あいつ独自の「正義」がまさか
ここで脅威を振るうとは…あー面倒くさ









〜第四十一話 厄介なる同士〜








本格的なダブリス滞在が決まってから







「今日もこんな早くから熱心だね〜」





二人は朝から閉館まで、図書館へ
入り浸りながらの資料探しと


師匠による肉体的な修行に明け暮れていた







「おう 何たって調べ物が増えたからな」


「記憶の事もそうだけど、ナイフの方も
掴まなきゃいけないし」







…ナイフの方は仮にも軍事機密だから
そう簡単に情報が漏れないけれど





失った記憶を取り戻す方法だって


おいそれと分かるモノじゃない







「賢者の石も一応まだ調べてるんでしょ〜
今に根詰めすぎて倒れちゃうんじゃない?」


「そうだぞ、二人ともまだ子供なんだから
あんまり無理しすぎるなよ」





ややカロリー高めっぽい朝食からすると


これは戻ってきたら組手やる感じだなぁ〜





「…忠告は受け取っておきます」


「お、目上にはちゃんと敬語が使えるんだね
師匠の教育サマサマってトコ?ニャハハ」


「テンメェェ後で覚えとけ!」


「そのセリフ、一体何度目〜?





皿の上の肉を口に運びながら、私は
アルを挟んでエドをおちょくってみる





「食事中くらいは落ち着いて兄さん
もあんまり刺激しないで」


「やーしっかし君らの会話見てると
本気で退屈しないねぇ」


「おぉ、話せるクチだねお兄さん!」





ふざけ合いの空気に、師匠が静かに
だけどもビシッとけじめをつける





「会話に集中するのはいいけど、二人とも
メシ残したら承知しないよ?


「「はーい!」」





途中つっかえそうになりながらもエドは
テーブルの上の食事を急いで平らげ





「っし行くぞアル!」


「せっかちだなぁ兄さんは 行ってきます!」


「今日は鍛錬もあるから、遅くならん内に
帰ってきなよ!」


「「はいっ師匠!!」」





アルと一緒に図書館へと繰り出して行った







ホント、もう少しゆっくり食べてけばいいのに









…さて ここで残された私は居候している
ただの一般人だから修行も調査も関係ないし


さぞかしいい身分だろうとお思いでしょう





けどそれは、大きな間違いってモンです







「さて、今週からフェアが始まるから
キビキビ働いてねちゃん」





例えワケありの居候と言えども


働かざる者、食うべからず!


と言う師匠の強いお言葉を頂いたので







大体兄弟と同じか少し早めに目覚めて





お兄さんやオジさんと裏方で
肉の解体を手伝ってます







「しっかしちゃんのナイフって
本当にいー切れ味してるなぁ」


「兵器らしいですから〜これでも」





私もまさかジョーカーの切れ味が破壊以外
目的で役に立つとは思わなかった







食器洗いや食事の手伝いもあるから
そんなに多くはやらないんだけど


それでも解体する肉の量がハンパじゃない





「ねーオジさん、この塊は何の肉?
かなりデッカイんだけど」


「ん、ああマンモスか」





へー初耳、マンモスってこの近隣にいたんだ









色々過ごして夕方になり 師匠がいい加減
苛立った頃合に二人が図書館から帰ってきた





「お帰り〜遅かっ」


「遅い!何やってたんだバカ弟子ども!!」


「「ごめんなさいぃぃぃぃぃ〜!!」」







カミナリ直撃お説教コースに条件反射で
青い顔して その場に正座するエドとアル







「またエドが図書館で粘ってたんでしょ
集中力高いのも考え物だねーニャハハ」





お説教の終わりを見計らい、いつも通りの
からかいをかけてみるも


エドは予想に反して微妙な顔してた





「半分はの言う通りなんだけどね…」


「急いで帰ろうと近道してたら、路地で
ヘンな奴に絡まれちまったんだよ」


「二人に絡むなんてよほどの物好きだね〜
所でソレってどんな奴?」


「頭がハゲでミョーな尻尾が生えた
浮浪者でよ、オレの錬成した壁を素手
昇って越えていきやがったんだよ」







心当たりのある顔が約一名、頭の中で
パッと浮かんで消えた







「何それー新手の合成獣?」


「いや違ぇだろ、ちゃんとしゃべってたし
人間…だったぞアレは」


「何だか…僕らの正体や僕の事を
知ってるみたいだった」







アルの一言で 今度こそ確信を持つ


…間違いない、あのセクハラオヤジ
あいつに入れ知恵したんだ





参ったなぁー今ちょっと奴と会うと
揉めそうな雰囲気なんだよねぇ







「ムダ話してないで早く来い二人とも!」







師匠に呼ばれて飛んでいく兄弟を見送りつつ


こっそりと私はナップザックの中から
仕掛けの類を調べ始めた











「ここんとこお前何やってんだよ?」


「えーいいじゃんイタズラグッズの点検と
新作開発ぐらい見逃してよ」





筋トレ中のエドに笑顔で誤魔化すけど







「…たまーに街角で悲鳴とか聞こえるけど
もしかしてトラップ仕掛けてないよね?」





師匠に組手してもらってるアルフォンス君が
いらん事を言ってくれた





「気のせい気のせい」


ウソつけっ!お前のその笑顔は
絶対的に胡散くせぇんだよ!!」


「それヒドくない?軽く偏見だよね〜」







あれから何時セクハラオヤジの手下とか
本人がエドとアルに顔を合わすか


下手にナイフやこっちの正体を
バラされるんじゃないかと気がかりで





とりあえず用心でトラップを設置した







したら案の定 近づいてた奴が何人かいたから
耳と勘でタイミングを計って発動し


適当に近づけさせないようにはしている







利害的なものはあるとは言え、言ってみれば
二人のためにやってるのに





分かってもらえないってツラいなぁ〜







「とにかくトラップ仕掛けてんだったら
誰かが巻き込まれる前に撤去しとけよ!」


「はいはい、どーしてこんなウルサイ子供が
国家錬金術師なんだろ〜」


「ガキで悪かっ……!?





バーベルを背に担いで屈んだ姿勢のまま


物凄い顔で エドが固まった







「どうしたの兄さん、ぎっくり腰?」





二人の視線もそちらに集中する中で


エドは顔中に脂汗を掻きながら呟く





「…今年の査定忘れてた」


「あ!!!」







そう言えば、国家錬金術師には年に一度
研究を提出する査定があって


やらないと資格が剥奪されるんだっけね







よっしゃ!これを機会に軍の狗なんて
やめちゃえやめちゃえ!
どれ、私が軍に電話しといてやろう」


「やめて―――――――!!」


「いいじゃん、スッパリやめた方が
面倒な査定もなくなるって」


本気でシャレにならないから!!」







慌てながらも支度をして(研究レポートは
行きの列車内ででっちあげるとか…流石!)





「んじゃ 行って来ます!」





二・三日で戻る約束をし、エドは
南方司令部へと旅立っていった







「あいつはいつもあんなにせわしないのか」


「そうなんです!あんな兄だからやっぱり
誰かついてった方がいいですよねっ!」


「そーだね、エドそそっかしいトコあるし
アルがいたら安心だと思うよ?」







かこつけて修行から逃げようとした
アルのフォローを敢えてしてみる





上手く転べば、ちょっとは時間が稼げる







「分かってくれて嬉しいよ
じゃっ!!ボクも行って来ます師匠!!





素直に喜びつつ駆けていこうとしたアルの
頭の飾り紐を強く引いて





「逃げんなVお前は残って私と組手V」


コワーイ笑顔で師匠は言った





あーあ、やっぱダメでしたか…


まぁコレはコレで面白いかな〜なんて
笑いながら見ていたのは 我ながら甘かった





「ついでに余計なこと言ったちゃんも
ちょっと軽く手合わせねV」







やや楽しげな様子で同じように言われて





「ニャ…ニャハハハハハ〜」





思わず、自分の顔が引きつったのが
分かってしまった











「……し、死ぬわアレ本気で死ぬ







あのアト アルと一緒にきっちりと
師匠にしばかれて床に伸びていた





幸い素人だったから軽く一、二度ほど
叩き伏せられる程度で終了したけど


あれ…実戦だったらヤバかった





エドとアルがあれだけ怯えちゃうのも
強くなったのも身をもって実感







休憩兼散歩を理由に店を抜け出し





見慣れた路地を、人気のない場所に
するすると歩いていく…







少し開けた場所で 私は足を止めた





出てきたら?尾行てるのはわかってるよ」







一拍の間があって…気配が後ろに現れる





「よぉ、元気そうじゃねぇか





振り向いた先には予想通りセクハラオヤジ
…グリードのニヤケ面があった








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:アニメに追い越されましたが、ようやく
グリードが絡んで来ました〜


アル:店の手伝いしてるって聞いてはいたけど
お肉を解体してたの!?


狐狗狸:始めは家事手伝い程度だったけど
ナイフの来歴や放浪時ちょっとだけ似たような
場所で働いてたから解体手伝いも〜的な


エド:いやいやいやいや!つーかマンモスが
あることに驚けよ!!


狐狗狸:だって師匠とシグさんならマンモスの
一頭や二頭普通に狩れますって


グリード:久々に顔合わせたっってのに
随分手厳しい挨拶だよな、の奴


狐狗狸:…そのタライとかはツッコミ不可?




次回グリードとの再会とアルの誘拐…!


様 読んでいただきありがとうございました!