一人の「正義」なんてのは、知らなきゃ
小さなものだと気付かない









〜第三十八話 知の探求の代償〜








「怪人ねぇ…死にかけた?」


バカいうな!んなトコで死にかけてたら
命が幾つあっても足りねぇっつの!!」





あーそっか 君らは私と違って一個しか
命ないモンねぇ〜





「僕ら、その時はどうにか逃げれたんだよ」







襲ってきた怪人をやり過ごし、本格的に
二人のサバイバル生活は始まったらしいけど





やっぱり最初はただの子供


捕れたウサギを殺せなかったり、魚を釣るのに
かなり苦労したり


度々乱入する怪人から逃げ回ったりと





半月ほどは生活に不自由し通しだったらしい







「何か分かるかも、私も旅の始めは
そんな生活してたし」


「そうなんだ…意外だなぁ だったら
何だかんだ言って自活力ありそうなのに」


「そこは君らと同じだよ…話の続きをどうぞ?」





振れば、即座にエドが口を開く







「帰ろうとせず島にい続けて二週間くらいかなぁ
…自分が何しに来てるのか、分かんなくなってきた」







飢えと渇きに苦しみながら





二人の頭の中には"自分が死んだらどうなるか"
ずっと駆け巡っていたようだ







「こんなの…錬金術と何の関係があるんだよ!!
もういやだ!!帰りたいよぉ!!」






雨の中でアルが初めて吐いた弱音は


そのままエドの心を映していた







容赦なく襲いかかる怪人に叩きのめされながらも





…それでも 二人は帰らなかった









倒れて動けなくなったエドの目に見えた
セミの死骸と群がるアリは


自分の末路に重なったらしい







そんな最中、エドの顔を見下ろすように
あの怪人がしゃがみ込んでいたと言う







「闘え」


「…殺したきゃ殺せ」


「死ぬのか?」





問われて…エドは初めて"死にたくない"
弱音を吐いた









「……まさかその後、あの怪人が焼いた魚を
オレ達に恵んでくれるとは思ってなかったな」


「へぇ〜いいトコあるじゃん怪人」


「僕ら 泣きながら魚を食べたもんね」







それから二人は少しずつサバイバルに慣れながら


錬金術としての何かを掴んでいった





「ここで死んだらどうなるって話したよな」


「うん…みんなが悲しむって」


「えーと…それは主観であってだな
客観的に見りゃオレが死んでも この世界は
何事も無かったように回り続けるんだよ」


「ちっぽけな存在だね」


「ちっさい言うな!!」









話の途中で、私は少し笑ってしまった





「そんな頃から背が小さいの気にしてたんだ
エドったら進歩しないね〜痛っ!





したら当然の如くエドの拳骨が飛んできた





「話の腰折るんじゃねぇ!!」


「ちょっと兄さん〜」





うぅ…覚えてろ〜







再開された話の内容で、難しい事は
あまり分からないけれども







死んだ後の肉体は沢山の要素が
合成されたモノでしかなくて


分解されて植物の栄養になるのが運命





けれどその植物で動物達が育って


それが巡り巡ることで、私達は
生きていられる事は分かった







「目には見えない大きな流れ―それを
「世界」と言うのか「宇宙」と言うのか
わかんないけど」







二人はその時に、理解した







「オレもアルもその大きい流れの中の
ほんの小さな一つ 全の中の一


「だけど その一が集まって全が存在する」


「この世は想像もつかない大きな法則に
従って流れている」


「その流れを知り 分解して再構築する…」


「「それが 錬金術」」









そこまで聞いて、私は思わず息をつく







「錬金術って…そんなに深いものだったんだ」


「そうよ、ちゃんも私も 大きな流れに
従って生きているの」


「なるほど…」





しみじみと呟く師匠の言葉にも重みがある







流れか…あの頃は分からなかったけれども
今なら、分かるような気がする











ついに約束の一ヶ月目、船でやって来た
師匠の前で 二人は言った







「「全」は世界!」


「「一」はオレ!」








自信満々に(特にエド)言い切った答えに





師匠はひとしきり笑った後、本修行に
入ることを約束した









喜び勇んで船に乗った直後に


島から出てきた怪人まで船に乗ってきた時と


その怪人の正体が従業員―あのお兄さんだと
知った二人はかなり呆気に取られたらしい







「それは驚くね、人は見かけによらないなぁ」


「朗らかに言わないでよ…僕ら本当
怖い思いしたんだから」





情けない声で言うアルに対し師匠は淡々と





「人の一生は短いのに、一ヶ月もムダに
出来るか 精神を鍛えるにはまず肉体から!」








…オジさんが何か言いたげな顔をしてるけど
面白いから無視の方向で☆







で、修行をつけてもらう事になって





「この島で死線をさまよったのに比べりゃ
どんな事だって天国だぜ!
もう怖い物なんて無ぇよ!!」






生意気にも口走ったエドに 師匠の容赦ない
裏拳が炸裂したんだとか







「…あの時はマジで死線越えたわ」


「そりゃー、師匠怒らせたら
そうなるの当たり前じゃん ニャハハ」


「師匠には敬語を使うのが当たり前だバカ弟子」







言葉を詰まらせるエドを助けるつもりか
アルが話を続ける





「それから僕ら、修行を終えて半年くらいに
リゼンブールに戻ったんだけどさ」


あれ?修行の話はしてくれないの?」







途端に二人は真っ青になって震えだす







「「…まさに地獄だった」」


「どんな風に〜?教えてよ〜」


「頼むから聞かないで!!」







全く口を割る様子が見られないから
修行をした本人に聞いてみる事に





「どういう修行をしたんですか?」


「いたって普通の修行よ、少し厳しめだけど」





あ、オジさんがクビを横に振ってる









…それはともかくとして 修行をして
大掛かりな錬成を出来るようになった二人でも





師匠みたく手を合わせるだけで錬成は出来なかった







…私には違いはわかんないんだけど







普通は錬成陣の円の力を…力の循環を利用して
そこに構築式を描いて術を発動させる





けれど師匠のそれには、円の力はあれど
構築式が見当たらない







「どうやったら出来るんですか?」


「…真理に辿り着けば出来るようになるかもね」





訊ねたアルに 師匠はそれだけ答えた







その謎がどうしても解けないと憤りながらも





よっし!
もう一回人体錬成の理論を組み立てるぞ!」





二人は地道に研究を進めて







「…早く母さんに会いたいな」


「うん」







長い時間をかけて…理論を完成させた











そして運命の日、家の中で







「母さんに会ったら 最初に何て言おう」


「決まってんだろ
「師匠にはだまっとて」だ!」







エドとアルは希望を胸に準備を進め 一緒に
人体錬成を始めた









「けど…オレ達を待っていたのは
望んでいた結果じゃなかった」







途中で様子がおかしいと気付いた二人の身体が





幾重にも伸びた黒い手に誘われるように
崩壊していった







「兄さん兄さん兄さん」


「アル―――――ッ!!」





そこで意識が一旦途切れ、エドだけは
ヘンな空間に出たと言った







「アルは…何も覚えてないの?」


「うん、気が付いたら鎧の中で
兄さんが血塗れで転がってて…」







それ以上追求しても何も出なさそうだし
私達は、エドの話に集中する









ヘンな木のようなモノが刻まれた扉の浮かぶ
ただただ真っ白な空間で





エドは"真理"と呼ばれる存在に会った







『ようこそ 身の程知らずのバカ野郎』







奴が言った瞬間、エドの後ろにあった扉から
大きな目と幾つもの黒い手が現れて


あっという間にエドを中へと飲み込んだ…





「そこでオレは…真理を、理解した
でも……代償はデカかった







言ってチラリと、左足に視線が走る







「それが、その左足?」







無言で頷いてから エドは先を続ける









戻ってきたエドを迎えたのは、出血と
激痛を訴え続ける左足


衣服を残して消えたアル


目の前の錬成陣で自分を見る
…母親と思って作り出したモノ






それが悶えて死んで 一人残されたエドが
絶望にさいなまれたのは、想像に難くない







「ちがう…こんなのを望んだんじゃない…
アル…オレのせいだ オレの…!







失った足に手近な布を縛って





壁に並んでいた鎧の一つを引き倒すと


中に自分の血で、錬成陣の印を描いた







「返せよ 弟なんだよ…足だろうが!
両腕だろうが!…心臓だろうがくれてやる」







天を仰いで祈るように強く





「だから!!返せよ!!
たった一人の弟なんだよ!!」






両手を合わせて エドはアルの魂を錬成した











「……そこからは知ってる、アルがエドを
ウィンリィの家に連れて行ったんだよね?」





リゼンブールで過ごしてた合間、私は
ちょっとだけその話を聞いていた







腕と足を失ったエドを抱えてアルが駆け込み


ばっちゃんとウィンリィが、エドに
機械鎧の腕と足をくっつけた…と







「そう…でもは知らないだろうね
兄さんが国家錬金術師になる事を決意したワケを」







確かに…どうしてワザワザ軍の狗
なることを決めたのか、私は知らない


無言でエドへ目を向ければ





「機械鎧をつける少し前に…リゼンブールに
大佐が尋ねてきたんだ」





静かに 重そうな口調でそう返された








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:がんばったけど、やっぱりもうちょい
回想は続きそうです…


エド:まぁ大佐に会うまでを収めた事は
評価してやる、ちょっとだけ


狐狗狸:ありがたき幸せ(平伏)


アル:にしても、ってこういう話の合いの手を
入れるタイミングが上手いよね


狐狗狸:空気は読めるからあの子…普段は敢えて
空気読まない行動するだけで


エド:うっわタチ悪っ!


狐狗狸:エド君に言えた台詞じゃないでしょー…




次回 大佐の来訪と、二人の決意と…


様 読んでいただきありがとうございました!