「正義」ともあろう私がまさか
愛用の武器を盗られるとは…マズったわ









〜第三十一話 屋根上の追跡劇〜








「やられたな兄ちゃん達」


「そりゃきっとパニーニャだね 観光客を
カモにしてるスリだよ」


近くにいた技師のオッチャン二人の言葉に
エドとアルが声を揃えて頭を抱える





「うーん…中々合理的だねぇ」


「感心してる場合じゃないでしょ!」





確かに、私もジョーカーをスラれてるワケだから
あんまり他人事じゃないんだよね





「ねーオジサマ、そのスリの行きつけの店とか
分かるかな?」


頼むよ!大事なものなんだ!」


「教えてやってもいいがその代わり…」


「兄ちゃんの機械鎧 じっくり見せてV





瞬時にエドが錬成した腕の刃先を
オッチャン二人に突きつけました







西通りの裏路地にある、グロッツと言う名の
怪しい古物商に入り浸る事を聞き


ウィンリィには少しこの場で待っててもらい





私達三人で その場所まで突っ走る







あーヤッバイなぁ、売られてなきゃ
いいけどジョーカー あと時計」


「オレの時計がついでかよっ!!」


もウィンリィと一緒に
待っててくれてもよかったのに」





訊ねられ、私は苦笑交じりに答える





「やっぱり自分の品ぐらい自分で
取り戻さないとね♪」





別に二人の腕を信用してないわけとかじゃ
無いんだけど


あのナイフも厄介なワケがあるから


他者の手に渡るのだけは避けなきゃマズイ







店が近づくと共に、微かに声が聞こえる





「……フタが開かんな」


「それどころか動いても…」





内容から察するにまだ商談途中みたい







「ネジ巻いて……あ、そだこのナイフで」





ヤバイ!ナイフが鞘から抜かれる!!







私とエドは同時にドアを開け放ち





「「動かすな!!」」





叫んで、中にいる相手の動きを止めさせる


…っしゃまだ鞘から抜かれてない、セーフ







「あれ?よくここが分かったね」





言って笑うは 身軽そうな服の褐色の女の子





「あんたがパニーニャだね?
悪い事は言わないからそのナイフを」


指し示しつつ言う私を無視し





「野郎…じゃねぇ この女…」


あ、こらエド!まだ私の言葉が途中」


エドがパニーニャに近づいていこうとする





パニーニャは器用にも足で近くのツボを拾うと





「ほい 兄ちゃんパス!!」


店主の絶叫と同時に80万する(らしい)
ツボをエドへとシュートした





「うおお!?」





おーナイスキャッチ!って感心してる
合間に パニーニャが窓から逃げる





「あっ…待てコラァ!!


「ニャハハ そんなツボ放っておけば
よかったのに〜」


ざっっけんな!80万なんて出せるか!!」





ツボを店主のハゲ頭へと置き直し





「追うぞアル!!」


「わかった兄さん!!」


「ガッテン承知!」





私達は店から外へと飛び出し、パニーニャを
追いかけ始めた







はあっちから追え!アルは向こうから!
三人で挟み撃ちにすんぞ!!」






エドのその言葉に頷き、お互いが散って







屋根の上や路地の下を駆けずり回るが







「待てコラァァァ!」


「嫌なこった〜」


「止まって…ってあ!?


「ざーんねんハズレ!」


ウニャ!?私のトラップが避けられた!!」


「まだまだ甘いよ〜?」







後ろから追うエドや、行く手を遮る
アル 更に私のトラップを軽やかに交わし





パニーニャは笑いながら逃げ回る









うー…結構手強い





このまま追いかけ回せば、体力が減って
捕まえられるとは思うけど





そうなる前にどこかに撒かれちゃって


ナイフが鞘から抜かれたり、或いは
誰かに売っ払われたら大変よろしくない







「待 ち や が れええええええ!!」


「しつこいなぁもう」





太いパイプの上をエドとパニーニャの
二人が全力疾走し


流れで降りてきた本人を、アルが
袋小路へと追い込んでいく







「追いつめた!!」


「アル でかした!」





所がどっこい、パニーニャは足を
踏み込んで あっさり壁を飛び越えた





「軽業師かよ!?」


「おっどろいた〜 二人とも、私は
裏の方から回るからそっち頼むよ!」


「任せたよ兄さん!


「おう!」





アルが壁に背をつけ、その手と肩を
踏み台にエドも壁を越える





私はきびすを返して反対側へ







「のぉぉぉぉぉぉ〜……」





さっきの場所からエドのらしい
もっそい悲鳴と犬の吼え声が聞こえるが


アルが何とかするだろうし無視☆





…こんな状況でなければ、真っ先
そっちを見に行ってたんだけどなぁ









駆けて行く足音と、見える姿を頼りに





私は 街の路地を迂回する







あっちは気付いてないみたいだけど……


思った通り、段々動きが鈍ってきてる







「っあれ?何か このナイフ
どんどん重くなってない??


「それ以上重くならない内に
私に返した方がいいと思うよ?」






建物の屋上に飛び上がりながら
ナイフを見やったパニーニャへ


目の前に現れた私は笑って言った





「あっれ、あたしの庭でもう先回りされるなんて
お姉さん何気にスゴくない?」


路地を走り回るのには自信あるんだ♪」





デタラメ人間になる前もなってからも
半生はそれで生きてきたようなもんだし〜







「さぁ、観念してナイフを…返してっ!





粘着系トラップを投げながら距離を詰めるが







「おっとぉ!」





両足を屈めて跳躍し、パニーニャは
私の後ろへと降り立つ


…ふっふー 私の手はそれだけじゃない!





「特製火薬トラップ10連コンボ発動!!」





振り向き様に仕掛けを発動させると


流石に立て続けの時間差で、それは
避け切れなかったらしく





「あっ、しまった!」





パニーニャの手から ジョーカーが零れ落ちる







路地の方へと落下していくナイフを





「おい!そいつ逃が…っと!





ちょうど駆けてきてたエドが勢いでキャッチ





「再びナーイスキャッチ!それ抜いちゃダメだよ!」


「え!?ってあー!また逃げやがった!!
逃がすなって言ったろ!!」


「どうせすぐ見つかるし、
今はジョーカーのが大事なの!」





言いながらカギ爪ロープを取り出して
近くに引っ掛け 急いで私は下へと降りる





けれど好奇心に勝てなかったのか、エドが
柄と鞘に手をかけ 横へずらす


ジョーカーの刃が、鞘から少し零れ―





「…ぐっ!?」





途端 エドは苦悶の表情でヒザをつく







「兄さん!?」





慌ててアルが向こうから駆けてくる







マズイ あのままだとエドとアルの体力が
全部持ってかれる








「ジョーカーに触らないで!」





伸ばしたアルの手を牽制し、ようやくエドの側に
たどり着いた私は その手からナイフを奪うと


ズレた刀身を鞘に収め直し 袋へしまう





「も〜ナイフ抜いちゃダメって言ったでしょ?」


「っは…おいこのナイフは一体」





息の上がったエドの口に指を当てて







「ナイフ受け取ってくれてありがと
次は銀時計を取り返さなきゃね」





ニッコリ笑って 私はそれ以上の質問を
シャットアウトした









使用者の意思を通じ、万物を切断する
無敵の切れ味の対価として


このナイフは、持ち主の生命力を奪う





鞘から抜いてない普段の状態でさえ
ちょっとずつ体力を削るためか





大抵の人間はすぐに息切れしたり
ナイフをすごく重く感じる







…私はデタラメ人間の中でも特に
心肺機能が強いタイプだったみたいで





だから今の所、一番長くこのナイフを
使っている持ち主となってはいる









「にしても困ったねぇ…あんなに素早い子
どうやって捕まえよう」





頭を掻きつつ呟くアルへ エドは目に
怒りの炎を宿しながら言った





「埒が明かねぇぇ…アル、
こうなりゃ罠張ってあの女を追い込むぞ!」










それからエド発案のパニーニャ捕獲作戦
したがって、私達は所定位置に待機する





もちろん途中で ウィンリィも拾って







「うっわ〜…エド、メチャメチャ派手
暴れまわって追い込んでるねぇ」





上の方で巻き起こるすさまじい破壊音もろもろ
私はそれくらいしか言えなかった







「エドもそうだけど…うわーすっごい運動能力
サルみたいよあの女の子」





望遠鏡片手にウィンリィがもらす







うまくここに来るのかアルと懸念してたけど
…心配は無用でした







「うっわー何アレ オリ?


「…どうやら追い詰めたっぽいね
僕も念のため 準備しとこう」





待機してる場所の目の前にある店の上空で
オリが出来上がってゆくのを見て





アルが地面に描いた大きめの錬成陣の前へ立ち
私達二人も、陣の外側へ離れる







「…あ、出てきた」





もうもうと土煙が立ち上がる店から
何食わぬ顔で出てきたパニーニャに





「待ってたよ」


アルは早速錬成陣を発動させ
鳥かごのようなオリへ閉じ込めた





「「お見事!」」





思わず口をついて出た言葉は
ウィンリィとハモった









「へっへっへ 観念しやがれこのアマ!」





肩で息しながらエドがメチャメチャ
悪役くさいセリフでオリに近づく







けど、パニーニャはさして慌てずに


右足を思い切り振り上げ 次の瞬間





オリの格子が切り裂かれた





「うっわ 足機械鎧だったんだ!


「珍しくもないでしょ こんな街なんだし
ちなみに左足には1.5インチカルバリン砲が」





言いながら砲弾を発射する


おぉぉ〜!面白っ 流石機械鎧技師の聖地!!







感心している合間に、呆けてエドとアルを
置き去りにしてパニーニャが逃げ出す





「あっ…待て!!


「へっへー捕まえてごらん」







振り返りながら笑うドロボウさんの右腕を





真っ先に追いついたウィンリィが掴む





「逃げようったってそうはいかないわよ」


「う…」





いつの間に動いてたのかは知らないけど
ナイス判断、ウィンリィ!!







戸惑うパニーニャへ 私達も接近する





「でかしたウィンリィ!!
その盗っ人はなすんじゃねーぞ!!」



「ええ…はなすもんですか」







ふふふと笑ってから、ウィンリィが
掴んでいた手を両手で包み





「その機械鎧 もっとよく
見せてくれるまではなさないV」






乙女の顔でそう言ったので


兄弟二人は思わずズッこけたのでしたw








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:えー、ちょっと長めになりましたが
追跡劇の下りは書ききりました


エド:オィ かなりやっつけだろコレ!


狐狗狸:やっつけ言うな!こっちはホコリに
むせる中、これを書き上げたんだし!!


ウィンリィ:それ内輪の話じゃん…


アル:あのの一括はちょっと怖かった…
兄さんも急にへたり込んだし


エド:見たことない錬成陣で気になって鞘を
ズラしただけで急に身体の力が抜けやがった

……本当 何だよあのナイフ!


狐狗狸:それはここじゃちょっと…(汗)




次回 彼女の案内で山奥の技師一家を尋ね…


様 読んでいただきありがとうございました!