「正義」の罪を負う前も後も
私を叱るものなど、いなかった









〜第二十四話 真摯な叱咤〜








二言三言 会話を切れ切れに交わし





闇が徐々に薄らいで、すっかり
空が明るくなった頃







軍人さん二人が 部屋に駆け込んできた









「エドワードさんの容態は、命に関わる
ものではないそうです」


「「よかった…」」







呟いた言葉は同じでも


アルは、心からの心配と安堵





私は 半分邪な思いが混じってる







「今から病院へ向かいますので
アルフォンスさんもさんもどうぞ」


「はっ、はい!」


「言われなくても〜」







そのまま病院の前まで車に乗せてもらう













車が止まった所で、二人が互いを見て頷き
改まってこちらを見る







「さて、病院に入る前に 二人に
伝えておくことがあります」



「「え?」」







予期せぬうちに、頬に衝撃が走った





一瞬遅れて 女軍人さんに
ビンタされたのだと気付く


アルももう片方にゲンコをされたらしく
鎧の中で音が残響して響いている







呆然としている所に





「あれほどアームストロング少佐が
勝手な行動をするなと言ったのに
それをあなた達は!!」






女軍人さんが、私達を叱り始めた





「今回の件はあなた達に危険だからと
判断したから宿で大人しくしてろと」








…まさか本当にお説教するとは





後で聞く、と言っちゃった手前だし
流石に逃げ出せそうも無い







下手をしたら命を落とす所だったのよ!?
まず自分達はまだ子供なんだって事を認識しなさい!」







それに この言葉は茶化せそうも無い







「なんでも自分達だけでやろうとしないで
周りを頼りなさい…」







女軍人さんは、私達を本気で心配して
こうして怒鳴ってくれている







「…もっと大人を信用してくれてもいいじゃない」


「本当、無茶しすぎですよ
アルフォンスさんも…さんも







こんなに親身に怒られたことは初めてで
不謹慎ながら、新鮮だと感じ





心配させたことを今更ながら申し訳なく思った







「「…ごめんなさい」」





二人で同時に言って、頭を下げる









途端に 軍人さん二人が息をついて
表情を和らげた







分かってくれたなら それでいいですよ」


「ええ、さ 行きましょう」









車から出てすぐ、アルがおずおずと言う





「あの…僕等に無理して敬語使わなくても
大丈夫ですよ?」


「でも、鋼の錬金術師殿の弟さんと
ご同行の方に失礼があってもいけませんし」


「ニャハハ、エドはそんなの気にしないですよ
それにさっきのお説教通り 私達ガキですから〜





私がそう言ったその途端





「それもそうね」


「いやー年下に敬語ってやっぱ慣れないよね!」







軍人さん達の態度がぐっと親しくなる


うっわー順応早っ





多分エドが態度の事で突っ込んだら
同じことを思うんだろうなぁ…







「そう言えば軍人さん、アル殴って手痛くないの?」


「うん…実はスッゲェ痛い


「だと思った♪」





だって右手の辺りがいまだに腫れてるもん







まあ、それだけ本気で心配して怒って
鎧の姿のアルを殴ったって事だよね











病院に入り 少しして面会可能と言われて
私達はエドのいる病室の前までやって来た







「二人は少し、外で待っていてもらえるかな?」


「あっちもお説教しなくちゃいけないから」





ああそっか エドの分もお説教が残ってるんだっけ





「どチビとはいえ国家錬金術師をお説教かぁ
大変だろうけど がんばってね〜」


「ちょ、ちょっと 今のもし聞こえてたら
兄さんが部屋から出てくるからっ!!」






幸いにも声が届いてなかったようで


エドが血相を変えて
飛び出してくる事態にはならなかった







「ああ…気が重いなぁ ホント」







ため息をついてから、気を取り直して
二人は病室の扉をくぐった







あ!エドワードさん 起き上がれるように…」






扉が閉まり 微かに室内の声が
漏れてくるだけになる









私には会話の内容が全部筒抜けだけれど


そこはやっぱりマナーとして、敢えて
聞かないフリをしておこうと思います









ふと横を見ると アルが暗い顔をして沈んでいた





…鎧なんで、正確にはそういう雰囲気を
かもしてるように見えたってトコなんだけど







「アル、どうかしたの?」


「なんでもないよ …あのさ」


「なぁに?」


ちょっとだけ、一人にしてもらえる?」







何か、悩んでいる





恐らくは…昨日の、守護者の言葉の真意







でも 私はそれを聞くことも諭すことも
出来ないし、してはいけない気がする







「いいよ エドの分も飲み物買ってくる」





言って 私はそこにアルを置き去りにした













飲み物二つを手に病室の方に戻ると、
アルが部屋に入る所だった







「やほっ、どっか行ってた?」


「…うん ちょっとね」





それ以上は聞かず、同時に病室に入る





「ニャハハ〜、やっエド しっかり怒られた?」


「…怒られたのはお互い様だろ?」


「まあね…兄さんが無事で、よかったよ









軍人さんが一人交代で病室に残ったり
入れ替わったりしている最中も





私達は病室で歓談に勤しんでいた









「へー、ウィンリィもここに来るんだ〜」


「おう 怒鳴られっかと思ってたけど
どういう風の吹き回しか優しくてな」


「あ〜そういう事言うんだ〜
本人にバラしちゃおっかな〜


っ!バラしたらぶん殴るからな!!」


「女の子殴っちゃダメだよ兄さん」







そーそー、アルの言う通りだよ


それにまだ傷口が塞がりきってないのに
無茶したら寿命縮むよ〜







「てゆうか、聞いた話じゃお前もあの後
部屋から抜け出したんだって?何しに行ったんだよ」


「んーまあちょっと野暮用で」


「本当かぁ?」







明らかに疑わしげな目で見られてるなぁ…





これで君等の後つけてたとかバレたらヤバイな
さて、どう誤魔化そうか









「エドワードさーん、お食事ですよ」


「ほら ご飯出てきたよ、食べて元気つけなよ」





ナイスなタイミングでやって来た食事により
どうにか話題をうやむやにする









トレーに並んだものを一瞥し





「…





一言呻き、エドが顔を思いっきり歪ませた







「あのーさん これ飲んでくださいません?







ややあって 私に牛乳の入った瓶を差し出す







「だってそれエドの病院食じゃん
私が取ったら意味ないでしょ?自分で飲みなよ





ニッコリ笑って拒否すれば、エドは露骨に
嫌そうな顔をして瓶を見やった







「……もしかして、牛乳嫌い?


うっうるせぇ!こんなモン飲まなくたって
他のもので栄養補えるんだよ!!」


「へぇぇぇ〜そうなんだぁ」


「その馬鹿にした笑いを止めやがれ!」





そっかそっか、それで背が低いワケね〜


いやー無能大佐以来のいいネタ聞いたなぁ





 お前すっげぇ失礼な事考えたろ!」


「ニャハハ、それは偏見ってやつだよん♪」


「ウソくせぇんだよ!!」







騒ぎが勃発しかけた所で







「…ゴメン二人とも、少し散歩してくる」





アルが、一言そう断って病室から出た











時折アルが物思う以外は 概ね
何も変化は無いまま面会時間が過ぎ







次の日の面会には、私達だけでなく
マッチョさんまで駆けつけた









「心配したぞエドワード・エルリックーっっ!!





マッチョさんの心からの心配と安堵が
こもりまくった抱擁に





「ギャ――――――!!」





エドは断末魔の悲鳴を上げて血を吐く







…うわぁ、ものすごい生々しい音がする







「兄さぁぁぁぁぁん!!」





この状況では 沈み気味のアルフォンス君も
叫ばざるをえなかったようだ







そろそろ開放させてあげないと死ぬね、ありゃ







「マッチョさん、ウィンリィもここに
来るらしいんだって」







そう告げれば、思った通りすぐさま
抱きしめていたエドを放し





本当か譲!ならばウィンリィ殿を
迎えに行くべく駅へ向かわねば!!」





まるで嵐のような唐突さ
マッチョさんは駅に向かってった







「な…何しに来たんだよあの少佐は…」


「無自覚でエドの息の根止めに来たんでない?」


っ…テメェ退院したら、覚えて…ろ…」







その言葉を最後に エドは力尽きた







エドワードくぅーん!!
ちゃん、早くお医者さん呼んで!!」





色ボケさん(エドいわく)が
ものすごい泡を食って叫んでいたのでした








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:予告通り説教シーンとギャグを
なんとかツッコめたぞコノヤロー!


エド:少佐の下り無理くり過ぎんだろ


ブロッシュ:これ、時間経過合ってるんですか?


狐狗狸:知るか!


アル:一言の元に切って捨てたー!


狐狗狸:だってどーいう時間経過か分からんもん

多分ウィンリィに電話→一日後来院って
予想して書いてるから 違ってたらスイマセン


ロス:ずいぶんアバウトな…


狐狗狸:いーんです、これぐらいしないと
ダラダラ長編長引くし!


エド:てゆかの奴…さんざオレの悪口
(主に背関係)言いやがって…!


アル:兄さん、退院しても殴っちゃダメだよ


狐狗狸:そーそー 牛乳っていう最大の弱点
知られちゃったんだから逆らわない方が


エド:テメェのせいだろがぁぁ!(殴り)


狐狗狸:ぎゃあぁぁぁっふぅ!




次回はウィンリィ再登場、そしてアルが…


様 読んでいただきありがとうございました!