「正義」だなんて掲げて誇っても
結局 何も出来やしないんだ









〜第三十三話 重き壁に吼えねど〜








「強度を上げて それでいて軽くしたいんですけど」


「たしかにこいつの身体の割には重い機械鎧だな」







あの後、またもや大勢の前でパンツ一丁にされた
エドの機械鎧を調べながら おジイさんは言う





「装備者に負担がかかるのはよくねぇ
だからこいつ年の割りにちっせぇんじゃねぇのか?」


「ちっせ……いや待て!てことはもっと
軽いのにすればオレの身長伸びるのか!?





可能性がある、と言われた瞬間


エドは天にも昇らんくらい晴れやかな顔をしてた







「へぇ〜…装備品の重さでそんなに違うんだ」


「おうよ、素人にゃわからねぇかもしれんが
人間の身体は重力だの自重で常に過重かかってんだよ」


「身体の骨の間に入った軟骨は普段、その重さを
支えてるから 朝と夜では身長が違うって言うしね」


「えっ、マジで!?


「それに身体へ負担をかけた場合、それを支える為
成長に必要な栄養素そっちに使っちまうんだよ」







…流石は機械鎧技師のお二人 人体の仕組み
私なんかよりよっぽど理解してらっしゃる









瞳に決意を宿らせ、ウィンリィは頭を下げて





「ドミニクさん あたしを弟子にしてください!!」


「やなこった」





うっわ瞬殺…決断早すぎおジイちゃん


そこに身長を伸ばしたいエドからの横槍が飛び





「帰れ このみじんこ」





おジイさんが言い放った爆弾発言をきっかけに







「ドミニクさん お願いします!」


「弟子なんざいらん」





それからウィンリィとおジイさんの弟子問答と





「みっ…みじんこって言った みじんこって」


「エド うっさい!!」


「やーいやーいみじんこエド〜痛っ


「もっぺん言ったらまた殴るぞ!」


女の子に暴力振るいまくる国家錬金術師って
どーなのさ!パンツも穿いてないしサイテー!」





爆弾発言に騒ぎまわるパンツ一丁エドを
はやし立てる私とかの雑言が室内にしばし満ちた







でも老技師は首を縦には振らず
若メガネさんに諌められ





「「う〜〜〜〜〜〜〜〜〜」」







ダメ出しに帰れと言われ、未練や怒りに満ちた
二人と共に玄関までやって来た瞬間





ものすごい雷と豪雨が外で降り注いできた







「……帰れません」


「雨がやむまで うちでゆっくりして行きなさい」


「ニャハハ、それじゃお言葉に甘えましょーか」


 せめてもうちょっと遠慮しなよ…」





何言ってんの、好意は素直に受け取るのが
最大の礼儀なのよアルフォンス君♪











兄弟は作業し始めたおジイさんの所へ


サテラさんは台所へ引っ込み、残された
私達は部屋でのんびりと会話していた





話題は単純な世間話から、パニーニャが
機械鎧をつけた理由へとなだれ込む









小さな頃 列車事故に巻き込まれて
両足を無くしたのが発端らしい







「身寄りも無い上に歩けなくなったら
もう気分は「この世の終わり」って感じよね」







境遇とかは違うけれど、私も似たような立場に
置かれていたから 想像するのは容易い







この世の終わりかぁ…ちょっとだけ分かるよ」


「そう言えばも、記憶をなくして
一人で放浪してたんだっけね」





ウィンリィの言葉へ頷くと、パニーニャも
どこか納得したように私を見つめた







短いながらも地べたを這って生きて


世界に捨てられ、全てを拒絶していた時
初対面のおジイさんに連れてかれて





失った足の代わりを 着けてもらったらしい







「手術は痛いわリハビリはしんどいわで
最悪だったね!でも…」







語っていたその顔が、茶化すような
笑いからやわらかいものへと変わっていく







「また両足で立てた時は嬉しかったなぁ…」









希望と可能性をくれたおジイさんへの
恩返しのため、機械鎧の代金を払いに来ていると


苦笑交じりにパニーニャは言った







「機械鎧ってそんな高いんだ…」


「普通の義肢と違って使用者の意思で
動けるように精密な仕事が要求されるからね」


腕のいい人ほど、比例して値段も相当の
ものになるのよ?覚えといてね







って得意げに語られても私はこの先
機械鎧にする必要も可能性もないんだけどな…







「にしてもそれでスリやってたんだ」


「そー言う事 ナイフ盗んでゴメンね


「ニャハハ、いーのいーの気にしないで」







話は戻り、手に入れたお金を持って通うけれど





おジイさんはお金を絶対に受け取らず
逆に足の調子を見てくれたりするので


申し訳ない、とパニーニャは零した







「…ウィンリィ、眉間にしわ寄せてどしたの?」


「どうもこうも無いわよ パニーニャ」





名前を呼ばれてそちらを見るパニーニャへ







「本当にドミニクさんに感謝してるなら
スリなんてやめなさい!」






指差して、強い口調でウィンリィは言い放った







「スリ稼業でもやらなきゃ払いきれないし…」


「ドミニクさんが誠意でくれた両足よ
あんたも誠意で応えなきゃダメ!」







真剣な顔で問うウィンリィの言葉は





端で聞いている私にも、耳が痛いながら
納得のいく何かを持っていた







「エドならきっとこう言うわね
「等価交換だ」って!」








最後の一言に 自分の足をしげしげと見つめて







「…よし!スリはやめる!地道に働いて返そう!





納得したように言うと、パニーニャは笑った







誠意で応える事も等価交換、か
いい言葉だね ウィンリィ」


「何よその微笑みは?」


「ニャハ 何でもないよん」







折りよく説得により決意を新たにした
パニーニャがエドの銀時計の存在を思い出し


周囲の興味は私よりそちらに移った





「え!?あのちっさい子 国家資格なんて
持ってるのかい!?」



「人はみかけによらないねー」


「だよねぇ、パッと見怒りっぽいドチビだもん♪」







ウィンリィの手に渡されたそれを指差し





「これ フタが開かないんだよね
あいつかたくなに「開けるな」って言うだけで
中に何が入ってるのやら…」





言うパニーニャの言葉に、この場にいる
皆が中身へと興味を示し







「あたしの出番かしらね」





即座にウィンリィが不敵な笑みと共に
どこからか工具をズラリと出して準備万端!





さっすがウィンリィ!用意い〜ニャハハ!」


「あんたのそういうトコ好きよ」









よほど恥ずかしいモノなのか錬金術で
しっかりフタされていて苦労していたけど


ほどなくウィンリィの手によりフタが開いて―





「エドのお宝はいけーーーーーー……ん」







そこには ナイフか何かで彫り付けられた
文字と日にちが書かれているだけだった







"忘れるな" 11年10月3日…
何これこんだけ?なんの事かさっぱり…」







パニーニャと同じように 私にも
書かれた文字の意味は分からなかった





けれど ウィンリィの顔が泣きそうに歪み







過去の何かを示唆している、と気付いた









「これエドに返しといて」





パニーニャへ時計を手渡し 涙を拭うと







「も一回ドミニクさんに弟子入り
お願いしてくる!」






部屋を勢いよく出て行って


…さほど間を空けずに駆け戻ってきた





「リドルさん大変!!奥さんが!!」









私達が台所へと駆けつけると、そこには
苦しそうにへたり込むサテラさんの姿が







「生まれる……」







その上発せられた 衝撃的な一言
私達を混乱の最中へと誘った





殺す方面なら最早日常になってるけど


人が生まれる所に立ち会った経験なんて
生れ落ちてから一度として無いし!!


ってか私達にどうしろと!?







別の部屋にいた三人も集まったけど





「孫っ!孫が出る孫がっっ!!」





私達同様、てんてこ舞いで部屋の中を
あっちこっちうろつき回っていた







「落ち着いてちょうだいみんな」







苦しそうながらの奥さんの言葉に触発され





おジイさんが医者を連れてくる為
馬を走らせ出て行った







私達はサテラさんをベッドに寝かせ


苦しんでいる彼女へ励ましの言葉をかける







「だっ…大丈夫だよ親父がすぐ医者を
連れて来るから みんなもおちついて」





若メガネさんの言葉へ賛同するようにして
私達は徐々に落ち着きを取り戻しつつあった





「そっ…そそそそうですよね」


「ままま、まあそうだよね 周囲が
あわてても結局生むのはサテラさんだし」


の言う通りね、あわてたってしょうが……」







扉が開いて姿を現したのは


医者を呼びに行ったはずのおジイさん







「橋が…」













落雷の直撃で、あの頼りないボロ橋は根元が焼け





向こう側に長い残骸をぶら下げていた








「どうしよう…」


「どうもこうも!
こういう時こそオレの出番だろ!」








手を合わせ、エドが足元の地面を向こう側へ
伸ばして橋代わりにしようと試みる





けれど 錬成されたそれは途中でへし折れて


先は川へと落ちて飲み込まれた







「くっ…そぉ!!」





悔しげに拳を打ち付けるエド





「途中まで上手く行ってたのに」


「なんで途中でやめちゃうの!?」





私達の言葉に答えたのは アル





「…自重で落ちちゃうんだ」







向こうまでの橋を作るのに かなりの大質量を
錬成しなきゃいけないらしく





けれど橋を架けるまでに大きな質量の橋自体が


自分の重みに耐え切れず、折れてしまうらしい







「橋脚付きの橋を作ったら…」


「下は洪水だ 錬成途中で足元をすくわれるのが
オチだな、それに質量保存の法則もある」





質量保存が何かはよく分からなかったけど


何かを作る際は、それに見合っただけの
分量が必要だと言うのは何となく理解する





「だったら私がその辺の使えそうな土や
鉱石なんかをナイフで切り出して持って」


「一人が運んでくる量なんて限度があるだろ!」


、気持ちは嬉しいけど…」







雨の中 ずっと考え続けていたけれども
結局何もいい案は浮かばなくて







「…時間もねぇ まだ雷も鳴ってて危険だ」







淡々と宣言し おジイさんは、私達に
家へと戻りサテラさんを励ますよう告げ





旧道へと向けて馬を駆った









「…何が国家錬金術師だ 何が人間兵器だ
また肝心な時に…オレは無力だ…!!





俯くエドのその言葉は、私にも刺さった







人造人間…「正義」の罪…笑わせる


フタを開けてみれば、私だって
無力に等しいじゃないか





何でも切り裂けるナイフがあるのなら


どうにもならないこの状況や大きな山を
切り裂いて、道を作り出せよ…!














やり切れない気分を胸に戻った私達へ







ウィンリィ!!!!
どどどどどうしようサテラさんから
水がどばって水がっ」







慌てふためいたパニーニャが叫ぶ





「水!?」


「涙とかじゃなくて!?」







ウィンリィが言うには、破水って言って
いよいよ子供が生まれるサインらしきものだとか


…ええええ生まれるの!?こんな状況で!?







「どーすんだよ医者も間に合わねーのに!!」







切羽詰ったエドの声が、更にこの場の
混乱を高めていた





っあああああ!こうなればいっそ皆殺って
あるかもしれない天国で一緒に…


いやいやいや!それじゃ人柱も消さなきゃだし!







私らしくない とっ散らかった思考を
どうにか止めてくれたのは





他の三人の混乱を止めたのと同じ


服の後ろエリを引っ張ったウィンリィの手だった








――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:ちょっと展開が長くなりましたが
橋の下りは入れたかったので頑張りました


エド:の奴…!もう二三発ぶん殴ってくる


アル:兄さん 女の子殴るのはよしなって


狐狗狸:そーそー、下手したらアンテナ
刈られちゃうよってブフォッ!?


ウィンリィ:余計な事言うから…




彼女にとっても 忘れられない一夜が始まる…!


様 読んでいただきありがとうございました!