「アルは悪くないよ…だってそうだ
さ、帰ろう 師匠が待ってる」





優しくささやくエドに二人で返事をした直後







「待ちたまえ 君達には
聞かねばならん事がある」






重々しい足取りでラースが歩み寄ってきた







「ここの黒幕…ウロボロスの印を持つ男と
何か取引をしたかね?」





問いにエドは首を振りつつ否定する





「…何も 軍の利益になるような事は…」


「勘違いするな、軍のためではない


もし奴らと取引をしていたら
場合によっては君達を始末せねばならんからだ






周囲にいる軍人達が、銃口を迷いなく
こちらへと突きつけてくる


…私も こっそりとジョーカーを
後ろ手に握り締めた








「軍の中枢に害なす奴らと利害関係にあるならば…」


「ありませんよ 他に質問は?」





鋭い目つきでラース…いや眼帯さんは、
エドとアルを見やってこう言い放つ







「君の鋼の腕と弟の鎧姿…
何か関係があるのかね?」








痛いくらいの沈黙が 辺りに満ちる







どれ位そうしていたのだろうか





「…正直者だな」







呟き、ニッと笑った眼帯さんが
くるりと背を向けて歩き出す





「引き上げるぞ」





その一声で軍人達の銃口も納められ
場に漂っていた空気が 緩んだ







「君のその弟と友人 大切にしたまえよ」





皮肉ともとれるセリフを残して
去っていく眼帯さんを


私達はただただ見つめていた









師匠の所に戻ったら、外はもう暗くて





「お前はアルの鎧を外で掃除しな
ちゃんはほっぽってた仕事の手伝い!」







"無事でよかった"と言われた直後に


間髪いれずに支持された仕事は
体力に自信があっても尚ハードだったけど





どうにか全部やっつけて







休憩がてら二人の様子を見に行くと







「僕の身体があっちに持って行かれた時の
記憶が戻ったんだ」






アルが衝撃の事実を告白した
タイミングにかち合った


んもー、何て出にくいタイミングに…





「ど…どうだった!?」


「ん〜…なんかすごかった」





両手をグネグネ動かした表現は
よく分かんなかったけど





きっとマーテルの死か血をきっかけに


皮肉にもあの時、アルの記憶の扉が
開いたのかもしれない





「でも人体の錬成についてはわからなかった」





エドは少し寂しそうに"そっか"と呟いた







「結局進歩無しかぁ」





ため息をつきつつ前の部分をつけるアルに





「いや そうでもないさ」





確信に満ちた声で、返事が返る







エドは今回の一件が明らかにやり過ぎな事と


眼帯さんの登場自体
何か裏があることを感じ取っていた







「しばらく軍にくっついてみるか」





新たに決意をして エドが勢いよく
扉をくぐって一言叫ぶ





「師匠!!腹が減りました!!」


「うるさいね!
早く食べたかったら手伝いな!!」






うっわ危なっ、今の鍋
スレスレで当たるトコだったー





けれどこの絶妙な位置で


エドのデコとアルの鎧に二段ヒットした
奇跡の瞬間がキレイに見えた







「お〜 文字通り出鼻を
くじかれたようですねエドワードさん」


「…また盗み聞きかよ、よくよく
趣味が悪ぃなテメェは」


「ニャハハ何度も言うけどたまたまなの」





いつも通りに軽く笑って誤魔化すけど







「そういやオレもあっちの司令部で
面白いウワサを聞いたんだよ たまたま」





お返しとばかりに不敵な笑みを返されて
ちょっとだけたじろかされた







「ふぅーん、どんなの?」


「…第五研究所の職員の何人かが行方不明に
なる前に 近辺で目撃されたって話さ」


「それ本当なの兄さん!」





驚くアルに短く頷いてエドは答える





「あぁ、あくまで一部のウワサだからか
知ってる奴は限られてるらしいけどな」







最後に目撃されたのは一様に


ダブリス〜ラッシュバレー間の線路上から
少しずれた場所にある山の周辺
、と続け





「ついでに錬金術師の行方不明も
極少数だけど起こるらしいぜ、その辺りで」


「よくそこまで聞き出せたね〜」


「そこは権力の使い所って奴だ」





優越感を見せる相手に感心しながら


内心、かなり焦っていた







ヤバイ 記憶が正しければそこは
間違いなくジョーカーが出来たトコ





たった一度だけしか来た事は無いけど


山の奥にあった事だけは確かだし
研究員の目撃情報があるのも決定的…







「きっとのナイフに何か関係が
あるかもしれないね」


「ああ 調べてみる価値はありそうだ」





気楽な事を言い合う二人と


ジワジワと追いつめられつつある私へ







「手伝わんかこのバカ弟子ども!!」





師匠の一喝と鉄拳が飛んだ











思い立ったら二人の行動は早くて





一連の事情を告げ、荷物をまとめて
師匠の所を発ったのが翌日の朝







「昨日はああ言ってたけどさ、実際は
どうするつもりなのさ?」





駅への道すがらに訊ねると エドは
ボロボロになった機械鎧をかざす





「まぁ何にせよまず腕を直してからだな」


「そうだね…でも、その状態だと
間違いなく怒るよねウィンリィ」


「あー…ヤベェ 今度こそ死ぬかもオレ」





いまだ人通りのほとんど無い通りで
諦め気味に肩を落とす姿がおかしくて







「ニャハハそれはご愁傷さ」





笑い飛ばすように言いかけた言葉が止まる









理由は…何の前触れもなく合成獣が
私達に襲いかかってきたから








中くらいの大きさのそれは


普段のエドやアルならそれほど慌てず
叩きのめせるような相手だった





でも、今の不意打ちに構えるヒマもない二人へ
合成獣は鋭そうなカギ爪を振り上げ―







全ては一瞬の出来事だった







私は二人に迫る爪の前に 身を晒し


左腕と身体とを突き刺されながらも
ジョーカーで相手の獲物を腕ごと切り落とす








「「…っ!」」





揃った声と短い鳴き声が耳を裂く








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:デビルズネストの事件がようやく終了し
どーにかオリジナル展開に進めそうです


エド:あの妙な合成獣は一体何だよ!
幾らなんでも伏線無しで登場はアレ過ぎるだろ!!


狐狗狸:合成獣についてはこれからの展開に
関わるからノーコメ、あれは敢えての登場です


アル:てゆうか収拾つくのそんな事して


狐狗狸:つきます これからラッシュバレーに
行くまでの間として、オリジ話兼最終章
挟み込みますから


二人:え…えええええええええええ!?


少佐:初耳だぞソレは!


狐狗狸:前々から決めてはいたんですけれど
やっと目処が立ったから語ったんです




次回、ついに秘密がバレてしまい…!


様 読んでいただきありがとうございました!