家族や兄弟の絆…「正義」となる前も後も
得られなかった強いもの なのに









〜第二十六話 垣間見たぬくもりと〜








病院を出て すぐさま街の方へ駆けると





少し時間がかかって メガネさんと
ウィンリィの姿を見つけた







何でか知らないけどメガネさんが
度々店に入って 何かを買って出てくる


…あ、まただ





ウィンリィの持ってる大きなテディ
きっとメガネさんが買ったんだろうなぁ









「これはいったい…」


「よくぞ訊いてくれました!」







歩きながら訪ねるウィンリィに、鼻歌交じりで
メガネさんが答えたタイミングで





「いたいた おーい、探したよ〜」





後ろから駆け寄ると、ウィンリィが
ビックリしたようにこっちに振り向いた







っ、どーしてここに?
病院にいたんじゃなかったの?」


「やー、エドがウィンリィの様子を気にしてたから
元気でやってるのを報告しようと様子見に♪」


「なんだ アイツも何だかんだ言って
心配性だな〜」





やっぱりメガネさんもそー思うよねぇ〜?







「二人ともとっくに家に行ったかと思ってたよ
…所でその荷物はナニ?


「私もそれを聞こうとしてたトコなの」





互いの視線は 自然とメガネさんへ


当の本人は含み笑いを漏らして答える





「実はな〜今月はオレの娘の三歳の誕生日だ!


「そうなんですか おめでとうございます」


「お子さんいるんだ〜、案外やることは
やってたんだね」


「まーな ウチの自慢の妻と子だ!」





どーどーと胸を張って言ってから





「どーだ、ちゃんもついでに来いよ
…あそーだ どうせだからこれ持ってくれよ」





やや強引にメガネさんが持っていた袋を渡してくる


流れで受け取れば、ちょっと重かった







とりあえず荷物を放り出すワケにも行かず
ウィンリィと一緒に着いて行く









「パパおかえりー」


「あら かわいいお客さん達」





玄関先で、美人の奥さんと可愛い子供が
メガネさんを出迎える







「エリシアちゃん会いたかったよ〜V





すぐさま親バカ全開の顔で子供へ抱きついて
思いっきりほおずりするメガネさん


ヒゲのせいか ちょっと嫌がってない?







「前に話したろ ほらエルリック兄弟
あれの幼なじみのウィンリィちゃん」





ウィンリィの事を簡単に説明し





「で、こっちは兄弟と一緒に旅してる
ちゃんだ」


「よろしく〜 私はウィンリィの様子を
見に来ただけなのでお気遣いなく」


「あらそう?初めまして よろしくね」





続いて紹介され、愛想良く挨拶をする





「妻のグレイシアと娘のエリシアだ」


「お世話になります」





ウィンリィも挨拶を終え、エリシアちゃんに
目線を合わせて





「エリシアちゃん今いくつ?」


「ふた…みっちゅ!





間を置いて答えたその姿が、妙に可愛くて





「「「や〜んかわいい〜〜vV」」」





ウィンリィと、あとメガネさんとも
思わず同時にハモってしまった







荷物を家の中へと置いてから、ウィンリィが訪ねる







「でもいいんですか?私なんかが
娘さんの誕生日におよばれして」


「そうだよねぇ、私なんかモロ部外者だし
いいの?本当に」





メガネさんは エリシアちゃんを抱き寄せて
三人並ぶと、私達の方へと微笑んで







「祝い事はみんなで分け合った方が楽しいだろ?」







ウィンリィも、同じように微笑んでいた





きっと、私も同じ顔をしている











『エリシアちゃん お誕生日おめでとー!!』







私達だけでなく近所の人や子供達も集まり
お誕生日パーティーが盛大に始まった







メガネさんや他の子達がプレゼントを渡していて


私もエリシアちゃんへ何か渡そうかと思い





カバンの中を探り、いつか罠用に使おうと
買ってあった小さなオルゴールを取り出す







「そのまま渡しで悪いけど、はい プレゼント」


「オルゴールだ〜ありがとう!」


ちゃん、よくオルゴールなんて持ってたな」


「ニャハハ たまたまだよ」







近所の人達も、メガネさん達と同じように
気のいい人たちばかりだ







「パパがくれたねずみさん動かないよう」





困った顔をするエリシアちゃんに、
ウィンリィが手を差し伸べて





「やっぱり歯車がはずれてる これをこうして…」





五分と経たないウチに、動かなかった
ゼンマイ仕掛けを直した







「すごいすごーい!!」


「ほー器用なもんだな」


「ウィンリィって機械に強いんだねぇ」


「そうかな?普通よ」





エリシアちゃんや子供達が 目を
キラキラさせてウィンリィを見つめる





「おもちゃのお医者さんだ!」


「あはは ちがうけど似たようなものね」


「ね〜ウィンリィ、その腕を見込んで」


の発明品の修理は断るからね」





…ちぇっ 見抜かれてたか





イタズラ用の仕掛けとか変なモノを造ったり
するのはお手の物なんだけど


逆に機械を修理とかは苦手な方なんだ











みんなで好きに歓談する傍ら


ウィンリィはエリシアちゃんをヒザに乗せ
メガネさんと話をしていた





私は二人の側で、主に聞く方に回っていた







…病院での件以外にも、二人が何も
語らないことを 気にしているみたいだ







本当の兄弟なら 旅に出る事も
今日のケガの事もきちんと話してくれたのかな」







二人がワケを話せない理由は想像がつく


血は繋がってなくても、信頼しているからこそ
巻き込みたくなかっただけだろう





…でも これを私が言っていいのだろうか







「相談しなかったんじゃなくて
相談する必要がなかったんだろ」








まるで私の意志を汲み取ったかのように
メガネさんが そう答えた







「…言葉で示してくれなきゃ
わからない事もあります」







しょーがねぇな、と苦笑交じりに
メガネさんは メガネを外し





「男ってのは言葉よりも行動で示す生き物だから


苦しい事はなるべくなら自分以外の人に
背負わせたくない 心配もかけたくない


だから言わない」





淡々と、静かに言葉を紡ぐ





「それでもあの兄弟が弱音を吐いたら―
そん時はきっちり受け止めてやる


それでいいんじゃないか?」







メガネさんの言葉には、二人への優しさ
確かな重みと ウィンリィへの励ましを感じ取れた







「だってさ、あんまり気負い過ぎちゃ
ダメだよウィンリィ」


「…そう、かな」


「そうだよ」


「そうだよね、







浮かない顔をしていたウィンリィが
ようやく 笑顔を見せた









そうこうしてる内に、遊んでいたエリシアちゃんが
他の子達にひっぱりだこになり





「あはは娘さんもてもてですね」


「素直で可愛い子だからねぇ〜」





その光景を目の当たりにしたメガネさんは





「おい小僧ども うちの娘に手ェ出したら
タダじゃおかねぇぞ!」






次の瞬間、殺気を漲らせながら銃を構えて
男の子達に威嚇してました





「ヒューズさんは行動で示しすぎ!!」





うーん これぞキングオブ親バカだねぇ〜









「それじゃあ 私はアルも待ってるし宿に戻るね」


「もうちょっとゆっくりしてってもいいんだぞ?」


「ウィンリィの様子を見に来ただけだから
気持ちだけ 受け取っておくよ」







入り口で見送るメガネさん一家と
ウィンリィに 笑顔で返す





エリシアちゃんも、手を振って
私にさよならの挨拶をしてくれて







「じゃあね、おねえちゃん」





無邪気な笑顔は ニーナとまったく変わらなくて





「うん ありがとうね」







少しの切なさとそれ以上の嬉しさを、噛みしめる







家族や兄弟の絆が温かく強いこと
私は 初めて知った気がした











「ニャハハ、ただいま〜」


「おかえり 





宿に戻るとアルが迎えてはくれた


…けれど、様子は相変わらず沈んだままだ





「ウィンリィ、メガネさん家で元気にしてたよ」


「…そう」


「今日 メガネさんの子供のエリシアちゃんの
誕生日でねー私もパーティーに参加したんだ」


「…そう」


「…アル?大丈夫?」





顔を覗き込めるくらいの至近距離まで
近寄って 私は訪ねる





大丈夫、だよ …ごめんね」







どことなく鈍った反応に、私はその後
何も語りかけることは出来なかった









…先程までの温かさとは大違いの温度差だ





己の存在が偽りかもしれないと言う気持ちは
それだけ辛いことだろうか







自分自身に執着できる余裕など無く


遥か昔にその存在すら混濁してしまった
私には、皆目検討などつかない





けれど 敢えて想像するのなら







しっかりと地面についていたはずの足元が





突然消えうせてしまい、宙へと
落とされるような そんな感覚なのだろうか














次の日、またもやアルと二人で
エドの病室にお邪魔する


エドは今日もまた 病室のトレーに置かれた
牛乳瓶にガンを飛ばしております





「…せっかく兄さんは生身の身体があるんだから
飲まなきゃダメだよ」


「そうそう、じゃないと身長伸びないぞ〜」


だぁぁらっしゃい嫌いなものは嫌いなの!
だいたい牛乳飲まないくらいで死にゃしねえっつーの!」





食事をぱくつきつつ、機嫌悪げにエドは続ける





「みんなしてちいさいちいさい言いやがって!
アルはいいよな 身体がでかくてさ


「エドそれちょっと」





言いすぎ、と言いかけた言葉はかき消された







「僕は好きでこんな身体になったんじゃない!!」







―アルの上げた怒鳴り声で








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:何とか更新に間に合いましたー
これでとりあえず今年の鋼は終了〜


エド:って、のやつ
オレへの報告忘れてねぇか!?


狐狗狸:忘れてはいませんよ?宿へ帰りがけに
公衆電話で伝えましたから…文に書いてないけど


アル:事後報告!?


中佐:所でちゃんの持ってきた
オルゴールって、何の曲なんだ?


狐狗狸:特には決めてません 本人も目標の気を
引く目的で買ったので…曲はご自由に想像


エド:つか、アイツ色々買い物してっけど
資金が底をつかねぇのか?


狐狗狸:交通費等の旅費はエドに集ってて
後はまぁ…自由行動中にゴロツキから追い剥ぎ?


ウィンリィ:それ犯罪!!




次回 兄弟ゲンカの下りに…年が明けてからですが


様 読んでいただきありがとうございました!