「正義」にだって区切りはある
でなければ行き過ぎてしまうから









〜第四十話 けじめの裏には〜








「しかし12歳で国家資格を取ってしまうとはね
天才ってやつかねぇ」





長い抱擁が終わり、廊下を歩く師匠に続き
歩を進める二人の後ろへ着いていく





「そんな!天才なんかじゃありません
オレはあれを見たから…」


「いや あれを見て生きて帰ってこれただけでも
十分に天才と呼べるだろう」





惑うエドに賞賛の言葉を送ってから







「でも、ケジメはつけなきゃならないんだよ」





その場に立ち止まり 向き直った師匠は







「破門だ」





二人へと強く宣言する







「私はねお前達をそんな身体にする為に
錬金術を教えたんじゃないんだよ
…もう弟子とは思わない







その言葉は全面的に正しいし、部外者の私には
何も口を挟む権利は無い


けれども…何かを言わずにはいられなくて





「ちょっ」


「師…」





思わず飛び出た私とアルのセリフは







「アル 





エドの言葉と手で、制された









後ろを向き 扉を潜る直前に







「まだ汽車は出てる 帰りなさい」







振り返る事無く呟いた師匠の背中へ
エドはただ、この一言をぶつけた





「お世話になりました!」













それからすぐに荷物をまとめて、私達は
オジさんの案内で駅へと向かう







「ゴメンね…僕らに付き合わせちゃって」


「ニャハハ、今更気にしない気にしない!」





明るく笑うけれども、未だに二人とも
破門を言い渡されたショックが強いみたい







途切れてしまった会話を繋ぐついでに


気になった事をオジさんへと問いかける





「所でオジさん 師匠も人体錬成をしたって
言ってたよね?」


「ああ…」


「それってもしかして、オジさんと師匠の
お子さんだったりする?」






瞬間、三人の視線が私へと集まった







「「どうして…!?」」







エドの"どうして"は"予想外"の意を持つ驚き


オジさんの"どうして"は…"核心"を指された驚き





「お昼の時の会話がどーしても引っかかってね
後は…師匠の端々の反応かな」







確証が持てたのはきっと、二人を抱きしめた時





あの雰囲気がラッシュバレーの一家で見た


"母親"だけが持つ温かさだと…気付いたから







一拍の間を置いてから、オジさんは
案内を再開しながら語り始める







「あいつ、一人目の子供を身ごもった時に
病気をしてな…」







病気のせいでがんばっても子供を産めず


それが原因で二度と子供が出来ない身体に
なってしまって…悲しみにくれた師匠は





再び子供に会う為に"禁忌"を犯した







「気付いてやれなかったオレもバカだけどよ」







淡々と締めくくったその一言には





どこか悔やむような響きが含まれていた











そこそこ人が行き交うダブリスの駅前まで
辿り着いて、オジさんは言った





「また近くに来たら寄れよ」







……え?何それ 新手のジョーク?







首を傾げているのは、どうやら私だけじゃない





「オレ達破門されちゃったし……」


「ねぇ」





顔を見合わせるエドとアルに





「ばっかやろう!」





怒鳴ってから オジさんはこう言った







「いいか?師匠でも弟子でもなくなったって
事はだな これからは一人の人間として
対等に接するって事だ」







そこまで言われてようやく 私は理解した





アレは二人への決別ではなくて


むしろ二人を認めたからこその―







まだ意味を飲み込みきれてない
エドとアルの背中を思い切り叩いて





「鈍いなぁ二人とも…アレくらいでヘコんで
諦めてどうすんの!当たって砕けろだよ!!





私は 笑顔で発破をかけた







口を開いたのは、悔しげに頭を掻き始めたエド





アル!オレ達何しにダブリスまで来たんだ!?」


「……あ!!」





アルが言ったのを合図にエドが元来た道を走り出す





「サンキューな!」


「シグさん ボク達先に戻ります!」






佇んだそのままでオジさんと二人を見送る





「殺されんなよ!」


「努力しまーす!」


「死んだら骨は拾うからね〜」


「絶対しぶとく生き残ってやらぁ!!」









やがて二人の姿が見えなくなって
オジさんはボソリと呟いた







「…本当、大丈夫かなあいつら」


「大丈夫だと思いますよ?何だかんだ言って
二人とも悪運が強いから〜」


「かもな」





ため息をつきつつも その顔には
うっすらと笑みが浮かんでいた







言っておいて何だけど、私も多分
大丈夫なんじゃないかなーと思っている







あの"ケジメ"がオジさんの教えてくれた
意味の通りだったなら


二人はちゃんと師匠に許されているハズ





…ま、もしダメならダメで本当に骨を
拾っても面白いけどね







「そういえばオジさん」


「ん?何だ?」





ちょっとだけ先を歩いて 私は
オジさんへと顔を向けつつ言う





「帰りがてら、師匠との馴れ初めでも
話してくれませんか?」


「それは構わんが…どうしてだ?」


「個人的に気になっただけですよ〜ニャハハ」





その気持ちにはウソは無い


あの師匠とこのオジさんがどうやって
知り合って、結婚にまで至ったのかは
誰だって興味が尽きないだろうし!





あと……不用意に私の事を聞かれなくて済む
というメリットもある







一応事前に"記憶喪失"と語ってはいるけど


出来ることなら余計なツッコミ入れられて
痛くも無い腹探られる事態は避けたい







「そうか、イズミと初めて知り合ったのはな…」





やや嬉しそうに顔を緩ませながら、オジさんは
話しながら歩き始める







少し後ろにつきながら ゆっくりと





歩調を合わせつつ話を聞いていた……けど







「その時のイズミの顔がまた可愛くてな
あと、可愛いって言えば…」





ノンストップで語られ、次から次へと
移りながら繰り広げられるのは


ベッタベタに濃いラブストーリー


てゆうかぶっちゃけバカップルの惚気?





こういう話って…長く聞くとゲンナリすんだね







私はそこそこ体力がある方だから
表情にこそでないんだけども


流石にこれは飽きてくるなぁ〜







「それでイズミは…お、店に着いたな」


「お〜本当だ!」





言われてみれば、目の前にはお肉屋さんの看板が





「…何だかやけに嬉しそうだなちゃん」


「気のせいですよ、ニャハハ!」







笑って誤魔化しながら 明かりのもれる裏口へ







「ほらっ いつまで座ってんの!」


「はっはい!!」


「ありがとうございます!!」





ちょうどそこに正座する二人と、微笑む
師匠の姿が見えた





「ただいまイズミ」


「お〜…どうやら死んでなかったね」


「あらお帰りアンタ、それにちゃんも
随分遅かったじゃない」


「帰りがてらお二人の話を聞いてましたから」


「あら…何だか恥ずかしいわね」


「いいじゃないかイズミ、オレとお前の仲だ」


「アンタ…!」







強く抱き合う二人を見つめつつ、私は
エドとアルの方へと歩み寄る





「…それで、何か目処は立った?」


「お陰さまでな まずはアルの記憶を
取り戻す事になりそうだ」


「アルの記憶?」


「あの時の記憶は途切れてるって言ったろう?
兄さんによれば、"通行料"の量だと僕が
一番真理に近いからって」


「ははぁ〜確かにそこの記憶が戻れば
何か手がかりになるかもねぇ」





まぁなと言ってから、エドは師匠へ視線を
向けながらこう言う







「あと のナイフについての情報
少し探ってみようと思うんですけど」


「あ、もうジョーカーの事は話したんだ」


「うん…簡単にだけど」


「悪いんだけどちゃん、どんなものか
ちょっと見せてもらえる?」


「いいですよ…ただ 鞘からは
絶対に抜かないでくださいね」





ナップザックからジョーカーを取り出して
そっと、師匠の手へと乗せる





「ヤケに重たいわね…確かにこの錬成陣は
始めてみる図形……ゲゴフッ


「「師匠――――――!!」」





吐かれた血に塗れ、手から零れ落ちたナイフは
慌ててキャッチしました








――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:師匠との下りはこれにて終了です
次回からはグリードとか出てきて展開が進むと


エド:本当にかぁ?


アル:どこまで信用できるんだか…


狐狗狸:エドはともかくアルはそんな子に
育てた覚えないよ!?


エド:何でオレがともかくなんだ!?


アル:いや僕達、あなたに育てられた覚えないし


狐狗狸:まーそーだけど


グリード:それよりオレ様との絡みは
まだか?待ちくたびれてんだけど


狐狗狸:だから出番早ぇっての!!




次回、二人に迫る魔の手と…!?


様 読んでいただきありがとうございました!