己が「正義」が間違っているとしても
正す者がなければ 直る事は決してない









〜第二十三話 戻れない道〜








目を覚ますと、そこはさっきの路地じゃなかった







このだだっ広い場所は…研究所のあの大広間









柱を背もたれ代わりにしながら
死ぬまでの経過を思い出していると







「…チビチビとうるせーんだよ!





聞き覚えありまくりの怒鳴り声
至近距離で脳天に突き刺さった









ちらりと柱の外を見れば、そこにエドと
ラスト達が佇んでいた





ちょうどエドの真後ろにいたのね、私







そのせいなのか エンヴィー達に
なんか言われたのか


エドは私に気付く事無く両手を合わせる





「てめェが売ったケンカだろが!!
買ってやるからありがたく」






吼える途中で ゴキンと重い音がして







エドの右腕が、力なく垂れ下がった







「…え?
な――――――!!?





ありゃりゃ…直したばっかりなのに
無茶するから壊れちゃったよ、機械鎧





「…機械鎧の故障みたいね」


「ラッキー♪」





言うと、すかさずエドに詰め寄って
三つ編みを掴み


みぞおちに見事な膝蹴りかますエンヴィー





うーわー、ケガ人相手にえげつなっ







「腕が壊れてよかったね
余計なケガしなくて済んだんだから」





三つ編みから手を離され、エドが床へくずおれる





「いいこと坊や あなたは"生かされてる"
って事を忘れるんじゃないわよ」







辛辣なラストの言葉に苦しげな呻きが重なり







やがて、エドの動きが 止まった









「さて…もうここで石を造る必要も無いし
爆破して証拠隠滅してしまいましょうか」


「でも本当にこの子生かしといて大丈夫かな」


「ここを嗅ぎつけられたのは計算外だったけど
石の製造法を知っただけじゃ何もできないわよ」





声に滲むのは、絶対の自信





「計画はもう最終段階に入っているのだから」







…私がそっちを離れている間にもうそこまで







案外早い進行に驚いていると





ラストが、こっちに視線を合わせた







「…さて、話は聞いてたわね 
今度こそちゃんと手伝ってもらうわよ」


「はいはい わかってますって」







頭を左右に振って、私は立ち上がり
柱の影から現れる







「ようやく復活したんだ、おはよう







声をかけたエンヴィーに 笑いかけながら
地を蹴って一気に距離を詰めると


間を置かずにナイフで横薙ぎに切りつける





「おわっとぉ!?」





頭を半分こにするつもりが、上体を仰け反って
避けたから 戦果は髪の毛が少し切れただけ







内心、舌打ちを一つして


それをおくびにも出さず笑顔で私は挨拶した





おはよう そしてキツイ一発ありがと」


「やだなぁ、が命令無視して
熱くなってたから頭冷やさせてあげたのに」





へらへらと軽く笑うエンヴィー







まー、確かにあの状況じゃ私が
悪かったんだけどさぁ


仕方ないじゃん アイツ、ムカついたんだもん







今さらそれを言っても仕方ないから
話題を転換することに決める







「エンヴィー、ちょっとは手加減しなよ
エド死んだらどうすんのさこれ」







倒れたまま ぴくりとも動かないエドを
指しながら問いかけた









よく見れば 額と腹の辺りから血が出てる







やったのは多分、バラバラの残骸で転がる
守護者らしき鎧









「冗談 じゃあるまいし、僕は
ちゃんと手加減してるもん」


「うー…人の過去の過ちをいつまでもっ
それだからえげつないって言われるんだよ?」


「エンヴィーがえげつないのはいつもの事よ」


ニャハハ それもそっか!」





笑う私達と対照的に、当の本人の顔は
機嫌悪く引きつる





「ラストおばはんももケンカ売ってんの?」


「半分くらいは でもここで暴れんのはナシね
そっちも壊すのはハデだからさ」


壊すのハデって言うならラストおばはんの
方だって なんかやらかしたらしいじゃん」





割と最近起きた、ハデな破壊…?


その一言とある情報が一本の線として
繋がったような気がして、思わず尋ねる







「ひょっとしてさ、イーストシティの事件
傷の男絡みで起こした?」







的を射ていたようで、ラストが眼を見開く





あら、随分情報が早いじゃない」


「偶然知ったのさ 事件の大まかな内容しか
知らなかったから後は当てずっぽうだけど」







ふぅ、とアンニュイなため息をついて
ラストが詳細を平たく語る







「グラトニーに傷の男を消すよう命じたけど
仕留め損ねたのよ あの子


グラトニーが?めっずらし〜」


「あ、エンヴィーもそう思った?





わかるわかる〜と言い合いながら談笑している所で


静かなラストの言葉が滑り込む







「雑談はそのぐらいにして、
アナタがやることはわかってるわね?


「…まあ そりゃあね」


「私達がここを出る頃合に、このスイッチを
押しなさい 隠し通路のルートは覚えてる?」





示されたスイッチを視認して、私は頷く





「もっちろん、任しといてよ」


「…頼んだわよ 





それだけを言い残し、ラストが先に消える







「それじゃ人柱を外の奴らに送りとどけに
行ってくるから、頼むよ?





エドを担ぎ上げ 研究所の中庭に出る方面へ
向かいながらエンヴィーもその場を去る







「…わかってる









エドとアルには悪いけど、これが仕事







余計な証拠は隠滅しないと 万が一で
計画を破綻させられることもあり得る









それだけは 出来ない





例え何を犠牲にしても










スイッチを押すと、あちこちから爆破音が響き
研究所の崩壊が始まった







崩れる前に私も急いで外へ出る











研究所は複雑に入り組んだ構造だが、ここを
知る者だけの最短ルートもある





間違えず辿れば、さっきの路地から
さほど離れていない場所へとついた







「二人とも 何をしてるんです!!」





壁向こうから轟音に混じって聞こえるのは
護衛の軍人(男)さんのもの







今度こそジョーカーで壁を開けば


エドを背負い、アルと共に逃げまとう
軍人さん二人の姿もハッキリ見えた







「間に合った!アル 軍人さん達!
早くこっちに!!」






轟音に負けないよう張り上げた呼びかけは
なんとか全員の耳に届く





!?」


さん、アナタ 今までどこに!?」


「てゆうか この壁どうやって…!?


「ちょっと色々あってね、お説教は後で
聞いてあげるから 今は脱出優先で!





落下するガレキを避けながら、私達は
研究所からなるべく離れた場所へ移動した













その後、私達は元の宿へと戻ったが





エドは出血が激しいらしく 女軍人さんの
知人の病院へ運ばれていった







軍人さん二人は、エドを病院へ送った後
その足で少佐に報告へ行くそうだ









「兄さん…大丈夫かな 兄さん…」





暗い部屋の中 アルの呟きが木霊する





大丈夫だよ、エドがそう簡単に
くたばるタマじゃないって知ってるでしょ?」





慰めるけれど、そんな言葉一つで
拭えるほどアルの不安は安くなかった







いまだに止まない呟きに ため息を一つついて





私は、身を屈めた鎧の側に座り込む







「不安なら お姉さんが特別に
夜のお供をしてあげましょ〜う」





まあ、どうせエドの状態アルの声


両方気になって寝られないしね







「……ごめんね、 ありがとう





優しい声が 鎧の内側から漏れ







私はそれに、笑顔で答えた








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:ゴメンナサイ、前回のアオリであった
説教シーン入らなかったです


エンヴィー:うっわ最悪


エド:全くだ 人を無駄に期待させといて


ラスト:力量と身の程をわきまえて
話を書いてほしいものよねぇ


狐狗狸:設定上では君らまだ敵同士なんだから
和やかに話しないでっっ!!


アル:この後書きものナイフも
無茶苦茶すぎるよね、本当


ブロッシュ:あのナイフ 一体何なんです?


狐狗狸:それ詳しく言ったら、今後の展開に
響いちゃうから言えないなぁ…


エド:とか言いつつ の紹介で
さらっと大体をネタバレしてたくせに


狐狗狸:私のうっかり過ちバラさんといて!




次回こそ説教シーン行きます、そしてギャグも
入ってくると思います


様 読んでいただきありがとうございました!