慌てても物事は上手く行かないけど
「正義」も急げって言うからね








〜第二十九話 鳴り物入りの旅立ち〜








…なんだったんだろう、あのおじさん







ドアの隙間から覗く室内の 窓に立つ四人と
同じように呆然としていると





?何でドアの前に立ってるの?」


「あ、ウィンリィ お帰り〜
いやーちょっとスゴイ事があってね」





切符を買って戻ってきたウィンリィが
訝しげにこっちを見た





「何それ…あれ どしたのみんな
外の二人も固まってるし」





言われて改めて廊下を見回せば


軍人さん二人組は眼帯さんが訪れた
その時のポジションで固まってる







…あっちゃー さっきの傍若無人な振る舞いと
中での会話がよっぽどショックだったのかしら


ニャハハ、ちょびっと悪い事したかなん?





「いや…嵐が通り過ぎた…」


「まさにそんな感じだったよね〜」





ウィンリィの少し後に入り、エドの言葉に
うんうんと頷いて見せた







「なんのこっちゃ…とにかく、
たのまれた汽車のキップ買って来たよ」


「おっサンキュー」


「悪いねウィンリィ〜私の分まで
買ってきてもらって」


「いいのよ、ついでだし」





エドはアルと私をそれぞれ見やってから





「それじゃ、アルとは宿戻ったら
夜のうちに準備しとけよ?」





と、こう言った…
もちろん準備は "旅の準備"だろう





「ニャハハ わかってますって」


「兄さんの分も支度しとくね」







マッチョさんがため息混じりにエドへ視線を寄越す





「なんだせわしないな
ケガも治りきってなかろうに」


「いつまでもこんな消毒液臭い所に
こもってられっか!明日には中央を出るぞ!」


「とかいって本当は牛乳飲むのが
イヤだからじゃないの〜?」


「なっ、なわけねーだろ!バーカ!!





ムキになって反論してくる辺り、あながち
そう間違ってもいないみたいだね〜


わーい エドったら単純〜







メガネさんが切符を覗き込んで





「今度はどこへ行くんだ?ダブリス?」


「どこそれ」





聞き覚えありまくりの地名に、私は
ウィンリィの手に握られた切符を見る







ダブリス やっぱり間違いない


あのセクハラオヤジがいるとこじゃん







どうしたの、渋い顔して」


「え、ううん なんでもないよ?」





指摘されて、私は慌てて笑顔を作った







やっばー ついつい顔に出てたみたい…
まーでもアイツが悪いんだモンね、仕方ない







「えっとね…南部の真ん中あたり」





地図を広げて、アルが下の方を指差して見せた


その地点をマジマジと覗き込み







「あーーーーーーーーーー!!」





唐突に、ウィンリィが叫ぶ





「ビックリした、どしたのウィンリィ」


「ここ!ダブリスの手前!!」





興奮したようにウィンリィが
ダブリスの手前にある地名を勢いよく指差す







ラッシュバレー?何かあるの?」


「機械鎧技師の聖地ラッシュバレー!!
一度行ってみたかったの〜V





嬉しげに言うウィンリィの背後には
大輪のバラが舞い散っております


エルリック兄弟もその様子を呆れてみてます☆





「連れてって連れてって連れてって連れてけ!」


「一人で行けそんな所!」





頼み込むウィンリィを即座に切って捨てるエド


でもそれで諦めるようなウィンリィじゃ
ありませんでした だって機械鎧がらみだし





「誰が旅の費用を払うのよ!」


「お前までオレにたかる気か!!」





ガッと向き合うエドに対し、アルの方は
すっかり諦めてるようですが?





「いいんじゃない?ついでだし」


「そーそー、私がよくてウィンリィが
ダメなんておかしいと思うし?」


「本当ならお前もダメだっつの!」





と、怒鳴っておきつつ じっと見つめる
ウィンリィの視線に負けたようで







「…しょーがねぇなぁ」


「やったーV」





承諾すると、そりゃーもう諸手を上げて喜んで





「リゼンブールにすぐ帰るつもりだったけど
予定変更!ばっちゃんに電話してくるね!」





ウィンリィはパタパタと病室を飛び出していった







「元気だなぁ」


「うん いい嫁さんになるぞ
うちの嫁さんほどじゃないけどな」


オレに言うな!!そしてさり気にのろけんな!!」





エドの肩を叩くメガネさんに、私は更に
調子に乗って笑いながら





「あっでもねー、エドは昔ウィンリィに
プロポーズして振られ っ痛!


っ人の秘密ベラベラしゃべんなぁぁ!」


「兄さん 殴っちゃダメだよ」





少し強めに後ろ頭を叩かれました





…ちょっと涙目になるくらいは痛かったので、


列車で寝てる時にイビキかいてる口に
牛乳流し込んでやろうかな
と思いました











宿に戻って準備を整え、次の日 ウィンリィと
待ち合わせ、病院のエドを迎えに行ってから


駅まで見送ってもらい 四人で汽車に乗り込んだ







見送りに来てくれたのは護衛の軍人さん二人と
号泣しまくるマッチョさん


メガネさんは仕事で来れなかったらしく
代わりに奥さんとエリシアちゃんがいた





手を振る人達に 私達も窓から手を振って返し





汽車は、中央から走り出した









「ダブリスには何しに行くの?」





訊ねるウィンリィに、アルはエドの顔をチラ見して





「うん 兄さんと色々話し合ったんだけど
師匠の所に行こうかと思って」


「師匠って…たしか君らが恐れてた?





順に指差せば 頷いてから同時に
二人で頭を抱えて俯く







「あ〜〜〜〜〜…オレ達ぜってー殺される…」


…あんたらの師匠ってばいったい…」







炭鉱でも思ったんだけど、君らの師匠って
本当に人間なの?





「ニャハハ 鬼神か何かの生まれ変わり
だったりして〜」


「「シャレになんないから
止め(ろ・て)!!」」






まさに鬼気迫る顔でエドとアルが詰め寄ったから





「あ…ゴメンゴメン」





さすがにチョット引いて、謝った







「やっぱこわいよ兄さん!!」


「たえろ弟よ!!」






震えてなく兄弟の姿に、ウィンリィは呆れて
見つめている事だけしか出来ませんでした









そうこうする内に日が暮れて、


疲れが来て 皆座ったまま寝てたんだけれど







「…あれ?」







暗い真夜中に何故か目が覚めて


ふと、窓の外に目を向けたら
列車はどこかの村を通り過ぎてて





ポツンと見える街灯の下に







微笑んだメガネさんの姿が 見えた気がした







思わず窓へ貼りついて、通り過ぎたそこへ
視線を向けるけれども


街灯の下に何も見えないまま


その景色は遠くに流れ去ってしまった







「…何やってんだ 







横手から声をかけられ、首を動かすと
いつの間にかエドが目を覚ましていた


隣にいたアルの姿もない





「起きてたの…てゆうかアルは?」


「列車の中を散歩しに行った
ちょーどお前が起きる前にな」


タヌキ寝入り?趣味悪」


「そん時ゃ半分夢うつつだったんだよ
それで、窓の外になんか見えたのか?」







問われて 私は目撃したものを思い出す





目の錯覚だとは思うんだけどさ…
さっき通り過ぎた街頭の所にメガネさんが」


「… お前もか?」


「お前もって事は…エドも?







コクリと首を縦に振る









…どうして、メガネさんの姿がこんな所に?





見送りにもこれないほど忙しいなら
今頃もきっと中央で仕事をしてるハズなのに







なんだろう、引っかかるモヤモヤは







浮かんでは消えるかすかな疑問は





近づいてくる鎧の足音と
ドアの空いた音によって中断される







、二人とも起きちゃったの?」







戻ってきたアルに、私はエドを指差して





「お帰りアル〜エドったら寝たフリして
こっそり人の寝顔見てるのー」


!何ウソ言ってやがる!!」


「ちょっと兄さん!ウィンリィが
起きちゃうから静かに!!」





懸念を悟られないように、私は思い切り
いつもと同じ調子でふざけた







そのまま少しばかり騒いだけれど


幸いウィンリィを起こす事なく、
話しているうちにまた眠気が訪れて





「ふぁ〜ぁ、お休み〜」


「うん お休み


「ようやく寝れるよ、ったく…お休み」







私達は眠りにつき そして朝が訪れた








――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:やっと四人が旅立ちました、三十話から
ラッシュバレーやらダブリスやらとな


ウィンリィ:あ〜楽しみラッシュバレー!!


狐狗狸:あーもう人の台詞遮らんといて
君がそこまで嬉しいのは分かるけd


アル:兄さん、何気に荷物整理してる時
牛乳のビンを入れていた気が…


エド:何だってえぇぇぇぇ!?の奴
明らかオレへの嫌がらせ企んでやがる…!


狐狗狸:だから遮るなって…まいいか、とにかく
この話の合間に中佐は…グスッ


アル:え、何その涙は!?


エド:オレらの見たアレはやっぱ何かの予感!?


ウィンリィ:ヒューズさんに何が!?


狐狗狸:いや気にせんといて!本編じゃ君ら
まだこの事知らないからっ!!(滝汗)




ウチの子も中佐がどうなったかは、最後まで
知らない流れで行くつもりです…一応


次回 ついに来ましたラッシュバレー!?


様 読んでいただきありがとうございました!