目の前にいるのは、面倒な障害にして
私に「正義」以外の呼び名を付けた男









〜第四十二話 ダブリスの誘拐劇〜








いつか出てくるとは思ってたけど…


このオヤジにしては、やや遅かった方か





「タチの悪ぃトラップに邪魔されまくったって
聞いてたから そんな気はしたんだよな」


「アンタが表に出るのって珍しいね
愉快な仲間達はどーしてるの?」


「分かりきった事聞くなよ、腹の探り合いが
通じねぇのはお互い様だろ?」


「大方…私を足止めしとこうって魂胆でしょ?」


「まーな オレは鎧くんに用があんだよ」





ん?エドじゃなくてアル?


ビトーくんが二人の事を伝えてるなら
アルよりも断然さらい易いドチビのエド
チョイスすると思ってたのに…







一瞬 エドが既に捕まってる可能性も
頭を過ぎるけど


あのエドが大人しく捕まるワケが無い


絶対抵抗して 街中へ響くほどのデカイ騒ぎを
一つ二つ起こすから…


それが無いって事は、無事に南方司令部へ
旅立ってるって考えて良さそうだ





「ちなみに誰が動いてんの?」


「半分くらいはお前のトラップでやられたからな
どーにか回復したドルチェットとロアと…
後は、マーテルの三人か」


「マーテルとは大分顔合わせてないなぁ〜
元気そうだった?」


「相変わらずだな…ってアイツよりも
オレとの再会を懐かしめよ」


「マーテルは仲良しだけどアンタは嫌いだから」


ニッコリ笑ってそう返せば





「連れねぇな、まぁそこがいいんだがよ」





アイツも肩を竦めて笑う







「目的は?」


「決まってんだろ 不老不死だよ」







この時ばかりは自慢の耳を疑ってしまった





「不老不死って…本気?」


「ああ、大真面目だ」


「ニャハハ 冗談にしては面白くないねぇ」


「悪いな オレはウソをつかねぇ事を
信条にしてんだよ」





余裕を一ミリも崩さない どうやら本気だ







「私よりも長い年月生きてきといて、まーだ
未練たらしくこの世にしがみつき続けるの?」


「オレは強欲だからよ…金も欲しい!
女も欲しい!地位も!名誉も!
この世の全てが欲しいんだよ!!」








…聞かなくても答えは分かりきってた





私の背負った罪が「正義」なら
こいつの背負った罪は「強欲」


会った時から変わる事無く


この男は名前通りの性を貫いて生きている





ともかく…アルの状況が分からない以上
悠長に話をしてるわけにもいかない







「所でさ、今ちょっとジョーカー方面に
目ぇつけられてるんだよね」





言いながらコートのポケットに片手を入れ
一歩だけ距離を詰める





「ウロボロ組もアンタが人造人間なのも
バレて構わないんだけど、私も
デタラメ人間だって分かるとやり難いの」





口を挟ませる隙を与えずに出来るだけ
淡々と言葉を紡ぐ





「鎧くんの過去とこれまでの旅の経緯は
大体見聞きしてる…つまりある程度
情報は提供できるんだよね」


「何が言いてぇんだ」


「ニャハハ、アンタの好きな"取引"だよ」






笑みと共に取引の条件を突きつける




「情報一つと引き換えに私への全面協力
及び配下一匹に至るまで一切の干渉禁止」



「…そいつぁ情報の中身にもよるな」


「多分そっちに損は無いと思うよ?
でも、先にこっちの条件を飲んでから」


「分かってねぇな





一歩踏み出すグリードの表情からは
いつの間にか、笑みが消えている







「大事な仕事とやらの兼ね合い上
今のお前はオレの下につくべき立場だろ?」





なるほど態度が気に入らないと…







「まーね でもセクハラオヤジに
ゴマをするのはウソでもゴメンだ…ね!





ポケットに忍ばせた特製閃光弾を
アイツの鼻っ面に分投げて


同時に目をつぶりながら横手にダッシュ





「ぐおっ!?」





微かな叫びが高い耳鳴りに掻き消されて
世界から音が消え去る







少しの間、何も聞こえないのは痛いけど


勘を頼りに師匠の店まで戻って
アルの無事を確かめないと…







不意に何かが後ろから負ぶさった


声は聞こえないけど、この手と
フードの端はビトー君か





振り落とそうにも結構しつこく張り付かれて





ジョーカーで斬ろうかとナップザックへ
手を伸ばしかけた刹那


急に身体の負担が軽くなる







「…っお 重てぇ!?」


私のナップザック!こら返しなさい!!」





ビトー君は得意の壁登りを披露して
あっという間に手の届かない所まで







「へぇぇ…そんなに喰らいたいんだね
一撃必殺用の爆撃火薬トラップを!」





コートの裏ポッケにある仕掛けを取り出し
壁上のトカゲ目掛けて投げかけた瞬間







「あんまりオレの部下をイジメんなよ」







復活して追いついたグリードの拳が
鳩尾に入って 身体が折れ曲がる





「げはっ、げほげふっ…」





床に転げた仕掛けを手にするヒマもなく


あっさり両手を後ろ手にまとめて
捕まれた状態で背後を取られた





交渉決裂って事でこれから人質として
丁重に扱ってやるよ


「そりゃどーも…じゃ意地でもこっちは
黙っていようかなっ」


「構わねぇぜ、オイビトー!
降りてきてその荷物オレに寄越せ」











ナップザックの中にあった縄を取り出して
グリードが私を縛ってから


その状態であの店まで連行されて







「げっ…お前!


「やっぱりあのトラップ、テメェだったのか!」





新しい奴等に混じって見覚えのある面々から
実に色々な言葉をかけてもらい


地下で 先に捕えられてたアルと対面した





「ごっめーん捕まっちゃった〜」


!何で「何でお前がいるんだぁぁぁ!?」





あーもうウルサイな刀男くんは〜
鼓膜が破れたらどうしてくれるのさ





、この人達と知り合いなの」


「知り合いって言うか〜…まぁ色々と
ゴタゴタがあってね」


「当たらずとも遠からずってトコだな」





合わせてくれるつもりなのか、それとも単に
説明が面倒なのか


とにかくグリードもそう言ったので


周囲やアルもその意見に納得した空気を見せる







「アルやこっちに手荒なマネしてくれたから
私は何もしゃべらないよ」


「いいぜ別に、お前がいるだけで
こいつも余計な事はしにくくなるからな」





言ってアルの隣に私を放り投げてから





鎧の中身が空っぽなのを確かめて
二人の会話が始まった







「魂のみで死ぬ事の無い身体ってのは
どんな気分だ?」



「どうして僕の事、知ってるのさ」





アルの疑問に豪快な笑い声を響かせて
グリードは答えた





「お前イーストシティで殺人鬼と
闘った事があったろ」







…ああ、傷の男の件が裏まで流れてたのね







もっともエドや私もその場にいたけど


事情を知らない人間にとっては
アルの方がより強く 人目を引く





…そこで興味を持ったのかと納得







自分の目的と、路上で私に言った持論
堂々とアルの前で展開して





「協力してもらおう、いやだと言うなら
解体してでも…お友達を道連れにしてでも
手に入れるぞ 魂の秘密をな」






不敵な笑みで、こいつはそう言い切った







「くだらない…お兄さんは
やっぱり悪い人だ」







アルの言葉が終わらない内に


床から生えた拳がグリードの腹に刺さる





拾った石で錬成陣を…やるじゃんアル!





「油断したね!こんな鎖くらい錬金術で…」


「…どうするって?」





拳が途中から砕け散り、続けて陣を
描きかけたアルの頭を掴み


グリードが床へと引き倒す





瞬時にお腹だけ硬化させてたのか…
そーいう浅知恵だけは回る奴







「…っと悪いなマーテル お前が中に
入ってんの忘れてた」





ありゃーアルの中にいたの?マーテル
どーりで姿が見えないと思ったら…





「アル、大丈夫?」


「う、うん…」





手を離されて起き上がりかけるアルへ
お構いなしに語りかけ続け







「オレを倒したきゃこれくらいやらねぇと」





グリードが笑って指を一つ立て





次の瞬間、後ろに回った牛男さんのエモノが
アイツの頭半分を吹き飛ばす







盛大に血を流して倒れた身体を眺めて





なんて事するんだ!!仲間で…」







叫んだアルの言葉が 止まった







ありえない立ち上がり方をした身体の
消し飛んだ上顎が見る見るうちに再生し







「あ゛ー…あ゛ー…これで一回死亡だ





死んでいたグリードが復活して、こう言った







「人造人間って知ってるだろ?
人工的に造り出された人間 人ならざる人
今、お前の目の前にいるのがそれだ」








しばらくは事情が飲み込めないで
呆然としていたアルが


意味を飲み込んだらしく口を開くけど





「ありえない!!人造人間が
成功したなんて話聞いた事が無い!!」






声にはありありと、目の前で起きた事が
心底信じられない戸惑いが滲んでいる







そんなアルの様子を笑い飛ばし





「世の中には陽の当たらない裏の世界がある


ぬくぬくと生きてる表の世界の人間にゃ
想像もつかねぇ事が陰の世界じゃ
まかり通ってんだよ」





言って、周囲の合成獣人間な人達と自分
そしてアルも引き合いに出し





「「ありえない」なんて事はありえない」







間近で言い聞かせるようにグリードは呟いた









…一々、ごもっともな事で







押し黙る私の胸中を占めるのは軽い怒りと
面倒くさくなる予感だけ







今はぶっとんだ頭が再生したショックと
人造人間が目の前にいる事実とでパニくってる





でも落ち着いたら、きっとアルは私を疑う







あーあ だから会わせたくなかったのに…







「オレの秘密は教えたぜ
さぁお前の秘密を 魂の成り立ちを」






外側と内側のマーテルから急かされるけれど


アルは沈んだ様子でささやくのみ





「…無理だよ 僕にはこの身体になった時の
記憶が無いし…錬成してくれたのは他の人で
僕は何一つ知らないんだ」







視線を向けられて、即座に私は口を閉じて
スイっと横を向いてやる





「お友達はだんまりだしな…じゃあ
その錬成してくれた奴だ そいつに聞けばいい」


「僕の兄さんだけど…今は……いない







瞬間 グリードや周囲の人達の顔つきが
微妙なものに変わった





「なぁ、今のは本当か?」


「本当だよ」





少なくともダブリスにはいないね、今は







「オレ 悪い事訊いちゃった?」


「そりゃナリはあれでも14歳の少年ですから
…ナイーブな所があるかと」





小声でヒソヒソと会話を交わしてから





「あー……ご愁傷様っつーか
なんつーか なぁ」


「元気出せ なっ」







アルへ語りかける声や見つめる目には
哀れみっぽいものとかが混じっていた





ありゃりゃ、エド死んだ扱いされてるし


…面白いのでしばらく黙っとこ








――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:アルが捕まったトコからの下りを
ひたすら悩んだ結果、一緒に人質ルートにしました


グリード:グラサンかけてるからって至近距離の
閃光弾はナシだろ 失明すんぞヘタすりゃ


狐狗狸:人造人間が何言ってんですか(汗)


ドルチェット:グリードさん、あの女は別のトコに
離しときましょーよ!絶対ぇ暴れるし!!


グリード:平気だろ ナイフと道具一式は
こっちの手にあっから手も足もでねぇよ


狐狗狸:流石に縄抜けなんて器用な真似は
出来ないからね〜あの子は


アル:……この後の展開はどーなるの?


狐狗狸:えー…何とかします(滝汗)




悪魔の巣窟に駆けつけたのは最強の…!


様 読んでいただきありがとうございました!