「正義」の味方ってガラじゃないけど
仲間と思った相手くらい助けなきゃね!









〜第四十四話 巣窟の激闘〜








思わず目を見開いたのは私だけじゃない





アルも刀男くんや牛男さん達も





「ひとの弟と仲間さらっといて!
師匠にケガさせて!!どのツラ下げて
等価交換だァ!!?」






そして、あのセクハラオヤジもだ







「現時点をもっててめぇらはオレの中で
大悪党に大決定!!


魂の情報!?ンなもんミジンコ一匹分も
くれてやるいわれは無ェ!!」








不自由な手のせいで緩和の出来ない
大音量の怒声に頭が痛くなる一方で





怒りに任せて夢中で叫ぶエドの言葉に


少しだけ、嬉しさが込みあげる







「悪党はボコる!どつく!吐かせる!
もぎ取る!!すなわちオレの総取り!!」






師匠とそっくりの気迫をまとったまま







「悪党とは等価交換の必要無し!!!」





エドは勢いよく、グリードへ
人差し指を突きつけて言い切った









長めの沈黙の中


パチパチと指差された本人の拍手だけが
小さく鳴り響く





あー残念、縛られてなきゃ
私も拍手を送ってたんだけどなぁー







「……こいつバカだわ また力ずくかよ」





呆れたように呟いて


刀男くんが抜刀の構えを見せる





「殺すなよ」


「へいへい でも骨の一本や二本は
ご愛嬌です…ぜ!!





答えながら繰り出された一撃は
中々素早かったけれど


見切った動きで飛んで避け





「遅ぇな どっかの死刑囚より
ぜんぜん遅ぇ」






落下の勢いを利用して振り下ろされた
エドの拳によって


刀男くんはあっけなく床に倒される





「ニャハハ〜さっすがエド!」





呼びかける私に答えず、エドは右手を
いつものブレード型に錬成させて一言





「次!」







じっと見に回っていたグリードが







隣にいた牛男さんに命令する





「鎧くん連れてけ、バラして解析する」


「なっ…」





私の目の前で アルが担がれ
宙に浮くような体勢でもがきだす







「ドルチェットも連れてって手当てしてやれよ
は…まぁオレが引き受けるわ」







淡々と寝言を吐き続けるグリードを無視し





「起きたまま寝言は…ふざけ過ぎでしょ!


「させるか!!」





立ち上がった私と、エドとが同時に
挟み打つ形で牛男さんへ突っ込んで





微かな風切り音に反応して足を止めた直後


硬く鋭い金属音が間近で響く







間合いを詰めたグリードが硬化した手で
エドのナイフを受け止め


奴の片足が目の前で寸止め状態になっている





あのまま突っ込んでたら、間違いなく
蹴りをもらってた…危ない危ない







「ききわけの無ぇガキどもには
仕置きが必要だよな?」






言うと同時にセクハラオヤジから
すぐさま距離を取れば





硬化した左拳が床に振り下ろされ


避けたエドと私の間の辺りを大きく抉る





そのまま戦いの流れがエドとグリードの
一対一になった所を利用し


巻き込まれない位置まで退避する







ちっ…やっぱりジョーカーが無いと
役立たない 私ってば!


でもナップザックは取り上げられて
別の部屋に…!





アルが現在進行形で拉致られてる今


もう迷ってるヒマはナシ!







床板からアイツに向かってトゲを多数に
錬成したエドへと走り寄り







「エド、戦う前にこれブッ切って!」





私は身体を戒める縄を指し示す





「おぉ!」





短く答え エドの右手が閃けば


あっさりと巻きついていた縄は床に落ちた





「私 ナイフ取り戻してアル追っかけてくる!」


「って!お前はこっから逃げ
「よそ見してるヒマないよ 前ッ!!」





トゲを砕きつ近づいてくるグリードを指し示せば


エドは手を合わせて、生み出したトゲの
大き目な一つに左手を添える





その間に奴との距離が
トゲ一つ挟んだ位にまで近づいて―







瞬間 トゲの上半分が壊れながら


グリードに向かって吹き飛んだ






目暗ましで怯んだ隙に飛びかかるエドを
感心したように一瞥してから





"死なないようにがんばれエド!!"


心の中で呟きつつ、部屋から
急ぎ足で抜け出した











あのセクハラオヤジは大嫌いだけれど


この場所の雰囲気は何気なく気に入って
たまに足を運んでいた







「それがこんな形で役に立つとは…」





人気のない通路を、確認しつつ私は歩く







建物の構造とアイツの目的を考えるに


使うルートは比較的目立ちにくい
裏口地下だろう





で、ナップザックはおそらく
このエリアのどこかに放られてるハズ…


とっとと取り戻してアルを追っかけなくちゃ!





「私を捕まえてた代償は、高くつくよぉ〜?」







目星のついた部屋へと差しかかる途中に聞こえた





ズズン…と重く響く振動と遠くなった破壊音が
二人の戦いの激しさを物語る







「こっから逃げろ…か」





多分、私の身を心配してくれての言葉だ





嬉しさと…ほんの少しの胸の痛みが
沸き起こるのが分かる







「でも、そう言うわけにもいかないよ」







与えられた仕事だから


けど、それだけじゃない





私を仲間と思ってくれるなら





せめて今だけでも
ソレに甘んじるのも悪くは無い










角を曲がって部屋のドアへと到達する直前


感じた殺気に頭を下げれば
スレスレで何かが通り過ぎた





勢いに任せてバックステップすると


目の前には息を切らしたゴロツキさんが





っテメェ!どうやって縄ほどいた!?」


「あっちゃー、何ていうか運がいいのか
悪いのか分かんないな〜私って」





武器の無い取り込み中でよりによって
ザコ数人と鉢合わせるなんてね☆





「さっきはグリードさんが止めたが
今はそうもいかねぇ!」


「ナイフのねぇテメェなんざ、ただの
頑丈な小娘だ!大人しく寝てやがれ!!」








好き放題なセリフを吐いて自慢の爪やら
銃を構えてやって来るザコの皆さん


確かに私はナイフが無きゃ
体力のありあまったただのデタラメ人間





でも、甘く見ないでもらいたいね?







「悪いけど…いたずら好きたるもの
ポッケも仕掛けがあるのがタシナミっ!」





両手に突っ込んだポケットから





目にも留まらぬ早業で出した自信作
彼らに向かって惜しみなく投下!







「一撃必殺!爆撃火薬トラーップっ!!」





見計らったタイミングに寸分の狂いも無く


通路一杯 ザコ数人の鼻先で
強烈な爆発が炸裂した





『ぎょにゃぁぁぁぁぁ…!?』







爆風や衝撃が収まらない内に


迷う事無くその中を突っ切って室内へ!





当然、身体のあちこちが熱かったり
痛かったりするんだけれど


多少のケガはすぐに再生されるから問題ナシ







ドアを蹴破って室内をざっと探し





ほどなく隅に放られた手荷物を見つけて
私はそれを担ぎ上げる





ナップザックを確認すれば、中身は
取られた時のままで


愛用のナイフも無事に鎮座していた





「会えてよかったよジョーカー〜!」







武器が手に入ったなら 長居は無用





部屋の壁を切り裂き、隣の部屋から
さくっと移動して







「…ちくしょう!
あの女どこ行きやがった!?」





ざわめくゴロツキさん達を尻目に
アルを探しに移動を始め







―私の足と、彼らの声が止まった







今聞こえたのは…間違いなく銃声だ


それに大勢の足音が聞こえる





聞き覚えのある いや、忘れた事など
一度も無いリズム








「軍靴…軍人が、どうしてここに?」







あのセクハラオヤジが呼んだのだけは
絶対にあり得ない





ラストやエンヴィーが絡むなら


事前に姿を見かけていてもいいハズ





じゃあ、エドが?





…いや 本人の性格じゃそれもない


仮にそうならあの時、慌てて牛男さんに
飛びかからないし
私にちょっとでも教えてくれるだろう







生まれでた嫌な予感に突き動かされるように







"アル…ごめん、ちょっと遅れるよ"





私の足は上へと向かっていた








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:予告通り二人が暴れられたので一安心


グリード:いや、安心すんのは早いだろ


アル:それよりあの仕掛けって
無茶苦茶すぎるよ…威力とか


狐狗狸:それはイタズラ好きの成せる技です


エド:それで済ますな!つか爆発の中に
突っ込んでいくのも無茶だろアイツ!


狐狗狸:…爆発してる空間の中にツッコむのは
大変危険です、皆様はの真似はしないよう


アル:しないよ!


エド:普通やろうとすら思わねぇよ!


狐狗狸:…でも君らなら時と場合でやるよね?
似たようなマネを


グリード:やるな、断言するわ


エド:お前がかよ!




次回 軍部の乱入に気付いた彼女が向かう先は…


様 読んでいただきありがとうございました!