「正義」「悪」は表裏一体
どちらにも形はないが、そこに在る









〜第二十二話 闇に集う蛇達〜








我ながら、今更のように思い出す







中央図書館を焼き払ったのがラスト達なら
この場所にいてもおかしくはなかった





ましてや ここには秘密が多い





…あーヤバイな、マジで


二人を見張る所かここに来る手助けしたって
バレたら多分消される







内心の動揺を微塵も出さず、私は笑顔で言う





「ニャハハ 私がここにいるワケは、そう
多くないはずだよ?」


「そうねぇ、さっきエルリック兄弟がそこを
通っていったみたいだし」







型通りの笑みを浮かべる様子を見る限り


下手なウソは、かえってヤバい







「なんかマルコーの奴、保険かけてたみたいで
そこから二人がここを突き止めたんだよね」







脳内で素早く事実と虚実を入り混ぜて
組み立てた言葉を口にする





笑みが消え ラストの目がス、と細められる







、アナタなら保険の資料を廃棄するなり、
二人を足止めしておくなり出来たはずよ?」



「私の仕事は監視だけってハナシだよね?」





手元のナイフを軽く弄びながら続け





「下手に二人の行動を制限したら返って
怪しまれるから不可抗力だよ」







そして返す刀で挑戦的に返す







「逆に、奴の保険を見落としたのは
そっちの落ち度なんじゃないの?」









息詰まる沈黙を置いて







ふぅ、とラストが微かなため息をつく









「…まあいいわ、今は責任のなすり合いより
エルリック兄弟を何とかするのが先ね」







"ここにいる以上は手伝ってもらう"
物語るような顔をしている





「そうだねぇ 少なくともお兄さんの方は
研究所の中に侵入しててもおかしくないし」





アルなら目立つけどエドは小さいから
こっそり忍び込みやすいモンね







「私が心配してるのは資料だけじゃないわ」


「え、それってど」





言葉半ばで壁向こうからものスゴイ音が響いた


何か重い物が高い所から落ちたような





「うわっ…今の何!?


「どうやら片割れが守護者に見つかったようね」


「守護者?」





妙に聞き覚えのある単語に首を傾げる







そういや、ここの施設のことは大雑把にしか
覚えてないんだよねー





あんまり立ち寄ったりしなかったし





たしか 何かいたようないなかったよーな







響き渡る金属音や声からすると、戦ってるのは
間違いなくアルだろうけど





相手の正体とかは壁に遮られてるしー…









……気になったら確かめるのが一番!







、いきなりバッグなんか漁りだして
何をする気なのかしら?」


「ちょーっと壁の向こうを確認するのさ♪」





バッグの中から取り出だしたるは







特製折りたたみ式潜望鏡!





「またヘンなものを作って」


「いいじゃん、これ意外と役に立つんだよ?」







呆れ交じりの感想を無視して潜望鏡を組み立て
壁の縁に先を引っ掛け、覗き口に目を近づける







狭いながらも良好な視界に映るのは





アルと戦う、デカい鉈を持った鎧









あーそっかコイツだ







前にアルの中身を確かめた時、似たような奴を
知っているのを思い出したけど





ここにいたんだっけ、忘れてた









「…そういやここにいたっけ アルみたいなの
アレってなんつったっけ?」


「アレは66、中にいる48同様
第五研究所を守らせる為に創った守護者」





ラストの声を背中に聞きつつ、私は二人の戦いを
潜望鏡越しに目で追う









賢者の石同様、死刑囚を使って作ったんだっけね







前まで特に気にしてなかったから
中身がない身体が不思議だったけど





原理がアルと一緒と分かればそうでもない









それにしても…アルほどじゃないけど
そこそこ動きがいいなぁ







「元の魂って 結構有名な死刑囚?」





目を離して問いかければ、珍しく
ちょっと驚いたように目を見開くラスト





「そう、66はバリー・ザ・チョッパー
48はスライサー兄弟を使ってるわ」







各地をうろつき回ってた私には
ぴんと来ない名前ばっかだ







「ギャ―――――!!」





壁越しに響くダミ声に慌てて潜望鏡を覗く





「わーー!!何だその身体!!変態!!」


「ううっ…傷つくなぁ…」







頭を取ったアルと驚く66







なぁんだ、単に同属に驚いただけか









軽い会話が続き アルが自分の身の上を
簡潔に説明すると、







兄貴!げっへっへっへ そうかい兄貴が!」







66が死刑囚に似合いの下卑た笑いをもらす







「何?」





訝しげに問うアルに、奴は問いを返す





「ところでおめェ兄貴を信頼してるか?」


「当たり前だよ 命がけで僕の魂を
練成してくれたんだもん」





真っ直ぐなアルの答えを踏みにじるように





「おうおう兄弟愛ってのは美しいねェ
たとえ偽りの愛情だとしても







嘲りを含んだ皮肉げな言葉が放たれる







私もアル同様、奴の言葉の意図が飲み込めず
ただただ首を傾げるばかり









「その人格も記憶も兄貴の手によって
人工的に造られた物だとしたらどうする?」








悪意に満ちた決定的な一言は
アルの思考も、そして私の思考さえ硬直させた







「…そんなことがあってたまるか!!
僕は間違いなくアルフォンス・エルリック
という人間だ!!」





「―どうやってそれを証明する!?

兄貴も周りの人間も皆しておめェを
騙してるかもしれないんだせ!?」







66の言葉を可能性として見て取るのなら
それは実現しうるのだろう







"魂"が本人であるかの証明なんて





別のものに変わってしまった時点で不可能だ









―だけど







「…じゃあ あんたはどうなんだ!!」


「そこの者動くな!!」







余りの騒々しさにようやく気付いた門番が
二人に銃を向けるも





66が頭を切り飛ばして、すぐさま沈黙が戻る







簡単なことだ!!オレは生きた人間の肉を
ぶった斬るのが大好きだ!!

殺しが好きで好きでたまんねェ!!」






呆然と立ち尽くすアル


血溜まりを踏みしめて奴は吼える





「我殺す 故に我在り!」







悦に入ったダミ声は、とても腹立たしかった







「…気に入らないなぁ」









奴の言う理論も、掲げた自己主張も
客観視すればどちらもありえるモノだ







だけど 例え短い間だとしても





エドが自分の身体を犠牲にしてまで


弟の人格や記憶を造り出すほど、
弱いヤツじゃないって知っているから







その主張は、憎らしい









、もう覗き見は十分でしょ?
急ぎましょ







振り返る事無く、私は首を横に振る







「ゴメン先行ってて、スグ行くから」


「…もう一度だけ言うわ 急ぎましょ?」





声には 有無を言わさぬ響きがあった







けれど、答えずナイフで壁を切ろうとして









その腕が 肩の辺りから切り落とされた







「聞き分けのない子は、おしおきよ?」





爪を出現させたラストに、振り返りざま





「そっちこそ…邪魔しないでよ!」







足元に転がるナイフを蹴り、再生した腕で
掴んで勢いよく投げる







弾こうとする爪をも切り裂き





ナイフが身体に食い込み 倒れるラスト





急いでナイフを回収しようと駆け―







あらら、何やってんのさ
手間かけさせるなら大人しくしててよ」









背後に生まれた気配に反応する間はなかった







急激に視界が反転し いつの間にか、
私は首のない自分の身体を視界に捉える









鮮血を散らせて倒れる身体の向こうに





刃物化した右手を朱に染めたエンヴィーが
ニッコリと私を見下ろしていて







そして視界は暗転する








――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:今回も詰め展開&ラストさんのターン!


ラスト:そうねぇ、まあ色々不満はあれど
私が主だから許してあげるわ


エンヴィー:ええ〜!?僕とちょっとしか
絡んでないじゃん!ずるいよーっ!!


狐狗狸:次回もウロボロターンだから別に
いいじゃん、てゆうか夢主殺っちゃうし…


ラスト:復活するから大丈夫でしょ?


エンヴィー:そーそっ、悪いのだから


狐狗狸:わー人でなしー(棒読み)


アル:壁を挟んでるとは言え、僕が
気付けないって言うのはどうなの?


狐狗狸:小声での会話&バリーとの戦闘
気を取られてたってことに


アル:適当だなぁ


エンヴィー:本当だよねー


狐狗狸:二人で意気投合しないように




次もウロボロ組、そして説教シーンが…?


様 読んでいただきありがとうございました!