他を悪と決め自らを正当化し、己が「正義」
人を傷つける これもまた悪なり









〜第四十五話 二度目の悪夢〜








階層が浅くなるにつれて





嫌な予感は いつの間にか
確信に変わっていた







…荒い足音に銃声、そして血の臭い


コレだけ揃えば奴等が何をしたのか
子供にだって分かる








「だから 軍人は嫌いなんだ」





自分でも今、すごく渋い顔を
してるんだろうなと感じた







店で働いている商売女は大丈夫だろうけど





上にいるゴロツキさん達は


軍人達に"制圧"されたに違いない







うっかり生き残りのゴロツキさんや
軍人達と会わないように気をつけながら
耳を済ませていると





不意に聞こえた呼び声が一つ







「大きな鎧と三つ編みの少年、それと
赤い目の少女は見つけ次第保護せよ!」








大きな鎧と三つ編みの少年は言わずもがな





…けど私も保護対象に入ってるって事は


少なくとも、命令系統に知り合いがいる





とっさに二人の顔が浮かぶけれど


片方は管轄の違い、もう片方はやはり
エドに知らせないのはおかしいと判断する





それに…もしどちらかが絡むなら


この手はちょっと乱暴すぎると思った







「なら、一体誰が…」









思考を遮るように物凄い破壊音が聞こえたので


導かれるようにして近くまでやってくれば







「…一階は制圧された、裏口ももうダメだ」





牛男さんの声と姿がそこにあった







うわー壁破壊とは何とも豪快な…







武器を刀男君や生き残ってたゴロツキさんに
渡してから





「グリードさんが来るまでこの階を死守する」





言って 通路を歩き出す牛男さんが


アルを担いで無いことに気付く







…そういえば、経緯は知らないけど
中にマーテルが入ってたはず





軍人達がやって来たのに気付いたから


マーテルを監視役に何処かへ置いてきたんだ







裏口がつかえない今 きっとアルは
地下の下水道のどこかにいる…!









けれどそれを知ってもなお


私は牛男さん達の行動を見つめていた





軍人達を差し向けたのが誰なのか
どうしても 気になったから







見つかりにくいようにダクトへ身を潜め


彼らが軍人達を蹴散らす様子を見つめる内







物凄く見覚えのある人が現れた







「見たか!!これぞアームストロング流に
代々伝わりし以下略!!!」






略ってマッチョさん…!てか既に上半身
脱いだ状態だし


牛男さんのハンマーが変な形になってるし





状況が状況じゃなきゃ指差して笑える
面白いシチュエーションなのに





ちょっとだけ現状を恨みました







唐突なアレっぷりに少し放心してたけれど





「これは一筋縄ではいかんようだ
…本気でやらせてもらう」







言って、牛男さんが本来の姿をさらけ出し
マッチョさんへと挑みかかる





そのまま力技同士の攻防が繰り広げられ





顔面に叩きつけた腕を取られたマッチョさんが
持ち上げられるように投げられて


流れで頭を壁に削られる







「ぬぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおお!」







けれど、途中で牛男さんの頭を片手で掴み


踏ん張りを利かせて踏みとどまった
一発がアゴに炸裂する





デタラメマッチョの肉弾合戦…これほど
見ごたえのあるモノも中々無い


緊急事態にも関わらず思わず見入ってしまう







ひとしきり手数を出し終えたマッチョさんと
牛男さんが、共に会話を交わす





「オレも…イシュヴァールの一兵卒として
参加していた」







知らなかった この人元軍人だったんだ…


それを知って尚更と、戦っている相手に
投稿を進めるマッチョさん







「少佐!そこを退いてください!!」





後ろからやって来た軍人達の言葉も無視し





「おろかな!命を無駄にするな!!」





まだ投稿を訴えるマッチョさんが







「キング・ブラッドレイ大総統が来ておるのだぞ」





信じられない一言を、口にした







「なんでそんな偉い奴が来てんだよ!!」





始めは私も同じ意見だった





でも、そう考えれば辻褄は合う







マッチョさんがここにいるワケも
必死で投稿を進めているのも


こんな一方的な手を取るやり方も


…これだけやってて、外部に一切
騒がれていない理由も全て





やっぱり軍人なんかの親玉って奴は
こんな力技もお手の物ってコト?







「逃げるぞ 隠し通路へ走れ」





小さく刀男君が呟いた刹那





彼の身体から一振りの刀が生えた







「何をしているアームストロング少佐」





牛男さんの壊した壁の穴から、眼帯さんが
刀を貫いたんだと理解するのに少しかかった


すぐさま銃を乱射するゴロツキさんも
弾丸をかわされて、一刀両断され





「ブラッドレィィィィイイイイ!」





怒りのまま背後から襲い来る牛男さんを


目にも留まらぬ速さで斬り捨てた







「私は目標以外は全てなぎはらえと
命令したはずだ」





振り返る事無く先へと進みながら





「敵に情けをかけるな
だからおまえは出世できんのだ」





マッチョさんに痛烈な一言を浴びせ


眼帯さんは、姿を消した









…あんなの 人間の動きじゃない





初めて会った時に感じた疑念が
益々、強いものに変わってゆく







「何にせよマズイな…急がなきゃ」





小さく呟いてダクトを移動し







耳と勘だけを頼りにして







見つからないよう、どうにか
下水道まで辿り着く









「また、この場所か…」







この手の場所にはいい思い出が無い





私が死にそうな目に会ったのも

こんな風に…薄暗くて汚いトコだった







「まーでもアルがちょっとでも
移動すればすぐに分かるからいっか」


「そいつぁ便利だな、





聞こえた声に振り向く前に


ガッチリ片腕をねじ上げられた





「げ…グリード、何でいるの?」


「お前意外とヒデェな こちとらクソガキと
戦ってエラく大変だったってのに」


「そのまま倒されりゃよかったのに〜」





ちっ、少し油断してたか…!







こいつは悲しいなぁ〜とか心にも無い事
ほざいておきながらこう言った





「それはそれとして、とっとと鎧くんの
居場所まで案内願おうか?


「…言っとくけど さっきまでと立場が
変わってることを忘れないように」


「ご忠告どうも、だがここでオレと
戦うほどお前はバカでもあるまい?」







確かに今はムダに出来る時間は無いし


コイツと戦って決着がつく算段は低い
…負けはしないだろうけど、多分





とりあえずこのまま
アル(inマーテル)と合流して


それから隙を見て二人で逃げるしかない







「……微かに軋んだ音がした、こっち」


「そうか よし」





示した方向へグリードが腕を掴んだ
そのままでスタスタ歩き始める









ほどなくしてしゃがみ込んだアルを見つけた


…どうやら中のマーテルに抵抗しながら
必死で逃げようとしてたみたい





「グリードさん!」


「…!」


「マーテル…と鎧くんも無事か」





カパリとアルの頭を上げて、マーテルが言う





「上が騒がしい事になって来て…ロアは
私達をここに置いて戻りました」


「ああ ちょいと面倒な事になった
逃げる算段しとけ」





呟きにメット部分が下りたのと







「それは困る」





眼帯さんが後ろから現れたのは同時だった







「…誰だ?」


「大総統…なんでここに!?」





いや それよりも有り得ないことが
あるのに私以外気付いていない







この人、全く近づく足音がしなかった





さっきは油断してたのと存外近くに
いたから気が付かなかっただけなのに…!







戸惑う私達に構わず眼帯さんが近づく





「こんな仕事さっさと終わらせて
帰りたいのだよ」


「引退しな おっさん」





私の手を離し グリードも腕を
硬化させながら近づいて


右腕が手首の辺りで跳ね飛ばされた





距離を取りつつ腕を引っ込めるグリードを
追う様に眼帯さんが走る





凄まじいスピードで二人が退がり


流れるように刀が閃いてグリードの身体を
切り裂き、或いは貫いて


叩きつけられた身体を更に蹴り





向こうの壁まで吹き飛ばし…
姿が見えなくなった







でも、戦う音はずっと響いている







「な…何アレ…
ねぇ、何なのあれ!?」


「わからない、でもあの人…普通じゃない


「え ……?」







あまりの事に何も出来ず、私達は呆然と
この場所に留まっていた







不意に音が少しだけ止んで





遠く 普通じゃ聞き取れないほどの声が
空気を伝わって耳に届いた







「…うな最強の盾を…を貫く最強の矛…
どうやって弾丸飛び交う…」





という特定のフレーズが混じる中







「君に最強の盾があるように
私には最強の眼があるのだよ」







眼帯さんのその一言だけは


いやにハッキリと聞き取れた









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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:大総統登場と、彼の正体へ差しかかる
部分までは書けました


アル:けど危うく夢小説じゃなくなるトコだね


狐狗狸:はい…本当、危なかったです(汗)


エド:てかオレの戦闘シーン丸々カット!?


狐狗狸:そうだよね主人公なのに…ゴメンエド!
次の流れからはバシバシ活躍させるからね!!


グリード:それよりオレの出番が先だがな


大総統:私もだな


アル:あ、僕もだ


マーテル:ついでに私も


エド:チキショー!(脱兎)




次回 人ならざるモノとしての、二人の対峙


様 読んでいただきありがとうございました!