「正義」も「悪」も、隠し通せない
いつかは誰かが気付くから









〜第三十五話 回りだす歯車〜








「は〜い おじいちゃんですよ〜〜V





朝方医者を連れて戻ってきたおジイさんは
孫を見るなり ものすっごいデレ顔になった


うわぁ…これぞまーさーにジジバカ☆







「初産の立ち合いなんて 大人でも
びびっちゃうのに大したものだ」


「いえっもう必死で何がなんだか」





そんな謙遜しなくったっていーのに〜





「予定日通りに生まれてくれれば皆に
迷惑かけずに済んだのに この子ったら…」


「兄さんみたいなせっかちな人が
お腹に触ったから早く生まれてきちゃったんだ」


オレのせい!?だって触ってたろ!!」


「私せっかちじゃないもーん
だからエドのせい〜ニャハハ!」







ひたすら砕けた空気の中、おジイさんが畏まり







「本当に皆には…特に嬢ちゃんには世話になった」





ウィンリィへ身体を向けて 頭を下げた





「感謝する ありがとう!!」







恥ずかしそうにするウィンリィを囲んでいると


エドが何か悪巧みを思いつき
すすす、とおジイさんに詰め寄る





「どうでゲス社長 機嫌のよろしい所で
ひとつ弟子などとってみては「却下」


またもや瞬殺!案外しっかりしてる〜





「それとこれとは話が別だ、オレは弟子は取らん


それに嬢ちゃんにも家で待ってる家族がいるだろ
若ぇ女の子が心配かけさせちゃいけねぇ」







筋の通った意見に、ウィンリィが黙り込む







「とりつくシマも無しかよ!」


「でも、言ってる事は正しいよね」


「そうだね…リゼンブールに
ピナコばっちゃん一人に」





アルの言葉半ばでおジイさんが椅子から落ちた







「リゼンブールの……ピ…ピナコ……?」


「はい ピナコ・ロックベルは
あたしの祖母ですけど」





強面のおジイさんが、汗ダラダラで
思いっきり壁の方まで後退りする







「あの…ばっちゃんと何が「訊くな!!
古傷が裂ける!!」








どうやら昔かなーりアレな因縁があるみたいで


物凄く嫌そーな顔して震えまくってた





…機会があったらこっそり調べて
虐めてみるのも楽しそうだな〜ニャハハっ







とにかく!オレは弟子はとらねぇし
あの女の孫とわかったら余計おっかな…いやいや」





後の言葉を誤魔化すように咳払いしてから







「どうしても修行してえってーなら、ふもとの
腕のいい技師を紹介してやるからそこに行け」





ウィンリィの頭に手を置いて おジイさんは
少しぶっきらぼうにそう言った







仕事の見学も"孫の顔を見にたまになら"と許可し





「そっちの手癖の悪いはねっかえりも
改心したら一緒に来てもいいぞ」







後ろを向いたそのままで、パニーニャにも
言葉を投げかけていた







「素直じゃないでやんの」


「本当にね」











旧道を抜け、隣の街のサウスフッドから
ラッシュバレーへの馬車便がある事を教えてもらい







街の衆に橋の修理を頼むのと


ガーフィールって言う技師にウィンリィを
紹介する為 パニーニャも付き添って





私達は山道の旧道を越え





街を走る馬車をどうにか捕まえて、揺られながら
ラッシュバレーへと辿り着いた









「それじゃ私はウィンリィ案内してくるから」


オッケ〜また後で駅にて落ち合おう!」





電車が出るまでの時間、ウィンリィは
パニーニャの案内で技師に会いに行き







「っと、一応大佐の奴に電話しとくか」





エドが近くの公衆電話で東方司令部に電話を始める







「…アル 何かノド渇いちゃったから
飲み物買ってきてくれない?」





言って私はアルの手にジュース代を渡す





「え、うんいいけど…何がいい?


「適当なものでいいよ」







頷いてアルが駆けていった所で、ちょうど
電話も向こうに繋がったようだ





少し離れている上に周囲の雑踏があるけれど







『いいタイミングで電話をしてくれたな、鋼の』


「…そっちで何か情報が掴めたのか?」





集中すれば 二人の会話は筒抜け同然だった







『ああ…ちゃんの持っていたナイフについて
驚くべき事が判明した』







幾つか言葉が交わされる内、エドの顔に
動揺が走るのが見て取れる







時折 チラリとこちらへ向けられた視線


わざときょとんとした顔で受け止める







「…おう それじゃ」







電話を切ってエドが渋い顔をして近づく







「どうしたの?何か渋い顔して」


「……お前のナイフって」





面と向かって言い出しづらいのか言葉が止まる







「今更言い淀まなくても知ってるよ」





笑って、私は続きを引き継いだ





「このナイフ、イシュヴァールの内乱で
使用されていたいわくつきのモノなんでしょ?」



「どこでそれを…?」


「…軍の人がねー教えてくれたんだよね」







何とも言えない空気の中、鎧を鳴らして
アルがお使いから戻ってくる







「お待たせ〜…あれ?どうしたの兄さん」


「アル、お前にも聞いてもらいたい事がある
話してもいいよな…


「どうぞご自由に」









エドが大佐から聞いたのは、ジョーカーが
イシュヴァールで使われた兵器という事







数少ないそれらは絶大な力を持っていたが


使用者の生命力を奪う為、破損や紛失が
重なり 研究に携わった者達と共に
ナイフの行方が分からなくなってしまった事





けれど、僅かな手がかりから残るそれを
軍の一部が秘密裏に捜し求める事







「そんな…それじゃ、のそのナイフが…」


「私はよく分からなかったけど どうやら
そういう事だって言われたね」





驚きを隠せないアルに、苦笑交じりで答えてみせる







彼らは知らないだろうけど





このナイフが本格的に生み出され、実戦に
投入されたのは戦乱の最中







イシュヴァールで幾つか造られたのは
恐らく最後に使用されたものだ







けれど聞いての通りの経緯で


今では私が持っているジョーカーだけが
唯一残っている最後の兵器









「私の身元が不明なのも含めて、色々と
ヤな思いしたから黙ってたんだけど」







ナイフを両手で抱えながら





「まさかジョーカーを軍人に引き渡す…
なーんて、言わないよねぇ?」





私は二人へと訪ねた







口調は冗談っぽく、でも内心は本気









エドとアルは ゆっくりと首を振った





「ナイフを引き渡せなんて言わないし
今更 を疑うつもりは無いよ」


「ただ、そのナイフが造られた場所には
行くつもりだから覚悟しとけよ」


「アイアイっ!」







わざとらしく敬礼してみせたけれど





望んでいた答えは、思ったよりも嬉しかった







「にしても ナイフを研究していた人の
消息はいまだ掴めてないんだ…」


「したら師匠に会ってから、ダブリスで
ナイフの研究に携わってた研究者か錬金術師の
情報について聞き出してみるか」







悩む二人に、ウィンリィとパニーニャが
慌てたように駆けてくる





「ちょっと三人とも何やってんの!」


「もうそろそろ汽車が出る時間じゃないの?」


「「「あ」」」







危うくダブリス行きの汽車を逃しかけ







私達は慌てて走って 後ろに飛び乗る







「気をつけてね!」


お前もな!しっかり修行しろ…よっ!!」





見送りがてら後を追う二人へ返事を返し





エドもこっちへ飛び移った







「あのじじいからしっかり技術盗んで
次に会う時はもっといいやつ付けてくれよな!!」


「まかせといて!」


「それじゃまたねウィンリィ、パニーニャ!」


「気をつけてねーエド、アル、!」







駅のホームに佇む二人が見えなくなるまで





私達は、手を振り返していた











汽車に揺られ ダブリスへと辿り着き





エドとアルについてやって来たのは…お肉屋さん?







「とうとう 来ちまったなぁ…」


「うん…」


「……師匠…留守だといいなぁ!!


「うん!!」


「留守だと意味ないでしょ」


「お前は師匠の恐ろしさがわかんねぇから
そんな事が言えるんだよっ!!」






ガタガタ震えて真っ青な顔になった二人の後ろから





「へいらっしゃい!!」


「「ぎゃあ!!」」





威勢のいいお兄さんが声をかけ


比喩表現無しに飛び上がるエルリック兄弟





ニャハハハハハ、二人ともビビリすぎ!」







お兄さんはメイスンさんと言って





あっはっはー!すっかり大きくなって!」





顔見知りらしく、かなり豪快に笑いながら
エドの頭をバシバシ叩いた







「こっちの鎧の人は?」


「弟のアルフォンスです」


「……すっかり大きくなって…」







あ、対応に困ってる感じだコレ







「で、こっちのお嬢さんは?」


「この二人に被害に合わされて、旅をせざるを
得なくなったって言いまーす」


「嘘つけぇぇぇ!!逆だろ逆っ!!」





せっかく凝り固まった気持ちを
リラックスさせようと飛ばしたジョークなのに


拳で返すってひどくなーい?







ひとしきり笑った後、お兄さんが師匠の人を
呼んで来ると言ってくれた





ちょうどよかったね!イズミさんね
つい先日旅行から帰って来たばっかりなんだよ」







…二人とも、明らかに"旅行に行っててくれれば"
とか思ってるのバレバレだよその顔







お兄さんが店の中に引っ込んで





程なくして重たいような足音が近づき


入り口から血塗れの包丁、大きな足
そして厳ついオジさんの図体が現れる







「ど…どうもお久しぶり……です」





……もしかして、これが師匠?








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:どうにかこうにかダブリスに到着し
ここから物語が進展していきます


エド:何であんなナイフ持ってんだよ?


アル:そもそも大佐に報告する必要が
あったんですか?


狐狗狸:ナイフのワケはいずれ分かるよ
報告については…まぁ一応所在確認の為だと思う


二人:適当過ぎー…


メイスン:けど二人が女の子連れてくるとは
思わなかったなぁ〜いや驚いた!


狐狗狸:浮いた話が無いもんね 両方


二人:ヒデェ!!(涙)




師匠との対面、語られる二人の過去…


様 読んでいただきありがとうございました!