己が「正義」を貫く者は時として
残酷な事実を見つめなきゃならない









〜第二十一話 深夜の脱走〜








「賢者の石の材料は生きた人間…
しかも石を一個精製するのに
複数の犠牲が必要って事だ…!」










苦渋を顔にありありと滲ませるエドの声に





軍人二人も 信じられないと言った様に口を開く







…それも当然







その秘密は、上の人間でしか知らないから









「…ロス少尉、ブロッシュ軍曹、





俯いたまま 静かにエドは続ける





「この事は誰にも言わないでおいてくれないか」


「しかし…」


「たのむ」





言い募る軍人さんの言葉を遮り





「たのむから 聞かなかったことにしといてくれよ」







搾り出すように吐き出される、言葉









重い空気がいたたまれなくて







「わかったよ…二人とも 閉館だから
部屋に戻ろう」







出来るだけ優しく、エドとアルに声をかける









「……うん」


「…そうだな」







気落ちしたまま それでもゆっくりと
二人が立ち上がるのを見届けて







「それじゃ 軍人のお二人さん
兄弟のエスコートお願いします」





少し大げさな身振りで軍人さんたちに
笑いかけてそう続ける





「え、さん あなたはどうするんですか?」


「ニャハハ、図書館出る前に
後片付けしないとって思いまして」





本当は片付けなんて苦手だけど





「いえ、それは私がやっておきますので
お二人と一緒にお帰りください」


「そうですか?じゃあお言葉に甘えて〜」







黒髪の軍人さんに会釈を返し





もう一人の軍人さんの送迎で
私達は宿へと戻った











宿の一室に戻ってからも二人は
ずっと沈んだままで





アルが背にするソファに寝そべり


足を組んだまま、エドはぼんやりしていた







「…アルはともかくとして、エド
ご飯食べなきゃ飢え死にするでしょ?」


「いらん」





こちらを見向きもせず、そっけない返事が返る





「無駄だよ 僕が何回言っても
ずっとこうだから」







アルがそう言うくらいだから、





多分 私が無理やり食べさせようとすると
かえって逆効果になる







「ここに置いておくから、気が向いたら食べなよ?」







側にあるテーブルに適当に買った
食料品を置いて ベッドにもぐった











とうとう、二人が真実の一端に気付いた





けど、それは一端にしか過ぎない事を
二人は知らないでいる







そのうち嫌でも知ることになる
その日までは







黙っておこうと 思った











翌朝、二人は昨日と同じ場所に
同じ姿勢でいた





さすがにエドは眠っているみたいで





テーブルに置いておいた食料品も
一応、少しだけ手をつけた跡があった







「どこ行くの?





小声でアルがたずねる





「しばらく外出てるよ、二人きりで
いる方がいいと思うしさ」


「…ごめんね」


「気にしないでよ、夕方までには戻るつもりだから」







ニッコリ笑って 私は部屋を静かに出る











適当に辺りを見て回って、ご飯も食べて
イタズラに必要な消耗品も買い足して







それでも 意外と時間が余っていたから





「むー…ヒマつぶしに大佐に電話しよっかな」





公衆電話で 教えてもらってた
番号に電話をかける







『……誰かと思えば 君か、ちゃん』


「ニャハハ こんにちは大佐〜
なんか声が疲れてるけど、何かあったの?」





ふう、と電話越しで呆れたような
ため息が聞こえる


うわぁ無能大佐のクセにむかつくー





『近くでガス爆発が起きたらしくてね
ガレキの撤去作業で大忙しだよ』


「撤去させてるのはいつもの人達じゃ
ないんですか〜?」





あ、なんか図星って感じの声がした





『私とて デートも出来ないくらい
忙しいのだよちゃん』



「それはそれはご愁傷様〜」


『それで、二人の様子はどうだね?』





正直 最悪としか言いようが無い


けれど、それをここで言うわけにも
いかず 私は平静を装って





「連日こもりっきりで集中してましたよ」


『…ほう、それで 目的には近づけたのかな?』


暗中模索…って所ですね、ちなみに
ガス爆発って被害大きいんですか?」







大佐は少し考えて、







『…そうだな こないだの比では無かったな
全く市街破壊が相次いで困る』


「そうですか、じゃあ お仕事
がんばってくださいね〜」


『会えたら今度一緒にデートがしたい
考えておいてくれ ちゃん』





いつもの調子で言う大佐に





「前向きに検討しときますね〜」







こう返し、私は電話を切った











大佐の勘が鋭い方ならば


…今のできっと 二人の状況が
大体どんな感じかは伝わったはず





あっちで起きたガス爆発も


今の感じからすれば多分普通のモノじゃない





少なからず 傷の男が絡んでいる
ニュアンスが言葉の中にあった









「あっちでもこっちでも大変なんだなぁ…」







零しながら宿へと戻ると







「あやしい」





フロントに何故か上半身裸
マッチョポーズ決めながら


軍人さん二人を問い詰めるマッチョさんが







思わず物陰に隠れつ様子を伺う









……どうやらエドとアルの様子を
不審に思って問い詰めてる模様







二人がマッチョさんの威圧に耐えれず
ほどなくあっさりと白状





勢いよく走り出すマッチョさん







「まっ…待ってください少佐ぁぁ!







慌てて追いかける軍人さん二人









「……これは面白いことになりそう♪」







後についていくと、マッチョさんは
やっぱり二人のいる部屋に足を止め







「エルリック兄弟!!居るのであろう!?
我輩だ!!ここを開けんか!!」






大音量で叫びながらドアを叩き





ノブを掴むと―あっさりぶっ壊して
ドアを開け放った



うっわー豪快☆





「聞いたぞエドワード・エルリック!!」







部屋に入るなり 涙流しつつ昨日判明した
秘密をしゃべり倒すマッチョさん





こっそりと部屋に入ると





ちょーどエドが秘密をばらした二人を
以前の大佐同様睨みつけていた







「ごごごごめんなさい…」


「あんな暑苦しい人に詰め寄られたら
しゃべらざるをえなくて…」


「あー分かる分かる エドも
あんまり責めちゃダメだよ」





反射的にエドがこっちを向く





っるせ!てか、お前
どこ行ってたんだよ!!」


「ちょっとそこまでー ただいまー」


「おかえりー 







うん、一時的にだけど気分が復活してる
ちょっと一安心







「…あれ?右手 義手だったんですか」





軍人さんの言葉に二人は困った顔をする





「ああ…えーと頭部の内乱の時にちょっとね…」


「そそ それで元の身体に戻るのに
賢者の石が必要でして」





その言葉に納得し、少しばつが悪い顔をする





「そうですか…それがあんな事に
なってしまって残念ですね」


「真実は時として残酷なものよ」







マッチョさんのその一言を聞いた瞬間







エドの顔色が 変わった







真実…?」


「…エド?」


「どうしたの兄さん」





私やアルの問いかけには答えずに





「マルコーさんの言葉 覚えてるか?」


「え?」


「ほら 駅で言ってただろ」





次から次へと言葉を紡ぎながら





「真実の奥の更なる真実」……」





エドは、何かを考えているようだった







「そうか…まだ何かあるんだ…何か……」







……どうやら 何か気付き始めたらしい











それからエドは、思い立ったように
中央市内の錬金術研究所の所在地を訪ね





マッチョさんがテーブルに広げた地図を


みんなが見下ろすように囲む





どうやら、賢者の石を作っていた建物を
探し始めているみたいだ







「これ…この建物 なんだろ?」







エドが指差した場所は―ビンゴ







「以前は第五研究所とよばれていた建物ですが
現在は使用されていないただの廃屋です」





淡々と読み上げる黒髪の軍人さんの
言葉を聞いて、すぐ





「これだ」







確信を持って口にする







「え?なんの確証があって?」


「となりに刑務所がある」









地図の中の刑務所を指差して、エドは





死刑囚が実験に使われることと政府が
絡んでいることを推理し 言い当てる









うーむ流石は最年少の国家錬金術師





推測とは言え、僅かな情報でそこまで
頭が回るとは お見それしました







「…なんだか とんでもない事に首を
つっこんでしまった気がするんですが」


「だから聞かなかった事にしろって
言ったでしょう」







青い顔をする軍人さん達に アルが
追い討ちをかける







「まー仕方ないよ、いっちょ
野良犬にでも噛まれたと思ってさ」





この場合は野良蛇かな?





 お前他人事じゃねーだろが」


「ニャハハ、それはいいっこなし〜」


「しかし現時点ではあくまでも推測で
語っているにすぎん」





マッチョさんの言うこともごもっとも







少なくともここにいる人達にとっては
"それ"は想像の域を出ない







「この研究機関の責任者は?」


「名目上は"鉄血の錬金術師"
バスク・グラン准将と……」


「そのグラン准将にカマかけてみるとか…」


「無駄だ」





二人の提案も、あっさりと却下せざるを
得なくさせられる





「先日傷の男に殺害されている」







傷の男が手当たり次第 お偉いさんの
国家錬金術師を殺っちゃってるせいで





そっちからの手がかりは無いと言い切られ







「軍上層部が関わっているとなると
ややこしい事になるのは必至」





立ち上がり 地図をくるくると丸めて、





「そちらは我輩が探りを入れて 後で報告しよう」







小脇に抱えながらマッチョさんは続ける







「それまで少尉と軍曹はこの事は他言無用!
エルリック兄弟と譲は
大人しくしているのだぞ!!」


「はーい」


「「ええ!?」」







…二人とも、ここは形だけでも素直に
答えておけばいいのに〜







まーそんな所が面白いんだけどさ♪







「むう!!さてはおまえ達!!
この建物に忍び込んで中を調べようとか
思っておったな!?」






まとめてた地図を広げて ワザワザ大声で
問い詰めるマッチョさんに


モロに反応を示すエドとアル





うっわーわっかりやす〜





「ならんぞ!!元の身体に戻る方法が
そこにあるかもしれんとは言え 子供が
そのような危険な事をしてはならん!!」






仁王の顔をして迫るマッチョさんに押され





わかったわかった!!
そんな危ない事しないよ」


「ボク達 少佐の報告を大人しく待ちます」







いともあっさり引き下がる二人







「…わかればよろしい」







……なぁんか 怪しいなぁ











少佐は軍部に戻り、部屋の外で軍人さん
二人が護衛のため待機し









室内はというと―







二人がやたら落ち着き無くそわそわし





私はそれを、ベッドに座ったまま
じっと見つめていた







「…エド 寝ないの?」


「そーいうこそ寝ろよな
夜更かしは美容の大敵なんだろ?」


「そうだよ、ボクらに構わず
寝た方がいいよ 







二人で調子を合わせて 寝るように進める







これはもう、あからさまだね





「私が起きてたら都合が悪いのかな?」





冗談めかして呟いた一言に 面白いくらい
反応を返すこの兄弟





うーん 面白い♪









部屋の隅に二人で固まってヒソヒソ密談





っつっても同じ部屋だから 丸聞こえ


それでなくてもビックリ人間なんだから
耳とか変にいいんだし…







「…どうしよう 兄さん」


「こーなったら、お前がの気を引いて
その隙にオレが後ろから殴って気絶させ」


女の子だよ!?」







おーい 今時そんな作戦に
引っかかる人なんていないでしょ?





二人とも やっぱり少佐の言う事聞かないで
こっそり研究所に忍び込む気満々だし









……しょーがないなぁ







「ロープ貸したげるから 行って来たら?」





そう言うと、二人が驚いた顔で振り返る





…」


「でも、いいのか?」





人を殴って気絶させるとか言っときながら
本当 何を今更





「ダメって言ってもどーせ抜けだす気
満々の顔してるよ 二人ともさ」








ベッドの近くに置いたナップザックから
ロープを取り出し、





しっかりと固定して 窓の外に垂らす







「ま、軍人さん達には上手く誤魔化しとくから
あと ロープ代は貸しとくね♪」







ニッと笑って言うと 二人は窓に寄り







「ちゃっかりしてるぜ…んじゃ
頼んだぞ、


「すぐ戻ってくるから 心配しないでね」







口々に言って 静かにロープを伝って
下へと降りて、路地を走っていく









あっという間に二人の姿が消えたのを見届け





「…さて、と」





ドアの外にいる軍人さんの姿を
コッソリと確認し







私も同じように 宿を抜け出した









もちろん、二人をこっそりと監視するため







だって元々それがお仕事だし





今回は行き先だってバッチリ分かってるから
二人にバレなければ大丈夫







裏の方に先回りして様子を伺ってると





思った通り 二人が同じように
物陰からこっそり門を伺ってた







少し考えて、アルが土台となってエドを
上に跳ね上げて





エドが壁の有刺鉄線を解いて垂らし


それをロープ代わりにアルが壁をよじ登る





「悲しいけどよ こういう時には
生身の手足じゃなくて良かったって思うぜ」


「同感」








……念のため言っておくけど





二人は お互いにしか聞こえないくらい
小声でしゃべってる





物音の少ない深夜だし


私だからこそ その会話が聞き取れたって事で







そうこうしてるうちに、二人は壁の向こうへ消える







「さーて 私も…」





言って 目の前の大きな壁を切り裂こうと
ナイフを取り出して







背後からの気配に 振り向いた





「…ラスト」


「どうしてここにいるのかしら、







路地裏の闇から滲み出たように





ラストが 悠然と姿を現した








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:実に遅ればせながら長編更新です
今回は少しオリジナル要素高めです


大佐:まぁ 電話越しとは言えちゃんとの
絡みがあったのは良しとしておこう


狐狗狸:ありがたきお言葉


エド:しっかし、よくもまぁココまで詰め込むな


狐狗狸:だってなるべく早く長編消化して
終わらせたいんだよねーほっとくと長く


アル:またあとがきの秩序無視!?


少佐:兄弟二人もそうだが譲まで…
全く困った子供たちである


狐狗狸:それがウチの子のスタンスなんで


ラスト:私の出番、このあと多いんでしょーね?


狐狗狸:もちろん てーか次の話はウロ組
中心で進んでくし(笑)




次回 主にウロボロ組のターン!?


様 読んでいただきありがとうございました!