師弟だけあって、掲げる「正義」
全くもって一緒だね









〜第四十三話 地下揺らす怒号達〜








地下にいるから時間経過は
あんまり良くわかんないけど


きっと丸一日は経ってるなーと推測







「師匠、怒ってるだろうね…」


「だね 私も帰ってからまだ仕事が
たくさんあるってのに」





僅かに零すアルへ、こっちも同じ声量で返答







それを耳聡く聞きつけてたのか





「だったら、さっさと知ってることを
吐きゃいいだろうが」





刀男くんが主に私へとぼやいた





「だーかーら何されても私は吐かないっての
それに知りたい事が錬金術の知識なら
私は全くの専門外だし」





ヘラヘラ笑いつつ言ってやると


機嫌悪く押し黙る刀男くんに代わって
グリードが口を開く





「…オレと対峙してた時はずいぶん
思わせぶりな口調だったじゃねぇか 


「言っとくけど、一言も嘘を言った覚えは
ないよ〜んニャハハ♪」


「とてもアコギなイカサマかましてた奴の
セリフとは思えねーなぁ」







一歩も譲らぬ皮肉の応酬に





「あの…前にはここで何を?」





アルがおずおずと割って入った







「聞かねぇ方がシアワセだぜ?」


「そー言う事っ☆」







即答した私達の代わりに答えてくれる人を
アルは首を動かして探すけれど


生憎、誰も味方しませんでした☆









…エド死亡?認定からお互い
代わる代わる詰問されたけど







記憶の無いアルには、もう答える術もなく





二人の過去とアルの魂が鎧に定着してる
方法だけは知っている私は


のらりくらりと言葉を交わす







その態度が気に入らなかったのか





「っテメェ!あんまりナメた口ばっか
聞いてっと後悔すんぞ!!」



!!」





威勢良く胸倉を掴んだチンピラがいたけど







「へぇー…私に手ぇ出すつもりなんだ
セクハラオヤジの下っ端の分際で」





目を細めて殺気を多めに叩き付ければ
それだけでこいつは動きを止めた







「止めとけよ、オレは女をいたぶるのは
趣味じゃねぇんだしよ」





続いたグリードの言葉で


悔しげに舌打ちしつつチンピラが
私を放り投げる





「痛ったいな〜もうちょっと
優しく解放してよ〜」


「…、僕らと会う前に
この人達と何があったの?本当」


「別に〜ちょーっとしたゴタゴタだよ」







時折横から注ぐ疑問交じりの視線
笑いながら誤魔化す傍ら







向こうではどうにかアルの情報を
探り出そうと、手を変え品を変え







「そのまま…そう この火をじーっと見つめて」





催眠術による記憶の遡りまで引っ張りだされた





「10歳のあの日 君の魂が錬成された日に
もどる…もどる…」







けれど一拍の間を置いて、アルは
あっさりと首を横に振る





「ぜんぜんダメ」





それもそーだ アンタら程度で何とかなるなら
エドはあんなに苦労しないっての







難航する作業に悩み始める面々へ







「解体してオレに解析させてくれよ
錬金術なら少しやった事がある」





さっき絡んだチンピラがそう提案した瞬間





「やるなら国家錬金術師クラスの人を
連れて来てもらわないと


少しかじった程度の人にいじくられるなんて
たまったもんじゃないよ」





ムッとしたようにアルが答える





「おー言う言う」


「だってさ、引っ込んでなよオジさん」





主と同じような笑みを向けて笑ってやれば


我慢の限界が来てたのか、アルの額のトゲを
掴みながらチンピラが脅しにかかる







「気に入らねぇな、テメェらの
怖いものは何も無ぇってその態度」






手を異形に変化させ今にも引き裂こうと
していたその動きはグリードに諌められる





睨んだままのチンピラを呷ろうかと
開きかけた口を…私は急いで閉じた







―遠くから近づく地響きと一緒に
聞き覚えのある声が、微かに耳に届いたから







やがてアルもそれに気が付いて





「怖いもの ひとつあるよ」





呟けば、共に地響きは大きさを増し







唐突に目の前の壁から物凄い音と
閃光を放って両開きの扉が現れ







「はいちょっと失礼するよ」





開いたその奥から ゴロツキを一人
引きずった師匠が進み出る







どうやってこの場所を突き止めたのか


色々聞いてみたい事はあったけど





浮かべた険しい顔と、周囲へ目もくれず
一直線に向かうその様子と


まとった気配がなんだかやたらと怖くて





ただただ黙って成り行きを見守っていると







師匠は手にしたゴロツキを思い切り持ち上げ





「こンのばかたれどもが!!」





叫びながらアルへ一直線に叩きつけた







唖然とする私やデビルズネストの皆さんに


お構い無しに師匠はアルを指差して
力の限り怒鳴りつける





「なに人さらいにあっとんだ!!
しかもちゃんまで一緒に!!」



「ごごごごごめんなさいいいいい」


「す、スイマセンでしたっ!」





うわぁ〜…こ、怖い!マジ怖い!!


今まで生意気な感じでスイマセンでしたって
思わず叫びそうになるよ、この人の気迫







「てめー何者だ!!」





ようやく当たり前の思考を
取り戻したらしいチンピラ達へ







「主婦だッ!!!」





自らを示し 腹の底から師匠は宣言した









…宣言からものの数分足らずで


室内で会話が出来る人数は
私を含めて、四人となった





刀男くんや他のザコとかはいいとして


てこずりそうな牛男さんまで
秒速で床に沈める師匠、強すぎだよ







「あんたが責任者?うちの者達が世話に
なったわね 連れて帰らせてもらうわ」





呆れ交じりのグリードへ悠然と歩み出る師匠





「それはできねぇ相談だ」


「あっそう」





瞬時に師匠の拳が顔面へ繰り出され
やたらと重そうな音がする







でも、殴られた部分は硬化されていて


弾き返された師匠の右拳が
逆に流血していた





「…えらく変わった体してんのね」


「まぁな、ちょっとやそっとじゃ
傷一つ付けられねぇぞ」


「私のナイフなら斬り落とせるけどね」


「それは勘定にいれんじゃねぇよ」





ちゃちゃ入れをスッパリ断ち切られる合間に
アルが思い立ったように声を上げる





「兄さん…兄さんは来てないんですか!?」


「?まだ帰って来てないけど…」


あれ?兄貴は死んだって…」


「一言も言ってないよ!」





すぐさまジロリ、とグリードが睨む





、テメェ知ってて黙ってたな?」


「だって教える義理ないもーん ニャハハ」







渋面を笑い飛ばす私の態度と





「師匠!!この人 人造人間なんです!!」





アルが放ったこの言葉で、シリアスな空気が
一気に混沌としたものへ変わる







師匠とセクハラオヤジによる押し問答が始まり





「オレはこいつの魂の錬成とやらが
知りたいだけだ」


「そんなもん知ってどーすんのよ!」


「もう面倒くせぇやグリードさん
この女 斬っちまいましょ…げふう!


『ドルチェットー!!』





二人の言い合いに、復活して横から
口を挟んだ刀男くんが師匠の一撃で沈んだ









その内、埒が明かないと悟って


アルと私の頭を抱え込み





「オレはこいつらに人造人間の
製造方法を教える こいつの兄貴は
オレに魂の錬成方法を教える…どうだ!!





師匠へ取引を突きつける







等価交換だろ?穏便にやろうや」


「誘拐犯の言う事きけって?ふざけんじゃ…」







当然の反応を遮ったのは、アルだった







「師匠!!お願いです!!
兄さんを連れて来てください!!」



「アル、何で…」


「ごめん…お願いします
やっと巡って来たチャンスなんです」





吐き出される声音に混じった真剣な様子に


師匠は、一旦怒りを納める





「そうか…じゃあその子だけでも解放しな
あんたらには関係の無い子だろう?」


「悪いがこの女は、兄貴が来るまで
鎧くんが逃げない為の保険だ」







人をここまで効果的に足枷扱い
してくれちゃって、まぁ〜


…後で後悔しても知らないよ?







「あんたグリードって言ったっけ?


私ら錬金術師ってのは作り出す側の
人間だからこういうのは好まないんだけど」







淡々と言葉を紡いでいた師匠が





「私の身内の者にもしもの事があったら
その時は遠慮無くぶっ壊す」






ほんの一瞬だけ、強い殺気を
グリードへ向けると







「帰る」





元々据え付けられたドアを潜って出て行った







…直後に響くオジさんとの痴話ゲンカ
耳にしながら





「すげーなぁ お前の師匠とやら」


「……どうも」





感心したように肩を叩かれ
ぽつりと呟くアルへ、そっとささやく







「いくら人造人間の秘密が知りたいからって
この方法はちょっと危険だったんじゃない?」


「うん…でも、手がかりが無い以上
なりふり構ってられないんだ…
 巻き込んで本当ゴメン


「ニャハハ気にしないの、私だって
とっ捕まっててお互い様なんだし」





明るく笑いかけてみせれば 心なしか
アルがほっとしたように見えた









師匠が去ってからそれほど経たずに





今度こそエドが乗り込んできた







「すまねぇな こっちの鎧くんだけで
事が済めば楽だったんだけどよ」







眉間にシワを寄せたエドの視線が
アルから私へと移る





「ったく、何でお前まで捕まってんだ」


ごめんごめん ちょっと色々あって」





師匠からある程度の事情は聞いてたものの


エドもやっぱり 人造人間が目の前にいると
俄かには信じられないらしい





「おどろいたな マジかよ?」


「オレはウソをつかねぇのを信条にしてる
なんなら証拠を…いや
やっぱやめとこう、汚くなるし」





後ろでスタンバってる牛男さんを
グリードは片手で押し止めた







「兄さん 僕の魂の錬成方法と
人造人間の情報と…」


「等価交換?」


そう!お前らも人造人間に興味があるって
言うじゃねぇか いい取引だろう?」





平坦に呟くエドへグリードが口の端を
歪めながら そう持ちかけた途端







「ナマ言ってんじゃねェ――ッ!!!」





豹変したエドの怒号が耳をつんざいた








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:師弟突入だけはどーにか納めましたが
状況が見事に分かり辛くてスイマセン


エド:原作読んでること前提視点で
書いてっからこーなるんだろーが


グリード:主観もちらほら入ってるしな


狐狗狸:両サイドから言われるとは予想外(汗)


アル:てゆうか本当 は何やったの?


狐狗狸:…詳しくは短編の「私を示す音」参照


アル:丸投げの上に宣伝!?




次回 乗り込んだエドと共に彼女も暴れだす!?


様 読んでいただきありがとうございました!