「正義」を謳う嫌いな奴等の筆頭は
私から見ても得体の知れない男だった









〜第二十八話 底知れぬ重鎮〜








「悪いけど 汽車の切符買ってきてくれよ」







病室に戻り、ベッドへ腰掛けなおしたエドが
早速ウィンリィにそう言った







「行き先と値段はこのメモに書いてあるのな」





サラサラ〜と走り書きをしたメモとお金を
受け取り、ウィンリィが訊ねなおす





「いいけど…二人分?」


「決まってんだろ」


えぇっ、私の分はぁ〜?」





思わず口を挟むと、エドがギッとこっち向いた





「そう毎回交通費負担すると思ったら
大間違いだぞ!」



「いーじゃん今更〜度量の狭い男
嫌われるよん?」


そーよ、そんな大した額じゃないみたいだし
の分ぐらい出したげなさいよ」





ヤタッ、ウィンリィが加勢してくれた〜







「兄さん、二人を敵に回さない方が
いいみたいだよ?」





更に状況を見たアルの説得で







「ぐ…分かったよ、ウィンリィ
これで三人分買ってきてくれよ」





折れたエドがお金をもう少し渡して





「良かったね じゃ、買ってくるわね?」


サンキュー 気をつけてね〜」







私にブイサインを送って ウィンリィは
切符を買いに病室から出て行った









足音が遠ざかったのを見計らって







「…落ち着いたらたかられた分と慰謝料分
みっちりモト取らせてもらうからなぁぁ?」





実に恨みがましいカンジでエドは言った





「オィオィ、随分如何わしい言い方だな〜」


「失礼な事言うなよ 単にコイツの身体と
持ってるナイフを調べるだけだ」







淡々とそう答えた瞬間





マッチョさんとメガネさんが私の側に
一歩近寄ってガードした







「オィオィオィ、ちゃんに
何する気なんだよお前!?」


「婦女子の身体を調べるなどと…
破廉恥だぞエドワード・エルリック!!」


「キャー エドったら意外とケダモノ〜


「下世話な想像やめて!お願いだから!」





ニャハハ〜うろたえまくるエドって
やっぱり面白ーい!!







「言い方がマズかったんだよ兄さん」





ため息つきつつ、アルが兄の言葉を解説する





特殊な体質らしく、持ってるナイフの
錬成陣も珍しいもののようなので
本人に聞きながら色々な文献を調べようかと」


「場合によっては少し実験に協力して
もらうかもしれないけど、精々その程度だよ」







憮然としたエドの言葉にようやく二人は納得する







「なるほどなぁ ロイから少しは聞いてたが
やっぱり変わってんだなちゃんは」


「それも個性って事で☆」


嬢の体質やナイフの陣が、賢者の石
繋がる可能性があると言うことか?」


「確証は無いけど、調べる価値はあると思って」







繋がり所か そのものだったりします







この調子じゃいつかバレるかも…案外
ヤバイなー ニャハハ







「賢者の石って言えばさ、エドは研究所に
入れたんだよね?何か手がかりは掴めた?





話題転換とばかりに水を向ければ





「っとそーだった!中佐や少佐に色々
話さなきゃいけない事があんだ!」





思い出したかのように紙に何かを書き始めた
エドの側に三人が近寄る







上手く逸らせれたかな…と思った矢先


アルがこっちを向いたのでビックリ





「あの…出来ればにも席外してて
欲しいんだけど」


「ニャハハ 私の事はお構いなく♪」





パタパタ手を振りながら微笑むけれど


どーやらそれで誤魔化されてはくれず





「スマンが流石にここから先の話し合いは
嬢に出ていただこう」


えー!?前の時は何も言ってなかったのに
ズルイよ〜 職権乱用だぁー!」


いーから民間人は外出てなさい」







メガネさんとマッチョさんに両腕つかまれて
強制的に病室を退場させられました











「魂のみの守護者…貴重な人柱…
生かされている…エンヴィーなる者…」






マッチョさんが結構重要な言葉を
色々と羅列して 続ける





「ウロボロスの入れ墨に賢者の石の錬成陣
ただの石の実験にしては謎が多いですな」


「これ以上調べようにも
今や研究所はガレキの山だしな」





メガネさんの言葉を皮切りに、四人は唸る







ドアの外で待たされてる私と軍人さん二人に
聞こえないよう 抑え目の声だけど


私には会話内容が全部筒抜けだったりする







「なんだか難しそうな話をしてますが」


「これ以上危ない事に首を突っ込みたく
ないから聞かない!」


「それが普通の反応だよね〜」


「そうなんですけど、やっぱ行きがかった以上は
気になりません さん?」







色ボケさんって案外野次馬なタイプなんだ〜
身を滅ぼしても知らないぞー







「別に私はどっちでも「あー君達
鋼の錬金術師君の病室はここかね?」








廊下から靴音を響かせてやって来たのは
軍人らしき一人の男だった







渋いといっても差しさわりの無い美中年


腰に刺したサーベルと左手には何かが入った袋





「はい ここで…」





言いかけた女軍人さんと、色ボケさんが固まる







ニコニコと微笑んでいる顔の眼帯は
新聞とかで、見かけた覚えのある顔だった







「ああ、声を上げないでくれたまえよ」


「「閣下 何故このような所へ!?」」





比較的小さなハモリは、驚きに溢れていた





「怪我をした部下の見舞いに来ては
いかんのかね?」


「へぇ〜、威張り散らしてる軍人の
親玉にしては律儀ですね」


ちょっと!アナタ誰に
何を言ってるか分かってるの!?」





引きつったような顔をする女軍人さんに
眼帯さんは表情を変えずに答える





「よい、気にするな…君がエルリック兄弟と
旅をしている という娘か」


「何で知ってるんですか?」


さん!もうちょっと畏まって下さい!」





今度は色ボケさんが
気が気じゃないように注意してくるけれど


それも気に留めず、目の前の相手は続けた





「何、私には独自の情報網があるのだよ


兄弟の関わった事件に君も一枚
噛んでいたこともお見通しだ」







…正体がバレてない現状では、大佐達は
私も事件に絡んでることも伏せてあるはず





この眼帯、中々喰えない







「御見それしました すると私は何か
刑罰に問われるんですか?」


「見舞いに来ただけなのにそこまではせんよ
だが、老婆心ながら忠告させてもらおう」







一瞬だけ見開かれた右目は、底知れぬ
威厳と重圧を秘めていた







「あまりこちらの事情に立ち入らぬ事だ
あくまで君は民間人なのだからな 君」



「…ご忠告ありがとうございます」









何でだろう 初めて対面する偉い相手で
しかも私の嫌いな軍人なのに





近しいものを、感じた







……まさかね









小さく二回ノックして、この人は病室に入った





「失礼するよ」


『キング・ブラッドレイ大総統!!』







開きっ放しになったドアから、側の二人に
負けないくらいの顔芸を披露する三人が見えた







「ああ静かに そのままでよろしい」


「大総統閣下 何故このような所に…」


「何故って…お見舞い メロンは嫌いかね?」


「あ、ども じゃなくて!!





差し出された袋を受け取ってから
活きのいいノリツッコミをするエド


あ、左手に持ってたのメロンだったんだ





「軍上層部を色々調べているようだな
アームストロング少佐」


「何故それを…」





戸惑うマッチョさんに構わず、眼帯さんは
口調を厳しくして続ける





「私の情報網を甘く見るな
そしてエドワード・エルリック君


「賢者の石」だね?







エドの顔が、途端に強張った







「どこまで知った?場合によっては―」





室内の四人も 私もその人に視線を
合わせたまま金縛りになる





この男…まさか…!?









息詰まるような沈黙を打ち破ったのは





冗談だ!そうかまえずともよい!」





それを作り出した本人の明るげな声と大笑い


張り詰めていたモノが緩み、皆が
気の抜けた声を出した







それから眼帯さんは、軍内部で不穏な動きがある事


名簿に載っていた研究者が全員
崩壊数日前に、行方不明になってる事を告げる







「敵は常に我々の先を行っておる
そして私の情報網をもってしても…」







長い説明が終わって、メガネさんが口を開く







「つまり 探りを入れるのは
かなり危険である…と?」





頷いて、この人は四人の名前を呼ぶと





「君達は信用に足る人物だと判断した
そして君達の身の安全のために命令する」







威厳たっぷりに 命令を下した





「これ以上 この件に首を突っ込む事も
これを口外する事も許さん!!」






空気を振るわせるその声に、室外にいた
私でさえ思わず姿勢を正してしまった





「誰が敵か味方かもわからぬこの状況で
何人も信用してはならん!


軍内部全て敵と思い つつしんで行動せよ!」


だが!!と眼帯さんは一旦言葉を切る





「時が来たら君達には存分に働いてもらうので
覚悟しておくように」





笑みを浮かべての一言に、マッチョさんと
メガネさんが畏まって敬礼する







…余計な杞憂だったのかな





もしこのおじさんが私の予想通りの相手なら
こんな茶番をワザワザ行うだろうか?


上から遠まわしに圧力かけるなり 色々
遣りようはある気もするけど…どうなんだろ







相手の背中を見つめて悶々と悩んでいた所





「閣下―――――――――――――っ!!」


「大総統閣下はいずこ!――――!」








どこかから聞こえてくる大声に
眼帯さんがビクリと身体を強張らせ





む!いかん!うるさい部下が追って来た!」





さっきまでの威厳をカケラも感じさせない
口調で言いながら 病室の窓へ足をかける







「仕事をこっそり抜け出してきたのでな!
私は帰る!」





シュタ!と片手を上げて言う仕草は
大佐とほぼ変わらないカンジがした







四人が窓に身を寄せて見送る中


高笑いと共に、外の足音が遠くなる








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:遅くなりました〜てゆうか予定では
旅立つトコまで行くはずだったんですが…


エド:大総統が去るトコで終わっちまったと


狐狗狸:そーなんです…本当、面目ない


アル:てゆうかって大総統相手でも
傍若無人だよね…二人から話聞いて怖いと思った


狐狗狸:そこがウチの子の持ち味ですから☆


大総統:ところで短編では、君は
私の正体を知っていたようだが…?


狐狗狸:あ、まだいたんですね まぁ短編は
パラワ入ってるからって事で目瞑りを
(グリさんだって知らなかったし)


大総統:ふぅむ…しかし年齢から行けば
君は私のとな


二人:え!?


狐狗狸:ちょっと、ちょっとちょっと大総統!




次回こそ セントラルから旅立ちます(謝)


様 読んでいただきありがとうございました!