言葉にして教える「正義」あらば
黙って口をつぐむべきも、またしかり









〜第二十五話 来訪者はさえずる〜








「そんな!」







やってきたウィンリィの第一声が病室に響いた







入り口に佇む驚きの視線は、私達が囲む
ベッドに寝かせられている


ミイラ男のよーなエドに向けられている





「…こんな大ケガで入院してるなんて
聞いてないよ!」


「いや本来はこのケガの半分以下だったのだが…」


「エド!?」







辛うじてしゃべれる様になったエドが
その姿になるまでの経緯を説明した







「という訳だ」







いつの間にか上半身裸でポーズ決めてた
マッチョさんを 引いた目で見るウィンリィ





うんうん それが普通の反応だよ☆









「くそ…おかげで入院が長引いちまった」


「鍛え方が足りんのだ!」


「少佐と一緒にしないでください!」


「だよねぇ、マッチョさんに比べたら
エドなんかまだまだ豆モヤシ」


「あんだとこるぁ!?」







何さ〜ボロボロのクセに、無理したら
またその包帯付け直しになるよ〜?







「それにしても…少佐の分を
差し引いたってひどいケガじゃない」


「たいした事ねーよこんなの」


「…機械鎧が壊れたせいでケガしたのかな
あたしがきちんと整備しなかったから…







しおらしくなるウィンリィに、
室内の空気も静まり返る







周囲に集まる視線に エドはおどおどして





「べ べつに
ウィンリィのせいじゃねーよ!


大体壊れたのはオレが無茶な使い方をしたからで〜」





そうそう、ビックリ人間に挑みかかるなんて
無茶しなきゃ壊れないって うんうん







「それに腕が壊れたから余計なケガしなくて
済んだってのもあるしよ!」







更に言い募るエドの言葉に ウィンリィが
目を輝かせ、どっかからソロバンを出すと





「そうね!あたしのせいじゃないわね!
んじゃ早速出張整備料金の話だけど!」



「うっわーウィンリィ切り替え早っ」


「だって本人がああ言ってるんだし あたしも
一応商売で来てるんだから当然でしょ


「それもそっか お見それしました」







エドはというとものすごい渋い顔してた







"やっぱかわいくねー!!"とか
思ってるのがマルわかりだよね、ニャハハ







うむ!腕もケガもさっさと治して
早く元気なエドワード・エルリックに戻ってもらわねば!」





ケガの原因作ったマッチョさんが
言うセリフじゃないよねーそれ





「そのためには栄養と休養を〜」


「わかってるよ!」







お、ウィンリィさんがトレーの上の
牛乳瓶に気付かれた模様です







「…牛乳残してる」


「あー またか」





向けられた視線を、思い切り逸らして





「…牛乳嫌い」







沈黙の中エドが呟いた言葉が発端となり







「そんな事言ってるからあんた
いつまでたっても豆なのよう!!」


「うるせー!!こんな牛から分泌された
白濁色の汁なんぞ飲めるかー!!!」



「わがままだぞエドワード・エルリック!!」


「だよねぇ、牛乳ぐらい飲めばいいのに〜」


「黙れ黙れぇぇ!!」





牛乳論争第二段が勃発した







ワイワイと騒ぎ、ウィンリィなんか
エドのホッペを抓るまでになって白熱してます





よーし、じゃ私も真打ちで牛乳を…







―静かに扉の閉まる音がした







エドもそれに気付いたみたいで視線を向けてた







アルが 出て行った?











「アル…あいつ この頃変だ」







機械鎧を整備してもらいながら
うつ伏せのその体勢でエドが呟く







「変?」


「うん 口数少ないって言うか考えこんでる
って言うか…なぁ?」


「そうなの、宿でもあんな調子だし」







ハッと思い至ったかのように色ボケさんが叫ぶ





「もしかしてオレがなぐったから
ショックを受けて!?」


「いや それしきでショックを受けるほど
弱っちい奴じゃないと思う」


「うんうん」


「…何か悩んでるのかな」









エドが分からないそれに、ウィンリィが
分からないのも 頷ける







きっと あの場で聞いてた私だけが知ってる





でも、それだけは言えそうに無い





私のためにも そして本人のためにも









「そりゃきっとアレだね 恋わずらいだね!」


「色ボケ軍曹と一緒にすんな」





あ、色ボケさんが床に沈んだ







その様が面白くて突付いていると





「よしっ整備終了!


「お サンキュー」







エドの機械鎧が無事に直ったみたいで
グルグルと本人が勢いよく腕を動かしていた







「あとは早くケガを治しなさいよ!」


「へーへー」





生返事で病人服に着替え直している所で







「ようエド!病室に女連れ込んで色ボケてるって?」







ドアをバンと開けて、思いっきり明るい声で
メガネさんがそう言ってのけたのだった





ベッドからずり落ちたエドのお腹から


ちょっと血が噴き出したように見えた







「ただの機械鎧整備士だって!!」


「そうか、整備士をたらしこんだか」


「だから違っ」


あっれ〜?私はノーカウント?」


「おぉ!そういやちゃんもいたんだったな
それじゃこれで二人目か」





呆気にとられるウィンリィに、
多分怒りから悶えるエド





「傷口開くぞ」


「そーそー、大人しくしなさいって」


「誰のせいだと!!」







怒鳴って、ため息交じりでベッドに腰掛けなおし





エドはウィンリィにメガネさんを紹介した







「で、仕事抜け出して来ていいのかよ」


「へっへっへ 今日は午後から非番だ!」


「休み取れないって言ってなかったっけ?」


「だよねぇ、まさか大佐みたいにサボりを
やらかしちゃったとか?」





聞くと、心配御無用!!と大見得を切って





「シェスカに残業置いて来た!」


「うっわー」


「あんた鬼か」





仕事に追われて机に突っ伏す本の虫さんの姿
思わず目に浮かび、ちょっとだけ同情







メガネさんはエドの様子を見に来たついでに


傷の男の情報が入ったから、警戒が
解除されそうだと伝えに来たのだそうな





「へぇ、よくそんな情報が入ったね
もしかして大佐経由?


「おー よくわかったなちゃん」


「ニャハハ、それくらい
私でなくても分かるって」







…きっと死んだと思われてるんだろうなぁ







ま、少なくともエドはケガが治るまで
下手に動かないだろうし





あっちもビックリ人間とやりあって
ただでは済んでないだろうから





当分は大丈夫…かな?







「にしても、これでやっと
うっとーしい護衛から解放されるよ!」


あ!ひどいなー」


「私達がいなかったらどうなってたと
思ってるのよ」





軍人さん二人の言う通りである





「そうだよねぇ、エドは逆に
自分の身を危険にさらしてるし」


「お前も手ぇ貸しただろっ!」


「護衛って…あんたどんな危ない目に
あってるのよ!」








ウィンリィの追求に、エドは慌てて弁解し





「たいした事じゃねーよ!」





困ったように目を逸らす







じっとそっちを見て、ウィンリィが
私の方へと訪ねる





「…本当に?」


「まあ、本人がそう言ってるんなら
そうなんじゃないの?」







多分詳しく言わないのは巻き込みたく
無いんだろうな、と思って誤魔化す







ウィンリィはもう一度エドに向き直り





「…そうね どうせあんたら兄弟は
訊いたって言わないもんね」






ややムッとした顔でため息をついた









「じゃあ また明日ね
あたしは今日の宿を探しに行くわ」


「どうせなら私達の泊まってる宿で
泊まっていかない?」


ありがとう、でもいいよ
二人に迷惑かけらんないし」







そうでもないんだけれど、本人が
遠慮している以上 あまり無理強いも出来ない







「軍の宿泊施設なら国家錬金術師の名前で
格安で泊まれるぞ」


えー?軍のってなんかおカタそうー」


そうだ!なんならうちに泊まってけよ!」





メガネさんの唐突な申し出に、ウィンリィは
当然のごどく面食らう





「でも初対面の人に迷惑かけるわけには…」


「気にすんなって!うちの家族も喜ぶしよ!」





一人納得したように呟きながら


ウィンリィの手をしっかと握って





「え?あの…ちょっと〜〜〜〜〜〜〜〜…」





半ば強制的にウィンリィは高笑いするメガネさんに
引きずられていってしまった







あれぇ?このシーン前にも見たよねぇ?







「人さらいふたたび…」


それだ、それそれ」





エドの呟きに、私は指を差して頷く







色ボケさんもドアの外にいた女軍人さんも
唖然としてるし 無理も無いけど







「…まあ中佐の所なら下手な場所よか安心だけど
本当に大丈夫かな アイツ」


「なんだ、ケンカしててもやっぱり
ウィンリィの事気になってんだ〜」


「別にアイツのことなんかっ!!」





素直じゃないなぁ もう







私はドアの方に歩きながら





「それなら宿に戻るついでに、ちょっと
あっちの様子を見て 後で報告してあげるよ」





ニヘッと笑いかけて、







「それじゃ お大事に、エド」







病室からさっそうと退却した








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:うーん、予定ではヒューズ中佐の家族の
下りを書き終えてるハズだったのに…


エド:オレ達が泊まってる宿って、
軍の宿泊施設じゃねーのか?


狐狗狸:生憎その辺の記述が無いんで
普通の宿って認識で進めてます


ブロッシュ:記述に無いけど 言い合いの最中、
ちゃんが牛乳瓶持ってエドワード君に
にじり寄ってたの 見たんだけど…


エド:えっ、マジで!?


狐狗狸:アルが出でいかなきゃきっと
牛乳まみれになってたね(笑)


エド:覚えてろの奴…


ウィンリィ:何逆恨みしてんだか、それより
もヒューズさん家に顔出すの?


狐狗狸:一応はね そのつもりで
無理くりながら流れ作ったもん




次回 やさしい家族の様子の一方で…


様 読んでいただきありがとうございました!