「正義」の価値を決める者達は
みんな、何者にも縛られず生まれてくる









〜第三十二話 山奥で触れる生〜








「初めて見るわこんな機械鎧!!」







両手に手枷をつけたパニーニャを噴水に座らせ


かなり興奮した様子でウィンリィが両足の
機械鎧を目で見て触れて







「武器を内蔵する為に徹底的に外装のスリム化が
されてるのね それでいてあの運動量と衝撃に
耐えられるだけの高度を」







かなり専門的過ぎるウンチクを披露





パニーニャは元より、エドとアルも呆然と
その言葉を流し聞きしている


ってーか別の方へ興味を逸らしまくってる







放って置いたらなんだか日が沈むまで
語ってそうだから そろそろストップかけとこ







「パニーニャの足の機械鎧って、とにかく
上級の職人技なんだね」





後半部分をわざとらしくない程度に強調すると







「あなたも機械鎧を理解出来るように
なって来たのね!!」






勢いよく振り返ったウィンリィに
キラキラした目で両手を掴まれ、ちょいビックリ





「ニャハハ、まーボチボチは
それよりもこれからどうするかを考えない?」


「そんなの決まってるじゃない」





ウィンリィは再びパニーニャへと向き直る





「ねぇパニーニャ!
この機械鎧を作った技師を教えて!」








…返答と共にこの子が言うには、技師は
結構へんぴな所に住んでいるとの事







「あたしが案内してあげるからさ
かわりに今日のスリの件は見逃してくれる?」


「「うん見逃しちゃう!」」





私とウィンリィはほぼ同時にサムズアップ







「待て――――――――――――い!!」





後の会話だけはちゃっかり聞こえてたらしく
エドが後ろから割って入ってきた







「勝手に決めんなよウィンリィ!!
こいつは憲兵に突き出すに決まってんだろ!」


「なによ スリのひとつやふたつ
肝っ玉のちっさい男ね」


ちっさい言うな!
っ、お前だってナイフ取られたろ!」


「まーね でも無事に戻ってきたし
面白いもんも見れたからチャラってことで」


「おーお姉さん話が分かるね〜!」





パニーニャと意気投合する私に、助け舟が
失敗した事を悟り 身もだえするエド





っだぁぁ役立たねぇ!だいたい街中を
こんなにしといてだなぁ…」







言って指差す先には……不機嫌そうな
街の人々が団体さんでご到着している





「わしの店をこんなにしたのは兄ちゃんかい?」


「うちの屋根も」


「オレん家のエントツ」





あーらら、エドったら汗ダクダク流しちゃって
ほんっと面白〜い♪





「ほらほら 目撃者も証拠物件もあるんだし
諦めて街の人達に奉仕してきなよ〜」


「お前も暴れまわったんだし手伝え


「私は破壊に加担してないもーん」


「僕が手伝うよ兄さん、ウィンリィと
その子を見張ってて」









男二人が街中を修復して戻ってくる頃には







「へ〜、そんな距離あるんだ〜」


「そうなんだ けっこう山の中まで歩くから
身軽な方がいいよお二人さん」


「じゃあ荷物は宿に預けといた方がいいわよね」


「したら私も中身を最低限減らそっかな」





枷を解いて、女三人での会話が盛り上がってました







「聞け――――――――――――――!!」







メチャメチャ不満そうなエドはオール無視









こうして、直射日光が降り注ぐ中





切り立った崖で出来たような山を
超える事となりまして







        「なんでオレがこんな山奥まで
  付き合わされなきゃなんねーんだー!!」






息を切らしながらのエドの叫びが
山中で木霊したのでした☆







「しょうがないじゃん、整備士の人が
山奥に住んでるんだから」







へんぴな土地に住む理由は、山を歩く
道すがら パニーニャが教えてくれた





…なんでも機械鎧に使う良質な鉱石が
出るから山奥に工房を構えていて


あとは単に人嫌いで無愛想だから
街には住みたくないんだそうな







「物好きっていうか、偏屈な人だね〜」


、人格で機械鎧を作るわけじゃ
ないのよ 肝心なのはその腕前と心意気よ!」



「そ、そうだねウィンリィ ゴメンゴメン」





ドアップで力説されて、ちょっと引きつつ謝る


うーん…さすが機械鎧オタク 並々ならぬ
こだわりと情熱が少し恐いよ







「それよりもオレの時計!早く返せよ!」





肩で息をしながらもパニーニャを睨みつけて
何度目かの台詞を繰り返すエド





「整備士の所まで案内したらスリの件は
見逃すって約束だからね
約束を破らないように人質V





そーそー、到着したら帰ってくるから
キリキリ目的地まで歩きなさいって







「…その約束したの オレじゃねぇっつーの…」





不機嫌そうな呟きと私やウィンリィに
向けられた視線は気にしない事にする









遥か下方で轟々と流れる川の音を耳にしつつ


険しい山道を案内で超え、オンボロのつり橋を
渡り終え エドとウィンリィがへたばってきた頃







「見えて来たよ!あれ!」







開けた向こう側の視界には、そこそこの大きさの
建物や発電施設みたいなモノがあって





金属同士がぶつかる独特の音が 木霊して
この辺りまで響いてきた





「あぁ…あれが…!あともう少し…!!


「ニャハハ 大丈夫だよウィンリィ
整備士の人も工房も逃げたりしないって」


「…パニーニャはともかく、何で
ここまでで息一つ切らしてないの?」


「だよねぇ あたしもちょっと驚いたよ」





顔を見合わせるアルとパニーニャに
私は自慢げに笑ってみせる





「これでも体力には自信があるんだ〜♪」


「汗ひと…かかな…バケモンか…」


「ニャハハ エドったら
男のクセになっさけな〜い」











建物の方に案内されて、中から顔を出したのは
メガネをかけた若い整備士さん







「今日はお客さんを連れて来たよ」


「へえ機械鎧の注文かな…ってうわ
でっか!!ちっさ!!





禁句に速効で反応し始めたエドを
すかさず抑えるアル





「ニャハハ〜おじさん、初対面でこの金豆
背丈関連の発言は控えたげてください」


ごるぁぁぁ!後で覚えてやがるぇあ!」







暴れまわるエドに構う事無く パニーニャは
私達とウィンリィの紹介をする





ドミニクさんの機械鎧に興味があるんだって」


「珍しいね こんな若い女の子が
機械鎧になんて…」


「あらパニーニャ
今日はお友達を連れて来たの?」





奥から、お腹の大きな妊婦さんが顔を出す





「サテラさん こんちわっ」





挨拶の声に続いて 私やウィンリィ達も
無言のまま会釈をする







「ちょうどよかった
今 お茶にしようと思ってたのよ」


「みんな一緒にどうだ」





わー嬉しいな〜、ずっと歩き通しで
喉も渇いたし小腹も空いてたんだよね


…って、あれ?何でこんなフレンドリー?







「この人がドミニクさん?
ぜんぜん無愛想じゃないけど…」


「ねー、街にも馴染めそうな人に見えるよ」





若メガネさんを差しつつ、ウィンリィと私は
パニーニャに訊ねると







「あはは ちがうよ二人ともー」





笑いながら、問いかけはあっさり否定される







すぐに若メガネさんから 自分は息子のリドル
妊婦さんのサテラは、奥さんと紹介され







「無愛想なのはオレの親父のドミニクだよ」







もっと奥の作業場で、ひたすらずっと
金属音を響かせていた





厳しい面構えで鉄板睨む やたらと
ガタイのいいおジイさんの姿を披露してくれた







パニーニャとの会話を軽くあしらっていた
おジイさんは、サテラさんの言葉で
ようやくカナヅチを止めて外へと出る









振舞われたお茶をご馳走になってから







「カルバリン砲ってのはな 男のロマンだ」





おジイさんとウィンリィが機械鎧について
語り始めたのを見て 席を立つ







アッチに残ると話題的に取り残されそうだ
直感したんだよね〜


…現にパニーニャは取り残されてるし





で、私はエドやアルと一緒にご夫婦の方へ







「あと 半月程で生まれるんだよ」


「さすがに重くてしんどいわねぇ」







私も滅多には見なかったんだけど、二人は
初めて妊婦さんを見るようで興奮していた







「触ってみてもいいかな!?」


「ふふ どうぞ」







サテラさんの了承を得て、エドが恐る恐る
左手でそのお腹へと触れる





「お〜すげ〜〜〜
なんかよくわかんないけどすげ〜〜〜」



「あ、エドずるーい 私にも触らせてよ〜」


「「元気に生まれて来てね」って
願いながら触ってあげてね」







ゆっくりと乗せたその手の平に


微かな振動と 温もりが伝わるのが分かった







「赤ちゃんは母親の中で200日過ごして
生まれてくるんだって」


「本当に不思議ね 誰も教えてないのに
きっかり200日たつと出てきちゃうのよ


小さくても ちゃんと意思を持った命なのね







その言葉に、自然と私とエドは
笑みを浮かべていた気がする









…私も こんな風にして生まれたのかな?





母さんは、生まれてくる私を


この人みたいに優しい笑顔で待ってたのかな…












「エド〜V」





不意に呼ぶウィンリィの声に釣られ
エドと共に そちらへ首を向ける







ニコニコと手招きするウィンリィに


"やな予感"と言いたさ抜群の顔をする
エドが、ひたすら面白展開を予感させた








――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:やたら長くお待たせしてスイマセンでした


エド:長ぇよ!もうすぐ鋼が再アニメ化
するってのに何やってんだよ!


狐狗狸:こっちだって書く展開が長く浮かばずに
てんてこ舞うときだってあるんじゃチクショー!


エド:知るか!アニメ始まってそっちにまで
追い越されて一人で泣きながら夜酒しやがれ!


アル:まぁまぁ二人とも…


ウィンリィ:でもって見かけによらずタフね
山道でも息切れてなかったもん


アル:いつも笑ってたから気にしてなかったけど
ってあのナイフを持ち歩いて
ずっと、僕らと旅してたんだよね…?


エド:…本気でバケモンか?てーかだけ
木のまたから生まれたんじゃねぇよな?


狐狗狸:あながち間違いではないです


三人:!?




雨で足止めを喰らう中、奥さんに危機が…!


様 読んでいただきありがとうございました!