無力では「正義」を貫けない
…無力では歪んだ「正義」を壊せない









〜第四十六話 邂逅、そして〜








うるさい位に響いていた音が、途絶える







「闘いの音が止まった…」





呟いた直後 足音が闇の奥から聞こえて
アルと私は身構える


音は一人分…しか聞き取れない







神妙な顔をしたグリードの姿が
こちらの視界に飛び込んできて





「「あ」」





声を上げたのも束の間


アイツの身体は倒れこみ、隣に
眼帯さんが佇んでいた





「グリードさ…」


「ダメだ!!」







思わず中から出かけたマーテルを
アルが寸前で押さえ込む





二人の問答を他所に
私は目の前の様子を見つめる







"最強の盾"を自称していたアイツが


両腕を切り飛ばされたままの状態で
喉にサーベルまで刺されて瀕死だなんて


…この眼帯さん、どれだけ強いんだ







奴から刀を引き抜いて





「これで15回は死んだか、あと何回かね?」





再生しながら起き上がりかけるグリードを
見下ろしたままで眼帯さんが言った言葉に







「ああ くそ、さっきの所でくたばってりゃ
楽に死ねたなぁロア」






応えたのは 後ろの通路からやってきた
刀男君と牛男さん







「いやになるぜ 犬ってのは忠誠心が強くってよぉ」


「…その傷でここまで来る犬も中々いないよ」


「うるせぇイカサマ女」







私の軽口へ返しつつ、近づいてきた刀男君が
アルを戒めていた鎖を断ち切る





「まだ中にいるんだろ」





中にいるマーテルを指して 二人は
アルと私へ告げた





「そいつ逃がしてやってくれ」


「…たのんだぞ」






向き直り、雄叫びを上げて
二人が眼帯さんへと突進する


結果がどうなるか…分かっていながら尚







「ロア!」





押し上げかけたアルの頭を、今度は
一緒に押さえ込む





「ちょっとジャマしないで!!出しなさい!!」


「いやだ!!」


!鎧君の頭開けさせなさい!!」


「それは聞けないよ!」


「あんたらとここでやりあってる
ヒマは無いのよ!!」








内側からの激しい反響音の合間に





刀男君が胴を切り払われて沈んでゆく







「仲間がやられるのを黙って見てろっての!?」


「出す訳にはいかない!!
頼まれたんだ!!二人に!!」


「もう黙ってて、見つかったら命が…」


「開けろ!!」


「「ダメだ!!」」







渾身の拳を振るった牛男さんも







眼帯さんの一太刀で、それきり動かなくなる







「開けてよ…お願いだから…!」


「ダメだ…出ちゃ…ダメだ…!!」


…お願い、開けさせて…」





哀願するような弱々しい声音に 首を振る





「私には無理だよマーテル」









ようやく身体が復活したグリードが、再び
眼帯さんの正面へと立ちはだかる







「どうしてくれんだ オレの部下を
こんなにしちまってよ」


「駒に情が移ったか くだらん」


「情だぁ!?阿呆か!!オレを誰だと
思ってんだ!!強欲のグリード様だぞ!?」






あいつの顔に浮かぶのは、あからさまな怒り





「金も女も部下も何もかも オレの所有物なんだよ
みんなオレの物なんだよ!!」








…あんな顔は初めて見た





アイツはアイツなりに、ここの皆を
大事にしていたから


相当 頭にきているんだ







「だからオレはオレの所有物を見捨てねぇ!!
なんせ欲が深いからなぁ!!」








右腕を硬化させながらの鋭い一撃が
飛来するよりも早く





「強欲!!!ますますくだらん!!!」





吐き捨てて、眼帯さんは四本のサーベルを
グリードへと突き立てた





「しばらく寝ているがよい」







そのまま倒れたアイツへ振り向きもせずに
下水を掻き分けて進んでくる眼帯さん







「アル」





短く呟くと、アルはそっちを向いたまま
小さく首を縦に振る





マーテルが口を噤んでくれている今


その存在がバレる前にこの場を逃げ出さないと







立ち上がり 移動をし始めた私達へ







「待ちたまえ」





眼帯さんは声をかけて押し止める





「エドワード君の弟と、君だね
ケガは無いかね?手を貸そうか?」







あくまでも顔は、先程の様子など
ウソのようににこやかだ







「ニャハハ〜心配ありがとうございます
でも私達大したケガもないから…ね、アル?」


「は…はい 大丈夫です
一人で帰れますから…」





どうにかフォローをしてこの場から


この男から 離れようとするけれど







マーテルが中からアルの腕を操り
眼帯さんの首を絞めた








「だめだマーテルさん!!やめるんだ!!」


「ブラッドレイ!!!」


「やめ……」





止めようがない その行動を


眼帯さんは鎧の首下の隙間からサーベルを
突き刺す事で止めさせた






隙間から血が勢いよく溢れて







アルの身体が ガクリと崩れ落ちた





「…アル!?アルっ、アル!!







呼びかけても返事が何も無い





カタカタと微かに震えているのを見ると
意識があるのだけは分かる







「アンタ アルに何をしたの?」







睨みつける私の視線を轟然と受けたまま





「少し衝撃が強すぎただけだろう、直に
意識を取り戻す」





何てこと無いかのように淡々と振舞う眼帯さん







…いや、もうこの男は"タダの人間"じゃない







「やっぱりアンタ…人造人間だったんだ」


「だったら、何だというのかね?
勤めを忘れた"正義"よ」


「言ってくれるじゃない人間の上に立ってる
お山の大将が…で、アンタは何の罪?」


"憤怒"のラースだ…恐らく君の後に
造られた兄弟になるのかな」







なるほどね…道理で知らなかったわけだ





造られてから私は外でうろつき回る仕事しか
やって来なかったから


殆ど地下の集いに参加できなかったし





特に仲間の事なんて聞かなかった、でも





「新聞とかで顔見てたけど ちゃんと
年取ってたよね」


「取るとも、私はその様に造られた」





セクハラオヤジの言葉じゃないけど、正に


"ありえない なんて事はありえない"だね







ラースは沈んだままの当人をズルズルと
何処かへ引きずっていこうとする





「それ、どうするの?」


「…君が知る必要があるのかね?」


「あるよ ワザワザここのゴロツキさん方を
全滅させた理由も含めてね」







ニコリともしないままラースは口を開く





君、君は軍の中枢に害なす者達に
鋼の錬金術師の弟君と共に拉致された被害者だ」





細められた右目が鋭くこちらを射抜いている





「コソコソと排気口などに隠れず大人しく
救出されておくのが 君の立場だろう」







…暗に"人間として助けられておけ"と釘を
刺されているのは分かっている







けれど私の心は そんな脅しじゃ収まらない







「流石は人間の上に立ってきただけあって
随分とそっちの流儀になれてるねぇ」





笑みを浮かべながら ワザとやや大きめの声で
ラースへ向けて語りかける





正義の為ならどんな非道な事でもやる…
そのお手本を自ら示す、立派だよアンタ
反吐が出るほどね」


「口を慎みたまえ君 ここにも
もうすぐ私の部下がやってくるのだ」


「ご忠告どうも薄汚い軍人の親玉さん
ウロボロスの手先って言った方がいいのか…」







喉元を 鋭い痛みが貫いた







"口を慎め"と言ったつもりだが
聞こえなかったのかね、君?」





いつの間にかラースが手にしたサーベルの刃が
喉を真っ直ぐに突き通っていた





「が…は……」


「すぐ死ねない身体であっても
苦痛を感じ続けるのは嫌だろう?」





ほんの僅か力を入れて刃先が捻られ


血と尋常じゃない痛みが吹き出す





憎まれ口の一つも叩いてやりたいのに


溢れるのは僅かな血液と笛の音に似た
声にならない吐息だけ





「あの男と同じ目に会いたくないならば
口を閉ざしていた方が利口だよ」







ナイフをその顔面に突き立ててやりたい
衝動を どうにか堪えて


口を引き絞れば、スルリと刀が抜き払われた







ジワジワと傷口が再生してゆく合間に
複数の足音が近づくのが聞き取れる





「さて、それではまた後でな君」







白々しい笑みを浮かべ ラースが
グリードと共に姿を消し







私は意識を戻さぬアルの隣に腰掛けたまま





「約束守れなくて…ゴメン」





誰にも聞こえぬ呟きを漏らした








――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:アルが真理に行った合間はこれで
どうにか書き終りました


アル:この後、兄さん達と僕らが合流するんだね


狐狗狸:そう そっから少し後まで書ききって
一つの流れが終わる感じ〜


大総統:しかしそこから先は原作から完全にd


狐狗狸:Notネタバレ大総統!


グリード:いーじゃねぇか、大したことじゃ
ねぇんだしよぉ〜この後の―


狐狗狸:大総統 このオジさんを早く
お父様んトコ連れて帰ってください!!



アル:書き手自ら展開促進!?




次回 事件が終わり、彼に沸く疑問は…


様 読んでいただきありがとうございました!