決めた「正義」がどれほど重くとも
投げ出す事は許されない









〜第三十九話 負う決意は重く〜








「…大佐が何でまた?」


「後で聞いた話だと、僕らの評判を聞いて
勧誘しに来たらしいよ」





答えたアルの言葉に、師匠の手が上がる





待ちな 内乱があったとは言え
十歳ちょいのガキを勧誘に?」







ちょっとだけ二人が顔を見合わせてから





苦笑交じりにエドが口を開いた





「これも中尉から聞いたんだけど、どうやら
書類不備でオレ達三十代だと思われてたんだと」







三十代って…こんなドチビでちんちくりんの
どこをどう見たら三十代になるの?


ちょっとその時の書類が見たかったかも





「…何笑ってんだよ?」


「いやだってヒゲの生えたエドなんて
似合わない上に想像が…っ痛゛ぁーーー!


ヒゲとか言うな!虫唾が走」


怒鳴ったエドが次の瞬間、師匠にストレートを
顔面にお見舞いされて吹っ飛ぶ





「女の子を殴るなバカモンが!!」


「スイマセェェン…!」





やーいいい気味〜ニャハハ!









…とにかく二人に会う為に家へと入った大佐は


エド達の行った"禁忌"の後から
大方を察し、ウィンリィの家に駆け込んできた







「君達の家に行ったぞ なんだあの有様は!!
何を作った!!」








強く責め立てられても、その時の二人は
全て失った失意のどん底にいて





「ごめんなさい ごめんなさい」





ただ謝る事しか出来なかった







しばしの沈黙と互いの自己紹介とを終えてから
再び大佐が口にしたのは







―エドへの国家錬金術師の勧誘







「軍の要請には絶対服従の身になる訳ですが
一般人では手の届かぬ研究が可能になるのです


この子達が元の身体に戻る方法もあるいは…」







あくまで落ち着いた様子で語る大佐に対し


ばっちゃんとウィンリィは意見に否定的で





二人は何も言えず 黙って言葉を聞いていた







けれど、大佐は信念を持った口調で続ける





「ただ私は可能性を提示する!


このまま鎧の弟と絶望と共に一生を終えるか!
元に戻る可能性を求めて軍に頭を垂れるか!








最後に自分達へと視線を向けながら





「―決めるのは君達だ」





言ったこの言葉が、アルと…そして
エドの心にを点けた











「…正直、あの一言が無かったら
今のオレ達は無かったな」


「そうだね」







思い返す二人を見て、私も声に出さず思う





何だかんだ言いながらも 大佐は
二人の…エドの芯の強さを見抜いてたんだ


連絡先を渡したのも必ず来ると見越してだろう





やるじゃん大佐 ちょっと見直した









そしてエドは機械鎧の手術を受けて





「アル もう少しがまんしてくれな
オレが元の身体に戻してやる」


「うん…その時は兄さんの身体も
一緒にだよ」







三年かかると言われてたリハビリを一年で
済ませ、元の身体へ戻る決意をした







「へ〜ウィンリィもサポートするって
その時言ってたんだ〜」


「そうなんだよ、二人とも当時から
ずーっとケンカばっかりで」


ちょっコラアル!余計な事はいいっつの!」





顔を赤くしたエドを楽しげに見やり師匠も笑う





「いいじゃないか アンタもそーいう
青春っぽいやり取りがげふぁっ


「師匠ぇー!!」





わーこのタイミングで吐血って…面白っ☆







ちなみに、"真理"を見た為 エドは
錬成陣なしで錬金術が使えるようになったけど


アルは記憶が途切れていたからか


今でも陣なしでは術が使えないみたいだ









…とにかく何だかんだありながらも





リハビリを終え、エドは大佐の前に出向いて







「よう中佐」


「君がもたもたしてる間に大佐に
なってしまったぞ」







中央にて国家錬金術師の試験を受けた







「エド一人で大丈夫だったの?迷わなかった?」


お前、人をガキ扱いすんのも
いい加減にしとけっての」


「今だって十分ガキじゃないか、バカ弟子」


「イズミ…」







いたたまれない顔をしたエドを思い切り
笑っていると、見かねてアルが助け舟を出す





「兄さん、かなり勉強してたから心配して
なかったけど…試験がどんな様子かは
あんまり教えてくれなかったよね?」


「んー筆記とかは特に何も無かったけどな
実技の時に…」


「何かあったの?」





こくりと首を重々しく縦に振って





「オレが最年少の受験者だったからか
大総統が実技試験 見に来たんだよ





エドは試験場での話を始める…









集まった何人かのエラい軍人さんと大佐と
そして眼帯さんが佇む中





「錬成陣を描く道具は持ってるか?」


「いらないよ そんなもん」





端的に言って両手を合わせ、床に手を付けて


エドは床の素材から一振りの槍を錬成し





刹那、切っ先を眼帯さんへ向けて突進した







「っええええ!?そんな事したの兄さん!!」


「寸止めとは言え、よくその場面で
撃たれなかったね〜」


「まああの時はオレの実力を見てもらうのと
一番上に立つ奴がどんな相手か
試すつもりだったんだよね」





呆れた 命一個しかないのによくそんな
無謀な事やるよねぇ…







寸止めした後、勿論周囲の軍人さん達は
非難轟々だったけど


眼帯さんは流石に器が違うみたいで





切っ先を突きつけられても微動だにせず
その後も冷静に錬成の様子とエドの様子を
見据えていて







「ただ世界の広さを知らぬ」





エドに気付かれぬ早業で、下げたサーベルを
抜いて槍を斬っていたらしい







「うわ…本当に只者じゃなかったんだあのヒト」


「まあな あん時ゃビビったわー」


「いきなり大総統に槍なんて向けて、大佐も
すごくビックリしてたでしょ?」





アルに答える、私とエドの言葉は
期せずして重なった





「「まさか!」」







試験が終わり、談笑しつつも事の次第と
忠誠心云々を説いていた大佐に





「オレがあのおっさんに槍を向けた時…
大佐だけだぜ微動だにしなかったの」





エドはこう言い返すけれど


そこは大佐、涼しい顔をしながら





「君があの時閣下を亡き者にしてくれていたら
上の席が一つ空いたのにな」





と軍人っぽくない台詞を吐いたんだとか







「でもいい事聞いちゃったなー
上層部にチクってやろっかなー♪」





ちゃっかり強請るネタを手にし
ほくそ笑んでたエドは





「首根をつかまれているのは君の方だ」







逆に自分達の過去設けられた三つの制限
突きつけられて脅し返され







「私が君の過去を口外しなければ全て
丸く収まるという訳だ 変な気をおこすなよ」





軽やかに釘を刺され悔しい思いをしたんだそうな







「ニャハハハ、さっすが大佐〜
ズルさ加減じゃ負けてないねぇ」


「そればっかりはの意見に賛成したい」


「ちょっと二人とも…」







力強く頷くエドと笑う私を交互に見て
アルはただただ困っていた









合格した知らせを受け、執務室に座る
大佐の前に呼び出されたエドが





「大総統もずいぶん皮肉な銘をくれたものだな」


「何?」


「いや…おめでとう これで晴れて軍の狗だ」







机越しに受け取った封筒の中には証明書と
色々小難しい事の書かれた書類の束





「「大総統キング・ブラッドレイの名において
汝エドワード・エルリックに銘"鋼"を授ける…」


鋼?





証明書に書かれた冒頭の文字を読んでいたエドが
問うように出した言葉に





「そう…国家錬金術師に与えられる二つ名…
君が背負うその名は―」


大佐は机の上で指を組んだまま答えた





「鋼の錬金術師!」







落ちた沈黙は僅か一瞬





「いいねその重っ苦しい感じ
背負ってやろうじゃねーの!!





手にしていた書類を放り出しながら
エドはニヤリと笑った…







それから後戻り出来ない道を進む
決意の証明の為


二人は 生まれ育った家を燃やす







「…家が灰になるまでずっと、ウィンリィは
ボロボロ泣きっぱなしだったよ」


「君らの分も泣いてたんだよ きっと」





短くそれだけを言って、口を閉ざす









これで全ての話が終わり…席に座った
全員の間に、深い沈黙が訪れる







「…三丁目の通りに……」







ややあって言葉を発したのは師匠で







「……カンオケ屋があるから 自分の
サイズに会ったのを作って来い!!」






続けた言葉と共に鬼のような顔を、自分の
弟子二人に向けながら手をベキゴキ鳴らす





「「ひーーーーーーーーーーーー!!」」


「あーあこれでお別れかぁ、死んだら
花は供えに「「シャレになんないって!!」」





かつてない程の情けない顔に 私の顔は
もう笑顔で緩みっぱなしです


でもまぁ、結局それは冗談だそうで…ちぇ







「…あれほど人体錬成はやるなと言ったのに
師弟揃ってしょーもない…」


「やっぱり師匠も…」







少しだけ視線を下げ、自分のお腹を示すように
手の平を当てて師匠は呟く





内蔵をね あちこち持って行かれた
…大馬鹿者だよ、ほんとに」





席を立ち、師匠は二人の前に近づいてから
腕を組んで罵倒を続けまくってたけど


何でかそれに参加する気にはなれずに


黙ってやり取りを見つめている内







「……つらかったね」





最後の一言だけは 優しくささやかれた







「いや…自業自得ですし つらいとか
そういう気持ちは…」







戸惑うように言って顔を合わせた兄弟を







「このばかたれが 無理しなくていい」





師匠は両腕で、守るように抱きしめた







その身体に手を添え 泣きそうな声で
謝る二人を見つめながら


どうしてだか…私も切なくなった







切ない…?今までそんな事、一度だって
意識したつもりは無かったハズなのに







不意に 頭に重たい感触が生まれる


視線を上げるとオジさんが、無言で
私の頭を撫でてくれていた







「……ありがとう オジさん」








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:大佐と師匠のターンになってましたね
仕方ないとは言え…微妙に悩み所


ウィンリィ:あたしや中尉の台詞がバッサリ
カットってひどいじゃないの!!(スパナ装備)


中尉:…まったくね(銃構え)


狐狗狸:ゴメンなさい!物騒なエモノを
構えるのはナシの方向でお願いしますっっ!!


大佐:そうとも二人とも、淑女にそんな
危ないものは似合わないよ


狐狗狸:…出番あったからって上機嫌でまー
それよりシグさん さりげに優しいね


師匠:あら、ウチの旦那はいつだって優しいわよ


シグ:恥ずかしいじゃないか…(




次回 二人に下される決断と、新たな目的…!


様 読んでいただきありがとうございました!