「正義」の私にこういう人の妙縁が
あるだなんて…って思うと不思議だ









〜第三十話 にわか谷での珍事件〜








「なんでまた急に師匠の所へ
行こうとなんて思ったの?」


「理由は二つ」







もう一度問いかけるウィンリィに、エドが
指をブイサインみたくして言う







「ここ最近どうにも負けっぱなしでよ
とにかく強くなりたいと思ったのがひとつ」


「あんたらケンカ馬鹿?」


「にしか聞こえないよね今の発言〜」


「ばっきゃろー!
そんな単純なもんじゃねぇや!!」






くわっと目を見開いて叫んでから





「なんて言うかこう…ケンカだけじゃなくて
中身もって言うか…」


「そうそう」





言って、二人はそれぞれ言葉を紡ぐ







…ああそうか、病院で言った誓いを
貫きたいわけか







ウィンリィも二人の言葉に納得したようだ







「……ふたつめは?」


「人体錬成について師匠に訊く事!」







どうやら二人の師匠は 人柱クラス
実力者でありながら


賢者の石や人体錬成については
教えてはいなかったらしい事が





二人の話からは伺えた







「もうなりふりかまってらんねーや
師匠にぶっ殺される覚悟で訊いて…訊いて…」







エドの言葉が後ろの方で尻すぼみになったと
思った 次の瞬間





「短い人生だったなぁアル〜」


「せめて彼女だけでも
作っておきたかったよ兄さん…!!」






暗いオーラを生み出し、二人して
泣き出してしまいました







そんなエドとアルを見かねてか


ウィンリィが何かを思いついて
持ってた自前のカバンをゴソゴソと探り




「じゃーん アップルパイだよーーー♪





中から、大きなアップルパイの入った箱を出した







「おっ美味そう どうしたんだこれ」


「ウィンリィが作ったとか?」





私達の問いかけに、ウィンリィは首を横に振る





「「途中で食べなさい」ってヒューズさんの
奥さんが作ってくれたの」







そうなんだーでも…





「それにしても多いな」





考える事は同じなのか、エドが私より
先に口を開いたのだった





「あはは 4人分作ってくれたみたいよ」







4人…アルと私の分も勘定されてるんだ







「僕の分も食べなよね兄さん」


う゛!!病院での仕返しかてめ このヤロー」





ケタケタと笑いあいながら、一切れずつ
パイを取って口に含む







なんだか 温かい感じの味で、美味しかった







「ヒューズさんの奥さんね すっごい料理上手
なんだよ 作り方教えてもらったから
アルが元の身体に戻ったら焼いてあげるね」





嬉しそうに万歳するアルの真向かいで
パイを頬張り しみじみ呟くエド





「…こういうのも「おふくろの味」って
言うのかねぇ」


「兄さん年寄りくさい」


「ニャハハハ やーい若年寄〜♪」





言葉に便乗して怒られて、そんな一幕を
繰り広げてから ウィンリィが言う





「ヒューズさんも奥さんも
エリシアちゃんも すごくいい人だった」


「中佐って親バカで世話好きで
うっとーしいんだよなー」


「いっつも病室に兄さんをからかいに
来てたよね とも波長合ってたし」


「そーそー あそこまでノリのいい
大人は初めて会ったかも!」







忙しい、とか言いながらも エドの見舞いに
ちょくちょく顔を出してたメガネさん





エドの方も、なんだかんだ言いながら
結構感謝はしていたみたい







「―――今度 中央に行ったら
何か礼しなきゃな…」



「そうだねぇ、また会いたいね」







昨日の夜見えた不可思議な現象を振り切り





中央で働くメガネさんの姿を思い出していた













キャ〜〜〜Vステキ〜〜〜〜〜V


この機械鎧!!ゴッズの11年モデル!!
まさか この目で拝める日が来るなんてぇ〜V」







ラッシュバレーの駅を降りて早々、


ウィンリィが辺りの景色やら ウィンドウに
並ぶ機械鎧に目を奪われまくっていて





「…ウィンリィ すごい張り切ってるね」


「分かりきった事だろ、アイツ
生粋の機械鎧オタクなんだから」


「列車の中でも待ち遠しそうにしてたもんね…」





私達は 道を歩きながら、ちょっと
引き気味にそれを見ている







この街はイシュヴァールの内乱の際
義肢技術を発達させて急速に大きくなった
「にわか景気の谷」らしい


…なるほど、通りで見覚えの無いハズだ







「機械鎧技師の聖地」とも言われているわね」


「本当だ 機械鎧だらけだね」







確かに 見渡す限りだけでも機械鎧の店や
ジャンク店がやたらと目に入る







あ、あの写真の奴 なんか見覚えが…





「すげー!51連勝!!」


「勝てねーよあんなの!!」







ものすごい歓声につられて目を向ければ


結構な人垣に囲まれて、一組のテーブルの
片側に座る機械鎧のデッカイおっさんが







「機械鎧装備者限定の腕相撲だよ!」





賭け金は一万センズで、あのおっさんに勝てたら
テーブルの上のお金は総取りだとか


それに釣られたらしく





よっしゃ!オレがやる!」





意気揚々と出てきたおニイさんだったけど
開始と共に、すぐさま機械鎧を潰された







「新品つったっけか?
悪ィな 廃品回収に出しといてやるよ


「そんなぁ〜〜〜〜〜〜〜〜」







嘆いている暇も有らばこそ、いつの間にか
後ろにいた整備士のオッちゃん達が





「腕壊れたね!?」


「腕を作るならうちで!!」


「分割オッケイよ!!」






エドの言う通りハイエナのようにたかりまくり


あっという間におニイさんはどこかへ
連れて行かれました…うーん、面白っ









「そこのでかくて強そうなお兄さん!
どうだい ひと勝負!」


僕!?ダメダメ!やりません!!」


「やればいいのに〜結構イイ勝負
しそうだと思うけどなぁ」


「冗談やめてよ!あんな人と戦ったら
僕の腕が壊れちゃうよっ!!」







ささやき合う間も、おじさんはエドの方へ
近寄るけども…すぐ額に手を当ておどけながら





「おう失礼!こんな豆坊ちゃんじゃ
元から勝負にならないね!!」






ありゃりゃー 禁句言っちゃったよオジサン


周囲の人達が笑う中、アルとウィンリィの
二人だけは笑ってなかった







鬼のような顔をしたエドが テーブルに
両手を突いてデカブツの前に立つ





「ちょっとエド!いくらなんでも
勝てる訳ないでしょ!!止め」






ウィンリィの制止の声を、私は押しとどめる





「やらしときなよウィンリィ」


「ちょっと…っ!」







真っ向から力で挑むほどエドもバカじゃない





何らかの策があるのか 何にしても…
とにかく、成り行きが面白ければヨシ!







二人が腕を組んで 開始の合図が響いた瞬間


振り下ろした腕が、機械鎧をもぎ壊す







「悪ィね 今日は廃品回収が大忙しだ」







周囲が唖然とする中 エドがデカブツの
機械鎧を握り潰しながら笑った









そのままハイエナにたかられるデカブツを
余裕そうに見ているエドを尻目に
テーブルの上の賭け金を回収回収♪







「…何やったの?」


「錬金術で相手の腕をもろい物質に
作り変えたの」





ほほぅ、そんなやり方もあったんだー
てゆうか流石アル よく見てますな〜







「ずるーい」


「うわははは聞こえんなぁ!!」


「さっすが稀代の国家錬金術師様は
詐欺のレベルも違うねぇ〜」


作戦だっつの、人聞きの悪い」





なぁんだ、やっぱり聞こえてるんじゃない
エドったらホント悪人〜







君!ここらじゃ見ない形の機械鎧だね」





一人の上げた声を皮切りに、エドを中心に
ワラワラと整備士の人たちが集まり





人並みに揉みくちゃにされる中







「え?左足も機械鎧?」


「見せろ見せろ!!」


「足出せ!」


「面倒くせぇなズボン脱げや小僧!!」








たちまちオジサン達にエドはひん剥かれ
パンツ一丁の寒々しい姿になりました☆









「さっすが聖地とよばれる街ね!
みんな研究熱心だわ!」



「まー確かに熱心だよねぇ」





納得するウィンリィの後ろでエドが
現状を激しく憤っております 愉快愉快♪





「大通りでパンツ一丁になった国家錬金術師なんて
そうそういないよ兄さん!」


「ああそうですね フンドシ一丁の
アルフォンス君!」



「あ、ホントだ アルったらフンドシ一丁〜」


までそんな事言わないでよっ
フンドシとちがうやーい!」







ショックを受けてしゃがみ込むアルを
しばらくからかっていたけれど、





苛立ち混じりでズボンをはいたエドが


やたらポケットに手を突っ込んでいるのを
目にして 私達はそちらに注目する







「どうしたの?」





近寄ってみると、エドは顔に青筋立てて







「無い…国家錬金術師の証……
銀時計が無い……!!







ズボンのポッケを両方開きつ、通常じゃ
あり得ないであろう事を口走った







「えーーーーーーーーーーーー!!?」


「ニャハハ、きっとさっきスラれたんでしょ
まったく間抜けだねーエドは…」





言いかけて 私はある違和感に襲われた





…あれ?身体がいつもより、軽い?







何だとぉ!?って、どーした





怒鳴るエドの言葉に答える事無く、私は
背負ってたナップザックを探る





「… まさか」







やっぱり……気のせいとかじゃない







「ヤッバ、私エドの事笑えないや」





私は呟きながら 顔を上げる







自分でも珍しく、引きつった笑みを浮かべて







「バックに入れてたジョーカー 盗られた」








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:作品スケジュール調整により、
初の連続長編更新と相成りました!


エド:つーか、偶々重なっただけだろ


アル:ほとんど無計画だもんねぇ


狐狗狸:ウチの子じゃあるまいし、水を差すの
止めてくれませんかそこの兄弟


ウィンリィ:エドは時計スラれてたのに、
なんでは財布でなくナイフ?


狐狗狸:ナップザックのすぐ出せる所に
あったのと、財布は特殊なトコにしまってたから


エド:どこにしまってたんだよのヤツ…
まさか、アルの中とかじゃ


アル:それはないから兄さん


狐狗狸:正解は胸の谷間です(爆)


三人:んな、どっかのスパイみたいなトコ!?




次回、ラッシュバレーでの大立ち回りです!


様 読んでいただきありがとうございました!